この恋は始まらない

こう

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第四十一話・バレンタインは終わらない。バレンタインそのに。

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昼休み。
バレンタインだからか、昼休みも騒がしい。
好きな人に渡すとか、好きな人から貰えなかったとか。
高校生の世界の中心は恋愛である。
チョコレート一つで、世界の終わりみたいに不安になる人ばかりだ。
俺は、朝一でバレンタインチョコレートを貰った余裕からか、めちゃくちゃ他人事である。
教室の自分の席で、普通に弁当を食べていた。
一人で昼ごはんを食べる。
孤独なまま、ゆっくり食事をする。
平常運転である。
見兼ねた三馬鹿が話し掛けてくる。
「何でバレンタインの日まで一人で昼ごはん食べてるの?」
「みんなで食べればいいじゃん」
「陰キャ」
言いたい放題である。
それは、よんいち組や、一条達と昼ごはんを食べることも出来るが、たまには一人で食べたい時があるのだ。
そもそも眠いし、バレンタインで色々聞いてくるの分かっていて、やばいやつらと一緒に昼ごはんは食べないわ。
三対一で詰め寄られたくない。
あと、こいつら五月蝿いし。
「はあ、何で東山くんがモテるのか分からないわ。付き合い悪いし」
「……俺もそう思うわ」
彼女がいて、一緒に昼ごはん食べないやつは、俺くらいだろうな。
昼休みは部室に行くから、学校での絡みは少ない。
そんなやつがモテるのはおかしいと思います。
よく言われていることだが。
そういうキャラじゃないんだよ。
学校で目立ちたくはないのに、三馬鹿が無駄に絡んでくるから、余計にややこしいのだ。
三馬鹿は男子からの人気はないが、運動部では顔が広いので絡まれると悪目立ちする。

「東山くん。はい、チョコレート。私達三人からで悪いけどもらってよね」
「ありがとう。俺にチョコをくれるのはお前らくらいだよ」
義理チョコだって分かってはいるが、親しい友人からもらえるのは嬉しいものだ。
「東っち、ちゃんと噛み締めろよ」
「わたし達の愛が入っているからな」
うん。
彼女持ちにそういうことを言わないでくれ。
地獄耳のやつもいるんだからさ。
千円くらいのチョコで、死にとうないわい。
「それは知らんが、大切に食べるわ。ありがとう」
弁当を食べた後だし、今は食べないけど。
家族と一緒に消化することにする。
三馬鹿とはいえ、素直に感謝されると嬉しいらしい。
白石さんがやってくる。
「感謝のしるし」
ゴリラチョコを渡してきた。
「何で、ゴリラ??」
ホワイトチョコとブラックチョコがまるであれを彷彿とさせる。
白の賢者と黒の賢者。
なんで、ゴレイヌ?
「男の子はみんなゴリラ好きでしょ?」
「ああ、うん。ありがとう」
マジなのか、ネタなのか分からん。
この人だけは今でも得体の知れない人である。
「満足」
白石さんは、なんでか満足していたのでいいか。
次いで、西野さん達が来た。
「渡すタイミングがなくてごめんなさい。私達はみんなで一つだけど、受け取ってくれる?」
「ありがとう」
黒川さんや西野さんから貰えると普通に喜べるのは、距離感がちゃんとしている普通の人だからもあるのか。
変なボケが発生しないから、身構えないでいい。
安心できるわけだ。
三馬鹿は茶化してくる。
「東っちモテモテだねぇ。可愛い女の子に囲まれて嬉しいでしょ」
「……おま、殺されることを言うなよ!」
「相変わらず、尻に敷かれてますな。東っち。愛ですよ、愛」
「分かっているなら配慮してくれ」
愛かは知らないけれど、バレンタインにそんな冗談を言われたら、心臓に悪い。
小日向達が如何に優しいやつとはいえど、流石にピリピリしているだろうか。
キャッキャ。
よんいち組は、四人でお弁当を食べながら、楽しそうに談笑していた。
俺が話し掛けるが。
フルシカトである。
もっと対応が悪かった。
「東っち、無視されとるやん」
「……どうするんだよ、これ」
「え? サーセン」
謝罪の言葉が軽すぎる。
三馬鹿のせいで、日々の努力によって上がりつつあった好感度が、一気に急降下していた。
お弁当を食べ終えて、立ち上がる。
「みんな、チョコレートありがとう。ホワイトデーには、ちゃんと返すわ」
それだけ言って、クラスメートと別れる。
「ちゃんと倍返しにしてよ~」
三馬鹿がほざいていたが無視する。
教室から出たら、いつものように小日向が後ろから付いてくる。
子供みたいに、俺の周りをチョロチョロしている。
「小日向、怒っているんじゃなかったのか?」
「なにが??」
小日向は、きょとんとしていた。
三歩くらい歩いたから、忘れていやがる。
いい意味で、鳥頭である。


