反魂の傀儡使い

菅原

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7章 魔法の力

東中戦争 1

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 巨鎧兵きょがいへいの姿が確認されてから二日の時間が経った。
両者に大きな変化は見られず、静かな睨み合いが続いている。
防衛戦となるオージェスは、防壁の上に兵士を構え、戦いの始まりを待っていた。
 一方巨鎧兵に乗っているローゼリエッタは、巨大な防壁を前にどう攻めようかと悩んでいた。
(凄い防壁ね。まさか巨鎧兵の高さを超えるなんて思わなかったわ。まぁ、接近さえしてしまえばどうとでもなるんだけど……)
少女は巨大な防壁から、防壁の上部に備え付けられた兵器に視線を移す。

 防壁は大部分が岩で出来ていて、鉄の巨鎧兵ならばいくらでも壊すことが出来そうだ。そうでなくても巨鎧兵の力を持ってすれば、簡単に乗り越えることが出来るだろう。
ただ、その上部に設けられた兵器群が厄介極まりない。
 巨鎧兵は確かに巨大であるが、所詮は中に糸が詰まっている鉄の鎧だ。
同格の魔法人形に比べ、機動力は圧倒するが、装甲は随分と心もとない。
大砲で撃たれれば当然被害を受けるし、強大な魔法も怪しい。
そして何より、噂されている魔導砲の存在があった。


 オージェスの軍は、魔導砲に絶対の自信を持っている。
それは、人間の集まりである軍隊に対しての成果から来るものであったが、オージェスの民は巨鎧兵にも通用すると確信していた。
 オージェスが城壁に用意した兵器は、大砲が二十門、魔導砲が五門の計二十五門。
全てを一か所に集中させれば、もっと多くの兵器を用意することも出来るのだが、魔法都市は円形の町である。
他方へ回り込まれた時の為に、幾つかはそのまま残しておかねばならない。


 防衛戦とは言ったものの、援軍が来る予定があるわけでなく、そもそもオージェスには、防戦一方で済ますつもりなどさらさらない。
現在巨鎧兵は様子見しているらしく、心なしか気の抜けた状態に見えた。
そこを狙い、オージェスは先制攻撃を仕掛ける。

キュゥゥウウ!!

 甲高い稼働音が鳴り響く。
魔導砲の砲門には真っ白な光が溢れ、両軍に戦いの始まりを報せた。
「放てええ!!」
一際高く魔導砲が唸りを上げると、轟音と共に超圧縮された魔力弾が放たれる。

 一瞬の閃光。
放たれた魔法の弾は、残光を纏う白い光の柱となって戦場を駆け抜けた。
ほぼ全開で放たれた魔導砲は、道中にあるもの全てを飲み込み、巨鎧兵に迫る。


 防壁で輝く光を見て、ローゼリエッタは首を傾げた。
煌々と輝くあの光が、なんらかの兵器による攻撃であったのならば、とんだ失敗作ではないか。
戦場で戦っていてもあの光は直ぐ目に付く。攻撃を報せる兵器など恐れることは無い。
だがその認識が、巨鎧兵団に大きな損害を与える。

 放たれた光の柱は、正に光のような速度で迫る。
それを見たローゼリエッタは叫んだ。
「なっ!?さ、散会!!」
魔法により、その切迫した指令は各兵に届けられた。
方々に散る黒の塊。それから赤の巨鎧兵がその場を離れる。
しかし、二つの影が光の柱に飲み込まれた。

 山をも穿つと言われるその噂通り、光の柱が通ったところは跡形も無く消し飛んでいる。
当然そこに逃げ遅れた巨鎧兵の姿は無く、それは遠方にある山の頂上までをも食い取っていった。
その傷跡を見て、巨鎧兵団は思わず息をのむ。
 ローゼリエッタが叫び声を上げた。
「各部隊、欠員確認を!」
三百の兵で組まれた巨鎧兵団は、十の兵を一つの部隊とし、三十の班で構成されている。
各部隊長は、自らの隊員を確認し、逃げ遅れた者の特定を急ぐ。
 程なくして、逃げ遅れた者の所属する部隊の長が叫んだ。
「……ロゼ隊長!パキウとコムテオが見当たりません!」
魔導砲で削れた地面の近くで、隊員番号を示す数字が刻まれた鉄塊が転がっていた。


 ローゼリエッタは、怒りの余りに頭の中が真っ白になった。
王都へ来る前の記憶がない彼女にとって、同じ釜の飯を食った彼らは家族も同然。
その家族が、死体も残らず消し去られたのだ。
 少女は怒りを孕みつつも、冷静に現状を分析し一つの作戦を打ち出した。
「全部隊!城壁の上にある大砲を狙え!特にあの光を放った大砲だ!」
仲間の死を間近で体験していながら、流石はよく鍛えられた軍人だ。
団長であるローゼリエッタの号令を受け、二百九十七機の巨鎧兵は即座に行動を開始する。
遂に、戦争が始まった。


 オージェスの防壁の外側に、大小含め六十の人影があった。
鎧を着こんだ戦士が二十。指輪を付けた男女が二十。直立する全身鎧人形が二十。
彼女らこそ、誰もが恐れる巨鎧兵に抗う者達。傀儡革命軍である。
 地響きを鳴らしながら迫る巨鎧兵を見て、一人の老婆が呟いた。
「おぉ、こわやこわや。あんなものに踏みつぶされたら、私みたいな婆、一溜りもあるまいて」
言葉は怖いと言っているが、話す素振りはその気もない。
むしろ口元には笑みを湛え、自身の傀儡を撫でまわしている。
「ほっほっほ。むしろその方が、楽に死ねて幸せかもしれんよ」
隣にいる老爺が大きく笑って見せた。

 死地にいるというのに、一同に焦りや恐れは見えない。
長年姿を隠していた反動だろうか。傍から見れば彼女らは、今すぐ暴れまわりたくてうずうずしているようにも見える。
そんなお預け状態のご老人達を見て、セリアは一歩前に出た。
「我らは誇り高き傀儡師団。では皆さん。気張って参りましょう!」
 巨鎧兵を操る者らに、その声は聞こえない。
だが、傀儡師らはその声に返事を返し、一同揃って、恭しくお辞儀をした。
いよいよ、人形達の舞踏が始まる。
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