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14章 戦争の傷跡
レッドウルフ
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現在王国では、居住区の一角に特別な地域が設けられている。
居住区の六分の一にも及ぶその地域は、魔王友軍の駐屯地となっていた。
この区では魔物の姿をした魔族が、普通に外を出歩いている光景を目にすることが出来る。
慣れた者はこの区画に訪れ彼らと話をするし、魔族を恐れていても一目見ようと遠巻きから様子を見る者は後を絶たない。
冒険者ギルドより大通りを下り、その区画に入る。
幾つかの角を曲がった場所に、魔王友軍兵が宿泊する施設があった。
忙しなく出入りする兵士に混ざって、眼を引くほど鮮やかな赤の毛を持つ狼が一匹見える。
彼は言われた通りの場所で、人を待つ。
ネイノートとカノンカが連れられて来たのは、魔族が生活する区域だ。勿論ネイノートの肩にはウィンが止まっている。進化当初は不格好だったそれも、今では馴染んで以前と変わらない。
二人はロンダニアにも声をかけたのだが、彼はまだ先の戦いで死んでしまったハワーズの事を引きずっているようだ。
ネイノートも身に覚えのあること。こういう問題は、他人が横から口をはさんでも解決はしない。彼が自ら立ち直ってくれるまで、暫し時を置くことにした。
サラシャとクラストは人型のままだが、区画内では多くの魔族が魔物の姿で練り歩いている。
その中を歩き、幾つかの角を曲がり案内されたそこには、あの『ブラッドウルフ』を思わせる真っ赤な狼が佇んでいるのが見えた。
クラストはまっすぐにその狼の前まで歩み寄ると、いくつか言葉を交わし振り向く。
「彼の名前はパルスといいます。貴方達が救ってくれたブラッドウルフの息子です。種族は『レッドウルフ』。父と似て、足の速さは一級品です」
レッドウルフとは、ブラッドウルフの下位種にあたる。
まるで火を体現するかのように綺麗な赤の毛並み。体躯はやはりクリスタルウルフよりも一回り大きく、堂々とした態度からは威厳すら感じる。
下位種でこれなのだ。暴走する前のあのブラッドウルフは、一体どれほど荘厳に見えたのだろうか。
パルスは狼の姿のままそっと頭を垂れた。
「彼はまだ血を完全に制御できていないため、人型になることは出来ません。ですが、話すことは出来るのでご安心ください」
そういうとクラストは、パルスに向かって挨拶をするように促す。
「初めまして。パルスと申します。父の魂を救ってくださったそうで……いくら感謝しても足りません」
低い声が響いた。
彼は直ぐに立ち上がると、ネイノートとカノンカに擦り寄る。
クラストも時々する行動だが、ウルフ種がする感謝の行為か何かなのだろうか。
ブラッドウルフを思い出しているのか、カノンカは緊張した面持ちをしている。
だがネイノートは違った。
手で毛深い胴をなで、顔を緩ませる。
カノンカもパルスもその行動と表情に驚いたが、余りにも幸せそうなネイノートの顔に文句は言えなかった。少年は暫し、ふわふわの赤い毛並みを存分に楽しんだ。
クラストが近くにいる兵士に声をかけると、兵士は二人掛け用の鞍を持ってきた。
それをパルスの背に掛ける。
「彼の足ならネイノート様の家まであっというまでしょう。何かありましたら彼に乗って逃げてください。大抵の者は追いつけません」
そういうとクラストは、それでは私はこれで、と言って来た道を戻っていってしまった。
残った四人は雑談を交えながら自己紹介をしていく。
「ネイノートにカノンカ、それにウィンだね。改めてパルスといいます。宜しく」
クラストがいなくなったせいか、彼は先程の態度から想像もつかないほど愛想よく話し出した。
言葉遣いも砕けた感じになり、纏っていた空気が軽いものに変わる。
恐らくこちらが彼の素なのだろう。
ネイノートとしてもこちらの方が話しやすく、内心で安堵する。
