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思惑

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 「私は…… お家騒動に家督問題で、様々な立場で動いている人達を不幸にはしたくないのです。なずな」

「楓禾姫様……」

「私の母上の楓菜ふうなと父上のそうは、とても仲が良くても子宝には恵まれなかった。稜禾詠ノ国を治める者として、母上様は御厨家から婿養子として入って来られた父上に側室をと……政岡家より迎えた側室の凛実りんみの方様が、鈴兄上をお産みになって…… 一年五ヶ月後に正室である母上から私が産まれて……十年後に弟の湖紗若様が産まれた」

 「楓禾姫様……」

 新年の、*睦月むつきの二十五日に十六歳になられる楓禾姫様。ご誕生より十年後の。**師走しわすの二十四日に、弟君であられる湖紗若様がお産まれに……

「やはり…… 母上様は…… 六年前、湖紗若様をお産みになられた後…… 亡くなられたのには、何かが起きて…… なのかしらね? 私の運命ならば逃げてばかりはいられないのよね。稜禾詠ノ国を治めるにも……そうでは無い道を選ぶにも真相を突き止めなくては……」

 「楓禾姫様……」

 楓禾姫様の悲しきお嘆きに。私は、『楓禾姫様』しか返せないのがもどかしくて。


「まずは、それぞれの家臣達の思惑と心を同じくして…… と見せ掛けて…… 仲のよろしい稜弥様…… 鈴兄上。二人の相談相手の詠史殿と、話をする事から始めましょうかね…… 湖紗若様の事について相談したい事もありますし」

 「…… 楓禾姫様……  色々な事を悟られ過ぎていて……恐ろしいです……」

 いつの日か、立ち上がって下さると思っておりましたが……

 私の考えている以上に、色々な事をを考えておられた楓禾姫様……

 この先もずっと楓禾姫様の御側でお支えすると……

 改めて心に誓ったのです。

*睦月一月
**師走十二月
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