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25章 動き出す時間
封印の時
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その時計塔は、王国から少し離れた場所にあった町、スフィロニアにあった。
町の名物となるには十分な知名度を持ち、高さだけで言えばバルドリンガの王城に匹敵する高度を持つ。しかし、時計塔とは言いながらも、これは元々時刻を知らせる為に作った建造物ではなかった。要するに、町おこしの一環で作られた、シンボルタワーの一種であったのだ。町の存亡を掲げたその案に、当時の建造技術、魔法技術の粋を集めて作られた物であり、塔の一部には魔力を宿す物質を用いられた箇所もあり、封印魔法の依り代となるには都合の良い存在であった。
リエントはその時計塔を見つけると、直ぐにガンフへと注いでいた魔物の一部を時計塔へとむけた。
この時既に多くの魔物は解き放たれていたが、それでもリエントは、持てる力を最大限に振り絞り魔法を操り続けた。
封印魔法の波は、遂に白龍の下へと届く。
漆黒の荒波の中に、一筋浮かぶ純白の影。それはガンフへではなく、悠然と聳える時計塔目掛けて流れ込んでいく。
続いて近くにいた魔物が、そして解き放たれた魔物までもが、逃げる暇も無く激流に飲み込まれていった。
封印魔法は遂に、全ての対象を封印して見せた。
三人の前に収束していた大量の魔物たちは、一体残らず姿を隠す。あの白龍でさえもが、影も形も無い。
封印魔法の依り代となったガンフの精神は、もはや限界を迎えていた。膝をつき崩れ落ちたその体はがくがくと震えていて、苦し気に掌で大地を握り締めている。彼の精神を襲う魔物の意思は強大で、一つ気を抜けば忽ち飲み込まれてしまいそうだ。それでも彼が魔物の力に飲み込まれずにいられたのは、偏に彼を慕い、彼と共に戦った戦士たちの存在があったからだ。
ガンフは暗闇の中、仲間の顔を思い浮かべる。烏合の衆であった国において、特に彼を慕い、彼に尽力してきた戦士たちの顔を。同じ革命軍に与する快い仲間たちの顔を。飲み友達のドワーフ、思いを寄せたエルフの女、好敵手となるセリオンの戦士。彼の内にある全ての思い出が、今、彼の力となる。
強大な捕食衝動を堪えるガンフだったが、一方の時計塔は何事も無かったかのように時を刻み続けていた。意志を持たぬが故に、魔物の意思に飲み込まれる心配がないのだ。加えて優秀な技師の下作られたそれは、物理的にも膨大な量の封印に耐え得る耐久を持ち、どこも崩れることはなく聳え立っている。
全ての魔法制御を終え、リエントの身体から全ての力が抜けていった。二足で立っていた足は膝から大地に落ち、続いて胸が、腕が、頭が強く地を打ち付けた。
頭の整理がつかぬまま、セリアはリエントに駆け寄る。すると巨大な枯れ木の身体は見る見るうちに小さく縮まり、やがて元の少年の姿に戻ってしまった。
「リエント!! 大丈夫!?」
セリアはリエントの口元に手を当てる。
僅かな息遣いを感じ、続いて胸に耳を当て、心音を確認して漸く胸をなでおろした。続いて、先程まで唸っていたガンフの声が、止んでいることに気が付く。
「……ガンフ?」
「う……うう……あぁ、すまない。もう、大丈夫だ。……うぅ」
ガンフもまた、獅子の姿ではなく元の人間の姿に戻っている。彼はよろよろと立ち上がると、足を引きずりながら倒れたリエント、セリアの下に近寄って、ぎこちなく笑って見せた。
世界は平穏を取り戻す。浮遊していた大地は元の高さまで降下し、隆起していた時の結晶も全てが砕け散った。
止まっていた時間は動き出した。目まぐるしく逆転していた昼夜も、太陽が遠くの山から顔を出すことで落ち着きを取り戻す。
気が付いたリエントと共に、三人は山の向こうに見える朝日を見上げた。
「これで……全部終わったのかしら……」
セリアが周囲を伺いながら呟く。今三人が一先ず無事で立っていることが、信じられないという風だ。
「ああ、我々は勝ち抜いたのだ。自らの力で、生きる道を」
ガンフは腕があったはずの傷口を手でさすりながら、力強く答えた。
「でも……ロゼさんは……」
リエントは、少女が落ちていった亀裂のあった場所を見つめる。
そこにあったはずの亀裂は、降下してきた大地と元あった大地が良くかみ合い、綺麗な形に戻ってしまっていた。
弱弱しい声をあげたリエントに応えたのは、隣に立つセリアだった。
「何を言っているのよ。ロゼは世界を救ったのよ? そしてロゼのおかげで、今私たちは生きているの。それがあの子の願いで、それがあの子の兄さんの願いだった。だとしたら……私たちがすることは悲しむことじゃないわ」
そういって、セリアは笑って見せた。泥だらけで、涙の跡が残る顔で、朝日を浴びながら幸せそうに笑って見せたのだ。
それを見たリエントとガンフも、ほんの少しだけ目を伏せてから笑顔を作った。
