彼らの執着からは逃れられない

桜日和

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裏世界の組長×情報屋の少女

1.オルカ

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「ギフト」通称神様からの贈り物。

私たちの住むクレーン国ではギフトと呼ばれるものが生まれつき神様から与えられる。

与えられたギフトは判明したらすぐに国に届け出ることになっている。・・・表向きでは。

私は両親が裏世界で情報屋をしていて、幼い私も自然の流れで仕事を手伝うことになっていた。

ある日のことだった。

情報を売られた組織がケジメとして両親を雇っていた組織に両親のことを漏らしたのだ。
おかげ様で私達家族はマフィアの連中に追われることとなった。幸いなのは娘がいたという情報は流れていたが私のギフトのことは誰にもバレていなかったことだ。

『認識誤認』

対象の認識を誤認させることで相手はその対象を正しく認識できなくなる。

私の場合は自分自身の認識を誤認させることで快適な情報屋として生活を送っている。

「xxxxx—— 情報は以上です。」

「裏取りは取れているんだろうな。」

「もちろん」

「裏取りの証拠をだせ。」

「追加料金を」

無言で札束を床に叩きつける男の足元へ行き、お金を拾おうと手を伸ばす。

ガンッ

「証拠」

札束を私の手ごと踏みつけながらそう告げてくる男。

(こいつほんとにトップの座なんて奪われてしまえ)

男の名前はオルカ・フェロミエ 18歳という若さでイタチ組のトップを取った計画性、人脈どれをとっても侮れない男だ。

美麗な顔立ちに黒髪に黒目でおまけに服まで真っ黒だからなんだか不気味。表情も変わるところを見たことがない。いやまぁ、ビジネスの時は表情作ってるけどね。ギフトは「絶対嗅覚」

辿ろうと思えば5キロ先の匂いまで辿れるらしい。ギフトは能力使う時切り替えられるから日常生活送る上では問題ないらしい。

まぁ情報提供相手としては金払いもいいお得意様だ。私の前に雇っていた情報屋は変にオンナとして近づいて搾り取るだけ搾り取られて終わったらしい。そのことを知っている私は顔に騙されない!絶っっ対そんな風にならないように注意しなければ!!

オルカにむけてかき集めた証拠物達を差し出すとようやく足を引っ提げた。

手は踏まれて腫れ上がっている。

(あーあ、金払いさえよくなければこんなやつ・・)

「お前、一体何のギフト持ちなんだ?お前の情報はいつも正しい上に詳しい。」

「・・手腕を認めてくださってるならそれなりの態度をお願いしますよ」

踏まれた手をオルカの方へに向けると

「のろまめ、俺からの勧誘を断るからだ」

と私の方を一瞥だけしてすぐに証拠品達に目を戻す。

金は受け取った為、挨拶をせずに帰宅することにした。

以前は丁寧な勧誘を受けていたが全部断っていると今度は腕を乱暴に掴まれたり、髪の毛を引っ張られたり、手を踏みつけられたりするようになった。

「あーーーーーー!!!腹立つ!」

巷では女性に優しいだの何だの言われてる男だが、情報屋の時は私は性別の認識を誤認させている為あいつは私のことを男だと思っている。

その為遠慮がないのだ。

「ほんっっと嫌い!」

携帯で情報を追っていると、私の大好きなキャラクター、イタチのムゥの限定ぬいぐるみ発売日決定のニュースが目に飛び込んできた。

(5万とお高めではあるが、全然買える!)

(オルカに手を踏まれたこともまぁ水に流してやるか。推しの力は偉大すぎるぅ~~♡待っててねムゥ♡)


————発売日当日————

無事あれからオルカからのパワハラにも耐えてきた私はメイクも服もバチっと決めて朝から店舗に並ぶことができた。行列の2番目に並べている。

(5体限定だったから買えるか不安だったけど、コレなら余裕で買えよね!)

・・・・と思っていたのだが、事件は開店時間になった時に訪れた。1番先頭のやつが爆弾発言を言い抜かしたのだ。

「ムゥのぬいぐるみ5体ください」

(は???????)

「かしこまりました」

(はぁ~~~~~?????)

あまりの出来事に店員と先頭客のやり取りに声をあげて割って入る。

「か、かしこまりましたって、ちょっと待ってよ!私も朝イチから並んでたのよ!?」

「プレゼントように包まれますか?」

「お願いします」

「ちょっと!限定5体を買い占めるなんて非常識でしょ?」

カウンターをバンバン叩きながら意見を述べるが店員も微動だにしない。

「個数制限は書いてありませんでした」

「だからって全部買い占めていいわけないでしょ!」

バシンッ!

