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なずなの戦い

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  -西櫓- 

「う、ん」

  目を開けて飛び込んできたのは、視界不良な空間で。

  (ここはどこかしら)

 不覚にも、みぞおちに拳を食らって、私意識を失って…… どこかに運ばれた? 

(あまり楽観視出来るような状況や、場所じゃないみたいね)

少し暗闇に目が慣れて来たから、どこに 閉じ込められたのかと確かめようと目を凝らすと。

 使い古した剣や兜などが転がっている……

(櫓のどこか?)


油断して捕まってしまった、自分の愚かしさに涙が出そうになってしまって……

 「泣いている場合じゃないでしょ!」

  早く楓禾姫様と湖紗若様の御傍に戻らなくては!そう思い直して、溢れて来た涙を慌てて拭おうとして気が付いた。

(両手足、縛られている……見張り……いない?)



「縄抜け……」

 (逃げなきゃ!)
 
 幼き頃より楓禾姫様と稽古に勤しむ中、身に付けた技の一つ縄抜け……

ふと、縄抜けの稽古をしながら。

(縄抜けって、覚える必要あるのかしら?)

思った事もあったけど……

(馬鹿な感慨に浸ってる場合じゃないわ!)

「結んだ人下手くそなのね……弛いわ」


稽古の時は様々な結び方で、 結び方はもっときっちりだったもの。

簡単に解けそうって思ってしまった…… 


「外れない!」

後ろ手に縛られた腕。焦ってた……力任せに解こうと……


後から思い返すと。きっとその時の私は、冷静じゃなかったのかもしれない。


「そうよ!力任せに解こうとしても却って……落ち着くのよ!」

 動きを小さくして……体を揺らして ……縄を緩めて……

 (外れた!)

 腕が自由になったなら足は簡単。

「痛いっ!」

  気が張っていた為気付かなかったのか。左足に触れた瞬間、凄い痛みが走ったの。

 さっき男背負い投げした時に捻ったかもしれない。


少し熱をもって腫れているのが分かる。


それでも、痛みで涙目になりながら。何とか縄を外すと私は、這って出口に向かって。



「そりゃそうよね。扉が。鍵掛けてないはずないもの」


鍵のかかった扉……

(次は鍵の解錠かぁ)


この時の私は、後で思い返せば不思議な興奮状態、精神状態だったのかもしれない。


次はどんな手で来るのかしらと思ったり。 縄抜けが上手くいかなくて焦ったり。 足の怪我に動揺したり。

様々な、感情に揺さぶられていたから……

 普段から身に付けている細長い棒で根気強く、鍵穴をいじって……

-ガチャ-
 
(え?)

自分の手に解錠の手応えが伝わって来たのではなかった…… まるで外から開けられた感覚……


(捕まるっ)


中に見張りの者がいないからって…… 外に見張りがいない訳ないじゃない!

外喜様が そこの所を、抜かるなんてありえないもの。


 けど捕まるわけにはいかないの! 楓禾様と湖紗若様の御傍に!お助けしに行かねばならないのだから!


(扉が開いたら 外に飛び出して……)


-ギギィ-

鈍い音を立てて 、開けられた扉。私は飛び出そうとして……


「きゃぁ!」


  足を捻っていて動けないのを失念していた。


(また捕まるっ!)


お役に立つ所か。敵方に捕まって。迷惑を掛けるとか……悔しくて情けなくて ……地面にうずくまり動けなくて。

敵方に涙見せたくないのに涙が止まらなくて……

「なずなっ!大丈夫かっ!?」


(え?鈴様?)


思わず上体起こして……


空耳じゃなくて。本当に鈴様だった……


驚きすぎて固まっていると。
 

鈴様は、跪かれてひざまずかれて。私を……何でか抱き寄せられてっ


「遅くなってすまなかった。無事で良かった……なずな……」


鈴様のお姿に。優しいお言葉に……

「ひっ、ワーッ」


私は安心からか。

みっともなく……大声で 泣いてしまったの








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