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3月
しおりを挟むまずはどこから始めようか。
そうだな。
彼女に出会う前からの話をしようか。
この話抜きでは、僕という人間を語ることはできないだろう。
僕は死のうと思っていた。
その時は確か2月の上旬頃だったと思う。
僕の誕生日は3月1日で、22歳を迎えようとしていた。
22歳というのは、まだ若いとはいえる年齢ではあったが、若さを誇れるぎりぎりのデッドラインだ。
僕は今までの約22年間を振り返った時に、まず振り返るべきものが何もないという事実に驚いた。
これは僕の記憶力の悪さにも原因があるとは思うのだが、それにしても楽しい思い出や悲しい出来事が何一つ頭に浮かんでこなかったことに愕然とした。
かろうじて朧げに浮かんでくるものもあっが、それを思い出したところで、僕の心はまったく動かなかったんだ。
懐かしい気持ちにも、辛い気分にもならなかった。
それからふとこう思ったのだ。
僕は何故生きているのだろうかってね。
別に生きることに意味をもたせる必要なんてのはないけれども、その時の僕はそれをひたすら求め続ける青臭さをまだ持っていたんだ。
ちょうど大学を卒業した時期だったのも関係している。
四年制の大学になんの未練もなく去り、さてこれからは自分だけで生きていくんだぞと、自分に言い聞かせていた。
手始めとして、人生のおさらいなんてしたのが不味かった。
なんてこった。僕は人生の目的すら持たないくせに、自分だけで生きていくだなんて大それたことを言っていたのか。
無味乾燥とした日々を送ってきた僕がこの先に、人並みの生活を営むことができるのか。
急に怖くなって、それから解決策を探してみたが無駄だった。
そして決めた。
忘れもしない。僕は3月15日を決行日にきめた。この日にちにたいした意味はなかった。
ただ何となく決心してから、1か月は猶予が欲しかっただけだ。
面白いもので、僕のこの気まぐれな考えが、僕自身を救うことになった。
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