一頻り互いの疑問点を言い合いながら歩き出した彼らは、ネイノートの家へ向かうべく城門をくぐった。
居住区の六分の一にも及ぶその地域は、魔王友軍の駐屯地となっていた。
この区では魔物の姿をした魔族が、普通に外を出歩いている光景を目にすることが出来る。
慣れた者はこの区画に訪れ彼らと話をするし、魔族を恐れていても一目見ようと遠巻きから様子を見る者は後を絶たない。
冒険者ギルドより大通りを下り、その区画に入る。
幾つかの角を曲がった場所に、魔王友軍兵が宿泊する施設があった。
忙しなく出入りする兵士に混ざって、眼を引くほど鮮やかな赤の毛を持つ狼が一匹見える。
彼は言われた通りの場所で、人を待つ。
ネイノートとカノンカが連れられて来たのは、魔族が生活する区域だ。勿論ネイノートの肩にはウィンが止まっている。進化当初は不格好だったそれも、今では馴染んで以前と変わらない。
二人はロンダニアにも声をかけたのだが、彼はまだ先の戦いで死んでしまったハワーズの事を引きずっているようだ。
ネイノートも身に覚えのあること。こういう問題は、他人が横から口をはさんでも解決はしない。彼が自ら立ち直ってくれるまで、暫し時を置くことにした。
サラシャとクラストは人型のままだが、区画内では多くの魔族が魔物の姿で練り歩いている。
その中を歩き、幾つかの角を曲がり案内されたそこには、あの『ブラッドウルフ』を思わせる真っ赤な狼が佇んでいるのが見えた。
クラストはまっすぐにその狼の前まで歩み寄ると、いくつか言葉を交わし振り向く。
「彼の名前はパルスといいます。貴方達が救ってくれたブラッドウルフの息子です。種族は『レッドウルフ』。父と似て、足の速さは一級品です」
レッドウルフとは、ブラッドウルフの下位種にあたる。
まるで火を体現するかのように綺麗な赤の毛並み。体躯はやはりクリスタルウルフよりも一回り大きく、堂々とした態度からは威厳すら感じる。
下位種でこれなのだ。暴走する前のあのブラッドウルフは、一体どれほど荘厳に見えたのだろうか。
パルスは狼の姿のままそっと頭を垂れた。
「彼はまだ血を完全に制御できていないため、人型になることは出来ません。ですが、話すことは出来るのでご安心ください」
そういうとクラストは、パルスに向かって挨拶をするように促す。
「初めまして。パルスと申します。父の魂を救ってくださったそうで……いくら感謝しても足りません」
低い声が響いた。
彼は直ぐに立ち上がると、ネイノートとカノンカに擦り寄る。
クラストも時々する行動だが、ウルフ種がする感謝の行為か何かなのだろうか。
ブラッドウルフを思い出しているのか、カノンカは緊張した面持ちをしている。
だがネイノートは違った。
手で毛深い胴をなで、顔を緩ませる。
カノンカもパルスもその行動と表情に驚いたが、余りにも幸せそうなネイノートの顔に文句は言えなかった。少年は暫し、ふわふわの赤い毛並みを存分に楽しんだ。
クラストが近くにいる兵士に声をかけると、兵士は二人掛け用の鞍を持ってきた。
それをパルスの背に掛ける。
「彼の足ならネイノート様の家まであっというまでしょう。何かありましたら彼に乗って逃げてください。大抵の者は追いつけません」
そういうとクラストは、それでは私はこれで、と言って来た道を戻っていってしまった。
残った四人は雑談を交えながら自己紹介をしていく。
「ネイノートにカノンカ、それにウィンだね。改めてパルスといいます。宜しく」
クラストがいなくなったせいか、彼は先程の態度から想像もつかないほど愛想よく話し出した。
言葉遣いも砕けた感じになり、纏っていた空気が軽いものに変わる。
恐らくこちらが彼の素なのだろう。
ネイノートとしてもこちらの方が話しやすく、内心で安堵する。
一頻り互いの疑問点を言い合いながら歩き出した彼らは、ネイノートの家へ向かうべく城門をくぐった。
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