反魂の傀儡使い

菅原

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18章 不気味な影

厳戒態勢

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 翌朝の事だ。
 自室で寝入っていたローゼリエッタは突然たたき起こされた。
「ロゼ! ロゼ! 起きて頂戴!!」
 聞こえてきた声はセリアの声だが、酷く切迫している。
 起き上がったローゼリエッタは着替える間もなく、皆が集う食堂へと連れ出された。

 飛び込んだ食堂には馴染んだ顔ぶれ。皆一つの机に集まり手元を凝視している。
「一体どうしたんですか!?」
 ローゼリエッタの叫びに皆が顔を上げる。
 その存在を確認したガンフが叫んだ。
「昨日話していた連絡が来たのだ!」
 ローゼリエッタは身嗜みも気にせずに輪の中に入る。

 ガンフの手元にあったのは、以前リエントから手渡された通信用の魔法石だった。
 そこから雑音の混ざった男の声が聞こえてくる。
『ジジ……ジ……ガンフ様! 王国は……王国はもうお終いです!』
「どうした!? 一体何が……」
『ば、化け物が……』
『おい! 来たぞ! 逃げろ!!』
『ひっ!! ぎゃああああ!!!』
 石の向こうから悲痛な悲鳴が聞こえる。それに交じって聞いたことのない音も無数に流れてきた。
「おい! おい! どうした!? 何があったんだ!」
 やがてあちら側の魔法石も壊れたのか、手の中の魔法石は効力を無くし通信は切れてしまう。

 余りに異常な定期連絡に、一同は言葉を無くしていた。
 与えられた情報は限りなく少ない。
 一つは「王国がもう終わってしまう」らしい。終わったという言葉が滅亡を指しているのか、それ以外の意味を持つのかは分からないが、何らかの異常が起きたのだろう。
 もう一つは「化け物が現れた」らしい。諜報活動を行っていた兵士らは当然エルフやセリオン、ドワーフをその目で見ている。人間と比べたら十分化け物と呼べる彼らを見ていた兵士たちが、「化け物」と呼ぶ何かが現れたのだ。
 ガンフは通信用の魔法石を机に置いて、ぽつりとつぶやいた。
「王国が……化け物に滅ぼされた……?」
 誰も真偽がわからぬから、誰もその言葉に声を返せなかった。


 革命軍は即刻軍事会議を開いた。
 エルフ、セリオン、ドワーフの上役も加わり、諜報員からの連絡が伝えられる。
「皆の者。どうか落ち着いて聞いて欲しい……王国が、化け物の手によって滅ぼされたらしい」
 この報せを受けた多くの者は何度も首を傾げた。
 静まり返った部屋の中、ガンフの言葉にまずカーシーンが反応する。
「らしい、とは?」
「すまないが正確な情報ではない。その情報をやり取りする前に魔法石の効力が無くなってしまったからな。与えられた情報は断片的な物ばかりだ。『王国はもうお終い』、『化け物が』、そして劈く悲鳴。十分信用足り得る情報と思われる」
「……なる程。化け物か……それだけでは何とも言えんな。せめて特徴の一つでも分からんのか?」
 カーシーンが続ける問いかけにはセリアが答えた。
「分かりません。特徴を伝える余裕もない程に切迫していたのでしょう。唯一、奇妙な鳴き声が聞こえた位です」
「奇妙な鳴き声とは?」
 次いでグォンが疑問の声を上げた。再びセリアはそれに応える。
「聞いたこともない音だったわ。甲高い、金属をひっかくような……一番近いのは……鳥の声、かしら?」
 鳥の声に反応したのはマシリオンだ。
「鳥だぁ? 空を飛ばれたら厄介だな。ハーピーに助力を頼むか?」
 マシリオンの声にはガンフが答える。
「戦力が強化されるのは助かるが、その化け物が鳥の姿をしているかどうかまだ不明だ。思い込むのは危険だろう」
「ううむ。全く、姿形が不明ってのが不気味だな」
 最後にマシリオンが一つ愚痴る。

 会議では様々な案が出された。
 新たな諜報部隊を王国に送る。このまま暫し様子を見る。この機を逃さず総力を上げて王国に攻め込む等々。その中でローゼリエッタが選んだのは次点の案だ。
「……考えたくはありませんが罠という可能性もありますし、それに未知の敵の存在もあります。まずはこのまま、少し様子を見てみましょう。勿論、厳重な警戒態勢を取り、いつでも戦える準備もするべきです」
「うむ……確かにそれが妥当かもしれんな。取り合えずは……あの森よりこちら側の見張り部隊の編成だな。有志を募って……」
「おお、それならば我らセリオンが受け持とう。我々が一番足が速い。その化け物とやらに追われた時も、ほかの種よりも逃げられる可能性は大きいだろう」
「それはありがたい。では次に……」
 こうして、比較的平和だった日常は一変する事になった。
 
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