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馬車が町を発った翌日。シウバリスたちは黒鋼熊の目撃例があった山の麓についた。そこに広がっていたのは、人の手が殆ど入っていない原生林だった。以前白狼討伐の為に訪れた森よりも、より自然が溢れている区域だ。馬車はその入り口で止まり、彼らは馬車から降りる。
「くぅ~。馬車ってのは体が痛くなるなぁ」
エセドナは自身の大剣を地面に突き刺し、大きく背伸びをした。続くカシとパルカネシアも、自ら肩を叩いたり、屈伸等をしてそれぞれ体の凝りを解している。一方シウバリスは、体の凝りよりも精神的な疲弊を早急に回復させていた。何せ彼ら三人組は、何かにつけてシウバリスへ話を振ってくるのだ。歳、出身地から始まり、傭兵になってからの活動内容。特にシウバリス自ら離さないような内容ばかりを根掘り葉掘り聞いてくる。それらを全て無視できたのならば、それはどれだけ楽だったのだろうか。彼も一度はそれを実行に移そうと思っていた。だが、これから何日間を共に行動するのか分からない今、要らぬ柵を作るまいと対応だけは続けていたのだ。おかげでいつもは動かさない口は開きっぱなしで、肉体的よりも精神的に疲弊してしまっていた。
「ふぅ」
幾度か深呼吸を繰り返す。その際、エセドナがシウバリスへ声をかけた。
「とりあえず目撃例があった地点まで揃って行こうと思うんだけど大丈夫かい?」
「あ、ああ、問題ない」
「オーケー。じゃあパルカネシアが前衛。次に俺。三番目にカシで最後をシウバリスさんにお願いするわ」
「了解した」
四人は各自森に入る用意を済ますと、エセドナが提案した隊列を組んで森へと入る。日の光も届かぬ、鬱蒼とした森の中へ。
その森は、外から見ていた時は何の変哲もない森に見えた。しかし立ち入ってすぐその異様さに気が付く。乱立する樹木は他では見ぬ程に太く、高く聳え、それに絡まる蔦も長大だ。また、蔦から生えた葉は、人ひとりが隠れてしまえそうな大きさだ。まるで自分が小さくなってしまったかのような錯覚を覚えてしまう。しかし頭上ばかり見上げているわけにもいかない。足元は隙間なく苔が生していて酷く滑る。植物の生命力が強いのか、むき出しの地面を探す方が大変だ。更に樹木に生えた枝葉が悉く日光を遮り、辺りを照らすのは水に浮かぶ光苔の淡い光だけ。時折日が指す個所もあったが、とても当てにできるような光量ではない。だがその景色だけは息を呑む程に美しく、一同は幻想的な光景に息を呑む。
「お前たちはこの森に来たことがあるのか?」
シウバリスの口から純粋な疑問が付いて出た。その問い掛けにエセドナが答える。
「一度だけあるな。特殊な草花の採取だったか。まぁその時もこんなに奥まで来なかったけど……」
「そうか。流石二級で活躍する傭兵たちだ」
「あんたに褒められるとこそばゆいね」
笑いながらも周囲の警戒は怠らない。馬車の中であった飄々さは健在だが、隊列を組み森を歩くその姿は正しく傭兵そのもの。
(どうやら過小評価をしてしまったらしいな)
前を歩く三人の後姿を見て、シウバリスは彼らの評価を今一度訂正した。
隊列はそのままに、更に一同は森の奥へと入っていく。のたうつ木の根の上を歩き、苔むした岩の隙間を通る。清水が湧き出る池、見たこともない動植物。人の足跡どころか獣道すら見当たらない大自然。奥に行けば行くほど、その傾向は強くなっていく。
当初は警戒していた一同だったが、迫る危険が無いせいか、若干緊張の糸が緩み始めた。シウバリスの前にいる三人は時折世間話をするようになり、それにシウバリスも巻き込まれていく。
「なぁ、シウバリスさん。あんたもそう思うだろう?」
「何の話だ?」
「良く討伐対象に上がるモンスターたちが硬すぎないかって話だよ。今回の討伐対象もそうだ。なんで熊が鋼のように頑丈な鱗を持つんだろうな」
