探求の槍使い

菅原

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深奥

結晶の森

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 ラインハルトが巨大な全身鎧を見つめていると、シェインが語気強めに兎を問い詰めた。
「それで? どういった理由で私たちをこの迷宮に連れてきたのかしら」
 それをラインハルトが気に掛ける。
「どういうことだ?」
「兎さんは、上層階はともかくこの場所を知っていたということよ。更には偶然ではなく故意に私たちをこの場所に連れてきた。私たちが意識を取り戻してから今までの行動を見てもわかるわ。あの幻の中のことでさえも、兎さんにとっては予定通りだった……そうでしょう?」
 シェインはカイネル、ラインハルトと違い何かを悟っていたようだった。兎を見るその眼は鋭い。

 一触即発の中、兎はラインハルトらを振り向くと、観念したように微笑んで見せた。
「……その通りです。私はこの場所があることを知っていました」
 寂しげに微笑む兎は、近くに並ぶ建物を眺める。
「そもそも迷宮とは、ここから上に広がる階層を指すんです。その迷宮と呼ばれるところは、この階層に眠るあるお方を守るために作られ、そして貴方たちのように腕の立つ方々を更に育てるために作られた施設なんです」
 兎は止めていた足を再び動かした。
 大通りのど真ん中を歩き、その後ろをラインハルトら三人が追う。
「ここは千年前に滅んだ街なんです。この世界に生きる者たちが力を合わせて邪竜を退ける戦いの際、その影響によって時が止まってしまった街……千年前はこの大きな通りも多くの人たちが行き交い、自動車が品物を乗せ往来していました」
 歩きながらもラインハルトは改めて辺りを見渡した。
「これだけ大きな通りを持つ街だ。当時はさぞ賑わっていただろうな」
 今では周囲に人など居らず、物言わぬ家屋と瓦礫が静かに佇んでいるだけだ。あたりに響くのは彼らの話声と、地を叩く靴の音だけ。そんな閑静な廃墟の中を、兎は迷うことなく歩き続ける。
「私たちフォルオーゼの家系は、この町に寝るお方を再び蘇らせる為、力ある戦士を探し続けていました。そこへ現れたのが貴方たちです」
 兎は顔を向けることをせず歩く。その矛先は通りに面した幾つかある路地の一つに向かっていった。

 路地に差し迫るとカイネルが口を開く。
「蘇らせる、ってことは、その人は死んでしまっているのですか?」
「いいえ、死んではいません。あのお方は千年前のあの時のまま、時間が止まっているだけです」
 路地の中は通りよりも損壊がひどく、足元が悪い。散らばる瓦礫、中には割れた花瓶の類もあり、当時の凄惨さを物語っている。
 歩みを合わせつつ、次にラインハルトが訪ねた。
「ところで、そのお方っていうのは誰なんだ?」
 その問いかけに、兎の足が止まった。
「……当時のことは私も伝聞でしか知りませんが、邪竜が現れた当時、この世界に住む人々は皆一丸となって連合軍を結成し、戦いに挑んだと聞きます。あのお方とはその連合軍の指導者様の事」
「連合軍の指導者?」
「ええ、ローゼリエッタ・トレット様です」
「ローゼリエッタ……って、それ女神さまの名前じゃない」
 シェインの反応にラインハルトははっとした。
(確か……皇国の事件の時、義賊団が根城にしていた屋敷で聞いたことがあったな)
 反応を見せたシェイン、一人悩むラインハルト、残ったカイネルは話についていけず頭をかいた。


 路地に入ってから幾つか角を曲がる。その過程で、ラインハルトは兎の歩む先があの巨大な全身鎧がいる方向であることに気が付いた。
「腕が立つものを探していたと言ったが……もしやあの全身鎧と戦えとでもいうのか?」
「いいえ。あれは動きません」
 ラインハルトの疑問に兎ははっきりと答えた。
「あれはゴーレムのように外から動かすものではありません。あの胴体部分に傀儡師が乗り、中から操る物なんです。現在傀儡の技術は途切れてしまっているので、あれを動かすことはできません」
「じゃあ俺たちの役目は一体なんだ? 迷宮が育成施設なのならば、迷宮を突破する為に集めたというわけではないのだろう?」
 兎はその質問に答えることはせず、尚も歩みを止めない。
 やがて何度目かの路地を曲がる頃、一同の眼に信じられない光景が広がった。

 そこは透明な結晶が隆起する不思議な場所だった。
 水晶のように六角柱状の形をした、淡い青色の結晶体。それらは自ら光を放ちぼんやりと周囲を照らしている。その大きさはラインハルトの体を超える程に大きく、植物のように群生しているように見えた。
「これは……なかなかすごいな」
 芸術の類に興味がないラインハルトですら、その光景を前に息を呑んだ。それに同意するカイネルとシェイン。一方、兎は更に歩き続ける。

 結晶の群生地を行くラインハルトの目の前に、一際大きな結晶が二つ現れた。
 カイネルはそれを見上げ、夢に見た巨人族を思い出す。
 人が僅かに二人程通れそうな位の幅を開け聳え立つそれは、宛ら城を守る城門の様。ラインハルトはその巨大な結晶を見上げながら、再び感嘆の声を上げた。
 巨大な結晶から視線を戻し、ラインハルトは漸く兎の足が止まっていることに気が付いた。
 目的地に着いたのだろうか、とラインハルトは首をかしげる。
「……ここです」
 兎は小さく呟いた。
「ここ? ここに一体何が……」
 巨大な結晶以外でラインハルトの気を引くようなものは特にない。相変わらず瓦礫と廃墟が並んでいる。
 だが喋っている最中で、突如気味の悪い気配を感じ取った。
 手に持っていた槍を構え、兎の前に躍り出る。
 その時、結晶門の間に何かがいることに気が付いた。
 
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