愚骨な傭兵

菅原

文字の大きさ
22 / 31

20

しおりを挟む
 何事もなく夜は開けた。目覚めたシウバリスは大きく伸びをすると、食事を作る億劫さからついつい荷物へと手を伸ばす。中には野営で使うために買った干し肉や乾燥パンが幾つか入っている。それらの中から手に当たった物を引っ張り出しては適当に齧りつく。
(これに比べたらあれも上等な部類だな)
 昨夜の食事を思い出しそんなことを思ってしまう。そうなったなら必然、彼は早急な食の安定確保を心に決めた。だが物事には優先順位という物がある。先ずは雨が降っても安全に過ごせる場所を。だから彼は昨日と同じように、斧を手に取り立木に合い対す。
 ガシュッ! ガシュッ! 
 更に数本の木を倒しきる。倒した丸太は一定の場所へ。そうして積み上がった丸太の山を見て、シウバリスは満足そうに頷いた。

 シウバリスは今、雨風をしのげる場所、所謂家を作ろうとしていた。一応、用意した野営道具の中にテントがあるから、ある程度の雨露は凌ぐことが出来る。だが長期的に見ればやはり、しっかりとした家が欲しくなってくる。より快適な生活を送る為に。彼は急ぎ斧を振るった。
 昼から彼は、そこらにある切り株の処理へと入った。一時は昨晩作ったベッドのように、切り株の上に木材を敷き詰めることも考えた。だがそのように想定して木を伐った訳ではないから、切り株の高さはまちまちだ。また、その手法で家が完成したとしてその後、土台となる切り株の一部が腐ってしまったり新芽が出てきたりしては、床がどうなるかわかったものではない。そんな理由から、まずは整地をと彼は切り株に向かって斧を振り落とす。


 満足する整地が終わるまで、一日以上の時間が掛かった。何十という数に加え、一人で行う不慣れな作業は遅々として進まず、時には投げ出したくなる程だった。だがこれから長きに渡って世話になる家だ。多少の苦労は代償と割り切り、只管に作業を続けた。その間の食事も面倒臭がらずに、もしもの時のために携帯食は残し、森の中で手に入るもので腹を満たす。品は専ら魚と果物。少し焦げた焼き魚を頬張りながら、彼の欲望は更に膨らんでいく。
(いずれは畑も作ってみようか。目指すは完全な自給自足だな)
 そんなことを思いながら、今日も家作りに精を出す。

 シウバリスは整地し終えた敷地に支柱を立てる為の穴を四つあけた。可能な限り間隔を整え、可能な限り同じくらいの深さで。この頃には手製の道具も種類が増え、シャベルのような穴を掘る道具も作れていた。穴を堀り終えると、そこへ先日集めた丸太の中から立派なものを選んで穴に突き刺す。穴は均一、されども丸太の大きさは均一とはいかず、数本が若干斜めになってしまった。これではいけないと丸太を地面と垂直になるように整え、穴と丸太の隙間に土を詰めていく。それから何度も何度も叩き固め、自ら垂直に立つように調整を続けた。

 次に彼は、丸太の整形に着手する。斧で丸太を縦に割り、断面を剣やナイフで滑らかにしていく。黙々とそれを繰り返し、同じものを二十も用意すると、四本たつ支柱の内側の地面に敷き詰めていった。隙間には土や泥、川辺から拾ってきた石を敷き詰めている為しっかりと固定されている。それを何度も繰り返し、遂に彼は床を完成させた。丸太の加工に時間が掛かった為、この日の作業はこれで終了だ。
 残った時間で彼は、川の中に魚を捕まえる罠を作った。罠と言っても構造は簡単で、川の流れを遮るように石を積み重ねただけだ。積み上げた石垣の両端は弧を描き、まるで壺のような形になっている。コツは少し雑に積み上げる事。これによって石と石の間には少しの隙間が空くことになり、水は問題なく川下へと流れていくが、魚は立ち往生する、といった風になる。
(確かこんな感じだったな)
 過去に見聞きしたことのある情報を必死に手繰り寄せ、次第に彼の周囲は生活感を帯びていく。


