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1章
誘い
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久しぶりに安眠出来た。
眼は覚めたものの、まだまだ怠い体を必死に動かして、僕は寝台から這いずり下りる。
「あー……二度寝したい……」
今すぐ暖かな布団にくるまって惰眠を貪りたい。
そのささやかな願望は、しかし叶うことは無かった。
大きな音を立てて戸が開き、大声を上げる少女が一人。
「お早う!ガロンさん!」
何処からこんな元気が湧き出てくるのか。
おじさんにもその元気を少し分けて欲しいものだ。
「おはよう、ヤナ。今日も元気いっぱいだね」
挨拶も程々に、ヤナが突然僕の手を取り引っ張り出す。
「なっ、何々!?」
「ガロンさんにお客さんですよ!」
僕は情けなくも、小さな女の子に手を引かれ、一階へと歩き出した。
二階設けられた自室から一階に降りると、クァルマさんからも声がかかる。
「おはようさん。お客さんだよ」
彼女の指し示す方には、スコットとガンドゥラが椅子に座っていて、更に二人の前には見知らぬ男の姿があった。
手の込んだ装飾が施された鎧を身に着け、綺麗に切りそろえられた髪に髭。
ダンディーという言葉がぴったりなおじさんだ。
彼は僕の存在に気付くと、音もたてずに椅子から立ち上がり頭を下げた。
「朝早くから申し訳ない。私はここから北東にあるスリズという町から来た。名をホーガンという」
ホーガンさんはそういうと、僕に席へ座るように促し、自らも座っていた椅子に座りなおす。
僕は彼の指示に従い、開いた席へと腰を下ろした。
クァルマさんが気を使って、果実水を四つ持ってきてくれた。
それを一口飲んでのどを潤す。
「さて、ガロン殿。今回ここを訪れたのは、ある噂を聞いたからなのだ」
自己紹介はしていないが、名前はどうやら通っているらしく、姿勢を正して話を聞く。
「その噂というのは……?」
「昨日、貴殿が巨大な熊の魔物……『アイオンベア』を一人で倒したという噂だ。なんでも小指一本で吹き飛ばしたとかなんとかで……」
思わず果実水を吹き出してしまった。
人の噂には大抵尾ひれがつくものだ。
だが、そもそもはスコットが軽々しく口を滑らせなければ、こんなに広まることも無かったはずだ。
僕は厄介事を生んだ原因の男を睨みつける。
小さく縮こまるスコットを尻目に、僕は直ぐ誤った情報を真実へと修正していく。
「小指一本だなんてとんでもない!倒したのは事実ですが、僕も死にかけましたよ。彼らのおかげで今こうして生きていられるのです」
僕の言葉を聞いて、ホーガンさんは髭をしごいて唸りを上げた。
僕が嘘をついたわけでは無いのだが、何とも居たたまれない気持ちになってしまう。
事のあらましを詳細に伝えると、ホーガンさんの眼がどんどん険しくなっていった。
「……ということなんです」
「ふむ……だが貴殿がアイオンベアを倒したのは事実なのだろう?その実力はとても素晴らしい物だ。そこで本題なのだが……どうか、我々にその力を貸してはくれまいか」
ホーガンさんは、このとうりと頭を下げた。
話の中身を知りもしないでこういうのもなんだけど、正義の味方を目指す僕としては、直ぐにでも力を貸したいというのが本音だ。
だが今僕は、クァルマさんに頼まれてヤナの護衛を務めている真っ最中である。
昨日は余りにも急を要したために村を飛び出して行ってしまったが、これが続くようでは信用も無くすだろうし、流石に本人たちを前に二つ返事で了承するわけにもいかない。
「……申し訳ありませんが、僕は今、彼女の護衛役を任せられていますので」
「ああ、知っている。ベルベッド盗賊団だろう?実はな、私の話にも関係してくるのだよ」
思いもよらない名前が飛び出し、僕は思わず身を乗り出した。
ホーガンさんの話はこうだ。
ここクイカの町からスリズの町までの間に、ベルベッド盗賊団の本拠地があるという情報を仕入れたのだという。
町の大きさから、クイカの町には下っ端が送られ、スリズの町にはかなりの上役が送られてくるのだとか。
これまで何とか防衛していたが、最近攻撃が激化していて、このままでは時間の問題である。その為、今彼らは、本拠地を叩く作戦を立てていて、腕の立つ戦士をかき集めている最中らしい。
「こちらの護衛は、我々の仲間が受け持とう。どうか……どうか貴殿の力をお貸しいただけないだろうか!」
ホーガンさんは更に深く頭を下げ、声を張り上げた。
その態度はとても真摯なもので、つい頷いてしまいそうになるけど、そうもいってはいられない。
先に契約した者の目の前で、じゃあそちらに、なんて言おうものなら非難轟轟だろう。
そうして僕が返事に困っていると、背後に立っていたヤナが突然声を上げた。
「分かりました!ガロンさんをお貸しします!」
「何!?本当か!?」
「ええぇ!?」
その言葉が余りにも突拍子で、僕とホーガンさんは驚嘆の声を上げて勢いよくヤナを見つめた。
ヤナは腰に手を当て胸を張ってふんぞり返っている。
「私の事は気にしないで、さっさと親玉を懲らしめてきてくださいね!」
言い切るあたり、もはや彼女の中では決定事項なのだろう。