「とうちゃく!」
小日向は、ジャンプして部室に入る。
漫研には誰もいない。
まあ、いつものことである。
昼休みまで絵を描くようなやつは俺くらいしかいないだろう。
小日向は特等席に座り、楽しそうにしていた。
見合うかたちで俺を見詰めてくる。
「んふふふ」
「なにが嬉しいんだ?」
「バレンタインっていっぱいチョコを食べていい日だから嬉しいよね」
「それはお前くらいだけどな」
お前は普通に食べ過ぎた。
常人なら致死量のチョコを食べている。
チョコは飲み物とか言い出しそうな勢いだった。
ぱくぱく小日向である。
読者モデルなんだから、高カロリーのチョコレートばかり食べるのはどうかと思うわ。
昼ごはんも食べ盛りの男レベルで食べているのに、こいつのスタイルがどうやって維持されているのか不思議である。
やっぱり小日向が一番バレンタインを楽しんでいるのか、幸せそうにしていた。


それから少し経つと、小日向がそわそわしていた。
小便か?
「ねえねえ」
「トイレに付いてけばいいのか?」
「違うよ! ほら、外で声が聞こえるの」
漫研部のベランダから見える下の通路で、女の子がバレンタインチョコレートを渡していた。
告白も兼ねて意中の相手に勇気を出していた。
くい込みで覗き見している小日向に注意する。
「小日向、他人の恋愛を覗き見するのは止めようぜ」
「ええ、気になるよ」
「小日向だって、自分の告白を誰かに見られていたら嫌だろ?」
「そっか。そうだよね。うん、ごめんね」
ベランダから戻り、声が聞こえないようにカーテンを閉める。
小日向のテンションが下がっていたので、飴玉を投げ付ける。
甘くてシュワシュワするやつを舐めながら、憂鬱そうにしていた。
机に突っ伏している。
「あの二人、付き合えたのかな?」
「さあな。でもまあ、そうだといいな」
俺達は部外者だから、知らない人の恋愛に干渉するわけにもいかない。
バレンタインの日に、人があまり通らない通路で二人っきりで話し合う状況なら、大体告白されるって分かりそうなものだ。
だから、多分大丈夫だろう。
それで断る野郎がいたらやば過ぎるわ。
普通に考えたら付き合っている。
しかし、俺達にはあの二人が本当にどうなったか知る術はない。
顔も名前も知らないのだから、もう会うこともないだろう。
それこそ、縁でもない限りは。
「ねえ、ハジメちゃん」
「なんだ?」
「私ってこんなに幸せでいいのかな」
「……そうか」
「私には、ハジメちゃんやみんながいて、読者モデルの仕事も楽しいし、ファンのみんなも応援してくれていて、毎日が幸せなんだと思うんだ。でも、それって周りのみんなが優しいからであって、ぜんぜん私の力じゃないの。自分はずっと普通で、取り柄がない人間なんだなって思うの」
気落ちしていた、
小日向の気持ちは分からなくもない。
自分も評価されているが、結局は誰かの助けを経て、やり遂げていることばかりである。
自分一人でやったことなどない。
その意味では俺は小日向以下だ。
美人でもなければ、カリスマ性もない。
他人の為に尽くし、他人に好かれるような人間ですらないのだ。
小日向がどうしてそこまで自分に自信がないのかは分からないけれど、元気のないこいつを見ていると嫌になってくる。
前々から訳分からんやつだが、どうしてバレンタインにそんな気持ちになるんだよ。
今日くらいは楽しめばいい。
世界はもっと単純で、馬鹿馬鹿しいものなのに。
何度考えても、小日向が欲している言葉が分からなかった。
口に出す言葉に悩んでいても、時計の秒針は止まることはない。
昼休みが終わる。
「小日向、時間がないから帰るぞ」
「やだやだやだ」
ブランケットを頭の上からかけて、顔が見えないように埋まり出す。
どちゃくそ、拗ねていた。
顔出せや、こいつ。
ブランケットに突っ込むから、頭がボサボサになっていた。
自慢の綺麗な黒髪が駄目になっている。
「小日向、帰るぞ」
手を差し出す。
それでも駄々捏ねている。
「ほら。小日向、早くしろ」
小日向は三度目の呼び掛けで、やっと頭を出した。
恐る恐るこちらを見ている。
「ハジメちゃん!」
ぱあぁ。
手を差し出しているのに気付いて、やっと笑顔を見せる。
小日向は、俺の手を取って立ち上がる。
その後でも、握った手は離さない。
女の子なのに小さくて力強い。
「私ね、幸せだよ!」
「そりゃ良かったわ」


