花美月

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周りが混乱していると逆に冷静になる心理、あれって何なんだろう……―――
夢の中であるデパートにてたてこもりが発生し、巻き込まれた。

犯人が手にした銃を発砲する音と怯える人々の悲鳴で恐怖を感じた。

犯人は逃げようとした人へ銃を向け発砲。
その様子を観察していて思ったのが、犯人は逃げようとした人を殺すつもりで撃ってはいないのでは?という事だった。

“銃を持っている”という事をアピールしているだけな気がした。
本当に殺すつもりがあるなら、明らさまに急所を外さない……
何を思ってこんな事をしているんだと、人質の一人として渦中に居ながら思った。

アピールの為にこれだけの人を巻き込んで……と思うと沸々と怒りがこみ上げてきた。

その時、もう一つ発砲音がした。
音の発生源を見遣ると、犯人がもう一人。こちらは容赦なく逃げ惑う人々へ向け発砲
していたが、しばらくするとこの場に残った数人を値踏みするかの様に見ていく。

そして、引き金を引く所まで見えて、気付いた時には銃を向けてきた犯人の方が死んでいて、何が何やらという感じだった。

辺りを見渡すと、“銃を持っている”という事をアピールしていただけの犯人と、容赦なく発砲していた犯人の屍と自分だけしか居なかった。

頭にハテナマークを浮かべて固まっていると、
「あまりの迫力で他の人達に逃げられちゃった」と、“アピールさん”に言われた。

気付けば“アピールさん”への怒りが鎮まっていた。

「どういう事ですか?」と言うと、
「単的に言うなら……君がこの人の命を奪った」と
返された。

「先に多くの人を殺ったのはこの人で、あの時逃げる事すらしてなかった、何もしていなかった非武装な人に狙いを定めていた事が赦せなかった。
まぁ、最終的には自分もこの人と同じだけど。
この件が終わったらこの人を殺った事は言うつもり。
貴方の事は、場合によっては黙秘する。」

「場合によっては?」

「そう、場合によっては。
貴方はこの人と違って、明確な殺意なく発砲していた様に見えたから。
発砲する時、明らさまに急所外してたでしょ?
本当に殺すつもりなら、この人みたいに急所を狙ってくると思うの。
貴方は本気で人を殺すつもりはなかったんじゃないの?」

「本気で人を殺すつもりがあったかどうかで言えば、本気とは言えないかもしれない。」

「威嚇射撃というか、脅かす為の発砲に見えていたから、中途半端な覚悟なのかなぁって思ってた。」

「否定しきれないのが辛い……
君、自分の立場わかってる? 
一応まだ弾は残ってるからね」

「本当に殺す気なら、そんな事言ってないでとっとと殺すと思うんだけど。」

「君は……殺されたいの?」

「殺されたくはないけど……
ただ、どうして貴方がこんな事をしてるのか気になっただけ。何が目的なの?」

“アピールさん”からは、明確な目的はないと言われてしまった。

“アピールさん”の返答に次にどう切り出せば良いのか考えていると、ふと、彼は言った。
「まさかこんな事になるとは自分も思わなかった」と。

「今日ここに来てた人達は皆そう思っただろうなぁ……後悔してるって事で良い?」と訊くと、“アピールさん”が頷く。

「そう……なら、今回は黙ってる。
次はないから……
あの人みたいになりたくなかったら手を引くっつーか、足洗った方が身の為だと思うよ」と言う。

少し間を空けて「そういえば、いつ解放されるのかな?」とやや軽めに言うと、今度は“アピールさん”が黙ってしまった。

「流石にニュースとかになってそうなんだけど……
とりあえず、警察来ちゃったら解放って事で良い?
人質のはずなんだけど、何で自分が決めてるんだろう……
お願いだから、後始末はちゃんとしなさいよね」

「警察が来たら解放ね……それで良いよ」

「それで良いって……
あの人の指示で動いてたから自分で決められないの?」

「……」

「それ、最早肯定よね……
あの人が人質の解放の条件とか何か言ってなかった?それを参考にすれば?
(人質って何なんだろう……
何で犯人に指示してるんだろう……)」

「君の言う通り、あの人が言ってた事を参考にしてみるよ」

「人質の言う事聞いてどうするの……」

 “アピールさん”は、
「あの人が言ってた事を参考にする」と言いつつも、少し自分の頭を使う事を覚えたようだった。

警察の到着を待ちつつも何だかんだ“アピールさん”と色々お話したというなんとも不思議な話だった。
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