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1章 失われる技術
二人の子供
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鬱蒼とした森の中。
町に程近い一画に、大きな屋敷が立っている。
『人形の館』と呼ばれたその建物には、かつて一世を風靡した、『傀儡』を扱う者達が住んでいた。
流行りも過ぎ去り、賑わいを見せたのも一昔前。
今ではこの館に、足を踏み入れる者は少ない……
品の良い調度品。見たことも無い器具たち。
魔法の力で動く照明に照らされたそれらは、なんとも不思議な雰囲気を醸し出す。
壁に掛けられた古時計、手の込んだ造りのテーブル、照明に施された装飾も素晴らしい。
それらは全て骨董品であり、もし売買すれば、それなりの値が付くだろう。
空には月が浮かぶ時分。
部屋を照らす魔法の光が、一つの人影を照らし出す。
切りそろえられた赤の髪。肘丈のシャツに膝丈のズボン。
少年のようないで立ちをしているが、彼女はうら若き乙女である。
小柄な体、幼い顔立ちから察するに相当若い。
少女の名前は“ローゼリエッタ・トレット”。
由緒正しき傀儡の技師である。
ローゼリエッタは、傷だらけの細い指を必死に動かす。
亡き祖母に伝えられた技術を用いて、目の前に転がる木材から、一体の人形を仕立てようというのだ。
少女は手慣れた様子で、木材を削り始めた。
角ばった木材が綺麗な曲線を描き、削り取られた木屑が床に散らばっていく。
部屋が散らかるのも気にせずに、少女は作業に没頭した。
ふと、部屋の戸を叩く音が聞こえた。
少しの間をおいて、戸が開かれる。
入ってきたのは一人の少年。
年はローゼリエッタと似た位で、波打った黄色の髪が特徴的だ。
少年は、作業に没頭する少女を見ると小さくため息をく。
「ロゼ。そろそろ一休みしないかい?もう半日も籠りっぱなしじゃあないか」
そういって小さなカップを二つ、部屋の中心にあるテーブルの上に置いた。
彼の名前は“アルトロイ・トレット”。ローゼリエッタの兄である。
「ありがとう、兄さん。でも切りのいいところまで済ませたいの。先に休んでて」
そういうと、ローゼリエッタは手に持った木材を見せ微笑んだ。
「妹より先に寝るわけにはいかないじゃないか。僕も付き合うよ」
アルトロイはそういって、椅子に座ってカップを傾ける。
二人は、祖母が死んでからこれまでの間、この森の館で、ずっと二人で生活してきた。
彼らの両親は、数年前にあった大国同士の戦争に巻き込まれ死んでしまい、それ以来、傀儡技師である祖母に引き取られ、跡取りとして技術を学んで来たのだ。
幸いなことに、ローゼリエッタは才覚に恵まれ、その腕は亡き祖母に勝るとも劣らない。
その代り剣や魔法の扱いには疎く、それらの役目は専ら、兄のアルトロイが担っていた。
翌朝。ローゼリエッタは朝日が昇ると共に目覚め、作りかけの人形に向き合う。
昨晩は結局、月が頂点を過ぎる深夜まで作業は続き、二人が寝入ったのは明け方といっても問題ない時間だった。
寝不足ではあるが、それは何時ものこと。
そう割りきって、少女は作業を開始する。
鉋で削り、鑿で整え、鑢で擦る。
単純だが膨大なその作業を繰り返し、木材は徐々に、人間の体の部位を象っていった。
昼時になり、漸くアルトロイが目を覚ます。
欠伸を噛み殺しながら部屋に入った彼は、一心不乱に作業に没頭する妹を見て、心配に思い声をかけた。
「大丈夫かい、ロゼ。期日はまだ先なんだろう?もう少しゆっくりやったらどうだい」
「ええ……でも、時間が許す限り、この子をちゃんと育ててあげたいの」
ローゼリエッタは、薄っすらとくまが浮かんだ目を細め、微笑んで見せる。
それを見たアルトロイは思った。
(職人気質なのはいいことだが……何も性格まで婆様に似なくても良かっただろうになぁ)
兄の心配など露知らず、妹は再び人形に向き直る。
身寄りのない彼らの主な収入源は、ローゼリエッタに寄せられる人形作成の請負だ。
流行も過ぎ去り、その名を持て囃されたのも昔の話。
だがそれでも、一定数の趣向者は存在していて、多少高額なれどもその依頼は決して少なくなかった。
当初はアルトロイも、近くの町に出向き、依頼を達成し、報酬を貰う請負人であった。
だがある時、数日に渡る依頼を終え家に戻ってくると、倒れている妹を発見したのだ。
『とことん気の済むまで、納得できるものを作り上げる』
多くの職人が持つであろうその気質が行き過ぎて、ローゼリエッタには、自身の体よりも人形のほうが優先される言動が多々見られた。
それ以来、妹に仕事が舞い込んだときは、アルトロイも家に籠り、彼女の身の回りの世話をしながら、無理をし過ぎないように注意を払うようになったのだった。