放課後になる。
「あ、私は先に帰るわね」
秋月さんはそそくさと帰る。
ドアを閉めたら、猛ダッシュしていた。
こわいわ。
「萌花、秋月さんどうしたんだ?」
「これから手作りチョコ作るんだってさ」
「誰にあげるやつ?」
「東っち」
「……俺のはもらったじゃん」
「やっぱ、手作りがいいんだって」
ちょっと考える。
言っていいのか迷ったけど。
「母親達と作ったやつがあるから、それでいいんじゃないのか?」
昨晩、東山家に来て、チョコレートケーキを作っていたはずである。
今日の夜に家族全員で食べる約束になっていたはずだ。
「……」
「……」
「……なんであの女、好きなの?」
「う、うん。う~ん、俺以外だと秋月んは利用されそうだし」
秋月さんは危なっかしい性格だから、俺がなんとかしないといけない。
恋愛というよりも情に近い感覚だが、心配なのは変わらない。
「うちのれーなが迷惑かけて悪いな」
「いやいや、萌花が謝る必要はないだろ? はは、親友も大変だな」
「マジそれ」
萌花は怒っていたので、それを宥めつつ、小日向と白鷺を誘って四人で帰る。
教室を出て、下駄箱から靴を取り出す。
「何もないじゃん」
萌花が俺の下駄箱を覗き見てくる。
何か入っているのか?
ここには靴しか入れちゃいけない。
「え? 下駄箱にチョコが入っていたら衛生面でやばいだろ?」
「モラルの話じゃなくてさ」
漫画の世界じゃないんだから、他人の下駄箱にチョコ入れたらやばいだろう?
好きな相手だとしても、そんなやつがいたら嫌なんだが。
モラルの問題じゃないの?
「……何にせよ、彼女がいる人間に渡さないと思うぞ。ファンならまだしも、好きって言われても絶対に断るしな」
そんな人間が居ればだが。
小日向と白鷺が辺りを見回して警戒しているけど、俺に渡したいような出待ちなんかいないぞ。
逆にお前達にチョコを渡したい女の子は居そうだけど。
「お~、東っちはコクられても絶対に断るんだ」
「いや、即断即決で断らないと、全員に殺されるだろ……」
「まあな」
萌花から、冷たい殺意を向けられていた。
嫉妬しているならそう言ってくれ。
小日向ならまだしも、萌花は心を殺すの慣れているんだから、見ただけで分かるか。
俺にだけは、ちゃんと感情を伝えてくれ。
浮気はしない。
よんいち組以外の女性にうつつを抜かしたら、俺は確実に死ぬ。
肝に銘じておこう。
まあ、こいつ等から逃げ切れる気がしないが。
俺なんか、首根っこを掴まれた猫みたいなものだからな。
俺の親父ほどじゃないけれど、彼女の尻に敷かれている。
……それでも好きなあたり、親子は似るものだな。
萌花と目が合う。
後悔はしていない。
「いや、アイコンタクトじゃなく、ちゃんとしゃべれよ」
二人っきりの時以外は、萌花は優しくない。
当たりがつええ。
ちょっと後悔していた。


