1 / 1
彼女が自首します。
しおりを挟む
「わたし、殺しちゃった」
連絡があったのは昨日の夜だ。ケータイから漏れる声。彼女の声であることはすぐにわかったが、最初は何を言っているのかわからなかった。
「もう、どうしようもないんだよね」
僕に言っているのか。自分に言い聞かせているのか。わからない。
「わたし、ねぇっ! 殺しちゃったんだよぉ!」
声が大きく震えた。僕になんと言ってほしいのか。僕に何を求めているのか。
「ねぇっ! サトシっ! 聞いてるのっ!」
『冗談だよ。ドッキリだよ』彼女の次の言葉を期待した。
「どうしよう。助けて! ねぇっ! サトシっ! 助けてよっ!」
泣き声はうねりを伴なって耳に響いた。耳が痛くなった。
僕は我に返った。
「冗談だろ。こんな夜にやめろよ。明日、仕事なんだから」
僕は無理やり、言葉を投げた。彼女の言葉をこれ以上聞くのが怖かったからだ。
「真剣にぃ、聞いてよぉっ!」
嗚咽が始まった。
僕は彼女の家にすっ飛んで行った。
彼女の家に着いて、ドアを開けた。
彼女はリビングの床に座っていた。うなだれていた。
僕は彼女の部屋を見回した。
「あー」
僕はホッとした。
「誰も倒れていないじゃないか。冗談はやめろよ。きっと疲れているんだよ。もう寝な」と言って、彼女の肩を抱いた。
「えっ?」
僕はハッとした。彼女の肩が震えていたのだ。
尋常な震えではない。僕は怖くなった。なぜか、逃げたいと思った。
僕は彼女から話を聞いた。
「嘘だろ」
納得したくなかった。絶対に。
自分の目で彼女の嘘を確かめたかったので、その場所へ二人で向かった。
高校時代から仲が良かった彼女の親友、クミコの家だ。
ドアは施錠されていなかった。
そのドアを開けたとき、僕は彼女の嘘を確かめることは不可能であると知った。百パーセント不可能だった。
クミコは、リビングの床に仰向けで寝ていた。お腹から血を流して寝ていた。
「寝ているだけだろ。とにかく、ベッドに寝かせようよ。クミコも疲れているだけだ。少し休んだら、目覚めるよ。布団をかけてあげよう」
そう思いたかった。しかし、僕の声はむなしく響くだけだった。
僕と彼女はドアをゆっくり閉め、クミコの家を出た。
ずっと無言だった。
電車に乗った。
なんの関係もない人たちと一緒にいるほうが落ち着くと思ったからだ。
いくつかの電車を乗り継ぎ、二重橋前駅で降りた。
皇居の周りを歩きながら話した。
出会った頃のこと。映画を見たこと。
親に内緒で旅行したこと。
初めての車を買ってドライブしたこと。
でも、未来のことは出てこなかった。
だって、書きかけだった未来へのシナリオがすっ飛んでしまったんだ。
彼女の名前はサトコ。
「ビンタのつもりだったの。たまたまナイフがあっただけなの。クミコがナイフを出しっぱなしにしたからいけないのよ」
サトコの声は、空にむなしく吸い込まれた。
「自首したほうがいいかな」
僕は無言だった。
「もう一周歩こうか」
「ううん。自首する」
「いつ?」
「もう」
「もう?」
近くには警察署があったかな。丸の内警察署だったかな。
そう思いながら、サトコと歩いた。
「サトコ、交番にしな。大きい警察署だと、たくさんのおまわりさんに囲まれるからさ。そういうの嫌だろ」
僕はなぜがそう提案した。
間もなく事件は発覚した。
僕はテレビをつけた。
「これだ」
夕方のニュース番組でやっていた。
警察のワンボックスが映し出された。
『ビンタのつもりだったの』
彼女の言葉が頭の中でこだまする。
“大田区のOLが殺害された事件の容疑者が蒲田警察署に移送されます。沼田聡容疑者は……”
「なにっ! なんだとぉ!」
僕は耳を疑った。
「リポーターが僕を呼んでいる? 確か、容疑者って言ったよな。ヌマタサトシ容疑者って。でも、僕はここにいるよ。移送なんかされていないし。僕は自分の家でテレビを見ているじゃないか。いつものビールを飲んでいるし。ほら、手にはグラスがある」
僕は疲れているんだ。だって、大切な彼女がそうなったんだもん、と思ったとき、
テレビに映った。
「僕の顔だあー! 僕の顔だあー! なぜだあー!」
僕は叫んだ。
「うおーっ! うおーっ!」
両拳を握りしめ、叫んだ。
すると
「えーっ! えーっ! なんだこりゃあー!」
僕の手が変わっていく。どんどん変わっていく。両拳が小さくなっていく。
「くぉぉぉーっ! なんだあー! くぇっ! サトコの手じゃねぇか。サトコぉ?」
僕の手が、いつもつないでいたサトコの手に変わった。
「肘まで? 肩まで? くぉぉぉーっ! 胸、お腹? くぉぉぉーっ! 足まで変わったーっ! くぉぉぉーっ! 髪の毛が伸びたぁーっ!」
すると今度は
「ん? 壁? えっ? 天井? 床もだぁ! なぜ?」
変わっていく。どんどん変わっていく。止まらない。僕の震えも止まらない。
「なんだぁ? サトコの部屋じゃないか。僕はサトコの部屋にいるよ。なぜだ。おかしいよ。僕は僕だよ。いつものビールだって。ほら。えっ? ない、ない、ないよ。おかしいよ」
僕はサトコになり、僕の部屋はサトコの部屋になった。
僕はもう何が何だかわからなくなってきた。
“沼田聡容疑者は殺害した後、被害者をベッドに寝かせ、布団をかけました。少しでも事件の発覚を遅らせようとしていたのでしょうか。どこか遠くへ逃亡しようとしていたのかもしれません”
「僕の名前がまた呼ばれた。同じだ。さっきと変わっていない。僕の部屋とサトコの部屋のテレビは同じものを映しているぞ。どういうことだ。へっ?」
それに
「布団をかけた? 事件の発覚を恐れて? 冗談じゃない。クミコがそのままではかわいそうだったからだ。そうだよ。そうなんだよ。サトコは知っている。そうだよな? サトコ。そう言ってくれ。ああ、僕は世間に追われちまってる。なぜだ? 僕はビンタもやったことがないんだよ。恐い。助けてくれーっ!」
「サトコ」
「誰?」
玄関のほうから声がした。
「サトコ」
「僕の声? 違う? いや、わからない」
じゃあ誰だ。リビングに向かってくるぞ。
「サトォッ」
薄っすらと影が。
「あー、意識が急激に薄れていく。あー、耳鳴り、めまい。グルグル回る」
誰かが入ってきた。
「目の前が真っ暗になった。もうわからない。耳が鳴るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ。
「信じてください。ほんとうにやっていないんです」
「犯人はなぁ、みんな、そう言うんだ。通用すると思っているのか」
「なんでこうなるんですか」
「なんでこうなる? 被害者の自宅から出てきたところを見られているんだ。観念しろよ」
「行ったことは認めます。呼び出されて行っただけなんです。ほんとうです」
「誰に呼び出された?」
「サトコから聞いてみてよ。お願いします」
「サトコ? 三角関係が原因か。邪魔になったというわけか」
「な、何言っているんだ。ち、違うよ」
僕はなぜか刑事と向き合っている。どういうことなんだ。僕が何をしたというんだ。頭が混乱している。整理できない。
「なぜ行った」
「だから、呼び出されたんだ」
「何を話した」
「えっ? 何も話していないよ」
「いきなりか」
「な、何言ってる? 刺されていたので、ナイフを抜いてあげたんだ」
「ほう。凶器はナイフか。刺した後に抜いたということかぁ」
「えーっ! ち、違う! 抜いただけだ。信じてくれよ」
「抜いただけ? 抜くために行ったということかぁ? 沼田。よく聞け。お前が被害者を刺した。その後、被害者が倒れた。その際に、凶器がたまたま抜けた。おい、そうだろ。おいっ!」
「あー、助けてくれ。ほんとうにやっていないんだ。刑事さん、サトコに聞いてくれ。頼むよ。なぜだ、なぜだ、なぜだっ。誰か助けてくれーっ!」
僕は警察の留置場にいるようだ。どうやって入ったのかもわからない。何も考えられない。気がついたら、中にいた。記憶がうまくつながらないのだ。壁が恐い。壁が迫ってきて、ぺしゃんこにされそうだ。もう何も見たくない。
「おいっ!」
『はっ?』
「おいっ! 起きろ! 沼田っ!」
『はぃ?』
「おいっ!」
『起きてるよ』
僕は眠っていたようだ。
「おいっ! 起きろ!」
『だから、起きてるよ。話しかけているじゃないか』
「沼田っ!」
『なんなんだよ。目を開けて、しゃべっているじゃないか』
僕は揺さぶられていた。意識がはっきりしているし、普通に声を出してしゃべっているのに、なぜだ。おかしいよ。僕の声が聞こえないのか。声が小さい? いや、そんなことはない。
〈パチッ〉
ほおをたたかれ、痛ッと感じた瞬間。なぜかズレ始めた。意識がズレ始めたのだ。
『あれっ。なんだ。この感覚は』
意識が追いつかない感じだ。フワフワしてきた。
〈パチッ〉
目の前に火花が散った。
『えっ! どういうことだ』
僕が僕を見ている。目の前には僕がいる。横たわっている僕がいる。僕は揺さぶられていた。
「きびしいな」
『きびしい? なにがきびしいの?』
「脈は触れない。呼吸もない。AED、心臓マッサージだ」
『なにっ! 僕の脈? 呼吸? ない? どういうことだ』
僕はすごく怖くなった。
『助けてくれよっ!』
僕は怒鳴った。
『看守さん。助けてくぅぅぅぅぅぅぅっ。耳が鳴るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ。
「ふふ」
連絡があったのは昨日の夜だ。ケータイから漏れる声。彼女の声であることはすぐにわかったが、最初は何を言っているのかわからなかった。
「もう、どうしようもないんだよね」
僕に言っているのか。自分に言い聞かせているのか。わからない。
「わたし、ねぇっ! 殺しちゃったんだよぉ!」
声が大きく震えた。僕になんと言ってほしいのか。僕に何を求めているのか。
「ねぇっ! サトシっ! 聞いてるのっ!」
『冗談だよ。ドッキリだよ』彼女の次の言葉を期待した。
「どうしよう。助けて! ねぇっ! サトシっ! 助けてよっ!」
泣き声はうねりを伴なって耳に響いた。耳が痛くなった。
僕は我に返った。
「冗談だろ。こんな夜にやめろよ。明日、仕事なんだから」
僕は無理やり、言葉を投げた。彼女の言葉をこれ以上聞くのが怖かったからだ。
「真剣にぃ、聞いてよぉっ!」
嗚咽が始まった。
僕は彼女の家にすっ飛んで行った。
彼女の家に着いて、ドアを開けた。
彼女はリビングの床に座っていた。うなだれていた。
僕は彼女の部屋を見回した。
「あー」
僕はホッとした。
「誰も倒れていないじゃないか。冗談はやめろよ。きっと疲れているんだよ。もう寝な」と言って、彼女の肩を抱いた。
「えっ?」
僕はハッとした。彼女の肩が震えていたのだ。
尋常な震えではない。僕は怖くなった。なぜか、逃げたいと思った。
僕は彼女から話を聞いた。
「嘘だろ」
納得したくなかった。絶対に。
自分の目で彼女の嘘を確かめたかったので、その場所へ二人で向かった。
高校時代から仲が良かった彼女の親友、クミコの家だ。
ドアは施錠されていなかった。
そのドアを開けたとき、僕は彼女の嘘を確かめることは不可能であると知った。百パーセント不可能だった。
クミコは、リビングの床に仰向けで寝ていた。お腹から血を流して寝ていた。
「寝ているだけだろ。とにかく、ベッドに寝かせようよ。クミコも疲れているだけだ。少し休んだら、目覚めるよ。布団をかけてあげよう」
そう思いたかった。しかし、僕の声はむなしく響くだけだった。
僕と彼女はドアをゆっくり閉め、クミコの家を出た。
ずっと無言だった。
電車に乗った。
なんの関係もない人たちと一緒にいるほうが落ち着くと思ったからだ。
いくつかの電車を乗り継ぎ、二重橋前駅で降りた。
皇居の周りを歩きながら話した。
出会った頃のこと。映画を見たこと。
親に内緒で旅行したこと。
初めての車を買ってドライブしたこと。
でも、未来のことは出てこなかった。
だって、書きかけだった未来へのシナリオがすっ飛んでしまったんだ。
彼女の名前はサトコ。
「ビンタのつもりだったの。たまたまナイフがあっただけなの。クミコがナイフを出しっぱなしにしたからいけないのよ」
サトコの声は、空にむなしく吸い込まれた。
「自首したほうがいいかな」
僕は無言だった。
「もう一周歩こうか」
「ううん。自首する」
「いつ?」
「もう」
「もう?」
近くには警察署があったかな。丸の内警察署だったかな。
そう思いながら、サトコと歩いた。
「サトコ、交番にしな。大きい警察署だと、たくさんのおまわりさんに囲まれるからさ。そういうの嫌だろ」
僕はなぜがそう提案した。
間もなく事件は発覚した。
僕はテレビをつけた。
「これだ」
夕方のニュース番組でやっていた。
警察のワンボックスが映し出された。
『ビンタのつもりだったの』
彼女の言葉が頭の中でこだまする。
“大田区のOLが殺害された事件の容疑者が蒲田警察署に移送されます。沼田聡容疑者は……”
「なにっ! なんだとぉ!」
僕は耳を疑った。
「リポーターが僕を呼んでいる? 確か、容疑者って言ったよな。ヌマタサトシ容疑者って。でも、僕はここにいるよ。移送なんかされていないし。僕は自分の家でテレビを見ているじゃないか。いつものビールを飲んでいるし。ほら、手にはグラスがある」
僕は疲れているんだ。だって、大切な彼女がそうなったんだもん、と思ったとき、
テレビに映った。
「僕の顔だあー! 僕の顔だあー! なぜだあー!」
僕は叫んだ。
「うおーっ! うおーっ!」
両拳を握りしめ、叫んだ。
すると
「えーっ! えーっ! なんだこりゃあー!」
僕の手が変わっていく。どんどん変わっていく。両拳が小さくなっていく。
「くぉぉぉーっ! なんだあー! くぇっ! サトコの手じゃねぇか。サトコぉ?」
僕の手が、いつもつないでいたサトコの手に変わった。
「肘まで? 肩まで? くぉぉぉーっ! 胸、お腹? くぉぉぉーっ! 足まで変わったーっ! くぉぉぉーっ! 髪の毛が伸びたぁーっ!」
すると今度は
「ん? 壁? えっ? 天井? 床もだぁ! なぜ?」
変わっていく。どんどん変わっていく。止まらない。僕の震えも止まらない。
「なんだぁ? サトコの部屋じゃないか。僕はサトコの部屋にいるよ。なぜだ。おかしいよ。僕は僕だよ。いつものビールだって。ほら。えっ? ない、ない、ないよ。おかしいよ」
僕はサトコになり、僕の部屋はサトコの部屋になった。
僕はもう何が何だかわからなくなってきた。
“沼田聡容疑者は殺害した後、被害者をベッドに寝かせ、布団をかけました。少しでも事件の発覚を遅らせようとしていたのでしょうか。どこか遠くへ逃亡しようとしていたのかもしれません”
「僕の名前がまた呼ばれた。同じだ。さっきと変わっていない。僕の部屋とサトコの部屋のテレビは同じものを映しているぞ。どういうことだ。へっ?」
それに
「布団をかけた? 事件の発覚を恐れて? 冗談じゃない。クミコがそのままではかわいそうだったからだ。そうだよ。そうなんだよ。サトコは知っている。そうだよな? サトコ。そう言ってくれ。ああ、僕は世間に追われちまってる。なぜだ? 僕はビンタもやったことがないんだよ。恐い。助けてくれーっ!」