心の中で謝罪の言葉と決別の言葉を呟き、それから三人は、口から感謝の言葉を吐き出す。
「ありがとう、ロゼ」
そして三人は、形こそ変わってしまったが、まだ美しい世界を見渡した。
町の名物となるには十分な知名度を持ち、高さだけで言えばバルドリンガの王城に匹敵する高度を持つ。しかし、時計塔とは言いながらも、これは元々時刻を知らせる為に作った建造物ではなかった。要するに、町おこしの一環で作られた、シンボルタワーの一種であったのだ。町の存亡を掲げたその案に、当時の建造技術、魔法技術の粋を集めて作られた物であり、塔の一部には魔力を宿す物質を用いられた箇所もあり、封印魔法の依り代となるには都合の良い存在であった。
リエントはその時計塔を見つけると、直ぐにガンフへと注いでいた魔物の一部を時計塔へとむけた。
この時既に多くの魔物は解き放たれていたが、それでもリエントは、持てる力を最大限に振り絞り魔法を操り続けた。
封印魔法の波は、遂に白龍の下へと届く。
漆黒の荒波の中に、一筋浮かぶ純白の影。それはガンフへではなく、悠然と聳える時計塔目掛けて流れ込んでいく。
続いて近くにいた魔物が、そして解き放たれた魔物までもが、逃げる暇も無く激流に飲み込まれていった。
封印魔法は遂に、全ての対象を封印して見せた。
三人の前に収束していた大量の魔物たちは、一体残らず姿を隠す。あの白龍でさえもが、影も形も無い。
封印魔法の依り代となったガンフの精神は、もはや限界を迎えていた。膝をつき崩れ落ちたその体はがくがくと震えていて、苦し気に掌で大地を握り締めている。彼の精神を襲う魔物の意思は強大で、一つ気を抜けば忽ち飲み込まれてしまいそうだ。それでも彼が魔物の力に飲み込まれずにいられたのは、偏に彼を慕い、彼と共に戦った戦士たちの存在があったからだ。
ガンフは暗闇の中、仲間の顔を思い浮かべる。烏合の衆であった国において、特に彼を慕い、彼に尽力してきた戦士たちの顔を。同じ革命軍に与する快い仲間たちの顔を。飲み友達のドワーフ、思いを寄せたエルフの女、好敵手となるセリオンの戦士。彼の内にある全ての思い出が、今、彼の力となる。
強大な捕食衝動を堪えるガンフだったが、一方の時計塔は何事も無かったかのように時を刻み続けていた。意志を持たぬが故に、魔物の意思に飲み込まれる心配がないのだ。加えて優秀な技師の下作られたそれは、物理的にも膨大な量の封印に耐え得る耐久を持ち、どこも崩れることはなく聳え立っている。
全ての魔法制御を終え、リエントの身体から全ての力が抜けていった。二足で立っていた足は膝から大地に落ち、続いて胸が、腕が、頭が強く地を打ち付けた。
頭の整理がつかぬまま、セリアはリエントに駆け寄る。すると巨大な枯れ木の身体は見る見るうちに小さく縮まり、やがて元の少年の姿に戻ってしまった。
「リエント!! 大丈夫!?」
セリアはリエントの口元に手を当てる。
僅かな息遣いを感じ、続いて胸に耳を当て、心音を確認して漸く胸をなでおろした。続いて、先程まで唸っていたガンフの声が、止んでいることに気が付く。
「……ガンフ?」
「う……うう……あぁ、すまない。もう、大丈夫だ。……うぅ」
ガンフもまた、獅子の姿ではなく元の人間の姿に戻っている。彼はよろよろと立ち上がると、足を引きずりながら倒れたリエント、セリアの下に近寄って、ぎこちなく笑って見せた。
世界は平穏を取り戻す。浮遊していた大地は元の高さまで降下し、隆起していた時の結晶も全てが砕け散った。
止まっていた時間は動き出した。目まぐるしく逆転していた昼夜も、太陽が遠くの山から顔を出すことで落ち着きを取り戻す。
気が付いたリエントと共に、三人は山の向こうに見える朝日を見上げた。
「これで……全部終わったのかしら……」
セリアが周囲を伺いながら呟く。今三人が一先ず無事で立っていることが、信じられないという風だ。
「ああ、我々は勝ち抜いたのだ。自らの力で、生きる道を」
ガンフは腕があったはずの傷口を手でさすりながら、力強く答えた。
「でも……ロゼさんは……」
リエントは、少女が落ちていった亀裂のあった場所を見つめる。
そこにあったはずの亀裂は、降下してきた大地と元あった大地が良くかみ合い、綺麗な形に戻ってしまっていた。
弱弱しい声をあげたリエントに応えたのは、隣に立つセリアだった。
「何を言っているのよ。ロゼは世界を救ったのよ? そしてロゼのおかげで、今私たちは生きているの。それがあの子の願いで、それがあの子の兄さんの願いだった。だとしたら……私たちがすることは悲しむことじゃないわ」
そういって、セリアは笑って見せた。泥だらけで、涙の跡が残る顔で、朝日を浴びながら幸せそうに笑って見せたのだ。
それを見たリエントとガンフも、ほんの少しだけ目を伏せてから笑顔を作った。
心の中で謝罪の言葉と決別の言葉を呟き、それから三人は、口から感謝の言葉を吐き出す。
「ありがとう、ロゼ」
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