頬を打たれ、急な攻撃にこっちも驚きが勝ち一瞬黙ってしまう。

「だまれ小娘」

見覚えのある男だった。

(こいつっ・・・オルカの秘書のドルフ?何でこいつがムゥのぬいぐるみを?)

(い、いや、そんなことは一旦置いとこう。とりあえず今1番大事なのはムゥのぬいぐるみ!)

会計を済ませ、ドルフがぬいぐるみ達を抱えて颯爽と去ろうとする。その腕を掴みながら声を張り上げる。

「ねぇ!待ってよ!一体でいいから譲ってよ!何なら倍の値段でもいいから——」

ガンッ

「ゔっ・・・」

裏世界に浸かっているとはいえ、フィジカル面を大して鍛えていなかった私は、思わずその場でお腹を抑えてしゃがみ込む。

そんな私も見ることもなく、ドルフは颯爽と去ってしまっていた。

ズキズキと痛むお腹を摩りながら動けるようになる頃にはドルフは姿形見えなくなっていた。

「はぁ、あの野郎」

オルカに踏まれた手は大分よくなったと思ったらこれだよ。本当イタチ組の奴らってロクな奴がいない・・・まぁロクな奴らはイタチ組なんかに入らないんだけど。

「あ~なんかもう萎えたわ」

帰ったらムゥのためにケーキ作ろうと思ったけど予定変更。

向ったのはクラブだった。

たまに情報収集でくるここのピンクベリィは甘酸っぱくて美味しいし、色味もムゥに似てて可愛い。

だからここに来る時は絶対にこれを口につけるのだ。

(あーーー最悪。まだお腹痛いんだけど)

端の席で一人でお酒を飲んでいると急に背後に人の気配を感じた。

「・・・?」

ゆっくり振り返るとそこにはすごく近くに男の頭があり、おもわず声にならない悲鳴をあげる。

男はこちらに気づかれたことで開き直ったのか、私の首元に頭を埋め込ませずっと私の匂いを嗅いでいる。

(し、正気じゃない、こいつ。絶対やばい)

そいつの頭を抑えて自身の体から引き剥がそうとする。

「ちょっと、あんたはなれっ・・~~っ!」

力づくでも男女の力の差ではそれも叶わず、声をあげて周りの目を引こうとするが今度は口にハンカチを丸めたものを入れられる。

(ドルフ・・・!?)

こちらを冷ややかに見下しながら制圧してくるのは昼間に私を蹴り飛ばしたオルカの秘書だった。

口を塞いだ次は両手を拘束してきて、私は抵抗する手段を失った。

(ドルフが協力するってことはこのわたしの匂いを嗅いでいる男はまさかオルカ!?)

その憶測に至った私は男の観察をする。

とは言っても首元に顔を埋めてるから顔は見えないけど、全身真っ黒な服装に黒髪。特徴は一致する。

すんすんとずっと首元を嗅ぎ回る男は段々行為はエスカレートして両手で私の服を脱がしにかかってくる。

(こんなクラブ内で正気か、こいつ!?)

周囲の客を見渡し、見られてないか不安が込み上げてくる。顔を青ざめながら身を捩り、必死に男の手を逃れようとする。

「んんっ!!ん”ーーー!!!」

「?あぁ、ごめんね。ドルフ、離してあげて」

「はい」

私の抵抗に今更気づいたとでも言うように笑顔をこちらに向けてくるその表情、オルカのその言葉に従順に応えるドルフ。

その2つに苛立ちを感じつつ、自身が置かれている状況が怒りを発散させている場合でないことにも気づいていた。

(とりあえずここは逃げなければ)

すぐに両手は離され、拘束が解かれた瞬間にクラブの出口目掛けて走り出す。



が。


「こーらっ。逃げちゃだめでしょ?」

出口に向かうにはオルカの横をすり抜けなければならず、当然そんなことは不可能だった。

(どうする?ギフトを使うか?いやこんな捕まってる状況で認識を誤認させても私の能力がバレるだけだ)

とりあえずオルカの言うことに従うことにした私は上のVIPルームに連れて行かれた。

VIPルームは基本黒を基調としたインテリアで整えられていて、白いソファが映えている。ライトはVIP側が好きな色を選べるのだが、ビビットピンクのライトでこれは正直可愛い。でもこの男がピンクなんて意外だな。

2人きりには有り余るほど広い空間でオルカは私を先に座るように促す。

ど真ん中に座ってやるとピタッと私の体に張り付くように隣に座ってきた。

それが嫌で少し離れる。離れるとまたピタッとくっついてくる。それを数回繰り返していると

(・・・あっという間に壁際に追いやられてしまった。)

「逃げないでよ、可愛い人」

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