僕は苦笑いと共に、ホーガンさんの話に乗ることを伝え、詳しい話を詰めていく。
眼は覚めたものの、まだまだ怠い体を必死に動かして、僕は寝台から這いずり下りる。
「あー……二度寝したい……」
今すぐ暖かな布団にくるまって惰眠を貪りたい。
そのささやかな願望は、しかし叶うことは無かった。
大きな音を立てて戸が開き、大声を上げる少女が一人。
「お早う!ガロンさん!」
何処からこんな元気が湧き出てくるのか。
おじさんにもその元気を少し分けて欲しいものだ。
「おはよう、ヤナ。今日も元気いっぱいだね」
挨拶も程々に、ヤナが突然僕の手を取り引っ張り出す。
「なっ、何々!?」
「ガロンさんにお客さんですよ!」
僕は情けなくも、小さな女の子に手を引かれ、一階へと歩き出した。
二階設けられた自室から一階に降りると、クァルマさんからも声がかかる。
「おはようさん。お客さんだよ」
彼女の指し示す方には、スコットとガンドゥラが椅子に座っていて、更に二人の前には見知らぬ男の姿があった。
手の込んだ装飾が施された鎧を身に着け、綺麗に切りそろえられた髪に髭。
ダンディーという言葉がぴったりなおじさんだ。
彼は僕の存在に気付くと、音もたてずに椅子から立ち上がり頭を下げた。
「朝早くから申し訳ない。私はここから北東にあるスリズという町から来た。名をホーガンという」
ホーガンさんはそういうと、僕に席へ座るように促し、自らも座っていた椅子に座りなおす。
僕は彼の指示に従い、開いた席へと腰を下ろした。
クァルマさんが気を使って、果実水を四つ持ってきてくれた。
それを一口飲んでのどを潤す。
「さて、ガロン殿。今回ここを訪れたのは、ある噂を聞いたからなのだ」
自己紹介はしていないが、名前はどうやら通っているらしく、姿勢を正して話を聞く。
「その噂というのは……?」
「昨日、貴殿が巨大な熊の魔物……『アイオンベア』を一人で倒したという噂だ。なんでも小指一本で吹き飛ばしたとかなんとかで……」
思わず果実水を吹き出してしまった。
人の噂には大抵尾ひれがつくものだ。
だが、そもそもはスコットが軽々しく口を滑らせなければ、こんなに広まることも無かったはずだ。
僕は厄介事を生んだ原因の男を睨みつける。
小さく縮こまるスコットを尻目に、僕は直ぐ誤った情報を真実へと修正していく。
「小指一本だなんてとんでもない!倒したのは事実ですが、僕も死にかけましたよ。彼らのおかげで今こうして生きていられるのです」
僕の言葉を聞いて、ホーガンさんは髭をしごいて唸りを上げた。
僕が嘘をついたわけでは無いのだが、何とも居たたまれない気持ちになってしまう。
事のあらましを詳細に伝えると、ホーガンさんの眼がどんどん険しくなっていった。
「……ということなんです」
「ふむ……だが貴殿がアイオンベアを倒したのは事実なのだろう?その実力はとても素晴らしい物だ。そこで本題なのだが……どうか、我々にその力を貸してはくれまいか」
ホーガンさんは、このとうりと頭を下げた。
話の中身を知りもしないでこういうのもなんだけど、正義の味方を目指す僕としては、直ぐにでも力を貸したいというのが本音だ。
だが今僕は、クァルマさんに頼まれてヤナの護衛を務めている真っ最中である。
昨日は余りにも急を要したために村を飛び出して行ってしまったが、これが続くようでは信用も無くすだろうし、流石に本人たちを前に二つ返事で了承するわけにもいかない。
「……申し訳ありませんが、僕は今、彼女の護衛役を任せられていますので」
「ああ、知っている。ベルベッド盗賊団だろう?実はな、私の話にも関係してくるのだよ」
思いもよらない名前が飛び出し、僕は思わず身を乗り出した。
ホーガンさんの話はこうだ。
ここクイカの町からスリズの町までの間に、ベルベッド盗賊団の本拠地があるという情報を仕入れたのだという。
町の大きさから、クイカの町には下っ端が送られ、スリズの町にはかなりの上役が送られてくるのだとか。
これまで何とか防衛していたが、最近攻撃が激化していて、このままでは時間の問題である。その為、今彼らは、本拠地を叩く作戦を立てていて、腕の立つ戦士をかき集めている最中らしい。
「こちらの護衛は、我々の仲間が受け持とう。どうか……どうか貴殿の力をお貸しいただけないだろうか!」
ホーガンさんは更に深く頭を下げ、声を張り上げた。
その態度はとても真摯なもので、つい頷いてしまいそうになるけど、そうもいってはいられない。
先に契約した者の目の前で、じゃあそちらに、なんて言おうものなら非難轟轟だろう。
そうして僕が返事に困っていると、背後に立っていたヤナが突然声を上げた。
「分かりました!ガロンさんをお貸しします!」
「何!?本当か!?」
「ええぇ!?」
その言葉が余りにも突拍子で、僕とホーガンさんは驚嘆の声を上げて勢いよくヤナを見つめた。
ヤナは腰に手を当て胸を張ってふんぞり返っている。
「私の事は気にしないで、さっさと親玉を懲らしめてきてくださいね!」
言い切るあたり、もはや彼女の中では決定事項なのだろう。
僕は苦笑いと共に、ホーガンさんの話に乗ることを伝え、詳しい話を詰めていく。
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