13 / 20
12話 新規プロジェクト
しおりを挟む世界が変わり、この日常にも少しずつ世間が慣れ、街中を行く人が増えてきた。
この見た目に対するビジネスや話題も始まり、日々ニュースにもなっている。
そして、既に自分自身も感じているが、精神年齢に対する偏見やハラスメントが出てきている。
まず仕事に関してはかなり大きく響いている。
就活は勿論のこと、他社との取引などでは『信用』という面でまず外見を見られるようになった。
外見が年齢不相応という現象に慣れていないのも勿論あるだろう。
しかし精神年齢が仕事をする上で不相応であれば、自分の会社や仲間に悪影響を及ぼしかねないという懸念もあり、ビジネスパートナーとしては選ばれにくいのだ。
外交的な仕事をする人。会社内のみの仕事しか任されない人。と役割が決まってきてしまった。
それはウチの課でも例外ではない。
「飯野課長。」
課長に声をかけるもチラッとこちらを見るだけだ。
誰と取引しようとしても、あまり相手にしてもらえなくなってしまい、すっかり仕事に対するやる気が無くなってしまった様子だ。
年齢よりもかなり老け込んでしまった課長。最初にこの外見になってしまった時よりも老け込んでいる気がする。
任される仕事も激減し、最近はすっかり引きこもりになってしまい、ずっとお茶を飲みながらパソコンを眺めている。
「なんか、課長元気ないッスよねぇ。」
どうやら南も同じように感じていたらしい。
「このままじゃ老け過ぎてミイラになっちゃいますよ。実年齢は若いのに外見はミイラとか、もはやゾンビじゃないッスか。」
本当に心配してるのか、からかっているのか分からない。
「そうだなぁ。でもなんか対策しなきゃいけないよなぁ。」
俺はボソッとぼやく。こんなに年老いてしまっても、課長は課長。ウチの課のトップなのだ。
ウチの課全体の悪印象にも繋がりかねない。
なにより自分より給料をもらっておきながら、仕事をしない姿をみて腹立たしく思っている人も出てきている。
このままでは、ウチの課全体の空気が悪くなり、自分達の仕事に悪影響が出るのも時間の問題だ。
「さて、どうしたものか…。」
しかし、任せられる仕事もあまりない。
そう困っていると、
「課長は誰かに構ってもらえるのが嬉しい人だから、課長メインで何かやれるものがあると元気になるかもしれないッスけどねぇ。」
南も斜め上を向きつつ考えている。
課長メイン。なるほど…。それなら、
「そういう精神年齢が高い人向けのプロジェクトを何か始めるとか?」
なんとなく思いついた事を口にする。
「それ、良いわね。それなら課長も相手にしてもらえるし、課長の賛同が成功への鍵って事よね。」
無言で聞いていた金森も賛同する。
「課長も楽しくやってくれそうッスね!」
南が楽しそうに笑う。
なんとなく思いついた事だったが、皆の賛同は得られたようだ。
「まず企画書を作ってみるか!」
そう言って各自パソコンへ向かった。
・・・
「出来たな。」
精神年齢高めの人をターゲットにした社内向けコラムや、新規企画の発足、若見えグッズ調査など、いくつかの案を作成。
どれも課長に関連するものなので、きっと興味をもつに違いない。
さて、満を持して課長の元へ。
「飯野課長。お話が。」
そう言って近づくが、首を横に振り企画書を見ようともしない。
「また新しい改善案とかでしょ?もう、そういうのは…いいのいいの。」
そう言って、しっしっと手を振る。なかなか相手にしてもらえない事に拗ねてしまっているのか、仕事へのやる気はまるで見られない。
「いえ、今回のは今までとは全く違いますね。新規企画案です。」
そういって、先程作った企画書を提出するが見向きもしない。
「どうせ見てもさ、僕は上との橋渡しだけで、何かを決定する人じゃないんだよ。ただの通過点なんだ。」
そう言って溜め息をつく。完全に、いじけている。
「今回は課長から意見をもらえなければ進まない企画なのです。是非とも、目を通していただきたい。」
そう言って再度資料を目の前に提出する。
「僕が?」
そう言って面倒そうに資料に目を通す。
最初こそ面倒そうだったが、段々興味深そうな顔つきになる。しっかり座り直し、資料に向き合い資料を確認する。
一通り見たあと、
「でも、これがそんなに上手くいくわけが…そもそもこの会社に僕のような、おじいちゃんみたいな精神年齢の人なんて全然いないじゃないか。理解なんて得られるはずないだろ。」
興味深そうに資料を読み終わった後に、ハッとしたような顔をし、こんな事を言って突然拗ねたような口振りで言う。
ここで「そうですか。」と言って引き下がってはならない。
これは自分が楽しそうな顔をしていた事を自覚し、照れ隠ししているのだろう。こうも長い付き合いになると、このくらいは容易く見抜ける。むしろ分かりやすい性格でありがたい。
「少なくとも自分達は需要があると見込んで企画しております。もし課長にも賛同していただけるなら上の方へ、この企画を提出していただきたいです。」
もう一度強めにすすめる。
「上手くいかない可能性だって全然あるからな?取り敢えず出すだけ出しておくけど。」
そう言って印鑑を押し、上に進める準備をしてくれる。いつもは資料なんてなかなか目を通してくれず、印鑑の押し忘れが多いというのに、今回は拗ねたフリをしながら、すんなり了承してくれている。
よし、やる事はやった。後はこれが承認されれば事をすすめるだけだ。そう期待しつつ上からの返答を待つことにした。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる