4 / 146
孵化
しおりを挟む
――岩に頭を突き刺して死んだはずだった。
ㅤなのに、また目を覚ましてしまった。もう一度死のうという気持ちは起きてこない。自死を選択するなんて、人生に一度だけでいい。
ㅤどうせ自殺しても、もう一度目を覚ましてしまうんだから。
どうやら神は自分に、自ら“死”を選ぶ権利すらも許可しないみたいだ。嫌われて、蔑まれて、それでも死んで逃げる事、楽になる事を許さないとは残酷だ。
服は破れていて、血も付いているので、今までの事が夢や幻という訳ではないらしく、先程味わった痛みもはっきり覚えている。
「ここから脱出しようにも、上に行ける階段とかも見当たらない。あるのは下に降りる階段とヒヨコの羽が一つ、後は自分のお金が入った封筒だけ......」
そう独り言ちる。
これから自分は何をしようとするにしても、ここから下に降りなければならない。
ここで独り寂しく朽ち果てるのも悪くはないと思えるけれど、先程ヒヨコに対して行った反抗――反抗とも言えないくらいの悪あがきだったが――が忘れられず、気持ちが高揚していた。
今まで我慢して、我慢して、我慢して......我慢してばかりの人生を歩んできた自分を変えたい。
そんな気持ちが強くなり、階段の先へと進む事を決意させた。
自分自身を大切と思っていない彼は、この先どんな危険があろうとも構わないといった心持ちだ。
封筒と羽をポケットにしまい、もし生きて地上に出られたら、偽物の家族の頬をこの封筒で叩きつけてやろうと考える。そして、もうこの部屋の中に何も無い事を確認してから、階段を下りていった――
『原初ノ迷宮一層のクリアヲ確認。人類初ユニークボス撃破報酬とシテ、スキル:ステータスチェックを付与シマしタ』
――はァ!?
な、なんだ今の声は......
穴に落ちた直後に聴こえた声に似ていた気がするけど......
スキルやら迷宮やら、挙げ句の果てにステータスチェックやらは何なのだろうか。そんなゲームみたいな出来事が起こるなんて、現実には有り得ない。
階段を下りている最中だったが、足を止めて思考する。
......既に自分は死んでいて、今の“コレ”は夢や死後の世界と言う事なのか......?
それなら......夢ならば夢らしく、我慢なんて一切しないでやってやろうじゃないか。
さっきのヒヨコ相手みたいに、どうせ夢の中でも嫌われてしまう。ならばもう我慢する必要なんてないだろ。
卑屈になる必要はない。
遜る必要はない。
我慢なんて一切しない。
死んでも復活してしまうんだ。一度殺されても諦めずに、相手が死ぬまで復活すれば負けることはないんだ。
「ハハハッ......楽しくなってきた」
――夢の中にいる間だけでも強者であろう......と、そう決意した。
「ステータスチェックっていうのを貰ったらしいけど、どう......ッ」
その単語を口に出したからだろうか、目の前に半透明のタブレットらしきモノが現れた。
「......あまりやる機会が無かったけど、RPGみたいで楽しそうかも」
そう漏らした後、現れた自身のステータスを確認し始めた。
──────────────────────────────
吉持ㅤ匠
Lv:3
HP:100%
MP:100%
物攻:1
物防:1
魔攻:1
魔防:1
敏捷:1
幸運:1
残SP:6
スキル:
ステータスチェック
★血液貯蓄ㅤ残:5L
不死血鳥
ㅤ■■■■■■
──────────────────────────────
「アハハッ......なんだこれ。厨二病は発症してないはずなのに」
よくわからない箇所がある。その中でも一際目を引く点滅する★の付いたスキルを指で押してみると、ログみたいものが現れた。
えーと、どれどれ......
〈ダンジョン発見、初侵入ボーナスとして、スキル:★血液経験を授与〉
〈不死血鳥(幼体)を撃破〉
〈血液経験が発動、スキル:不死血鳥を獲得〉
〈人類初モンスター撃破報酬により、血液経験が血液貯蓄に変質〉
〈この報酬は対象者の深層心理に基き付与〉
気を失っている間の事で、自分が認識していない場面の事が詳しく書かれていた。
そしてもう一箇所あった★を押して確認する。
〈血液経験:対象の生物から血液を取り込み、対象のスキルを取り込む
使用できるのは一度だけであり、使用後は消失する〉
......なるほど。
あの赤いヒヨコは不死血鳥という名前で、字面からしてフェニックスの親戚みたいなモノなんだろうな。
このスキルを得た時は、血が足りなくて寒いって思っていたから......かな?
それで、スキルが変質した時は死にかけの自分が血を欲していたから、初モンスター撃破報酬のおかげでコレが消失せずに変質。
ヒヨコの血肉が美味しく感じられたのは、このスキルが発動していたから。
......なんだと思う。予想だけど、多分これで正解。
「クフフフッ......」
あの時生きるのを諦めず、理不尽に抵抗してよかった。
あの時反抗したおかげで、人生が終了する寸前にボーナスステージへ飛ぶ事ができたみたいだ。
「アハハハッ......楽しくなってきたぞ。スキルも確認してみよう」
〈血液貯蓄:自分以外の生物の血液を、自分の血液に変換して体内に保存できる
ㅤ相手の傷口や死体から血液を吸収できる
ㅤ上限は存在しない
貯蓄血液が一定値以下の場合、一定値に戻るまで血液の生成力が上昇〉
〈不死血鳥:血液がある限り、破損した体が際限なく即座に修復される
復活する際に血液を消費し、血液が無い時に致命傷を負うと死亡するので注意が必要〉
〈ステータスチェック:自身のステータスを道具を用いることなく、いつでもチェックできる
相手の名前、種族、レベルを見る事ができる〉
〈■■■■■■:閲覧不可〉
......とてつもなく自分に都合のいい結果になっていた。一つ不穏な物があったけど、見れないなら見れないでいい。
ㅤ気にするだけ無駄だ。コレが現実だろうが夢だろうが、ゲームオーバーになるまではこの世界を全力で楽しもう。
ㅤなのに、また目を覚ましてしまった。もう一度死のうという気持ちは起きてこない。自死を選択するなんて、人生に一度だけでいい。
ㅤどうせ自殺しても、もう一度目を覚ましてしまうんだから。
どうやら神は自分に、自ら“死”を選ぶ権利すらも許可しないみたいだ。嫌われて、蔑まれて、それでも死んで逃げる事、楽になる事を許さないとは残酷だ。
服は破れていて、血も付いているので、今までの事が夢や幻という訳ではないらしく、先程味わった痛みもはっきり覚えている。
「ここから脱出しようにも、上に行ける階段とかも見当たらない。あるのは下に降りる階段とヒヨコの羽が一つ、後は自分のお金が入った封筒だけ......」
そう独り言ちる。
これから自分は何をしようとするにしても、ここから下に降りなければならない。
ここで独り寂しく朽ち果てるのも悪くはないと思えるけれど、先程ヒヨコに対して行った反抗――反抗とも言えないくらいの悪あがきだったが――が忘れられず、気持ちが高揚していた。
今まで我慢して、我慢して、我慢して......我慢してばかりの人生を歩んできた自分を変えたい。
そんな気持ちが強くなり、階段の先へと進む事を決意させた。
自分自身を大切と思っていない彼は、この先どんな危険があろうとも構わないといった心持ちだ。
封筒と羽をポケットにしまい、もし生きて地上に出られたら、偽物の家族の頬をこの封筒で叩きつけてやろうと考える。そして、もうこの部屋の中に何も無い事を確認してから、階段を下りていった――
『原初ノ迷宮一層のクリアヲ確認。人類初ユニークボス撃破報酬とシテ、スキル:ステータスチェックを付与シマしタ』
――はァ!?
な、なんだ今の声は......
穴に落ちた直後に聴こえた声に似ていた気がするけど......
