救世の魔法使い

菅原

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11章 長期休暇

元の生活

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 月日は流れる。
ルインが入学してから約半年が経ち、当時は半袖でも十分快適だった魔法学校スフィロニア周辺も、辺り一面雪が降り積もる季節となった。
四方を囲む山も白く化粧をして、太陽の光を浴びては幻想的な輝きをみせる。
 生徒達はローブに身を包み、寒さに耐えながら学校への道を歩く。
その足取りは以外にも軽やかで、顔には笑顔すら浮かんでいた。
本日は終業式だ。
勉学も一段落し、長期休暇に入る切れ目の日である。

 大陸の北部に位置するこの地域は、冬になると雪が降り積もる。
何の備えも無しにこれを超えることは困難で、周辺都市に住む民は、この時期の為に備蓄を欠かさない。
これは生徒の家庭のみならず、講師の家庭も同様だ。
その為家庭を持つ講師は、冬になると自家に戻り冬越えの準備を始めることになる。
この期間は、学校に勤める講師の大部分が居なくなるため、授業を行うわけにもいかず、生徒達も自家に戻り、長期休暇を取るのが決まりとなっていた。


 午後の実技も終える頃には、生徒たちの間では帰省に関する話題で持ち切りだ。
魔法学校での授業は苦ではないが、それでも久しぶりの両親との再会、住み慣れた家に帰れることを手放しに喜ぶ。
 生徒達が教室から飛び出す中、ルインとアネシアルテに、二人の同居人であるユイエンとスェラを加えた四人の生徒が、談笑しながら身支度を整えている。
「じゃあルインとアネシアルテさんは、セイムセインの家に戻るんだね?」
身長も伸び、逞しくなったユイエンは剣を腰に差す。
ルインもまた、杖を腰に差しながらユイエンに尋ねた。
「ユイエンも帰るんだろう?」
「勿論。あー……悪いんだけどスェラにちょっと話があるんだ。先に戻ってていいよ」
「あら、そうなの?それじゃあ行きましょう、ルイン」
ユイエンとルインの会話を聞いたアネシアルテは、ルインの腕を引くと、挨拶を済ませて歩き出した。
家に帰ることがとても楽しみらしく、鼻歌を奏でている。
慌ただしく教室を去る二人を見送ると、ユイエンとスェラも話をしながら荷物をまとめていく。


 この時期になると太陽が出ている時間も短くなる。
実技を終える頃には辺りも真っ暗で、道を照らす魔法光の明かりだけが頼りなく揺らめいでいた。
 生徒達は皆、大荷物を抱えて寮から出ると、学校の前を通り過ぎ、入学当時に使った転送魔法陣へと向かう。
次に彼らがこの地を踏みしめるのは、雪が溶けて草木が芽吹く頃だ。
ルインは同学の友に手を振りながら、魔法陣の輝きと共にスウィロニアを後にした。
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