若者たち

ザボン

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第二章◆◆◆暖人

第十七話

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撮影会 2日目

「わぁっ」暖人は悪夢で目が覚めた。
自分が犬にされ、まっ裸でよつん這いで歩かされ、皆に笑われる夢だった。
これまでで最低最悪の夢だった。
良かった、目が覚めて。
そう思い、よっこらせと立ち上がろうとしたら、両腕が上がらない。
目を落とすと足首と手首がベルトで繋がれている、、、、

この時、暖人はこの最低最悪の夢が、実は現実だったんだ。と、記憶が蘇りはじめていた。

カチャっと音がして、本郷さんが起きてきた。「おぉ、ポン太、おはよう」
と言って俺の頭をなぜた。
昨日俺の腹を蹴りあげた人とは思えなかった。
俺にこんなことをさせ、伸一にあんなことをさせ、優しいわけないじゃないか!
危うく、本郷さんをよい人と思ってしまうところだった。
しかし、また機嫌を損ねると蹴られると思い、犬のふりをして機嫌をとることにした。
キッチンの椅子に座ってコーヒーを飲んで菓子パンを食べている本郷さんの足元にちかよってみた。
本郷さんは、菓子パンをちぎってくれた。
考えてみたら、昨夜は残飯しか食べてないのでお腹がすいていた。なので機嫌よく分けてくれるなら、これだけでも腹に入れておこう。そうおもいパクっと食べた。
すると、最後の一片を俺の方に差し出してくれたので、食べた。
本郷さんは、満足そうに立ちあがり、昨日の欠けた皿に冷蔵庫にあった牛乳を注ぎ、床においた。
この格好で床に這いつくばって牛乳をなめるのはあまりにも惨めだが、これを逃すと今度はいつありつけるかわからなかったので、悔し涙を流しながら、牛乳をペチャペチャなめていた。
すると須藤と斉藤が「おはようございます」と起きてきた。
「ポン太、その食べ方も板についてきたな!」斉藤に言われ、悔しかった。
しかし、怒ったらまた蹴られる。そうおもい我慢した。
リビングの真ん中で寝ていた伸一も起きたが、自分がまっ裸なことに気がつき、慌ててタオルケットを巻き、部屋へ入っていった。
本郷さんは、「さぁ朝飯にするか」と言って皆にトーストとコーヒーを振る舞っていた。
本郷さんは、斉藤に「朝食を食べ終わったら、ポン太を庭で遊ばせてくれ」と言った。

俺は斉藤について庭に出た。
庭は芝生なので手足膝も痛くない。
遊ばせるって、なにさせる気だ。
「犬といえばこれだよな」そういい野球のボールをだした。
「ほら、とってこい」と言ってボールを投げた。
それを(当然よつん這いで)走っていって、口でくわえて帰ってくる。
それ、もう一回、ほら次だ。

斉藤は投げるだけだから楽だが、俺はたまったもんじゃない。
ハァハァ言いながらくわえて戻ってきた。
「よし、もう一回」と言いながらボールを俺の口から取ろうとしたので、すかさずくわえたまま逃げてやった。これを取られたら、また遠くまで投げられる。
「おいポン太、 まて!ボールを返せ」
斉藤は本気で取り替えそうと必至だった。
それはまるで、本当の飼い主と犬がじゃれているようだった。
そんな様子を部屋から見た本郷さんは、満足そうにして、キッチンの奥に入っていった。

(ガラガラ、ガチャーン)
大きな音がして、何か壊れる音がした。
斉藤が屋根に立て掛けてあった脚立につまづき、その倒れた脚立が設置したカメラを直撃してしまったのた。
4kのカメラである。メチャクチャ高価なカメラだ。本郷さんは、カンカンになるはずだ。
斉藤の顔はひきつった。
しかし、すぐにポン太に言った。
「あーあ、暖人先輩、脚立を倒しましたね。
あの動画を配信されたくないですよね」

大きな音に本郷さん、須藤、伸一までもが集まってきた。
斉藤は「ポン太が興奮しすぎて脚立にぶつかってカメラを壊した」と説明した。
また蹴られる。
蹴られないよう腹を抱えてうずくまり、怯えた眼差しで本郷さんの方を見た。
体はぶるぶる震えていたのがわかった。

本郷さんは、また鬼のような形相になり、「ポン太なにやってんだ」と大きな声で怒鳴った。そして落ちていた竹の棒でおしりをバシバシ叩きながら、首を羽交い締めにして壊れたカメラを見せた。
「お前はこれを壊した悪い子だっ」

そして怒りを何とか修めるよう自分で大きく深呼吸をして、壊れたカメラを部屋のなかに持ち帰った。
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