「……私は専門家ではないから分からないな」
シウバリスは少しも考えずにそう答えた。すると一番前を歩くパルカネシアがこういう。
「私は進化の結果と聞いていますよ。人間の武器や、自然界での抗争を経て、より被害が無いように進化したのだと。きっと黒鋼熊の原種も、当時はエセドナのような剣で討伐され続けていたのでしょう」
「成程なぁ。じゃあ俺たちはご先祖様のせいで苦労してるってことか?」
エセドナは冗談交じりにそう言った。
更に奥へと進む道中。シウバリスは一つ気になっていたことをエセドナに尋ねた。
「目撃情報があったと言ったが、その目撃者はこんな所まで何をしに来たんだ?」
すると一同の足が一瞬止まる。
「それもそうだな……もうちょっとで目撃された地点なんだが、ここまで傭兵以外が入り込むなんて考えられない。確かに希少な薬草類は群生しているだろうけど、研究者がここまで入ってこれるはずもないし……」
エセドナの呟きにカシが返す。
「討伐級以外の傭兵たちじゃないのか? 特に探索級は採取技術には長けているが戦闘技術はそうでもないのだし」
続いてパルカネシアが
「依頼主は誰なんです?」
と聞くとエセドナはこう答えた。
「……すまん。組合長から言われて受けた依頼だからよくわからない。二つ返事でオーケーしたからなぁ……依頼書もちゃんと見てなかったわ。はは」
シウバリスも答える。
「私が見た依頼書はコルタナの傭兵組合長の名が書いてあったな。目撃例を受けて組合が討伐依頼を出す可能性は?」
この問いかけにはパルカネシアが答える。
「稀にあると聞きますよ。でもそうなるとちょっと不自然ですね。そういった依頼は大体一級傭兵に依頼が行くはずです。失敗しては大変ですからね。しかも今回の相手は黒鋼熊です。猶更一級傭兵に話が行かないとおかしいですよ」
一同はああでもないこうでもないと唸った。しかし予測はできてもその真偽は誰にも分らない。若干の不安を心に抱えながらも、四人は更に森の奥へと入っていく。
「くぅ~。馬車ってのは体が痛くなるなぁ」
エセドナは自身の大剣を地面に突き刺し、大きく背伸びをした。続くカシとパルカネシアも、自ら肩を叩いたり、屈伸等をしてそれぞれ体の凝りを解している。一方シウバリスは、体の凝りよりも精神的な疲弊を早急に回復させていた。何せ彼ら三人組は、何かにつけてシウバリスへ話を振ってくるのだ。歳、出身地から始まり、傭兵になってからの活動内容。特にシウバリス自ら離さないような内容ばかりを根掘り葉掘り聞いてくる。それらを全て無視できたのならば、それはどれだけ楽だったのだろうか。彼も一度はそれを実行に移そうと思っていた。だが、これから何日間を共に行動するのか分からない今、要らぬ柵を作るまいと対応だけは続けていたのだ。おかげでいつもは動かさない口は開きっぱなしで、肉体的よりも精神的に疲弊してしまっていた。
「ふぅ」
幾度か深呼吸を繰り返す。その際、エセドナがシウバリスへ声をかけた。
「とりあえず目撃例があった地点まで揃って行こうと思うんだけど大丈夫かい?」
「あ、ああ、問題ない」
「オーケー。じゃあパルカネシアが前衛。次に俺。三番目にカシで最後をシウバリスさんにお願いするわ」
「了解した」
四人は各自森に入る用意を済ますと、エセドナが提案した隊列を組んで森へと入る。日の光も届かぬ、鬱蒼とした森の中へ。
その森は、外から見ていた時は何の変哲もない森に見えた。しかし立ち入ってすぐその異様さに気が付く。乱立する樹木は他では見ぬ程に太く、高く聳え、それに絡まる蔦も長大だ。また、蔦から生えた葉は、人ひとりが隠れてしまえそうな大きさだ。まるで自分が小さくなってしまったかのような錯覚を覚えてしまう。しかし頭上ばかり見上げているわけにもいかない。足元は隙間なく苔が生していて酷く滑る。植物の生命力が強いのか、むき出しの地面を探す方が大変だ。更に樹木に生えた枝葉が悉く日光を遮り、辺りを照らすのは水に浮かぶ光苔の淡い光だけ。時折日が指す個所もあったが、とても当てにできるような光量ではない。だがその景色だけは息を呑む程に美しく、一同は幻想的な光景に息を呑む。
