不倫禁止法案

青木 哲生

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一章

俺が不倫なんて。

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 不倫法案が制定されたその日から、街には嫌な雰囲気が流れ始めていた。私が考えていた以上に不倫している人の数は多いようだ。

 会社の上司も、部下との不倫がバレて、警察に捕まった。上司は娘さんが2人いたらしく、彼はすぐに死刑が決まった。

 不倫禁止法案が制定されて、数ヶ月後、会社に行くと、警察がいたので驚いた。職場に入ろうとするも、警察に止められた。10分後、警察に拘束された上司の姿が見えた。

上司「助けてくれ!本の出来心なんだ。妻と女を不幸せにしたいと思ったことはない。たのむから、許してくれ!」

 上司は悲惨な泣き声をあげながら、そう言った。ふと、上司と目があった。思わずドキッとし、目を背けようとする。

上司「高岡君!助けてくれ!色々世話してやったじゃないか。」

 すがるような声で上司は叫ぶが、私は目を逸らし、他人の振りをする他になかった。皆が、目を合わせまいとしているのがなんとなく感じ取れた。自分まで巻き込まれたら、ひとたまりもないからだ。

 誰もが疑心暗鬼になっていた。心が荒んでいくのを感じる。もちろん、不倫した連中の自業自得ともいえるが、こんなに簡単に人は死ぬという事実が、人々に恐怖を与えた。お互いに干渉することを人々はやめた。田口ともしばらく話していない。私は人間不信に近い状態になった。家庭に帰っても休まることはなかった。優しかった妻は、あの不倫禁止法案以降、何かにイライラしていた。それは私が変わってしまったのが原因だろう。

 家で何も喋らず、部屋に閉じこもる私に不満を感じるのは当然だ。こんな社会状況にあるのなら、本来は家族に寄り添っていくべきだろう。しかし、それができないほど、私の心は疲弊していた。私は家に帰ると、晩ご飯にも手をつけず、自分の部屋に閉じこもり、自身の心の傷を癒すのに努めた。だが、うまくはいかなかった。

 そんな折に、私はとうとう過ちを犯してしまった。取引先の女性と一夜を共にしてしまったのである。そんなつもりはなかった。ただ、飲みの場で優しく話を聞いてくれる彼女に、少し心を揺さぶられただけだった。しかし、酒の勢いにのまれ、冷静になり自分の過ちに気付いた頃には、もう朝になっていた。

 隣に眠る女性の顔を見る。

高岡 「取り返しのつかないことをしてしまった。」

 私は夢であって欲しいと願った。だが、やはり現実は現実でしかない。
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