「サトコ」
「誰?」
玄関のほうから声がした。
「サトコ」
「僕の声? 違う? いや、わからない」
じゃあ誰だ。リビングに向かってくるぞ。
「サトォッ」
薄っすらと影が。
「あー、意識が急激に薄れていく。あー、耳鳴り、めまい。グルグル回る」
誰かが入ってきた。
「目の前が真っ暗になった。もうわからない。耳が鳴るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ。
「信じてください。ほんとうにやっていないんです」
「犯人はなぁ、みんな、そう言うんだ。通用すると思っているのか」
「なんでこうなるんですか」
「なんでこうなる? 被害者の自宅から出てきたところを見られているんだ。観念しろよ」
「行ったことは認めます。呼び出されて行っただけなんです。ほんとうです」
「誰に呼び出された?」
「サトコから聞いてみてよ。お願いします」
「サトコ? 三角関係が原因か。邪魔になったというわけか」
「な、何言っているんだ。ち、違うよ」
僕はなぜか刑事と向き合っている。どういうことなんだ。僕が何をしたというんだ。頭が混乱している。整理できない。
「なぜ行った」
「だから、呼び出されたんだ」
「何を話した」
「えっ? 何も話していないよ」
「いきなりか」
「な、何言ってる? 刺されていたので、ナイフを抜いてあげたんだ」
「ほう。凶器はナイフか。刺した後に抜いたということかぁ」
「えーっ! ち、違う! 抜いただけだ。信じてくれよ」
「抜いただけ? 抜くために行ったということかぁ? 沼田。よく聞け。お前が被害者を刺した。その後、被害者が倒れた。その際に、凶器がたまたま抜けた。おい、そうだろ。おいっ!」
「あー、助けてくれ。ほんとうにやっていないんだ。刑事さん、サトコに聞いてくれ。頼むよ。なぜだ、なぜだ、なぜだっ。誰か助けてくれーっ!」
僕は警察の留置場にいるようだ。どうやって入ったのかもわからない。何も考えられない。気がついたら、中にいた。記憶がうまくつながらないのだ。壁が恐い。壁が迫ってきて、ぺしゃんこにされそうだ。もう何も見たくない。
「おいっ!」
『はっ?』
「おいっ! 起きろ! 沼田っ!」
『はぃ?』
「おいっ!」
『起きてるよ』
僕は眠っていたようだ。
「おいっ! 起きろ!」
『だから、起きてるよ。話しかけているじゃないか』
「沼田っ!」
『なんなんだよ。目を開けて、しゃべっているじゃないか』
僕は揺さぶられていた。意識がはっきりしているし、普通に声を出してしゃべっているのに、なぜだ。おかしいよ。僕の声が聞こえないのか。声が小さい? いや、そんなことはない。
〈パチッ〉
ほおをたたかれ、痛ッと感じた瞬間。なぜかズレ始めた。意識がズレ始めたのだ。
『あれっ。なんだ。この感覚は』
意識が追いつかない感じだ。フワフワしてきた。
〈パチッ〉
目の前に火花が散った。
『えっ! どういうことだ』
僕が僕を見ている。目の前には僕がいる。横たわっている僕がいる。僕は揺さぶられていた。
「きびしいな」
『きびしい? なにがきびしいの?』
「脈は触れない。呼吸もない。AED、心臓マッサージだ」
『なにっ! 僕の脈? 呼吸? ない? どういうことだ』
僕はすごく怖くなった。
『助けてくれよっ!』
僕は怒鳴った。
『看守さん。助けてくぅぅぅぅぅぅぅっ。耳が鳴るぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ。
「ふふ」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる