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番外編
番外編「僕の憧れの人」
彼の話?
彼は最近結婚して、仕事も充実していて、幸せそうだよ。
彼は僕とは全然違う、優秀な人だ。
僕とは立っている場所の違う人だ。
でも、彼はそうは思ってないみたい。僕達は同じところに立ってるって、彼はいった。
彼と僕は、だから、うん。親友なんだ。
え? なぜそんな関係になれたかって?
大したことない話だよ。聞きたいの?
じゃあ、話そうか。
僕が彼の親友になった話を。
僕は落ちこぼれだ。
騎士学校ではいつも成績はドベ。何をやっても意味がない。
授業についていけない僕は、文字通り成績優秀な友人たちにすぐに置いて行かれてしまった。
彼らは僕とは違うカリキュラムを組んでもらって、 老師に直接教わっている。
うらやましいなぁと思うけど、碌にできない僕が悪いんだ。
僕はいじめられている。
落ちこぼれだからだ。
いつも手足のように使われている。僕は、それに反発したいけど、できないんだ。
ある日、いつものように僕は使われていた。
校舎と校舎の隙間で、僕は蹴られる。殴られて、たたかれて……。いつも誰も助けてくれない。 老師すら助けてはくれない。
あきらめる時なんだって知ってる。でも痛い。
「この落ちこぼれが」
いじめっ子の一人が、僕の頭を殴った。
僕はふらふらして、倒れてしまう。
「これ以上はやめとけよ」
「鬱憤がたまってんだよっ」
――それを、僕で晴らすなよ。
蹴りが腹に突き刺さって、僕はせき込んだ。
苦しい。痛い。助けて。
「おい、何をしている」
その声は、とても小さくて、低かったけれど、怖いぐらい響いた。
いじめっ子たちが振り返る。
僕も見上げた。
黒髪の背の高い男の人。
老師かと思ったけど、違う。騎士の制服を着ている。
「なんだアンタ……」
いじめっ子が何か言いかけて、とまった。
「銀章……」
胸元に、銀のバッチがついていた。あれは――。
いじめっ子たちは舌打ちをして、しかしどこかおびえるようにその人の両脇を通って去っていく。その人は、彼らを一瞥して、しかしすぐに僕に駆け寄った。
「大丈夫か」
「っはい」
僕は手を差し伸べられて立ち上がる。
手は僕よりも大きかった。
背もやはり高い。体も分厚い。腰には剣がさしてある。
髪は黒くて、瞳は青い。
僕はその人を見上げて目を細めた。
「すみません。先輩」
「……1年か」
「2年です」
「じゃあ同い年だろう」
言われて、僕は首を横に振った。
「銀のバッチは幼少期から学園で騎士の訓練を受けている特待生だって」
「ああ……」
納得したように、彼は頷くと、小さく笑った。
「でも、歳は同じだ。だからいいよ。先輩とか言わなくて」
「……けど」
「それより、名前は? 俺はアルノルド。よろしく」
その日から、彼は僕のあこがれになった。
カン! キン! と甲高い音が響く。
「はあああ!」
僕は剣を振り上げて、相手に向かっていく。それを彼はさっとよけてしまう。さらに剣を下から振り上げると、僕ん手から剣がすっぽ抜けた。
「あ……」
つぶやいて、飛んで行った剣を目で追いかけてしまう。
ガンッ! と足に固い何かが当たって、僕は横に大げさに倒れた。
脚をかけらた。そう思った時には、すでに地面におでこをぶつけていた。
「いっ!!」
涙が少し出る。
そんな僕を転がした相手は、僕を見て、にやっと笑うと、手を差し伸べた。
「まだまだだなぁ」
彼、アルノルドはそう言って、破顔した。
あれから僕は彼に剣術を教えてもらっている。
僕はどんどん上達した。でもやっぱり落ちこぼれのままだけど、随分進歩したと思う。
彼からは、剣を放りだす時点でダメダメっていわれているけど……。
座って休憩をとっていた僕の前に、水の入った水筒が差し出される。
「あ、ありがとう。アルノルドくん」
「ああ」
彼は一言そういうと、僕の隣に腰かけた。視線はまっすぐどこかを見ていて、それを追いかけると、ほかの生徒が仲間同士で剣術の練習をしているのが見えた。
「最近よくみんなやってるよね」
僕がつぶやくと、彼も頷く。
「戦争が、近いから」
「本当に戦争になるのかな」
「なるだろうな。もう時間の問題だ」
「……怖いな」
「俺だって怖い」
「そう、だよね」
僕は水筒を握りしめた。
「僕はきっと生き残れない」
「そんなこと言うな。わからないだろう」
「だって、僕落ちこぼれだし」
「じゃあ、後方支援かも」
「だといいなぁ」
ぼやいてみると、彼は小さく笑った。
「多分俺は前線だ」
「あ……」
そうだ、彼は優秀だから、そうなるだろう。
「ごめん」
「何が」
「無神経だったかなって」
「一緒だろ。お互い様だ」
彼はそういうと、また笑った。
「生き残ろうな」
「うん」
僕は大きく首を縦に振った。
戦争が始まったのは、それからすぐの事だった。
僕は戦争では後方支援だった。
彼の言う通りになった。
優秀な騎士たちは前線へ。僕は、落ちこぼれだから後方。
でも両親は喜んでくれた。
僕が死ぬ可能性が低くなったんだって。僕も一瞬そう思って、そう思った自分を恥じた。僕は騎士として失格だ。
そう思う。
彼も、アルノルドも前線にいるのに。
僕は曇り空を見上げて、彼の無事を祈った。
戦争が始まって、もうすぐ3年がたつ。
僕は今、後方支援部隊を率いて、戦場に立っている。
ずいぶん前から、こうして戦場に立つようになった。
仕方ない。前線が崩れているから。それはつまり、僕をいじめていた優秀な騎士たちが死んだってことだ。僕は、まったく喜べなかった。
当たり前だ。だって、人が死んだんだから。
そして僕たちも戦いに出ることになった。
僕はいつも恐怖している。
頬を銃弾がかすめた。
慌てて伏せる。頭上を何発も通り過ぎて、後ろにいた部下の耳を直撃したのがなんとなく見えた。
痛みでうめく声が聞こえる。
戦場の音だ。
銃声が止んだ。
上官が叫ぶ。前へ、と叫ぶ。
――嫌だ!
――死にたくない!
でも、僕たちは走りだす。また一人、一人と倒れていくのを無視して、僕は戦場を走る。
こんなになるくらいなら、強くなくていい。
騎士じゃなくていい。
僕は、僕は、生きて帰りたいよ……。
ふいに、空が明るくなった。
「信号弾だ……」
誰かが言った。
青い信号弾。あれは、あれは味方の合図。
「敵の本陣を、我が軍の本隊が落としたんだ」
銃撃が止む。敵が引き返していく。
冷たい汗がだらだらと顎を伝っていって、血と一緒に地面に吸い込まれた。
僕は、僕は知った。
僕たちは、生き残った。
僕は生き残った。
彼も生き残った。
でも、僕達はそれ以来疎遠だった。
いや、僕が彼から距離を取った。だって、彼は英雄だった。
最後の作戦。彼の指揮する部隊が敵の本陣を崩したそうだ。その前から彼の部隊の戦果はすさまじくて、彼は「黒騎士」と呼ばれ、国王陛下の覚えもめでたい、すごい人になった。
雲の上の人だ。
後方支援していた僕とはちがうのだ。
そう思っていたのに。
「おい!」
街で声をかけられて、僕は飛び跳ねるほど驚いた。
「そんなに驚くなよ」
そう言って笑った人を相手に、僕は目を丸くする。
「アルノルドくん」
「ああ、久しぶりだな」
彼は昔と変わらない表情で笑った。
僕はその時卑屈になっていたんだ。だから正直、会いたくなかった。
僕は彼をしたから睨むように見ていた。
彼はそんな僕に気づかないようで、最近好きな人と婚約したって話を聞かせてくれた。
いいよね、君はかっこいいから、
僕はさらに卑屈になった。
「君は、いいよね」
「?」
「かっこいいし、強いし、今は権力もあるし、女性なんて選び放題じゃないか。羨ましいなぁ。その人も君のそういうかっこいいところが良かったのかな。僕みたいに後方支援なら、結婚してくれたかわからないよね」
「なに、言ってるんだ?」
「君にはわからないかも。しかたないよ。君は黒騎士で、僕とは違うから」
そのとき、僕は彼がひどく泣きそうな顔をしてることに気づいた。
気づいてしまった。
「お前、俺に会いたくなかったのか」
「え?」
「だから、ずっと遠ざけてたのか。会う機会あるはずなのに、全然会えなかったのはそういうことか」
僕は口ごもる。たしかに、距離を置こうとしてたから。
「俺のこと、本当は嫌いだったのか」
「ちがっ」
「俺は、お前が生きててくれて嬉しかった。嬉しいんた。それだけだ。それだけだよ」
アルノルドはそう言うとうつむいてしまった。
「アルノルドくん……ごめ……」
「いや、ごめん。俺が悪かった。ごめん」
謝らせてくれなかった。
引き留めようとした。でも、彼は待ってくれなかった。待ってくれなかったんだ。
僕は。
僕は追いかけた。
全力で走って、追いかけた。
「アルノルドくん!」
彼が振り返る。
「ちがうんだ! ごめん! ごめんね! 僕、僕何やってもうまく行かなくて、両親も亡くなってしまっていて……。帰ってきてから僕を迎えてくれる人もいなくて、僕一人で、寂しかった。惨めで。君と比べてしまったんだ」
彼は立ち止まって僕を見ていた。
僕は周りの人の目も気にせず彼に本心をつけたんだ。
「でも、僕だってそうだよ。僕だって、君が無事でうれしい。君が生きててくれて、嬉しい! 遠いところに行ってしまったみたいに思ってた。でも、でも僕は君が生きてて、僕は――」
「なぁ」
気づけば、彼は僕を見下ろしてた。
やっぱり、背が高いなぁ。
僕はうつむいてしまう。そんな僕に頭上から彼は言った。
「俺のこと、嫌いじゃないか?」
「うん」
「うざいとか、思ってる?」
「それは、僕のセリフだよ」
「思ってないよ」
「僕だってそうさ」
「……親友だと思ってて、いいか」
その声に、僕は慌てて彼の顔を見た。
嬉しそうな、悲しそうな、怒ったような、複雑な顔をしていた。
「僕でいいの?」
「俺は、親友だと思ってたけど」
「僕、強くないよ」
「そういうのを理由に友達選んでない」
「そっか」
たしかに。ぼくも、彼が強いから一緒にいたのかというと、そうではないかもしれない。
一緒がよかったから、一緒にいたんだよな。
「うん。僕達、親友?」
「ああ」
「そうか」
「だからさ、君付けやめろよ」
「え、そんなの気にしてたの?」
「……多少」
よそを向いてつぶやく彼は、なんだか少し可愛かった。
とまぁそんな感じで親友になったんだ。
え? オチがない?
そりゃないよ。別に何も。普通にしてて普通に友達になったんだから。
でも、これでわかったでしょう?
彼って優しいんだ。
知ってた? そっかぁ。僕のほうがよく知ってるよ。
張り合わないでって、だって親友だからね。
ところで、君名前は?
ジルベルタ?
どっかで聞いたな。
どこだっけ……。
あ、そうだ、アルノルドの婚約者……。
え、ええ?
ええええ!?
おちゃめな彼女は、
僕のあこがれの親友の奥さん。
僕は彼女の夫の親友です。
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