マー統一記

taro-da

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第一章

島の統一

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ヌ国は王政国家で、マーの中でニ番目に大きい最も南にある島にあった。ある王代、その次子であるラナト・オウスが生まれた時には島内にある数ある国を武で抑え北三分の一を支配していた。島の南はその四分の一をクンマ国がその他は小国が乱立していた。クンマ国はヌ国の属国ではあったが自治を認められた国であった。
オウスは見目麗しく、中性的な外見からは想像できないほど武に優れていた。オウスが十五になった年、オウスの双子の兄オオスが王命により国一番の美人と言われる姉妹を王の側室へと迎えに行った。しかし、王に献ぜられた姉妹は美人ではあっても国一番と呼ばれる程ではなかった。訝しんだ王はオウスにオオスの周りを探るよう任じた。
「オウスよ、オオスが誠に噂の姉妹を献じたのか確かめて参れ。もし、我を騙したのであれば討ち取ってくるがよい。」
「しかし父王よ、兄オオスは次代ではございませぬか。よろしいのですか。」
「ラナト王は在位より崩御までが王。その王を謀るのであれば次代でも許さぬ。幸い我には十子おる。」
王の密命を受けたオウスは兄オオスの元へと向かった。
オオスは優秀で国民からも慕われた次期王として申し分のない人物であった。オウスも兄を尊敬していた。そんな兄が父王を謀るなど、オウスには信じらなかったし父王の勘違いだと思っていた。
オオスの屋敷に着き、屋敷付きの者にオオスを呼ぶように求める。
「これはオウス様、ご機嫌麗しゅう。オオス様は現在体調が優れず湯治に行っております。」
「兄オオスはどこの湯に行っておられるのだ。火急故、私が自らそちらへ参ろう。」
「幾つかの湯を周られるということで、詳しい場所は聞いておりませぬ・・・。」
「そうか・・・。」
次代で在られる兄が行き先も告げずに湯治に出かけるなどと不審に思ったオウスは手の者を使って行き先を調べさせた。
しかし、不自然な程オオスの行方は分からなかった。
オウスは考えた。
『もしや、父王の考えは当たっていたのか。となれば、怪しいのは姉妹の故郷か。』
オウスはヌ国王都より三日程離れた姉妹の故郷の村へ、単身素性を隠し訪れた。
『兄オオスの事を聞き周れば怪しまれるかも知れぬ。』
さながら間者の如く夜の闇に乗じて各家を探った。王都なら兎も角、田舎の村の夜は暗い。さながら深海のようである。道には明かりなど無く、家々も小さな火しか焚いていない。
村の中で一際大きな屋敷に男女の嬌声が響いていた。間違いなく男の声は兄オオスである。女の声は二人分。オウスは絶望した。あの兄が父王を裏切るのか。国民全ての期待を裏切るのか。許せぬ。オウスは声の聞こえる部屋の戸を乱暴に開けた。
そこには裸で絡み合う三人の裏切り者達がいた。
「兄オオスよ、何故父王を裏切った。何故ラナトを裏切った。」
「オウス!?何故ここに!?」
「そんなことはどうでもいい。質問に答えよ。」
「私はこの二人を愛してしまった。それは父王の命に背く程の愛なのだ。」
「オウス様、オオス様に罪はございませぬ。見たこともない王よりも妾達を愛し微笑みをくれたオオス様を選んだ妾達だけを罰してください。」
オウスには理解できなかった。絶対なる父王を裏切ったオオスも、そのオオスを庇い父王の批判をする娘達も許せなかった。
「兄オオスよ、貴方は王と国民を裏切った。姉妹よ、そなた達は王に求められながら他の雄子に股を開いた。許せぬ。」
オオスは決して武に劣る男では無かった。しかし、国一の武を誇るオウスの全力の横薙ぎに裸で反応出来るはずも無く、十を数える前にそこには三つの胴体と離れた首が転がっていた。それでもオウスの怒りは収まらなかった。オオスのモノを切り取り火に翳した剣で焼いた。姉妹のホトには焼いた鉄杭を刺した。次の日には、知って黙っていた村人全員を殺し、村を焼き払った。
三日の後、兄オオスと姉妹の首と胴体を持って王都へ戻り父王と謁見した。
「兄オオスは父王を騙し、噂の姉妹と不義を行ったため討ち取りました。」
「そうか・・・よくやった。して、その袋の中身は。」
「父王を裏切った三人の首と身体であります。不義を行った見せしめに焼きました。黙っていた村も焼き討ちました。」
死体を見た王は恐怖した。胴体もあの夜のままの姿で袋の中に入れられていたのだ。
『忠義のなせる事なのか、こやつの本性か・・・。』
オオスが死んだことによりカネムが次代となったが、王はこの日見たものによりオウスへの恐怖と猜疑が生まれた。
数年後、属国であるクンマ国が謀叛を起こした。当代のクンマ国王と王弟は武を誇り、ヌ国に属していることを良しとしなかったのだ。即刻ラナト王は軍を編成し討伐を開始した。
『オウスは危険である。まだ下に子もいる。厄介払いのため、オウスを将とし少兵で当たらせクンマの勢力を削ぎ、次の進行でクンマを屈服させる。オウスにはここで死んでもらおう。』
「オウスよ、クンマが謀叛を起こした。これを平定してみせよ。」
「この命に代えましても。」
オウスにとって王命は絶対である。『この少兵も私を信頼してくださっているのだろう。』
クンマは火の山を信仰した国で、王は巫師の役割を果たす。戦の前夜には火の水を飲み身体を火照らせ、火の山の恵みを賜る。
カネムは考えた。
『クンマ国は戦の前夜、必ず女衆に酌をさせ、踊らせ、戦への英気を養う。我が国の無駄な犠牲を出さぬ為にも、その宴に潜り込み王を討つか。』
オウスは自軍のクンマへの数日後の行軍の指示を出し。自らはクンマ国へ潜入した。ヌ国軍の行軍を聞いたクンマ王はその晩火の山の恵みを得る宴を開いた。宴は空が橙に染まる頃より始まり男衆の身体が火照りきる頃、その中心にいたクンマ王の首が地面に転がった。誰一人として何が起きているか分からなかった。王弟が我にかえった時、首には剣舞を舞っていた女衆の剣が突きつけられていた。
「我が名はオウス。ラナト王の命によりクンマ国を平定する。そなた達の王の首、貰い受けた。我が国に恭順するなら王と王弟以外は助けよう。そうでなければここで死ぬが良い。」
火の水で酔っていようとクンマ国王はそう簡単に首を切られる武ではない。王弟はオウスの武がどれ程のものかを瞬時に察した。
「兄と私の命で、どうかクンマ国民の命を見逃して欲しい。私達兄弟は誰よりも強いと驕っていた。貴方の武には敵わない。どうか私の名からカネム、誰も敵わないという名を献じさせてください。」
この時よりオウスはカネムと名乗った。カネムはクンマ国王と王弟の首、クンマ国重鎮数人の身柄を王都へと先に送り、自らはクンマ国をヌ国制下へと移すため現地に留まった。
一方、勝報を受け取ったヌ国王は再び恐怖した。
『あの残酷性に加えこの戦の上手さ・・・。我に取って代わるため謀叛を起こされてはたまらぬ。』
「オウスにはこのまま、南部の平定と各地の視察を命じる。」
カネムにとって王とは絶対であり全てであった。ヌ国王はこの瞬間誰よりも忠義に厚く、誰よりも武に秀でた者を失ったのである。
クンマをヌ国制下に置いたカネムは、王命に従い小国勢を平定するため、火の山より少し低い南の山を西から東へと越えることにした。その山の最も標高が高い場所には渓谷があった。現地の者がアカイホと呼ぶその渓谷は神秘に満ちており、カネムが生涯で見たどこよりも美しかった。縦に幾何学的であり非対称な紋様を織りなす岩崖。断崖絶壁の元を流れる緩やかな川。その皮に流れ込む数々の滝。カネムはその感動を王へと唄い伝えた。
山を下ると国とも呼べない集落が十程あった。カネムはそれぞれの長を呼び、クンマ国の経緯とヌ国への恭順を求めた。この集落達はなんら抵抗もなくヌ国への恭順を示した。カネムにとって、絶対なるヌ国への従順を示したこの集落達は守るべき存在であったので、食料や文化事情を見て回った。ヌ国の技術や知識で補えるものは惜しむことなく与えた。
この時、海よりの集落で見た景色はまたしてもカネムに衝撃を与えた。ヌ国で見る荒れてどこ迄も続く様な深い藍色の海とは違い、穏やかで明るい水色の透き通る海はカネムが見てきた水の色とは遥かに違った。
今迄カネムにとってヌ国と王、そして武こそが全てであったが、これまでの道程は未知なる景色への感動で溢れたものであった。さながら水墨画のような人生が色鮮やかな水彩画に変わって行くような印象であった。
『兄オオスが言っていた愛とはこの様なものであったのかもしれない・・・。』
そこより南征し、南部を統一したカシムは王都へと帰還する道中病死した。
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