「お前たちはこの森に来たことがあるのか?」
シウバリスの口から純粋な疑問が付いて出た。その問い掛けにエセドナが答える。
「一度だけあるな。特殊な草花の採取だったか。まぁその時もこんなに奥まで来なかったけど……」
「そうか。流石二級で活躍する傭兵たちだ」
「あんたに褒められるとこそばゆいね」
笑いながらも周囲の警戒は怠らない。馬車の中であった飄々さは健在だが、隊列を組み森を歩くその姿は正しく傭兵そのもの。
(どうやら過小評価をしてしまったらしいな)
前を歩く三人の後姿を見て、シウバリスは彼らの評価を今一度訂正した。
隊列はそのままに、更に一同は森の奥へと入っていく。のたうつ木の根の上を歩き、苔むした岩の隙間を通る。清水が湧き出る池、見たこともない動植物。人の足跡どころか獣道すら見当たらない大自然。奥に行けば行くほど、その傾向は強くなっていく。
当初は警戒していた一同だったが、迫る危険が無いせいか、若干緊張の糸が緩み始めた。シウバリスの前にいる三人は時折世間話をするようになり、それにシウバリスも巻き込まれていく。
「なぁ、シウバリスさん。あんたもそう思うだろう?」
「何の話だ?」
「良く討伐対象に上がるモンスターたちが硬すぎないかって話だよ。今回の討伐対象もそうだ。なんで熊が鋼のように頑丈な鱗を持つんだろうな」
「……私は専門家ではないから分からないな」
シウバリスは少しも考えずにそう答えた。すると一番前を歩くパルカネシアがこういう。
「私は進化の結果と聞いていますよ。人間の武器や、自然界での抗争を経て、より被害が無いように進化したのだと。きっと黒鋼熊の原種も、当時はエセドナのような剣で討伐され続けていたのでしょう」
「成程なぁ。じゃあ俺たちはご先祖様のせいで苦労してるってことか?」
エセドナは冗談交じりにそう言った。
更に奥へと進む道中。シウバリスは一つ気になっていたことをエセドナに尋ねた。
「目撃情報があったと言ったが、その目撃者はこんな所まで何をしに来たんだ?」
すると一同の足が一瞬止まる。
「それもそうだな……もうちょっとで目撃された地点なんだが、ここまで傭兵以外が入り込むなんて考えられない。確かに希少な薬草類は群生しているだろうけど、研究者がここまで入ってこれるはずもないし……」
エセドナの呟きにカシが返す。
「討伐級以外の傭兵たちじゃないのか? 特に探索級は採取技術には長けているが戦闘技術はそうでもないのだし」
続いてパルカネシアが
「依頼主は誰なんです?」
と聞くとエセドナはこう答えた。
「……すまん。組合長から言われて受けた依頼だからよくわからない。二つ返事でオーケーしたからなぁ……依頼書もちゃんと見てなかったわ。はは」
シウバリスも答える。
「私が見た依頼書はコルタナの傭兵組合長の名が書いてあったな。目撃例を受けて組合が討伐依頼を出す可能性は?」
この問いかけにはパルカネシアが答える。
「稀にあると聞きますよ。でもそうなるとちょっと不自然ですね。そういった依頼は大体一級傭兵に依頼が行くはずです。失敗しては大変ですからね。しかも今回の相手は黒鋼熊です。猶更一級傭兵に話が行かないとおかしいですよ」
一同はああでもないこうでもないと唸った。しかし予測はできてもその真偽は誰にも分らない。若干の不安を心に抱えながらも、四人は更に森の奥へと入っていく。
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