下駄箱のやり取りを終えて、下駄箱から出てすぐ。
小日向が俺の肩を小突いてくる。
「ねえねえ」
「ん? 何だよ……」
「むふ~」
ウザいほど、にやけていた。
俺達より前に歩いている二人組を指差す。
恋人達は、幸せそうに手を繋いでいた。
あの二人は見たことがある。
ああ、なるほど。
告白は成功したのか。
「そうか。良かったな」
「ハジメちゃんの言う通りだったね」
小日向は褒めてくれるけれど。
正直、俺はなにもしていないぞ。
「むふ~」
幸せそうな二人を見て、また同じ顔をしていた。
小日向の頭を妹と同じように撫でてやる。
「良かったな」
「えへへへ」
小日向の好感度が上がった。
白鷺と萌花の好感度が下がった。
何でだよ。


一方その頃。
秋月麗奈は、猛ダッシュで下校していた。
スーパーに一人で向かい、バレンタインの材料を買いに来ていた。
料理が趣味で、買い慣れているだけあり、お目当てのものを即座に揃える。
板チョコと、フルーツの入ったシリアル。
時間配分を加味して、シリアルでかさ増しすることでチョコレートの量を減らし、固める時間を短縮する。
チョコレートを冷蔵庫で冷やすのは御法度なのだ。
急激に温度が下がると、油分が固まってしまい味が落ちる。
美味しいチョコレートを作るのであれば、常温でゆっくりと固めるべきだった。
だから、チョコレートが固まる時間は削るしかない。
扇風機と氷を使いながら少しだけ時短が出来るだろうか。
麗奈による完璧な作戦である。
手作りチョコをあげるためには、どんな労力も厭わない。
麗奈は、好きな人に喜んでほしい一心だった。
そもそも、ハジメはチョコレートをそんなに好きじゃないのに、無駄に頑張っているわけだが。
野暮な話である。
「よし、必要なものは全部買ったわ」
材料とラッピング用の袋。
固める為のハートの容器も忘れずに買い物かごに入れた。
レジに持っていくと、レジ打ちの店員さんに今からバレンタインチョコレートの準備するのかって顔をされていたが、麗奈は気付いていなかった。
目の前のチョコレートに全集中をしている。
アスリート顔負けの集中力だった。


麗奈は自分の住んでいるマンションに帰ってくる。
高級マンションではないが、年頃の女の子が一人で住んでいても安全なセキュリティロックが付いているマンションであり、住む分には快適である。
しかしながら、家の中は少しばかし埃臭くなっていて、麗奈の性格にしては掃除が行き届いていなかった。
それは仕方ない。
最近は週五回のペースで東山家にお邪魔していたので、掃除をする時間がなかった。
生活していないリビングを毎日のようにピカピカにするのも何かおかしいだろう。
買い物袋をキッチンに置いて、手洗いをしてから制服の上からエプロンを付ける。
麗奈は、準備万端だ。
チョコレートを溶かすには、六十度以下のお湯で湯煎してドロドロにしておく。あまり温度が高いと分離してしまうので注意が必要である。
湯煎したチョコレートの準備が出来たら、シリアルを小さく砕いて中に入れる。
よくかき混ぜてムラがないようにして。
ハートの容器に、溶かしたチョコレートを入れて均一になるように混ぜる。
簡単な作業である。