 シウバリスが森に移住してから七日もする頃には、立派な住処が完成していた。素人が作ったにしては大層立派な一軒家だ。ただ木材加工の腕前が足らず、至る所に若干の隙間が見える。風を完全に防ぐまではいかなそうだ。
「今が暖かい季節で良かったな。寒くなる前に補修しないと」
 彼の作った家は、支柱となる柱と柱の間に木材を敷き詰めただけの簡単な造りで、屋根も枝葉を隙間なく重ねているだけだ。方々縛り付けるのには植物の蔦を使用したが、蔦も木材も、いずれ劣化し崩れ落ちるのは目に見えている。それでも、自身で作った事もありその感動は一入だ。
「素晴らしいあばら家だ。テントで野宿よりは大分ましだろう」
 少なくとも獣からの襲撃に対しては、圧倒的にこちらの方が安全と言える。シウバリスはここ数日世話になったテントをさっさと片付けると、意気揚々と家の中へと入った。そして伽藍洞な内装を見てため息をつく。次なる作業は家具を揃えることだろうか。やることは絶えない。

 シウバリスは数多ある家具の中から、先ず寝台を作ることにした。とりあえず思いつくままに作ってみる。長い棒を何本も括り付け一枚の板を作成。それの四方にそれぞれ足となる木材を括り付けてみる。見てくれはなかなか悪くない。ところが実際に腰を下ろしてみると、寝転がる板部分がずるずると地面まで落ちてしまった。縛り付けが甘かっただろうか? 失敗の原因を探り改善点を見出す。どうやら木材の噛み合わせが悪かったらしい。すぐさま失敗を踏まえた二度目の作成に着手した。
 二度目の製作では、先に四角い枠を作り、それに四本の足となる木材を縛り付けてみた。それを正しく横たえ、一度目にも使った板版を括り付ける。一度目の失敗があったから、それはもう念入りだ。そうして出来上がった物に恐る恐る腰を下ろしてみると、軋みながらもなんとか体重を受け止める事が出来た。ほっと胸を撫で下ろすシウバリス。更に彼は、何本かの木の枝を寝台へと括り付けていく。衝撃を減らそうと足を増やしたり、足と寝転がる部分に斜めに渡してみたり……幾つか蛇足となる個所もあっただろう。それでも満足いくだけ補填を繰り返すと、出来上がった物を家の中に運び込んだ。


 度重なる試行錯誤と努力の甲斐もあって、その日からは比較的快適な夜を過ごすことができた。木製故、家の中で焚火をたくことはできないが、明かりは光苔を入れた水ランタンで済む。火を絶やさぬよう気にすることもなくなり、睡眠時間はたっぷりとることが出来た。食についても、今の所満たされる程度には食べれている。森に来た一日目に比べたら夢のような環境だ。だがまだまだ改善点は多い。テーブルや椅子など、無い物が良く目立つ。また、今の彼には別の問題も発生していた。
「……魚も果物も……少し飽きてきたな……」
 そろそろ動物肉が欲しいと感じ始めていたシウバリスは、次なる革命として森での狩りを決意した。とは言え、生粋の戦士である彼が狩人のように狩るには、これまた時間がかかるだろう。彼が得意とする剣と盾では、白狼のような、襲ってくる肉食の獣しか狩ることが出来ない。だがそういった獣の肉は総じて獣臭く、彼のようにただ丸焼きするだけの料理では、真面に食べられるものではなかった。……となると、狙いは鹿や兎といった草食動物になってくる。しかしこちらも問題で、彼らは肉食の獣のように襲ってくるのではなく、逆に逃げて行ってしまう為、剣や盾で狩るのは相当難しい。これを安定して狩るのであれば、新たに遠距離から攻撃できる道具が必要となるだろう。
(となれば……)
 食事を平らげたシウバリスは、家の外に出ると家の横に置いてある資材の山を漁り始める。引っ張り出したのは何かを縛る時に使っていた蔦だ。両端をもってピンと張ってみる。若干の伸縮性。加えて耐久力も申し分ない。あとは良く撓る枝があれば、拙いながらも弓を作ることが出来るだろう。彼は食を充実させる為、意気揚々と工作を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

真実の愛を見つけたとおっしゃるので

あんど もあ
ファンタジー
貴族学院のお昼休みに突然始まった婚約破棄劇。 「真実の愛を見つけた」と言う婚約者にレイチェルは反撃する。

処理中です...