ぐうたらの私が異世界で帽子屋(マッドハッター)になる

林和差(はやしかずさ)

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第一章

第八話

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次の日





9時半になると、またしてもあの金髪が入り口の前に立っていた。





「…今日はお前に情報を渡そうと思ってきた」




まあ、それが一番重要な任務だもんね。




「なにか、わかりましたか?」





「この国に登録している魔法使いで、若い男を探してみた。金の眼かどうかまではわからんが」




そう言って、20枚弱の似顔絵(肖像画の簡易的な奴)を出した。




「この中に、いそうか?」




「……」




記憶をさかのぼり見てみるも、似てると言えば似てるし、似てないと言えば似てない、程度の感じ。




「どんな魔法を使うのか、それもわかればもっと絞れる」




「なるほど…」




でも、どんな魔法かと言われるとちょっと困った。




「えっと…空間を歪ませる魔法?」




「なんだ、それは???そんな魔法あるのか?」




「ないものを作り出せる能力?」




「そんな変わった魔法、登録にないぞ…」




火とか風とか、そういうのが魔法だと言われる。




「え…じゃあ、魔法じゃないの?」




「いや、俺の知識の及ばぬ何かがあるのかもしれない…」




二人は、ただ似顔絵を見つめることしかできなかった



結局、手掛かりのないまま、三日が過ぎてしまった。








ミソラ夫人が10時ぴったりに現れた。




「三日…経ちましたが、本当に完成しているの?」




神妙な表情で聞いてきた。




「あ、一応…こちらに…」



そう言って、私は奥から白い布をかけた帽子を運んできた。




帽子を見る直前、ミソラ夫人は両手で顔を覆った。





「え?」




私は心配になり、立ち止まると、





「この香り…」





金木製の香りがかすかに匂ってくる。





「なぜ!?」





そう言ってツカツカと私のほうに早足で歩いて来て、帽子の上にかけた白い布を取り払った。





「なぜ、あの帽子がここにあるの…?香りまで…!!!」





「香り…?」





「この金木製の香りよ!なぜ主人との思い出の香りを知っているの!??」





「!?」





思いもよらない言葉だった。




私は何と答えたらいいかわからず、






「お気に召しませんでしたか…?」





と、うつむいて、それだけ言うことしかできなかった。





「貴女は、何者なの!?」





からん…





ミソラ夫人に詰め寄られていると、いつもの金髪がお店に入ってきた。





「何か、ありましたか?」





「ありましたわ!!帽子が、私の思い出の帽子が…!!」





ミソラ夫人は涙を流しながら、錯乱していた。





「この香りも!形も!!すべてが私の思い出の中の帽子なの!!なぜ…」





「ミソラ夫人、これはここにいる帽子職人が作った帽子です。お気を確かになさってください」





「でも…!!」





ミソラ夫人は何かを言いたげに私のほうを見ていたが、セカがゆっくりとなだめると、そのままお店を後にした。











「どういうことだ」




お店を臨時休業にし、シャッターを閉めると、薄暗い部屋でセカが少し怒ったように聞いてきた。




「……」




「金木製の香りのする帽子。偶然作れるものではないぞ」




「……」





夫人が置いていった帽子を見て、セカが詰め寄ってくる。




だけど、私は言えなかった。




怖いのだ。






「…言えないのか。制作方法を」





「言えない」





私はまともにセカが見ることができなかった。





「…おい、シアン。俺を見ろ。シアン」





名前を呼ぶ声だけが優しかった。





「俺は少し勘付いてるぞ、その方法に」





「!」





私はハッとしてセカの顔を見た。





「…『ないものを生み出す能力』。お前は魔法で生み出しているんだろ」




「……」





気づくと涙が流れていた。




そうだ、私は誰かに知ってほしかった。




この秘密を隠し続けることが本当は苦しかった。





「…ごめんなさい」




私はただ謝ることしかできなかった。




「なぜ謝る。お前の魔法を責めているわけじゃない」




「でも、私はみんなをだまして…」




「だましてなんてないだろ。お前は帽子を作ってる。方法が違うだけだ」




「でも!!私の魔法じゃないんです!!あの、金の眼の男の魔法で…!」




「どういうことだ?」





私はもう全部白状することにした。




「どうぞ」




そう言って二階の部屋に通した。





そして、例のシルクハットを見せた。




最初、???って感じだったが、何か感じるものがあったのか、神妙な面持ちでシルクハットを見ていた。





「じゃあ、作りますよ」





そう言ってシルクハットに、今日作った物と同じ、希望していた防火頭巾を頼んだ。




すると、あの妙な気配を放ちながら、シルクハットは帽子を生み出した。






セカはその様子を息をのんでみていた。





「…こういうわけです」




「いや、全然わからないけど…」




間髪入れずにセカに突っ込まれる。




「この帽子の持ち主は、私ではありません。金眼の男です。きっと魔道具です」




「魔道具…」




私はそっとシルクハットをセカに持たせた。



セカは覗いたり、振ったりしている。





「私、それを届けようと追いかけたんです。そしたら、この町にいたんです」



「何をついでみたいに大事なことサラッと言ってるんだ。誘拐みたいなもんだろ」



「たしかにー」



なんだか、笑えてきた。




「もうさー、嫌になっちゃうよぉ。家族も友達もいないしさ、働いたこともないのに、こんなことしてさ…」




泣き笑いしていると、ふわっとセカがほほ笑んだ。




「もう大丈夫だ。もう、一人で無理をするな」



「うううう…」



私はシルクハットを抱えたまま、その場でうずくまって泣いた。



ああ、私ってなんて馬鹿で不器用なんだろう。…本当に馬鹿。
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