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1章
マイケルの仮説
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ベケットは会議室でホワイトボードに向き合い、情報を整理していた。パーカーは寮にいるはずだが、未だ見つかっていない。寮の外に出るときでも、寮の中を動き回るときでも、必ずどこかしらのカメラに映るはずだ。そこを捉える。
コンコンコンとノックが聞こえ顔を上げると、新入りのマイケル・シーンが「報告です」と言って入ってきた。現場部隊が現場検証を終えて、引揚げてきたようだ。
「パーカーはどのフロアにもおらず、屋上も確認しましたが、いませんでした。誰かの部屋に匿われているのかと。まあ、僕はパーカーがやったと思ってないですけど。」
「そうよね......って、え?」
「じゃあそういうことで。」
ベケットの戸惑いも楽しんでいるかのようにシーンは曇りのない笑顔を見せてから、くるりと背を向けて、何事もなく会議室を出て行こうとした。
「ちょっと、シーン。待ちなさい。もう一度言ってみなさい。」
ベケットが呼び止めると、シーンはそれを待っていたかのように足を止めた。ベケットはシーンを机を挟んだ正面に座らせ、話を聞くことにした。
「寮にはおらず、多分誰かの部屋で隠れてるんだと思います。」
「違う違う、その後よ。」
「僕はパーカーは無実だと思います。」
「なぜそう思うの?」
「彼の部屋を見たんです。きっちり整頓されてる、掃除も行き届いていて、抜け目のない性格が見てとれる。そんな彼が、盗んだものや、ピッキング用の道具を雑然とベットの下に隠しておくのは変ですよ。それになにより、証拠が揃いすぎ。」
シーンの自信に満ちた快活な言い方はベケットをより悩ませた。特に『証拠が揃いすぎ』と言い放つ顔は、確信に満ちていた。みんなが考える方向の逆を行こうとする人間の存在は規律の乱れの原因になる。だがその一方で、とても貴重な存在だ。ベケットは自分の若い頃を思い出す。しかし今はチームを指揮する捜査官であり、シーンの上司だ。
「あなたの言いたいことは分かった。一理あるわね。意見として受け止めておく。でも、いい?今のところ証拠をみる限りでは、パーカーが第一容疑者よ。無実を証明したいなら、証拠を持ってきて。」
「ええ、そのつもりです。」
シーンは満足したのか、微笑を見せてから会議室を出て行った。ベケットはホワイトボードの前に立ち、情報の整理に戻った。
アンドリュー・ロバート・パーカー。18歳。両親は自動車の事故で亡くなり4歳の時にこの孤児院へ。勉学は非常に優秀。2年飛び級をしていたが、昨年のカンニング事件で有罪になり、8ヶ月の懲役と飛び級の解消。
ベケットは『自暴自棄?』と書き加えた。順風満帆なのに、なにか足りない人生にスパイスを加えるために犯罪に手を染め、一度見つかったからムキになっているのかもしれない。
今回の窃盗事件が発覚したのは、深夜に生徒会長室に侵入をする映像が突然SBIに送られてきたからだ。調べて見ると、金庫室に厳重に保管をされていた宝石がなくなっていて、金庫にはパーカーの指紋がついていた。
このカメラ映像が誰がなぜ送ってきたのかは調べなければならないが、十分な状況証拠だ。指紋に、当人部屋にあったピッキング用品や盗品などの物的証拠。証拠を調べるとすべてアンドリュー・パーカーに行き着く。
ベケットの頭には一瞬マイケルの言葉がよぎったが、すぐさま思い直して、次の指示をした。
コンコンコンとノックが聞こえ顔を上げると、新入りのマイケル・シーンが「報告です」と言って入ってきた。現場部隊が現場検証を終えて、引揚げてきたようだ。
「パーカーはどのフロアにもおらず、屋上も確認しましたが、いませんでした。誰かの部屋に匿われているのかと。まあ、僕はパーカーがやったと思ってないですけど。」
「そうよね......って、え?」
「じゃあそういうことで。」
ベケットの戸惑いも楽しんでいるかのようにシーンは曇りのない笑顔を見せてから、くるりと背を向けて、何事もなく会議室を出て行こうとした。
「ちょっと、シーン。待ちなさい。もう一度言ってみなさい。」
ベケットが呼び止めると、シーンはそれを待っていたかのように足を止めた。ベケットはシーンを机を挟んだ正面に座らせ、話を聞くことにした。
「寮にはおらず、多分誰かの部屋で隠れてるんだと思います。」
「違う違う、その後よ。」
「僕はパーカーは無実だと思います。」
「なぜそう思うの?」
「彼の部屋を見たんです。きっちり整頓されてる、掃除も行き届いていて、抜け目のない性格が見てとれる。そんな彼が、盗んだものや、ピッキング用の道具を雑然とベットの下に隠しておくのは変ですよ。それになにより、証拠が揃いすぎ。」
シーンの自信に満ちた快活な言い方はベケットをより悩ませた。特に『証拠が揃いすぎ』と言い放つ顔は、確信に満ちていた。みんなが考える方向の逆を行こうとする人間の存在は規律の乱れの原因になる。だがその一方で、とても貴重な存在だ。ベケットは自分の若い頃を思い出す。しかし今はチームを指揮する捜査官であり、シーンの上司だ。
「あなたの言いたいことは分かった。一理あるわね。意見として受け止めておく。でも、いい?今のところ証拠をみる限りでは、パーカーが第一容疑者よ。無実を証明したいなら、証拠を持ってきて。」
「ええ、そのつもりです。」
シーンは満足したのか、微笑を見せてから会議室を出て行った。ベケットはホワイトボードの前に立ち、情報の整理に戻った。
アンドリュー・ロバート・パーカー。18歳。両親は自動車の事故で亡くなり4歳の時にこの孤児院へ。勉学は非常に優秀。2年飛び級をしていたが、昨年のカンニング事件で有罪になり、8ヶ月の懲役と飛び級の解消。
ベケットは『自暴自棄?』と書き加えた。順風満帆なのに、なにか足りない人生にスパイスを加えるために犯罪に手を染め、一度見つかったからムキになっているのかもしれない。
今回の窃盗事件が発覚したのは、深夜に生徒会長室に侵入をする映像が突然SBIに送られてきたからだ。調べて見ると、金庫室に厳重に保管をされていた宝石がなくなっていて、金庫にはパーカーの指紋がついていた。
このカメラ映像が誰がなぜ送ってきたのかは調べなければならないが、十分な状況証拠だ。指紋に、当人部屋にあったピッキング用品や盗品などの物的証拠。証拠を調べるとすべてアンドリュー・パーカーに行き着く。
ベケットの頭には一瞬マイケルの言葉がよぎったが、すぐさま思い直して、次の指示をした。
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