あとは、チョコレートを常温でゆっくりと冷やす。
手作り要素はあまりなさそうに見えるが、ハジメのことを想いながら手作りした愛情入りである。
……愛情入りだが、ちゃんとモラルは守っている。
「あとは冷やすだけね」
待っている間に、扇風機をクローゼットから取り出して、風がチョコレートに当てるように冷やしていく。
もっと時短したい。
氷水を入れたコップを、扇風機の風に当てて間接的に冷たい空気を送る。
これならすぐ固まってくれそうだ。
バタバタしたが、何とかなった。
「はぁ、七時前には渡したいな……」
麗奈は、眺めながらずっと待っている間に、張り詰めていた気が緩んでいく。
久しぶりの自分の家だからか。
家族の匂いがした気がした。
いつもより疲れてしまった。
何だか瞼が重くなっていき、意識が遠退いていくのであった。


八時過ぎ。
麗奈が目覚めた時には、完全に外は暗くなっており、二月十四日は終わりを告げていた。
そんなのは嫌だ。
まだ何も出来ていないのに。
チョコレートだけじゃなく、感謝していることも素直に伝えていないのに。
全てが終わっていく。
頭の中には絶望しかない。
どうして自分は此処に居るのか。
何故、手作りチョコレートに固執してしまったのか。
普通のチョコレートだって喜んでくれるのに、自分の気持ちを優先していた。
自己満足のせいで、また大切なものを失っていく。
泣きながらもチョコレートを袋に詰めて、家を飛び出るがもう遅いのだ。
八時過ぎにお邪魔して、また迷惑をかけてしまう。
「東山くんに喜んで欲しいだけなのに……」
マンションから外に出て気付く。
何故、自分が特別な人間だと思っていたのだろうか。
私は平凡である。
特徴もない人間だ。
可愛いところも、女性としての品格も他の人ほど秀でていない。
ハジメには、風夏や冬華。萌花だっているのだ。
私がどんなに頑張ったとしても、彼女達には絶対に敵わない。
顔でも性格でも、人間性だって勝てるわけがない。
東山くんが、私のために待つ理由などない。
そう思っていても、家を飛び出していた。
会いたかった。
この状況で、とても傲慢な、自分勝手な考えであっても、貴方の隣に居たかったのだ。
チョコレートすら満足に渡せない女の子が居る場所なんてないのに。
「東山くん、私は……」
ボロボロなメイクのままでも、貴方に会いたい。
マンションから出て。
真っ暗な闇の先に、貴方が居るわけがないのに。

「秋月さん?」
この声を聞き間違えることはない。
不意に聞こえてきた。
いつもそうである。
貴方はそういう人なんだろう。
マンションの前で待っていてくれた。
寒空の下であっても関係なく。
当然のように居てくれる。
こんな私を特別にしてくれるのだった。
勢いよくハジメに抱き付く。
その身体はとても冷たい。
「ずっと……、待ってくれたの?」
「いや、えっと。八時過ぎに終わりそうって聞いていて、来たばかりだけど」
それでも、ずっと待っていてくれたのは、やっぱり貴方だからである。
貴方は優しい。
私に優し過ぎる。
そんなに優しくされたら、女の子は誰だって好きになってしまう。
貴方の隣を諦められない。
私は自分を律することが出来ずに、わがままになってしまう。
貴方を好きでいるだけで、とんでもなく迷惑を掛けているのに、それ以上を望んでしまう。
頬を赤くする貴方を見ていると、自分が抑えられなくなる。
「東山くん、私は貴方が好き」
わがままに抱き寄せて、唇を合わせる。
ほんの少しのキスが、永久に感じるほどに愛おしい。
貴方に出逢えていなかったら、こんな気持ちにならなかった。
この世界がこんなにも、尊いものだと知ることはなかったはずだから。
「もう一回だけ……」
また背伸びをして顔を近付ける。
貴方のぬくもりを肌で感じていると、わがままを言ってしまう。
そんな私でも受け入れてくれる。
だから、好きになった。
貴方といると、自分の気持ちを止められなくなっていく。
とっても幸せなままで。
バレンタインは終わっていく。

幻想的な月明かりに照らされて。
月が綺麗で。
二人で見る世界は輝いていた。

この恋は、ビター味である。
とっても甘い甘いビター味。
駄目な私を好きになってくれますか?
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