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真摯な告白 詠史から楓禾姫へ

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     翌日 巳の刻(午前十時頃)

    -楓禾姫の部屋-

「私、詠史殿にこれからの事を頼んだはずですよね」

(口を尖らせて、これでは拗ねているようにしか聞こえないではないの)


「ええ。鈴様の助けに。とおっしゃられました」


「ではなぜ?」  

「『湖紗若とをゆっくりしたい』とおっしゃられましたが、まさか稜禾詠ノ国を出られるとは思わずに『 そうですね。よろしいと思いますよ』とお答えしてしまったのですが。どういう事でしょう?」


 私は、ちょっと"嘘"を言った自覚はあるので、プイッと右を向いて唇を尖らせて……

 なんだか、私。さっきから子供みたいな態度……あれ? 


「詠史殿こそ、私の質問に答えてはないではないのでは?」

「殿様より『鈴には、勇の妻の弟を付けるとするか』とお許しを頂きました」


(勇叔父上様の奥様。雪枝《ゆきえ》様の弟……誠《せい》様を……)

「私は『詠史殿と稜弥様なら、鈴兄上様を。稜禾詠ノ国を。民を。幸せにする為力を尽くしてくれます』そうお父上様に申し上げたのに……先ほどから私と詠史殿。会話が噛み合っていませんね」


「私は、殿様の涙ながらの『親バカを許してくれ。私は、楓禾姫と湖紗若の幸せを、心から願っているんだ。楓禾姫を心より思ってくれている詠史に。お願いしたい。楓禾姫をこれからも、支えてやって欲しい。よろしくお願いします』そのお言葉を頂き、楓禾姫のお傍に参る事にしたのです」


 会話が噛み合わないというより……


「なぜ、私の所に……」


「一生涯、お傍で楓禾姫を守ると決意したからです」


 詠史殿の未来を想い、違う場所にて羽ばたいて。と願う私と。私の未来を想い、今居る場所に居たいと願う詠史殿……

「なぜ? 桜家は、貴方の姉のこずえ様を……基史殿を、詠史殿を辛き目に合わせた家でしょうに……なぜ?」


「何回かお話させて頂いたと思いますけど? 桜家は、忽那家、家名存続の処分を。私と父の待遇も、居場所も保証して下さいました。恨みなどありません。外喜に罰を下して下さいましたし。私は、出世より楓禾姫と湖紗若を影から守る任を誇りとしている為、鈴様には申し訳ないですが。楓禾姫のお傍にて仕える道を選択したのです」


「詠史殿……」

(涙が出そう……)


「それらは、副次的な理由です。私は、楓禾姫をお慕いしています。ですからお傍を離れたくない。その一心で、この瑠璃ノ島に楓禾姫を追いかけて来たのです」

(いつも……いつだって)

「いつも……いつだって、詠史殿は、私を優先してくれる。その優しさにいつまでも包まれていたいと願う程に。離れたくないと思う程に……」

「楓禾姫」

「詠史殿の、穏やかなたたずまいに、やさぐれた心や、泣き出したい夜も。話しを聞いてもらうだけで、いつの間にか癒されて。幸せになれて。今日みたいに私が拗ねても、受け止めてくれて…… この先もずっと……傍に居てくれますか?」


「お約束いたします。生涯、楓禾姫のそばに居る事。お慕いしています。楓禾姫」


 瞳を潤ませながらの。詠史殿の真摯な告白。嬉しくて幸せで涙が溢れたの。

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