反魂の傀儡使い

菅原

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21章 画策

一人旅 1

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 ローゼリエッタはドワーフの集落を出て東に向かう。その先はかつてエルフが済んでいた集落、そして森人の森があった方角だ。

 夜はとうに明け、既に日は上り始めている。遠くに雲が幾つか見えるが、他に陽の光を遮るものはなく、若葉色の草原は一層色鮮やかに映し出された。やがて気温も適度に上がり始め、長距離を歩く少女の額はじっとりと汗ばみ始める。
「……ふぅ、最近、運動不足だったかしら」
 寂しさを紛らわすためか、めっきり独り言が増えてしまったようだ。丘を一つ下るにつれ一つ、上るにつれまた一つ、口からぽろぽろと零れ落ちる。だが愚痴を零しながらもパンドラを操るその技術は流石で、傍から見ればそれは、人間が二人並んで歩いているようにしか見えない。
「はぁ、はぁ、ちょっと……荷物多かったかなぁ」
 ローゼリエッタは、額に浮かぶ汗を一回腕で拭うとそう言って、ずり落ちた荷物を背負いなおす。


 昼飯時になった。少女の足取りは頗る鈍く、集落を出立した時に比べ遥かに緩やかな速度になっている。
 ローゼリエッタは目の前にある丘を登り、頂上と思われる見晴らしの良い場所につくと、荷物を下ろし草の絨毯の上に寝転がった。
「あー草臥れた! もうちょっと考えて持ってくるんだったわ!」
 汗だくで火照った体を、爽やかな風が冷ましていく。暫くその風を楽しみ人心地ついたころ、ローゼリエッタは道具袋をあさり始めた。

 取り出したるは、まだ辛うじて柔らかなパンが一欠けと、芋を乾燥させた保存食。そして中身の少ない水筒だ。
「これで、ほんの少しだけど荷物が軽くなるわね……頂きます」
 まだ若い彼女が食べる量など高が知れている。だが僅かでも、荷物の重量が減ることが今のローゼリエッタにとってはとても嬉しく感じられた。

 昼食を取り終えた少女は、再び道具袋を漁ると様々な工具が入った布の塊を取り出した。それを草原の上に広げると、傍で佇んでいたパンドラを自らの下に呼び寄せる。
「さあ兄さん。体の整備を始めましょうか」
 そういいながらローゼリエッタは、パンドラの胸部にある機構を弄り、中身を露にした。
 傀儡人形の中には黄色に輝く結晶体が一つ。そしてその周囲には翠色に光る精霊石の糸が張り巡らされている。その光景はさながら身体が小さくなった巨鎧兵だ。

 このパンドラという傀儡人形は、エルフしか持ちえない種子により生み出された結晶を用い、そのうえ人間界では手に入らぬ貴重素材『世界樹の苗木』を素材に使っている。その価値は、希代の傀儡師であったローゼリエッタがこれまでに手掛けた人形と比較しても、比べ物にならない。尤もローゼリエッタからすれば、俗な価値など副次的な物であったが……彼女にとっても貴重であることに変わりはない。ましてやその体に埋め込まれたのは、彼女の兄の魂が宿った結晶体だ。だからこそローゼリエッタは、可能な限り暇を見つけてはパンドラの整備を欠かさない。

 食事も終えた昼下がり。食休みにしては長い時間をかけパンドラの整備を終えると、漸く少女の休憩が終わる。
 ローゼリエッタは荷物を元の形にしまい込むと、道具袋を背負いあげ、再びパンドラと共に草原を歩き出した。
「ああもう! 何か移動に役立つ物でも持ってくるんだったわ!」
 歩き出して早々愚痴が零れる。言ったところで何も変わらないのだが、口から吐き出さなければ気が晴れないようだ。
 ほんのつい先日まで美しく愛おしいと思っていた綺麗な草原も、今実際歩いてみれば、うんざりする程広大である。また、定期的に点在する小高い丘の存在が、少女の体力と気力を更に削っていく。
「上り坂に、下り坂、超えた先には……また平原、っと」
 何とか明るく振舞ってはみるものの、誰からも反応がないと余計気が滅入る気がする。かといって黙々と歩き続けるのも、少女にとっては相当辛いものがあった。

 日がな一日歩き続け、日もとっぷりと暮れる頃、少女の足は漸く歩みを止める。
 運よく近くにあった、身を隠せる程度の大きさがある岩の影に入り込むと、ローゼリエッタは再び道具袋を広げた。そしてその中から野営に使う物を引っ張り出し、夜を明かす準備を始める。
 夕飯用の食料に、魔法光が込められたランプ。夜風を防ぐ簡易テント。そして身体を包む柔らかな毛皮を一つ。
 水筒の中はとうに空になっていたが、またもや幸運なことに、近くに小さな池を見つけることが出来た。

 全ての用意を終えると、何とも快適そうな野営地の出来上がりだ。
 自身の仕事に満足したローゼリエッタは、ランプから発せられる淡い光を頼りに夕食を取り、最後にパンドラの整備をする。それが終わるとテントに潜り込み、お気に入りの毛皮にくるまってはすやすやと寝息を立てた。
 この草原は、人間が殆ど踏み入らない領域だが、少女が一人で野営しても特に問題は無い。何かに襲われる心配など全くと言っていい程ないし、意図的に飲み水を蓄えた池も点在している。池の中には魚も話されていて、ある程度食料にも困らない。
 これは全て幸運でも何でもなく、そういう風に作られたものだ。これまでの旅が安全であったのも、偏にセリオンが草原を管理しているおかげである。


 こうした一日を数回繰り返し、ローゼリエッタは漸くエルフの集落がある『森人の森』へと辿り着いた。
「やっと森かぁ……」
 漸くついた。だがまだ道半ば。ローゼリエッタが目指す場所へは、ドワーフの集落からこれまでの距離の更に倍以上の距離があり、その事実に少々うんざりする。
 ましてやこれからの道程はこれまでと違い、悪路が続く森の道だ。一度中に入ってしまえば当分の間、心が透くような青空も見えなくなり、四六時中木々に囲まれることになる。

 ローゼリエッタはここで一つ閃いた。
「そうだ! 前に巨鎧兵が歩いた場所なら、木も少なくて歩きやすいかも……」
 少女は直ぐに周囲を見渡す。だが見晴らしの良い草原であっても、それらしきものは一切見当たらなかった。どうやらエルフ、セリオンの管理力が頗る優秀だったようで、巨鎧兵が通った形跡も綺麗にされてしまったようだ。
「はぁ……」
 思わず出るため息。だがいつまでも意気消沈してもいられない。
「よし、あと半分! 頑張ろう!」
 自分に励ましの声を投げかけ、ローゼリエッタは意を決し森へと入る。
 それからまた数日間、少女は森の中を彷徨い歩く事になった。
 
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