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40 夢と預言

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『涼様お久し振りですわ。』

「リア。」

 リアが笑顔で僕に手を振る。前回会ったときより、すごく明るく嬉しそうだ。何がそんなに嬉しいのか疑問だったが、理由はすぐに分かった。リアの着ている服は、僕がマオにプレゼントした服と色違いだ。リアは服が全部見えるように、その場でクルリと回った。

『この服私のお気に入り何です。涼様の世界にはこんなに素晴らしい物が溢れているんですね。』

「喜んでくれて良かったよ。それより今日はどうしたの?」

『今日は涼様の成果を報告に来たんです。』

 僕が異世界の発展にどれだけ貢献しているのか伝えに来てくれたのか。でも、貢献しました。って、ハッキリと口に出来るほどの事はしていない。グレイ達に購入した地球の食べ物を食べさせて、世界にはこんな美味しい物があるのを教えたくらいかな。

『最初にしてはかなり高評価ですよ。これお父様が作った報告書です。昨日届いた物なので、事実とは多少異なる点もあるかも知れませんが、確認してください。』

 リアから紙を受け取ると、大きな文字で涼の報告書と書かれていた。文字を読み進めていくと、確かにリアの話していた通り僕の評価は良かった。特に評価の高かったのは2つ。髪結い教室とマオに買った服だ。髪結い教室では数人に指導したお団子が、凄い勢いで広まっているらしい。今はヘアピンの代用になる物がないか、女性たちを中心に色々と探しているらしい。もうひとつはーー。

「リアのお父さんって結構な親バカだね。」

 そこにはリアがどれだけ可愛いかを事細かに書いてあった。リアが天使だ。とか、親バカ発言にしか思えない言葉が、報告書の大半を占めていた。

『恥ずかしいです。』

 でも高評価な所もあれば、低評価もある。例えば、食べ物だ。僕の仲間以外の人は地球の食べ物を知らないこと。購入した物をそのまま食べるので、この世界の人が誰も作り方を知らない所等がある。確かにこの世界の人に作り方を教えないといけないな。僕も大勢の人に美味しい料理を食べてほしい。

「つまり、今日作ったドライカレーの作り方を誰かに教えればいいのか。」

 カレールーは多めに買ってある。今度作る約束もしてあるので、次はルミア達と一緒に調理しよう。

『それだけではありません。高評価を得るには、この世界にある食材で美味しい料理を作ることが重要です。』

「ええ!?」

『涼様の購入した物を使っては、涼様が地球に帰ったときに皆さん困ってしまいます。』

 最もな意見だ。この世界でも果物やらは地球の果物と変わらない味だった。素材は良いんだ。後は僕が調理法を教えるだけだ。色々と探してみれば、ドライカレーを作るのに役立つスパイスも見付かるはずだ。

「明日は市場に行ってみるか。」

『頑張ってくださいね。』

 これも地球に帰るためだ。頑張ろう。あっ、そうだった。

「そう言えば、話は変わるんだけど、僕が恵みの勇者ってどういうこと。恵みの勇者って何なの?」

 前任の勇者達は預言の勇者など、名前を聞けば役割が簡単に推測できる。では、恵みの勇者として僕に与えられた役割は何なのか。僕はずっと気になっていたのだ。

『涼様の役割は簡単に言えば、恩恵を与えることです。涼様には『支援』のスキルがあります。そのスキルで、仲間のサポートをするのが、涼様の役割です。』

「でも『支援』は普通のスキルでしょう。僕以外の人も持っている筈だよ。」
 
 リアの話だと別に僕が勇者じゃなくても問題のない気がする。

『そうなんだよね。リアもそこが分からないんだ。前の勇者は全員がその名前の通りのオンリースキルを持ってて、分かりやすかったんだけどね。涼様は『購入』でしょう。普通に考えれば、購入した物を皆に与えるって考えるんだけど、それも勇者とは少し違う気がするんだよね。』

「リアにも分からないのか。」

『ごめんなさい。実を言うと勇者を選んだのはリアのパパとママなの。パパ達なら理由を話せると思うけど、リアにも『涼君が勇者に選ばれたのか考えてみなさい』って、話してて教えてくれないの。…あっ、私また言葉使いが元に戻っている。』

 丁寧な言葉使いじゃなくても、僕は気にしないのにな。それに素のリアの方が子供らしくて、好きだけどな。

「勇者は僕以外にもいるんだよね。彼等も僕と同じで、勇者に選ばれた理由とか分かってないの。」

『涼様と違い残りの彼等はオンリースキルと勇者名が一致しています。ですが、オンリースキルを持っていたから、勇者に選ばれたのではなく、勇者だからオンリースキルを持っていた。と、お父様が話していました。なので私にも彼等がどんな理由で勇者様に選ばれたのか、明確な理由は分かっていません。でも、涼様なら私より先に彼等が勇者に選ばれた理由が分かるかも知れません。』

「何で僕がリアより先に分かるの?」

『涼様は既に勇者様達と知り合いだからです。』

 僕の知り合いに勇者がいる。まさかーー

「グレイ兄さんのこと。」

『そうです。彼は審判の勇者様です。グレイ様は自分が勇者だと知りません。彼が自分が勇者様だと知るのは、自分の過去と決別出来てから。時が来たら、私からグレイ様に伝えますわ。』

 グレイは勇者だったんだ。強いし頼りになるから僕より勇者っぽい。でも、グレイの過去って何だろう。今リアに聞くのは簡単だ。けどグレイ本人から直接話を聞くのと、リアから話を聞くのは違う。今はグレイの過去の話題には、触れないようにしょう。

「それでもう1人の勇者は誰なの?」

『もう1人は渡陽斗。』

「えっ。」

『涼様のお兄さまですわ。』






「どういうこと!?」

『…ご主人様どうしたんですか。まだぁ、朝早いですよ。』

 もしかして余りの衝撃発言に夢から覚めたのか。リアにはまだ聞きたい事が山ほどあった。兄が勇者。それって。

「陽斗兄さんはこの世界にいる。」










『勇者の血筋、新たな勇者を導く。娘は神器を抜き勇者を守る。勇者を集めろ。 恵みの勇者は新たな神秘をこの地に齎す。隣には白き獣の姿あり。 審判の勇者は善を救い悪を滅ぼす。その力は強く脆い。仲間の助けを借りよ。さもないと真っ先に滅ぼされるだろう 。 』

 リアは前任の勇者が残した預言の書を読んでいた。

『文武の勇者は己の感情に従う。その剣は仲間にも敵にも向けられる。聖女は3人の勇者を従え、敵を討て。敵は魔王の座に付く、悪の根源なり。あんなに小さな子供を、本当に倒さないといけないのかな。』

 リアはポツリと呟くと、涼の夢の世界から出ていった。
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