人形作成の依頼が来て早数日が立つ。
今夜もまた、来訪者がない屋敷では、夜遅くまで作業が続く。
町に程近い一画に、大きな屋敷が立っている。
『人形の館』と呼ばれたその建物には、かつて一世を風靡した、『傀儡』を扱う者達が住んでいた。
流行りも過ぎ去り、賑わいを見せたのも一昔前。
今ではこの館に、足を踏み入れる者は少ない……
品の良い調度品。見たことも無い器具たち。
魔法の力で動く照明に照らされたそれらは、なんとも不思議な雰囲気を醸し出す。
壁に掛けられた古時計、手の込んだ造りのテーブル、照明に施された装飾も素晴らしい。
それらは全て骨董品であり、もし売買すれば、それなりの値が付くだろう。
空には月が浮かぶ時分。
部屋を照らす魔法の光が、一つの人影を照らし出す。
切りそろえられた赤の髪。肘丈のシャツに膝丈のズボン。
少年のようないで立ちをしているが、彼女はうら若き乙女である。
小柄な体、幼い顔立ちから察するに相当若い。
少女の名前は“ローゼリエッタ・トレット”。
由緒正しき傀儡の技師である。
ローゼリエッタは、傷だらけの細い指を必死に動かす。
亡き祖母に伝えられた技術を用いて、目の前に転がる木材から、一体の人形を仕立てようというのだ。
少女は手慣れた様子で、木材を削り始めた。
角ばった木材が綺麗な曲線を描き、削り取られた木屑が床に散らばっていく。
部屋が散らかるのも気にせずに、少女は作業に没頭した。
ふと、部屋の戸を叩く音が聞こえた。
少しの間をおいて、戸が開かれる。
入ってきたのは一人の少年。
年はローゼリエッタと似た位で、波打った黄色の髪が特徴的だ。
少年は、作業に没頭する少女を見ると小さくため息をく。
「ロゼ。そろそろ一休みしないかい?もう半日も籠りっぱなしじゃあないか」
そういって小さなカップを二つ、部屋の中心にあるテーブルの上に置いた。
彼の名前は“アルトロイ・トレット”。ローゼリエッタの兄である。
「ありがとう、兄さん。でも切りのいいところまで済ませたいの。先に休んでて」
そういうと、ローゼリエッタは手に持った木材を見せ微笑んだ。
「妹より先に寝るわけにはいかないじゃないか。僕も付き合うよ」
アルトロイはそういって、椅子に座ってカップを傾ける。
二人は、祖母が死んでからこれまでの間、この森の館で、ずっと二人で生活してきた。
彼らの両親は、数年前にあった大国同士の戦争に巻き込まれ死んでしまい、それ以来、傀儡技師である祖母に引き取られ、跡取りとして技術を学んで来たのだ。
幸いなことに、ローゼリエッタは才覚に恵まれ、その腕は亡き祖母に勝るとも劣らない。
その代り剣や魔法の扱いには疎く、それらの役目は専ら、兄のアルトロイが担っていた。
翌朝。ローゼリエッタは朝日が昇ると共に目覚め、作りかけの人形に向き合う。
昨晩は結局、月が頂点を過ぎる深夜まで作業は続き、二人が寝入ったのは明け方といっても問題ない時間だった。
寝不足ではあるが、それは何時ものこと。
そう割りきって、少女は作業を開始する。
鉋で削り、鑿で整え、鑢で擦る。
単純だが膨大なその作業を繰り返し、木材は徐々に、人間の体の部位を象っていった。
昼時になり、漸くアルトロイが目を覚ます。
欠伸を噛み殺しながら部屋に入った彼は、一心不乱に作業に没頭する妹を見て、心配に思い声をかけた。
「大丈夫かい、ロゼ。期日はまだ先なんだろう?もう少しゆっくりやったらどうだい」
「ええ……でも、時間が許す限り、この子をちゃんと育ててあげたいの」
ローゼリエッタは、薄っすらとくまが浮かんだ目を細め、微笑んで見せる。
それを見たアルトロイは思った。
(職人気質なのはいいことだが……何も性格まで婆様に似なくても良かっただろうになぁ)
兄の心配など露知らず、妹は再び人形に向き直る。
身寄りのない彼らの主な収入源は、ローゼリエッタに寄せられる人形作成の請負だ。
流行も過ぎ去り、その名を持て囃されたのも昔の話。
だがそれでも、一定数の趣向者は存在していて、多少高額なれどもその依頼は決して少なくなかった。
当初はアルトロイも、近くの町に出向き、依頼を達成し、報酬を貰う請負人であった。
だがある時、数日に渡る依頼を終え家に戻ってくると、倒れている妹を発見したのだ。
『とことん気の済むまで、納得できるものを作り上げる』
多くの職人が持つであろうその気質が行き過ぎて、ローゼリエッタには、自身の体よりも人形のほうが優先される言動が多々見られた。
それ以来、妹に仕事が舞い込んだときは、アルトロイも家に籠り、彼女の身の回りの世話をしながら、無理をし過ぎないように注意を払うようになったのだった。
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