猫耳アイドル

オトバタケ

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リヒトがスカウトされた時の話

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 耳色に関係なく、六歳から十八歳までの子どもは国のスクールで学ぶことが義務付けられている。そのスクールの卒業を控えた晩秋、出身地の西都から全ての事柄の中心地である東都にやってきていた僕は、絶望しながら街を彷徨っていた。
 就職を希望していた会社全てに落ちたのだ。最終審査をするので来社して欲しいと連絡が来ていたはずなのに、全ての会社で審査者リストに名前が載っていないと言われてしまった。
 きっと僕のことだ、不合格の連絡を合格と見間違えていたのだろう。

 僕が最上位種の白耳だということは、当然両親も白耳だ。
 両親は共に西都で一番大きな企業の重要なポストで働いている。
 双子の姉は、両親のいいところだけを受け継いだようで、文武両道のまさに最上位種だといわんばかりの人で、スクールのみんなが憧れているマドンナだ。
 そんな姉は、両親の働く企業の、エリートしか入れない部署に早々に就職が決まっている。

 生まれてからずっと、優秀な姉に劣等感を抱いてきた。両親も姉も、僕を馬鹿にしたり憐れんだりしたことはなかった。それが、気を遣われているのだと痛感させられて辛かった。
 地元にいては一生双子の駄目な方というレッテルを貼られて生きていくことになる。流石にそれは耐えられないと、遠く離れた東都で生きていこうと思ったのだ。

(帰りたくないな)

 両親、そして姉が働くことが決まっている企業に、僕も一応内定をもらっている。僕の力で採用されたわけではない、縁故採用だ。配属先が両親と同じ部署だと聞いているので、そうに決まっている。
 東都で働く先が見つからなかったので、家族に負い目を感じて暮らす生活が続くのだ。とても惨めで嫌だけど、仕方ない。

「君、君!」

 西都にはまだない最先端のショップが並ぶ通りなのに、俯いてトボトボ歩いていたら、誰かが僕を呼び止めた。ぼーっとしていたので、何か失礼なことをしでかしてしまったのではないかと、顔を青くしながら声の主を見る。

「お前、うちでアイドルやれ」

 決定事項として告げられて、固まってしまう。
 僕にアイドルを強要してきた人は、僕より頭一つ分背が高い大人の色気が溢れる男性だった。凄く格好いい人だけど、モデルさんなのだろうか?
 その人の銀髪には、髪と同じ銀色の耳が付いている。上位種第二位の耳色だ。
 ランクで言えば僕の方が上になるけれど、僕がこの人に勝てそうなところなど一つもない。

「僕は、ただ耳が白いだけで、誰かに憧れられるアイドルとかになれるような奴じゃないですから」

 アイドルやモデル、ミュージシャンにアクターなど、誰かに憧れられる仕事をする人は上位種ばかりで、そのトップに立つ人は最上位種の白耳が圧倒的に多い。
 僕は、耳が白いだけの凡人だ。僕なんかが、その人の魅力が価値になる仕事に就けるわけがない。

「耳だけじゃねぇ。その髪色と眼の色、アイドルにぴったりだろ」
「これも、ただこの色なだけで、僕には生かしきれてませんから」

 僕の髪は金色で、瞳は青い。白耳と金髪と碧眼は至極の組み合わせと言われていて、一部の間では崇拝の対象になっているらしい。金髪碧眼を生かしきっている双子の姉と違い、僕の形だけの外見はむしろ足枷になっている。

「俺がアイドルになれって言ってるんだ。それを拒否するってことは、俺の目が節穴だって言いてぇのか?」

 あぁ? と凄んでくるその人が怖くて、違います、と首を左右に振る。

「よし、じゃあ今から契約するから事務所に行くぞ」

 (えぇ!? ちょっと待ってぇー)

 怪しさ満載過ぎて拒否したかったのに、有無を言わせぬその人に圧倒されてアイドルの契約をしてしまったのだった。
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