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22章 旅の終結
懇願
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更に二日が経った。遂にローゼリエッタの旅路は最終段階へと移行する。
ローゼリエッタが一つの小高い丘を登り切った時、王国の姿が確認できたのだ。
以前の戦いで大きな被害を被ったようだが、今だ悠然とその偉大な姿を湛え聳えたっている。
「やっと着いた……はぁ、疲れたぁ……」
丘の上から王国へはまだ距離がある。だが二十日近く続いた旅路に比べれば、視認できる距離など何の苦にもならない。
丘を下る少女の足取りは軽い。そして心なしかパンドラも喜んでいるように見える。
だが勘違いしては行けない。まだ少女の目的は達成できておらず、これからが一番の難所となる。
丘から王国への道は特に問題も起きずに済んだ。
町をぐるりと囲む防壁の門は、以前にあった王国侵攻の際に吹き飛んでいて、いつでも中に侵入できる状態だ。
防壁の麓まで来たローゼリエッタは、朽ちた壁面を見上げながらつぶやく。
「さてと……ここにいてくれたらいいんだけど……」
目的の人物と以前出会った場所は、王が住まう城にある謁見の間だ。防壁をくぐってからも少し距離がある。
だから少女は、細心の注意を払いながらだらしなく開閉された門をくぐった。
防壁の外と同じく、防壁の中も魔物の姿は無かった。
姿だけではない。遠くから奇声が聞こえるわけでもなく、戦闘の音が聞こえるわけでもない。
あれだけいた魔物は一体どこへ行ってしまったのか。ふと、そんな疑問が湧き上がる。
「前みたいな数いられても困るけど、一体もいないのも不気味ね……」
出来る限り物陰に身を隠しながら、ローゼリエッタは目的地を目指す。
やがて少女は、ハルクエル王が住んでいた豪華絢爛な居城へと辿り着く。
過去の記憶を掘り起こしながら、城の中を彷徨い歩いて。
そして、少女は謁見の間へと足を踏み入れた。
広大な広間には誰も居なかった。魔物も、あの白き龍も、誰一人もだ。
大きなため息をつき落胆するローゼリエッタ。だが一方で、どこか安堵する自分がいたことに気付く。
(いけない。ホッとしてる場合じゃないわ。あの人を探さないと!)
ローゼリエッタは何度か首を振り雑念を払うと、意を決して玉座へと歩みを進めた。
少女と人形。こつこつと、部屋に響く靴音が二つ。二人が広間の中ほどまで歩み寄ったその時。
「ようこそ御出で下さいました」
声が聞こえた。
玉座の方からだ。
落ち着きのある老人の声。その声はいつかに聞いたことのある声だ。
「……ジェイクさん……?」
ローゼリエッタは声に驚き立ち止まると、目的の人物の名で呼びかけた。
明かりが消えて久しい城の中。玉座の後ろは暗闇に染まっていて、全容を見ることは出来ない。
だがその暗がりの中から、紳士服に身を包んだジェイクが姿を現した。
「お久しぶりでございます。ローゼリエッタ様」
「……お久しぶりです、ジェイクさん」
人の姿だからだろうか。龍の時の高圧的な態度とは違い、酷く腰の低い物言いだ。
足を止めていたローゼリエッタは再び歩を進め、玉座の前にある階段の下まで辿り着く。
それからジェイクを見上げると、恐る恐る口を開いた。
「今回は、ジェイクさんにお願い事があってまいりました」
「ほう……それはいかような?」
ジェイクの表情は変わらない。優し気に微笑んだまま、まるで少女が何を語るのか知っているかのようだ。
緊張のあまり口が乾く。
恐怖のあまり声が振るえる。
そこにいるのは確かにハルクエルの側近であったジェイクであり、しかし人智の及ばぬ人ならざる者でもある。
自身の願い事など、聞き入れてくれるのだろうか。もしかしたら僅かばかりの猶予すらもすり潰してしまうのではないか。様々な葛藤が、少女の内を駆け巡る。
だが、全てを解決に導く答えの入り口に立っておきながら開いてしまった口を閉じることなど、今のローゼリエッタには出来なかった。
意識もせずにローゼリエッタは跪く。胸に手を当て、深々と頭を下げて。遜るわけでも、機嫌を取るためでもない。心の底からの懇願だからこそ、体が自然と動いた。
そして、自身の願望を口にする。
「お願いです! 病魔を食らう物の対処法を教えてください!!」
語ってしまった。もう戻ることは出来ない。後はジェイクの判断にゆだねられたのだ。
頭を下げてしまったから、もう表情を伺うことは出来ない。だが……目の前から掛けられる圧力が、少しだけ強まった気がした。
「……人間が彼らに対して一体どうやって抗うのか、大変気になってはいましたが、まさか私に助言を求めるとは……思いもしませんでしたよ。まぁ良いでしょう。では更にお尋ねします。貴女が望む対処法とは、具体的にどんなことですか?」
「わ、分かりません。けど……! どうか私たちに危害を加えないような形に……」
「ローゼリエッタ様」
震える声で必死に懇願する少女。だがジェイクは、その言葉を冷たい口調で遮った。
突如聞こえた冷たい言葉に、思わず頭を上げるローゼリエッタ。
するとそこには無表情で立ち尽くすジェイクの姿があった。
「貴女は、自分が言っていることがどれだけ都合の良い事か分かっていますか?」
「それは……っ! 私の願いが、都合の良い物だというのは判っています! でも……でも!」
「人間は、世界から不適合だと判断されたのです。ならば世界の住人として、世界の判断に従い潔く浄化されるのが、貴女方の使命だとは思いませんか?」
落ち着いた声での冷徹な宣告に、少女は言葉を失くす。
ローゼリエッタが一つの小高い丘を登り切った時、王国の姿が確認できたのだ。
以前の戦いで大きな被害を被ったようだが、今だ悠然とその偉大な姿を湛え聳えたっている。
「やっと着いた……はぁ、疲れたぁ……」
丘の上から王国へはまだ距離がある。だが二十日近く続いた旅路に比べれば、視認できる距離など何の苦にもならない。
丘を下る少女の足取りは軽い。そして心なしかパンドラも喜んでいるように見える。
だが勘違いしては行けない。まだ少女の目的は達成できておらず、これからが一番の難所となる。
丘から王国への道は特に問題も起きずに済んだ。
町をぐるりと囲む防壁の門は、以前にあった王国侵攻の際に吹き飛んでいて、いつでも中に侵入できる状態だ。
防壁の麓まで来たローゼリエッタは、朽ちた壁面を見上げながらつぶやく。
「さてと……ここにいてくれたらいいんだけど……」
目的の人物と以前出会った場所は、王が住まう城にある謁見の間だ。防壁をくぐってからも少し距離がある。
だから少女は、細心の注意を払いながらだらしなく開閉された門をくぐった。
防壁の外と同じく、防壁の中も魔物の姿は無かった。
姿だけではない。遠くから奇声が聞こえるわけでもなく、戦闘の音が聞こえるわけでもない。
あれだけいた魔物は一体どこへ行ってしまったのか。ふと、そんな疑問が湧き上がる。
「前みたいな数いられても困るけど、一体もいないのも不気味ね……」
出来る限り物陰に身を隠しながら、ローゼリエッタは目的地を目指す。
やがて少女は、ハルクエル王が住んでいた豪華絢爛な居城へと辿り着く。
過去の記憶を掘り起こしながら、城の中を彷徨い歩いて。
そして、少女は謁見の間へと足を踏み入れた。
広大な広間には誰も居なかった。魔物も、あの白き龍も、誰一人もだ。
大きなため息をつき落胆するローゼリエッタ。だが一方で、どこか安堵する自分がいたことに気付く。
(いけない。ホッとしてる場合じゃないわ。あの人を探さないと!)
ローゼリエッタは何度か首を振り雑念を払うと、意を決して玉座へと歩みを進めた。
少女と人形。こつこつと、部屋に響く靴音が二つ。二人が広間の中ほどまで歩み寄ったその時。
「ようこそ御出で下さいました」
声が聞こえた。
玉座の方からだ。
落ち着きのある老人の声。その声はいつかに聞いたことのある声だ。
「……ジェイクさん……?」
ローゼリエッタは声に驚き立ち止まると、目的の人物の名で呼びかけた。
明かりが消えて久しい城の中。玉座の後ろは暗闇に染まっていて、全容を見ることは出来ない。
だがその暗がりの中から、紳士服に身を包んだジェイクが姿を現した。
「お久しぶりでございます。ローゼリエッタ様」
「……お久しぶりです、ジェイクさん」
人の姿だからだろうか。龍の時の高圧的な態度とは違い、酷く腰の低い物言いだ。
足を止めていたローゼリエッタは再び歩を進め、玉座の前にある階段の下まで辿り着く。
それからジェイクを見上げると、恐る恐る口を開いた。
「今回は、ジェイクさんにお願い事があってまいりました」
「ほう……それはいかような?」
ジェイクの表情は変わらない。優し気に微笑んだまま、まるで少女が何を語るのか知っているかのようだ。
緊張のあまり口が乾く。
恐怖のあまり声が振るえる。
そこにいるのは確かにハルクエルの側近であったジェイクであり、しかし人智の及ばぬ人ならざる者でもある。
自身の願い事など、聞き入れてくれるのだろうか。もしかしたら僅かばかりの猶予すらもすり潰してしまうのではないか。様々な葛藤が、少女の内を駆け巡る。
だが、全てを解決に導く答えの入り口に立っておきながら開いてしまった口を閉じることなど、今のローゼリエッタには出来なかった。
意識もせずにローゼリエッタは跪く。胸に手を当て、深々と頭を下げて。遜るわけでも、機嫌を取るためでもない。心の底からの懇願だからこそ、体が自然と動いた。
そして、自身の願望を口にする。
「お願いです! 病魔を食らう物の対処法を教えてください!!」
語ってしまった。もう戻ることは出来ない。後はジェイクの判断にゆだねられたのだ。
頭を下げてしまったから、もう表情を伺うことは出来ない。だが……目の前から掛けられる圧力が、少しだけ強まった気がした。
「……人間が彼らに対して一体どうやって抗うのか、大変気になってはいましたが、まさか私に助言を求めるとは……思いもしませんでしたよ。まぁ良いでしょう。では更にお尋ねします。貴女が望む対処法とは、具体的にどんなことですか?」
「わ、分かりません。けど……! どうか私たちに危害を加えないような形に……」
「ローゼリエッタ様」
震える声で必死に懇願する少女。だがジェイクは、その言葉を冷たい口調で遮った。
突如聞こえた冷たい言葉に、思わず頭を上げるローゼリエッタ。
するとそこには無表情で立ち尽くすジェイクの姿があった。
「貴女は、自分が言っていることがどれだけ都合の良い事か分かっていますか?」
「それは……っ! 私の願いが、都合の良い物だというのは判っています! でも……でも!」
「人間は、世界から不適合だと判断されたのです。ならば世界の住人として、世界の判断に従い潔く浄化されるのが、貴女方の使命だとは思いませんか?」
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