反魂の傀儡使い

菅原

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25章 動き出す時間

蘇る恐怖

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 セリアの突き出した剣は、ローゼリエッタの胸の中心を貫く。時の結晶の影響か、血が吹き出ることはなかった。また、少女の顔が痛みに歪むことも無かった。なのにセリアの手には、しっかりと嫌な感触が伝わってくる。

 剣に宿った封印の魔法が発動した。柄を掴んでいたセリアは、魔法発動の衝撃により大きく吹き飛んでしまう。
「きゃあああ!!」
 咄嗟の事でガンフ、リエントは手を差し伸べることが出来ず、彼女は強かに体を打ち付け地に付した。
「セリア!?」
「セリアさん!!」
 慌てて駆け寄る二人。だが彼らの視線は全て、ローゼリエッタの胸に突き刺さった剣に注がれている。
 突如、ローゼリエッタの周囲にある時の結晶が、音を立てて砕け潸然と舞い散った。そして地面が、再び大きく揺れ始める。
「一体どうなるんだ? また揺れ始めたぞ」
「ロゼ……」
 セリアはガンフに抱え上げられ、再びローゼリエッタを見つめた。

 それは暴走が収まる前兆であった。これを期に、空間と時間の歪みが正しき形に戻り始める。
 宙を漂う大地は降下を始め、各地に隆起した時の結晶は砕けてゆく。世界を覆っていた混沌と崩壊は次第に収縮を始め、やがてあるべき姿へと還り始めた。
 浮いた大陸がそのまま降下を始めたり、明後日の方角へ転移した物が戻らないことから、世界が元の形に戻ることはなさそうだ。だが、時は再び動き出した。これより世界は、また長き年月をかけ完璧な形を取り戻すであろう。
 しかし……時が動き出したということは、招かざる者も復活を果たすことになる。


 目まぐるしい変化に気を取られながらも、三人は一歩、動かぬローゼリエッタへと近づいた。
 その時。

バキバキバキ!!

 少女を囲む結晶が生えた大地に、幾つもの亀裂が走った。
 その亀裂は次第に大きくなり、遂にセリアの足元にも迫る。いけない、と思った時には既に遅かった。
「ロゼーーー!!」
 動かぬ少女へ向かって、セリアは懸命に手を差し伸べる。
 だがその手は届くことはなく、剥製のように固まった少女は時の結晶ごと、大地にできた亀裂の中へ落ちて行ってしまった。

 セリアは直ぐに亀裂の中を覗き込んだ。だがその先は真っ暗で、少女の姿は影も形も無い。
「危ない!!」
 リエントは叫ぶ。セリアが亀裂から飛び降りようとしたのだ。どれだけの高さがあるかは分からない。だが飛び降りたのならば、もう一度ローゼリエッタに合うことが出来ると彼女は思った。だがそれを実行に移すことは叶わず、セリアは枯れ木の腕で無理矢理組み敷かれてしまう。
「離して!! お願い!!」
 どれだけ懇願されようと、その手を離すことは出来ない。もしその手を放してしまえば、次の瞬間彼女は亀裂の中へ飛び込んでしまうだろう。

 駄々をこねるセリアに向かって、次はガンフが声を張り上げた。
「いい加減にしないか! 決別を悲しむその気持ちは十分分かる。だが後を追って命を投げ捨てても、何も解決しないんだぞ!」
「でもロゼが!!」
 セリアは爪がはがれそうになる位力強く地面を引っ掻いた。幾つもの爪痕が残り、次第に土は赤みを帯び始める。
 ガンフは少々強引にその手を引き剥がし、自身の両手で優しく包み込むと彼女に向かって叫んだ。
「よく見るんだ! 辺りには時の止まった魔物の大群。それを止めている透明な結晶も次々と砕けている! 全て砕けてしまう前に、我々がどうにかしなければならないんだ! でなければ再び奴らは人間を食い殺すだろう。彼女が救おうとした人々が、魔物に滅ぼされてもいいのか!?」
 彼の言葉に、セリアは泣きながら首を振る。

 少しの時間をかけてセリアは決心した。ローゼリエッタとの決別を。そして、ローゼリエッタが守ろうとしていた世界を、生涯を通して守り続けることを。
 セリアは汚れた手で涙を拭うと、その場で立ち上がる。それからローゼリエッタが落ちていった亀裂を向いて、改めて別れの言葉を告げた。


 セリアが気を取り直し、一先ず安心できる状態になった事を確認したガンフは、次にリエントの名を呼ぶ。
「リエント! どうすればいい!? この魔物の大群は何があっても解き放つわけにはいかん!!」
「……一つだけ方法があります。でもそれは……」
 思わぬ答えに、ガンフの表情が明るくなった。彼自身、聞いてみたはいい物のこれ程簡単に色よい返事が返ってくるとは思わなかったのだ。
「あるなら早く教えろ! こうしている間にも、結晶は次々と砕けていっているぞ!」
 遠くでは既に幾つかの魔物が解き放たれているようで、あの精神を蝕む奇声が上がっている。

 状況は切迫していた。リエントもその悲鳴に突き動かされ、口早にその方法を語り出す。
「白龍を倒すために作り上げたあの魔法です。僕たちはあれを、白龍封印の為だけに用意していましたが、それを最大出力で放てば、もしかしたら可能かもしれません」
「そうか! ならそれで……」
 早々に打開策が打ち出され、ガンフは嬉々として叫んだ。予想の遥か上を行く答えに、獅子の顔には自然と笑みまで零れている。だが、リエントの表情は険しいままだ。
「でも、封印する為の鍵が必要なんです。白龍を剣に封じ込めようとしたように、あの大量の魔物を封じ込める何かが……」
「鍵だと!? そんなもの一体何処にある! あの剣は既に奈落の底だ。今から新しい物を用意するなど……」
 慌てふためくガンフとリエント。打開策は早くも暗礁に乗り上げる。
 だがそこへ、いつの間にか近づいて来ていたセリアが口をはさんだ。
「私が……私が封印の鍵となります」
「何!?」
 思いもよらぬ奇策を受け、二人は言葉を失くす。その沈黙を埋めるかのように、また一つ結晶が砕け、魔物が解き放たれた。もはや、彼らに悩んでいる暇はない。
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