反魂の傀儡使い

菅原

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23章 聖戦

閃き

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 力が全てであると語るジェイクの言葉に、ローゼリエッタは反論することが出来なかった。現に暴力的な言動に走る王が治める国が、大陸の一大勢力となっているのだから尚更だ。
 それでも少女は、頑なに認めたくなかった。もしそれを認めてしまえば、この世界に住む多くの者が悪だと切り捨てられてしまうのだ。
 だが一方で、ジェイクの語るそれらを全て受け入れてしまうことで、現状を打開する唯一無二の策が選択肢に浮かび上がることに少女は気づく。
 自身が望むものとはまるで正反対であり、可能であるのならば死を目前にしたその瞬間まで手を出したくないと思う方法。
 それは……

 ローゼリエッタは閃いた。ジェイクの言葉を肯定し、受け入れ、そして反論させずに納得させる方法を。
 脱力していた体に力が籠る。早まる鼓動を抑える為、大きく深呼吸をする。
 少女のその何気ない変化に、ジェイクは気づいた。
「……如何いたしました?」
 訝しんではいるが、微笑みは絶やさない。見ようによっては少女がこの後どういった行動に移るのか、楽しみにしている風にも感じられる。
 その微笑みを消し去るためにも、少女は確固たる意志をもって口を開いた。
「ジェイクさんは、この世界では力が全てだと言いました。不本意ではありますが、今はそれを受け入れましょう」
 ローゼリエッタは唐突に腰にある魔法の道具袋へと手を伸ばす。そこから一本の斧を引っ張り出すと、傍にいたパンドラに手渡す。
 驚きの表情で固まるジェイク。そんな彼に向かってローゼリエッタは叫んだ。
「ならば私と戦いなさい! 龍よ!! そしてもし私が勝ったのならば……勝者として、貴方に魔物を封じ込めるよう命じます!!」
 ローゼリエッタは後方へ飛び退くと両腕を広げる。少女と入れ替わるように前に飛び出したパンドラは、手に携えた斧を縦に構え、ジェイクへと向き直った。


 少女が出した答えは、世界の管理者が一人、白き龍を屈伏させることだった。
 力が全てであるのならば、かつてバルドリンガが起こした愚行のように、ローゼリエッタもまた力を持って我を通そうというのだ。
 これに対しジェイクは、組んでいた足を下ろすとゆっくりと立ち上がる。
「くくく……確かに私は力が全てだと言いましたね。成程、貴女が選んだ道は正しいのかもしれません」
 笑い声をこらえるように、左の手を口元に充てる。
 そして彼は右の腕を勢いよく振るった。

 振るった腕は一瞬のうちに巨大化し、更に白き鱗に包まれた龍の腕へと変化する。それはローゼリエッタの下まで届く程で、明らかに少女を薙ぎ払わんとする攻撃であった。しかし。
「ふっ!!」
 ローゼリエッタに隙はない。パンドラが斧を持った時から一分もだ。
 迫る白腕に対しローゼリエッタは、パンドラを踏み台に高々と跳躍する。続いてパンドラも飛び上がると、両者揃って器用に一つ回って見せ、再び地に舞い降りる。
 攻撃をかわされ、本来であれば狼狽えるなり悔しがるなりする場面だろうに、ジェイクは至って変わらぬ様子で語り始める。
『ふむ。確かに新たな王が正しき心を持ち、更に他を寄せ付けぬ力を有しているのならば助力するのも吝かではない。フフフ……中々に思い切った事をするではないか。良かろう。その案を採用しよう』
 腕を避ける為の一瞬、本の一瞬目を離した隙に、ジェイクは白き龍アニムの姿へと変貌を遂げていた。

 老人の物から若く中性的な声に変わり、更には口調までもががらりと変化する。
「……まさか素直に受け入れられるとは思いませんでした……」
 ローゼリエッタは、自身の叫びにアニムが首を縦に振らねば、問答無用で斬りかかるつもりだった。
 だが意外なことにアニムはこれを快諾。結果としてはローゼリエッタの望む形となる。
『なに。我は其方の事を気に入っているのだ。自身に害をなすものにすら及ぶ慈愛の心。それは人の身に宿しておくには惜しい程崇高なものだ。確かに其方に他を圧倒する力があるのであれば、一考の余地もあろう』
 そういうとアニムは、白い翼を大きく広げ、尾を床にたたきつける。
 何の気なしに取ったアニムのこの行動により、広間の両壁はひび割れ、床にも大きな穴が開いた。
 ローゼリエッタはその光景を見て恐怖を覚える。
(勇んでみたはいい物の……あんな化け物相手に戦えるのかしら……)
 怯んだことはおくびにも出さない。だが聡い龍の慧眼はそれを逃すことをしない。
『とはいえだ……力の程を見極めるのに我が戦う必要もあるまい。そうだな……少々待っていろ』
 それからアニムは頭を上げ天井を見上げる。そして、一つ咆えた。


 龍の周囲に魔力が渦巻く。本来視認できるものではないそれは、龍の身体と同じく白く輝き、竜巻となって辺りを吹き飛ばした。
 広間どころか巨大な王城までもがそれに巻き込まれ、瞬く間に塵と化す。
 瓦礫が崩壊する音。金属品が吹き飛ぶ音。更に轟轟という風が荒れ狂う音が鳴り響く。
 ローゼリエッタはその中を、必死に地に這いつくばることで耐えるしかなかった。

 やがて音は止み、風も収まる。
 ローゼリエッタは恐る恐る顔を上げ周囲の様子を伺ってみた。すると……
「嘘……」
 周りには何もなかった。
 精巧な装飾の施された壁も、金銀をちりばめた調度品も、王が据わる玉座も何一つ。
 更に少女は周囲を見渡す。
 くぐってきた城門も、整備された大通りも、商品が並ぶ店の一つに至るまで何一つ。そしてその更に向こう側にある筈の、魔導砲が備え付けられていた防壁すらも、今では影も形も無い。

 城に入ってから結構な時間が経っていたらしく、周囲はもう薄暗くなっていた。
 それでも煌々と輝く白龍の身体により、周囲は真昼間のように照らされている。
『ふぅ……漸く窮屈な思いをしなくて済むな。さて……ではこれから、其方が戦う相手を見繕うとしようか。人に負けじとあらば、病魔を食らう物が相手でも十分測れよう』
 アニムは再び空を仰ぎ、一つ鳴いて見せた。
 すると何処からともなく真っ黒な穴が一つ空中に現れる。たいして大きくはない。だが夜の闇よりも更に深い極黒色。それは見つめているだけで吸い込まれそうな錯覚を覚える程だ。
 信じられぬ出来事の連続に、呆然とそれを眺めている事しかできないローゼリエッタ。
 するとその真っ黒な穴の中から、突如として巨大な腕が突き出された。
 少女にも見覚えがある腕。その姿はかつての王国で見た事のある物だ。
『グオオオォォ!!!』
 龍の物とは違う凶悪な咆哮が轟く。
 そしてローゼリエッタの目の前に、巨鎧兵の鎧を着た巨人が一体、姿を現した。
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