スキルやら迷宮やら、挙げ句の果てにステータスチェックやらは何なのだろうか。そんなゲームみたいな出来事が起こるなんて、現実には有り得ない。
階段を下りている最中だったが、足を止めて思考する。
......既に自分は死んでいて、今の“コレ”は夢や死後の世界と言う事なのか......?
それなら......夢ならば夢らしく、我慢なんて一切しないでやってやろうじゃないか。
さっきのヒヨコ相手みたいに、どうせ夢の中でも嫌われてしまう。ならばもう我慢する必要なんてないだろ。
卑屈になる必要はない。
遜る必要はない。
我慢なんて一切しない。
死んでも復活してしまうんだ。一度殺されても諦めずに、相手が死ぬまで復活すれば負けることはないんだ。
「ハハハッ......楽しくなってきた」
――夢の中にいる間だけでも強者であろう......と、そう決意した。
「ステータスチェックっていうのを貰ったらしいけど、どう......ッ」
その単語を口に出したからだろうか、目の前に半透明のタブレットらしきモノが現れた。
「......あまりやる機会が無かったけど、RPGみたいで楽しそうかも」
そう漏らした後、現れた自身のステータスを確認し始めた。
──────────────────────────────
吉持ㅤ匠
Lv:3
HP:100%
MP:100%
物攻:1
物防:1
魔攻:1
魔防:1
敏捷:1
幸運:1
残SP:6
スキル:
ステータスチェック
★血液貯蓄ㅤ残:5L
不死血鳥
ㅤ■■■■■■
──────────────────────────────
「アハハッ......なんだこれ。厨二病は発症してないはずなのに」
よくわからない箇所がある。その中でも一際目を引く点滅する★の付いたスキルを指で押してみると、ログみたいものが現れた。
えーと、どれどれ......
〈ダンジョン発見、初侵入ボーナスとして、スキル:★血液経験を授与〉
〈不死血鳥(幼体)を撃破〉
〈血液経験が発動、スキル:不死血鳥を獲得〉
〈人類初モンスター撃破報酬により、血液経験が血液貯蓄に変質〉
〈この報酬は対象者の深層心理に基き付与〉
気を失っている間の事で、自分が認識していない場面の事が詳しく書かれていた。
そしてもう一箇所あった★を押して確認する。
〈血液経験:対象の生物から血液を取り込み、対象のスキルを取り込む
使用できるのは一度だけであり、使用後は消失する〉
......なるほど。
あの赤いヒヨコは不死血鳥という名前で、字面からしてフェニックスの親戚みたいなモノなんだろうな。
このスキルを得た時は、血が足りなくて寒いって思っていたから......かな?
それで、スキルが変質した時は死にかけの自分が血を欲していたから、初モンスター撃破報酬のおかげでコレが消失せずに変質。
ヒヨコの血肉が美味しく感じられたのは、このスキルが発動していたから。
......なんだと思う。予想だけど、多分これで正解。
「クフフフッ......」
あの時生きるのを諦めず、理不尽に抵抗してよかった。
あの時反抗したおかげで、人生が終了する寸前にボーナスステージへ飛ぶ事ができたみたいだ。
「アハハハッ......楽しくなってきたぞ。スキルも確認してみよう」
〈血液貯蓄:自分以外の生物の血液を、自分の血液に変換して体内に保存できる
ㅤ相手の傷口や死体から血液を吸収できる
ㅤ上限は存在しない
貯蓄血液が一定値以下の場合、一定値に戻るまで血液の生成力が上昇〉
〈不死血鳥:血液がある限り、破損した体が際限なく即座に修復される
復活する際に血液を消費し、血液が無い時に致命傷を負うと死亡するので注意が必要〉
〈ステータスチェック:自身のステータスを道具を用いることなく、いつでもチェックできる
相手の名前、種族、レベルを見る事ができる〉
〈■■■■■■:閲覧不可〉
......とてつもなく自分に都合のいい結果になっていた。一つ不穏な物があったけど、見れないなら見れないでいい。
ㅤ気にするだけ無駄だ。コレが現実だろうが夢だろうが、ゲームオーバーになるまではこの世界を全力で楽しもう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる