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第二話
花子さんのお悩み(1)
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次の日、翼は見たい映画がある為、辰巳と一緒に車で映画館へ向かっていた。
調布市は映画の街。あの怪獣映画もこの街で撮影された。翼は車の窓から見える景色を眺めながら昨日の事を振り返っていた。それは、辰巳から教えてもらった〝見える世界〟と〝見えない世界〟についてだ。この世には、見える世界と見せない世界があり、翼達人間は見える世界で生きていて妖怪や幽霊は見えない世界で生きている。翼はその話を聞いた記憶を思い返していた。そして、朝と昼間は妖怪と幽霊の姿が全く見えない。
「叔父さん。昼になると妖怪が見えないんだね」
辰巳は運転をしながら教えた。
「まぁ、そうだね。でも、朝や昼でも妖怪は変わりなく活動しているんだよ」
「妖怪って、お化けみたいなものでしょ?光とか怖くないの?」
「普通の人は、お化けは夜だけしか出ないと思っているけど、普通に昼までもいるよ」
「でも、全然姿が見えない」
「そりゃそうだ。ここは田舎とは違うからね。昼間の妖怪はあまり人が少ない所にいるか姿を消しているからね」
「見えている人でも姿を消した妖怪は見えないの?」
「見えないね。見る事ができるとなれば、昼間の人通りの少ない所か、夕方や夜が目安だな」
「ふ~ん」
翼は辰巳の話を聞いて理解した。
「でも、見える人と見えない人がそれぞれいるのって、なんか複雑だね」
運転している辰巳は笑った。
「そういうもんさ。仕方がないよ」
翼は気になった事を辰巳に訊いた。
「叔父さん。妖気が一番強い場所ってどこなの?」
その質問に辰巳は答えた。
「そうだな・・。一番妖気が強いのは京都かな?二番目は鎌倉だね。」
「京都と鎌倉が強いの?」
辰巳は頷いた。
「ああ。京都と鎌倉は昔から妖怪がたくさん生き続けている街だからね。古い時代からある街や都は強い妖気を放出しているんだ」
「どうして、そんなに詳しいの?」
辰巳は少しだけ教えた。
「幽霊に教えてもらった・・ってとこだな」
「幽霊⁈」
翼は目を大きく見開いて大声を出した。
「叔父さん、どういうこと?」
翼は辰巳に詳しく話を聞こうとしたが、辰巳はそれをスルーするかのように話を変えた。
「それよりも、翼くん。もうじき映画館に着くぞ」
辰巳は翼の質問に答えなかった。翼には話したくない事があるのだろうか?
それとも、いちいち話すのが面倒になってきたのかもしれない。
辰巳と翼は映画館の中にいた。翼はこれから見る映画が始まる前に売店でポップコーンとジュースを買って手に持っていた。
映画が始まる10分前になると、辰巳は翼に訊いた。
「後は一人で行けるよな?」
翼は頷き返事した。
「うん。叔父さん、ホントに一緒に来なくていいの?」
「ああ。今日は、少し用事があるんだ。映画が終わったらすぐ連絡しろよ?すぐ迎えに行くから」
翼は頷いた。
辰巳は上映室へ向かう翼を見送った後、映画館を後にして駐車場へ向かった。
辰巳は駐車場に停めた車に乗りシートベルトを掛けアクセルを踏んだ。車は進み駐車場から道路へ出た。
道路で走っている車はとある目的地へ向かっていた。辰巳は事故を起こさぬよう安全運転でその目的地へ向かい車を走らせていた。
しばらくして、翼を見送った映画館から出発した車は調布駅の通りを出て先へ進んだ。調布駅を過ぎそのまま走っていると暑い中、歩行者通路には出掛けている人やマラソンで走っている人もいた。そして、隣の道路には調布へ向かって走る車が次々と通っていた。ラジオを聞きながら辰巳はハンドルを握ったまま車を真っ直ぐ走らせた。そして、辰巳はハンドルを回すと車は左へ曲がった。曲がった左の道路を走っていると畑が見え緑色の葉を生やした木が立っていた。
辰巳は調布市から近い少し布田市に来たのだ。布田市に来たのは、辰巳が翼に言った〝用事〟を済ませる為だ。布田市に入った辰巳は車を走らせながら10分後、車を停めた。
停めた先は、一軒家の住宅だった。住宅の門柱に付いている名札プレートには「町田」と書かれていた。辰巳は車から降りて名札プレートの隣にあるインターフォンを押した。
インターフォンのチャイムが鳴らない。辰巳はもう一度、インターフォンを押した。もう一度押しても、ぜんぜんチャイムが鳴らない。鳴らないどころか応答すらもしない。辰巳は手に顎をあてた。インターフォンがふるいんじゃないか?辰巳はそう思った。もう一度、インターフォンを押しても意味がない。辰巳は門柱の中に入りドアの前に立った。そして、辰巳はノックした。
「すみません。昨日、ご連絡を受けた山崎です」
辰巳はノックを続けた。すると、内側からガチャリと鍵を開ける音が聞こえた。その音を聞き辰巳はノックをやめた。
ドアから顔を出したのは50代後半の女性だった。とても優しそうな人だ。辰巳はその女性に挨拶をした。
「こんにちは。町田さん。昨日、ご連絡を受けました山崎辰巳です。初めまして」
辰巳の名前を聞くと女性は笑顔を見せた。
「あっ。山崎さんですか?初めまして、町田と申します」
女性は会釈をした。どうやら昨日、辰巳に連絡した人みたいだ。
「昨日は、駆け付けることができなくて申し訳ありませんでした」
辰巳は申し訳なさそうに町田さんに向かって謝った。実は、昨日の昼頃に町田さんからの連絡が着たのだ。しかし、甥っ子の翼を一人にさせるわけにはいかなかったので、今日にしてくれたのだ。
謝罪をした辰巳を見た町田さんは微笑みながら言った。
「いえいえ。お気になさらないでください。本日は、来ていただきありがとうございます」
町田さんは辰巳に優しい言葉をかけた。
辰巳はホッとした。そして、今回はどんな要件なのか訊いた。
「こちらこそ、すみませんでした。昨日のお話では調べてほしい事があるとお聞きしましたが・・」
辰巳が尋ねると町田さんはドアを大きく開けた。
「ここではなんですから、詳しい話は中でします。どうぞ、入ってください」
町田さんは辰巳に家の中へと招いた。辰巳はお邪魔します。と言い中へ入った。
辰巳は町田さんの家に入りリビングに着いた。すると、ガタン!という音が聞こえた。辰巳はその音がした方を見た。なんと、リビングにあるテーブルの椅子の前足が倒れたのだ。そのせいで椅子本体も倒れていたのだ。そして辰巳が次に気付いたのは家の中が蒸し暑い事だ。扇風機は回っている。しかし、エアコンからの涼しい風が感じない。冷房はかかっていないみたいだ。それにしても、扇風機が回っているのにこんなにムシムシするとは思いもしなかった。町田さんは一日中、こんな状況で自分が来るのを待っていたのかと辰巳はそう思うと益々申し訳ないと思い始めた。辰巳はリビングを見渡すと壁に掛けてある鳩時計は12時で止まっていた。辰巳はあたりを見た後、町田さんに訊いた。
「いつからこんな事になったのですか?」
町田さんは辰巳の質問に答えた。
「五日前です。最初は、エアコンが壊れたのかと思い修理屋さんに連絡したんです。それで、修理屋さんがエアコンを直している途中、怪我されてしまい中断してしまったのです。それから次の日、棚の戸が壊れたりテーブルの脚が取れたりしたんです。後、一昨日の時は、私と夫が寝ていたベッドが壊れたうえ、夫が急に盲腸を起こして今、病院で入院しているんです。それで昨日の朝は、水道の水が出なくなったのとテレビを点けたら勝手に消えたりしたんです。今までは、こんな事はありませんでした。私はこの5日間で起きた事を友人に話した所、友人から怪奇現象から救ってくれる人がいると教えてくれて山崎さんの名前が出たんです。私は、友人から山崎さんの電話番号を教えてもらい連絡したのです」
詳しい話を聞いた辰巳は大体の流れは把握できた。
「そうでしたか。旦那さんは、今、大丈夫なのですか?」
「今はまだ入院していますが少しずつ回復しています」
「そうですか。町田さんの方は他に不幸に遭ったりはしませんでしたか?」
町田さんは思い出しながら答えた。
「ベッドが壊れて以来、何も遭ってはいません」
辰巳は軽く頷き顎を手に乗せた。
「そうですか」
考えている辰巳を見て町田さんは様子を伺った。
「この家は祟られているのでしょうか?」
辰巳は返事をしないまま考えに夢中だった。
最初の日は、エアコンが壊れ修理屋が怪我をした。二日目は、棚の戸が壊れテーブルの脚が取れた。三日目は、町田夫妻が使っていたベッドが壊れ、夫は盲腸に遭い入院した。四日目は、水道の水が出ないうえ、点けたテレビの画面が勝手に消える。こんな不幸続きはあるのであろうか?これは、ただの不幸ではない。何かいるのは間違いないと辰巳は思った。そして、辰巳はもう一度、町田さん家のリビング見渡した。それは、この家は祟られているのではなく何かが〝憑いて〟いるに違いないと思ったのだ。リビングはそんなに目立った惨状ではないのは確かだが、絶対にこの家には何かいると確信した。
それに、辰巳は感じるのだ。〝妖しい〟気配が。
辰巳は町田さんに最後の質問を訊いた。
「町田さん。この五日間、家の中で何か変わった事はありませんでしたか?例えば、誰かがいるとか」
辰巳の質問に町田さんは考えだした。
すると、町田さんは口を開けて何か思い出したかのような表情を見せた。どうやら、心当たりはあるみたいだ。
「そういえば。夜中になると必ず誰かがいる気配を感じました。確認しに行ってみたら、結局、誰もいませんでしたが・・」
辰巳はその話を聞き町田さんに教えた。
「それはきっと、妖怪の仕業だと思います」
町田さんは少々驚いたかのような表情で言った。
「妖怪・・ですか?」
辰巳は頷いた。その表情は真面目だった。
「はい。私が住んでいる調布には妖怪が多く存在しているんです。この町もそうです。妖怪は人を襲うだけではなく、大人しい子や勝手に人の家に上がり込む奴もいます。恐らく、町田さんが感じた気配というのは「妖気」という妖怪が放つ気配です。そして、その妖気の持ち主は、この家の中にいます」
町田さんは驚いたき不安な表情になった。
「ええっ⁈じゃあ、その妖怪がこの家のどこかにいるんですか?」
どうやら、町田さんはこの家に妖怪か幽霊がいると知るとだんだん不安そうな表情で辰巳を見ていた。
辰巳は頷いた。
「ええ。間違いありません。ですが、ご安心ください。全て私にお任せください」
そう言った途端、微かな妖気を感じ始めた。辰巳はその微かな妖気を感知した。
「町田さん。今、妖気を感じます。あなたの方は感じますか?」
すると、町田さんは思い出したかのような表情で辰巳に言った。
「この怪しげな気配が妖気なんですか?」
「感じるんですか?妖気を感じる人間はここ東京だとそんなにはいないんです。」
「そうなんですか・・」
町田さんは不安な表情を一切変えず辰巳の説明を聞いた。
「これから、妖気を頼りながら静かに進みます。町田さんは、ここで待機していても構いません」
辰巳は、町田さんをリビングで待つようにと言った。しかし、町田さんは首を振った。
「いいえ。私も一緒に行きます」
辰巳は、わかりました。と言い再び妖気を感じた。微かだが廊下から感じた。辰巳は町田さんを連れて微かな妖気に頼りながら静かに歩み始めた。
辰巳は先頭で微かな妖気を感じながら進んでいた。町田さんも辰巳の後を付いていた。二人は静かに歩みながら妖気を頼って進んだ。二人が玄関の前まで近づいた時、先頭にいる辰巳が急に立ち止まった。後ろにいる町田さんも急に止まった。
すると、辰巳が見たのは2階への階段だった。
辰巳は2階が怪しいと思った。
「2階から妖気が感じますね。行きましょう」
「はい」
辰巳と町田さんは2階への階段を上りだした。
二人は2階へ着いた。2階には3つの扉があった。それは、町田さんと入院している旦那さん、もう一つは自立した子供の部屋に違いない。辰巳は迷いもせず階段から近い左側の扉の前に立った。辰巳は町田さんの方を振り返って人差し指を口の前に立てた。町田さんは静かに息を飲み頷いた。そして、辰巳はドアノブを握った。町田さんは緊張していた。夫の部屋の中に元凶がいるとなると少々怖くなってきたのだ。
辰巳は勢いよくドアを開けた。辰巳が夫の部屋の中へ入ると続いて町田さんも部屋の中へ入った。
二人が見たのは、町田さんの夫が使っている壊れたベッドの上に寛いでいる老人の姿が見えた。その老人はやせ細い体と顔にボロボロで汚れているうえ、汚らしい着物を着ていた。そして、背中には古い風呂敷を背負っている。老人はいきなり二人が入ってきたのを見て驚いていた。
「な、なんですか、あなたは⁈夫の部屋で何をしているんですか?」
町田さんは眉間を寄せながら甲高い声で汚れた老人に訊いた。
すると、辰巳は汚れている老人の方へ近づいた。汚れている老人は少々警戒しているかのように近づいてくる辰巳を睨んでいた。辰巳はその様子を見た途端、口が開き汚れている老人に訊いた。
「もしかして、あんた、貧乏神か?」
汚れている老人はその名前を聞いた途端、反応した。
「わしを知っておるのかね?」
辰巳は言った。
「知っているも何も、その姿を見ればすぐわかる」
辰巳は少し力が抜けた。なんせ、相手はただの貧乏神だからだ。
町田さんは辰巳の方へ近づき貧乏神を見た。
「貧乏神・・・?」
辰巳は頷き町田さんに貧乏神について説明をした。
「はい。この人は、貧乏神という神様の一人でもあり妖怪でもあるんです。貧乏神が家に入るとその家に住んでいる人間が不幸になるんです。先程、町田さんが言っていた旦那さんが急に盲腸になったり、使っていたベッドが壊れたり等、次々と不幸に見舞われる様になった原因がこの貧乏神です。町田さんが夜中に感じた妖気の正体は、間違いなくこの人です。貧乏神は家に不幸を呼ぶ妖怪でもあり神でもあるので人間を襲ったりはしません」
その説明を聞いた町田さんは貧乏神を見て歯を食い縛っている。怒りの表情が見える。歯を食い縛っている町田さんはしかめ面をして辰巳の前に立った。そして、声を震わせながら貧乏神に問いただした。
「なんで私達の家に来たの?あんたのおかげで夫は盲腸に遭ったりエアコンを直してくれている業者さんが怪我をしたりしていろいろと大変だったのよ」
貧乏神は黙ったまま町田さんの怒りの声を聞いていた。
「あんたのせいで、私はこの五日間、不幸だったのよ?全部、あんたのせいで‼」
町田さんは最後のセリフに声を張り上げた。その張り上げた声に貧乏神は一瞬ビビリだした。貧乏神は町田さんに向かって反撃の言葉を出さなかった。貧乏神は悲しそうな表情を見せた。しかし、町田さんの怒りは収まらなかった。
辰巳はふさぎ込んでいる貧乏神を見て少し可哀想だと思った。彼は好きで町田さんの家に来たわけではないのだから。町田さんは怒りで歯を剥き出したまま貧乏神を睨み続けている。よほど貧乏神が許せないのであろう。彼はこの家に憑いてからこの五日間、誰にもばれないよう身を隠しながら過ごしたに違いない。今までバレなかったのがすごい。と言いたいが、ただ町田夫妻が見えなかっただけであろう。そして、町田さんが急に妖気を感じたのが最近なのでそれ以来は貧乏神の仕業だと気が付かなったのであろう。最初は辰巳を警戒していた貧乏神は今じゃ町田さんの怒りでビビり尻尾を丸めているかのように怯えている。
すると、貧乏神はゆっくりと口を開いた。
「そ、そんな事を言われても・・・。わしはしがない貧乏神。ただ家に入っただけでそんなにー」
貧乏神が言いかけた途端、町田さんはまた大きな声で言った。
「何を言っているの?ただ家に入っただけが何?だったら、最初から入らないでちょうだいよ!」
辰巳は町田さんの態度を見てこれ以上エスカレートしたら時間がかかってしまう。映画館で映画を観ている翼を迎えに行かなければならないしどうしようかと辰巳は考えた。
結局思い出したのは町田さんの怒りを抑えてこれ以上、貧乏神に八つ当たりするのをやめてもらうしかない。辰巳はそっと町田さんの方へ近付き怒りを鎮めさせるよう辰巳が言った。
「町田さん。もうそれぐらいにしましょう」
町田さんはしかめ面をしたまま辰巳の方を見た。
「ですが、山崎さん。この人は、私の夫や家を不幸にー」
言いかけた所で辰巳は言う。辰巳はこれ以上、愚痴を言わせないと思い話し出したのだ。
「お気持ちはお察しします。ですが、貧乏神は元から人を不幸にさせる力を持っています。それは、仕方がない事なんです。貧乏神本人は決してわざと人を不幸にしているわけではありません」
「ですがー」
「妖怪は様々な力を持っています。水を操る力や影の世界へ入る力、中には魂を喰らう為、殺める力や捕らえる力等様々あるんです。貧乏神は、人を不幸にしたり生活を貧しくさせる力を持っています。妖怪は、遥か昔の時代から生き続けている生き物なんです。決して妖怪のせいにしてはいけません」
辰巳が真剣に話していたので町田さんは黙ってしまった。きっと、理解してくれると辰巳は信じていた。町田さんが黙っている間に辰巳は貧乏神に言った。
「貧乏神。もう大丈夫。そろそろ、この家を出て行ってくれないか?それと、もう二度と町田さんの家には来るなよ?」
貧乏神は悲しそうな表情から普通の表情に戻り座っていた夫のベッドの上をゆっくりと立った。
「分かった。約束しよう。若い人間よ。この恩は決して忘れぬ」
貧乏神は深々と頭下げて辰巳にお礼を言った。
「では、さらばじゃ!」
そう言った途端、貧乏神の足元からボンッと白い煙が噴き出てきた。貧乏神は白い煙と共に姿を消したのであった。これで、もう二度と町田さんの家には来ないだろう。これで、町田さんの件は終わりだ。
辰巳は車を走らせていた。町田さんの件が終わった後、寄り道しながら時間を潰し今は翼がいる調布市の映画館へ向かっていた。
車の中から流れるFMラジオは、リスナーとゲストが楽しく会話をしていた。中から見える外の景色は。走っている車に歩道を歩く人々の姿。辰巳はハンドルを握ったまま車を真っ直ぐ進ませていた。そして、赤信号が見えると前の車の後ろで停まった。辰巳は、赤信号で車を停めている間、ラジオのチャンネルを変えた。さっきのリスナーとゲストが会話していたラジオ番組の他は音楽流れていたり雑音が出たり違うラジオ番組がやっていたりしていた。しかし、面白そうな番組がなかったので辰巳はラジオを切りカーナビの方を見た。
しばらくして、信号が青に変わった。前の車が動き出すと辰巳はアクセルを踏んで自分の車を走らせた。辰巳の車は通常通りの速度で道路を走る。そのまま、進むと調布駅の広場が見えてきた。辰巳の車は調布駅の広場にある道路を使って先へ進んだ。
一方、翼は観賞していた映画が終わり上映室から出た所だった。売店で買ったポップコーンとジュースをゴミ箱に出て映画館のホームへ向かった。
ホームに着くと翼はポケットからスマホを取り出し弄り始めた。辰巳に連絡するからだ。翼はスマホを耳に当てた。スマホからコール音が聞こえていた。すると、翼が話し出した。辰巳が電話に出たのだ。
「叔父さん。今、映画観終わってホームにいるよ。今どこにいるの?」
翼はスマホを耳に当てながら返事をしていた。
「分かった。迎えに来るまでホームで待っているよ」
翼は電話を切りスマホを尻ポケットに閉まった。
外は夕暮れ時になっていた。翼は、辰巳の隣の席でスマホを弄っていた。辰巳は、映画館で待っていた翼を向掛けに行き今は、家まで運転していた。
翼がスマホを弄っているといきなりバイブレーションが鳴った。それは、一通のLEINメッセージが届いていたのだ。LEINメッセージの相手は母親からだった。それを知った辰巳は無表情でメッセージの内容を読み、そして、無視した。翼にとって両親は自分勝手な人だと思い込んでいるので相手が母親でも軽蔑している。辰巳は、運転に集中していたので、誰から着たのか気にもしなかった。翼はスマホを弄るのをやめて車の窓から見える外の景色を見始めた。外は夕焼けに染まり歩行者道路で歩いている人々の姿、中には初日の時に見かけた天神通り商店街の看板と鬼太郎のオブジェに立つ並ぶお店に会社。翼は母親のLINEメッセージを忘れ明日はどこに行こうかと思い辰巳に話しかけた。
「叔父さん。明日、どこ行く?」
辰巳は運転しながら言った。
「そうだなぁ・・」
辰巳が考えていると辰巳はフッと思い出した。
「そういえば、調布って映画やゲゲゲの鬼太郎で有名なんだよね?」
「そうだよ」
辰巳が返事を返すと思いついたかの様な顔つきで翼に教えた。
「そうだ。翼くん、明日、深大寺へ行ってみないか?」
「深大寺?」
「とても自然が豊かなんだ。それだけじゃない。鬼太郎茶屋というお店もあるんだ」
「へぇ~。」
「どうだい?行ってみるかい?」
翼は考えだした。辰巳は運転しながら翼の答えを待っていた。
「いいよ。行ってみようよ」
翼は笑顔で辰巳の提案に賛成した。
「よし。決まりだな」
辰巳は微笑んだ。明日は、深大寺でのお出かけだ。
午後20時の夜。
翼は続きの夏休みの宿題をやり終え、入っていた風呂から出た所だった。翼はさっぱりした顔をして台所へ入り冷蔵庫から200mlコーラが入っているペットボトルを取り出しコップに注いだ。コーラはコップの中でシュワシュワと爽快な音を立てていた。一方、辰巳はソファに座りながらテレビを見ていた。観ているのは、日テレのバラエティー番組だった。辰巳はその番組を観ていて笑っていた。翼は飲んだコップを台所の流し台に置き蓋をしっかり閉めたコーラのペットボトルを冷蔵庫に閉まった後、リビングの方へ向かった。リビングにいた翼はソファに座りながらテレビを観ている辰巳の方へ走った。そして、翼は辰巳の前に立った。辰巳は目の前にいる翼を見てどうしたんだと思った。すると、翼は辰巳の膝の上に乗りギュッとハグをした。翼はまだ子供。辰巳に甘えたかったのであろう。辰巳はそんな翼を見て優しく抱いた。翼は辰巳に抱き着いたまま動かなかった。
ピンポーン
辰巳と翼はそのチャイムに気付き玄関の方を見た。インターフォンのチャイムが鳴ったという事は、誰かが来ているという事だ。辰巳は自分の膝から翼を下ろし立ち上がり玄関の方へ歩いて行った。
玄関のドアの前に着いた辰巳は鍵を開けドアノブを触りドアを開けた。
「はい?」
辰巳は玄関のドアから顔を出した。こんな夜遅く誰なんだろうと思っていたら、辰巳の目の前にはおかっぱ頭で白いシャツを着ていて赤いスカートと赤い靴を履いた一人の少女が現れた。その少女は、辰巳に向けてお辞儀をした。
「こんばんは」
「君は、もしかして・・」
少女は辰巳を見て頷いた。
「はい。花子です」
花子と名乗った少女は自分の名前を辰巳に教えた。しかも、この少女は礼儀が正しいおしとやかな性格を持っていた。
「夜分遅くにすみません」
辰巳は珍しそうな顔で花子さんに訊いた。
「珍しいね。花子さんが外に出ているなんて」
花子さんは困っている表情で言った。
「実は、山崎先生にご相談があって来たのですが・・」
「僕に相談?」
「はい。」
花子さんは頷いた。普段は女子トイレにいる花子さんがこうして、辰巳の家に来ているという事はよほど困っている事があるのだろう。辰巳は玄関のドアを大きく開けた。
「ここじゃなんだから、よかったら入りなさい。中で詳しく話を聞こう」
それを聞いた花子さんはまたお辞儀をした。
「ありがとうございます」
お礼を言った後、花子さんは辰巳の家の中へ入った。
調布市は映画の街。あの怪獣映画もこの街で撮影された。翼は車の窓から見える景色を眺めながら昨日の事を振り返っていた。それは、辰巳から教えてもらった〝見える世界〟と〝見えない世界〟についてだ。この世には、見える世界と見せない世界があり、翼達人間は見える世界で生きていて妖怪や幽霊は見えない世界で生きている。翼はその話を聞いた記憶を思い返していた。そして、朝と昼間は妖怪と幽霊の姿が全く見えない。
「叔父さん。昼になると妖怪が見えないんだね」
辰巳は運転をしながら教えた。
「まぁ、そうだね。でも、朝や昼でも妖怪は変わりなく活動しているんだよ」
「妖怪って、お化けみたいなものでしょ?光とか怖くないの?」
「普通の人は、お化けは夜だけしか出ないと思っているけど、普通に昼までもいるよ」
「でも、全然姿が見えない」
「そりゃそうだ。ここは田舎とは違うからね。昼間の妖怪はあまり人が少ない所にいるか姿を消しているからね」
「見えている人でも姿を消した妖怪は見えないの?」
「見えないね。見る事ができるとなれば、昼間の人通りの少ない所か、夕方や夜が目安だな」
「ふ~ん」
翼は辰巳の話を聞いて理解した。
「でも、見える人と見えない人がそれぞれいるのって、なんか複雑だね」
運転している辰巳は笑った。
「そういうもんさ。仕方がないよ」
翼は気になった事を辰巳に訊いた。
「叔父さん。妖気が一番強い場所ってどこなの?」
その質問に辰巳は答えた。
「そうだな・・。一番妖気が強いのは京都かな?二番目は鎌倉だね。」
「京都と鎌倉が強いの?」
辰巳は頷いた。
「ああ。京都と鎌倉は昔から妖怪がたくさん生き続けている街だからね。古い時代からある街や都は強い妖気を放出しているんだ」
「どうして、そんなに詳しいの?」
辰巳は少しだけ教えた。
「幽霊に教えてもらった・・ってとこだな」
「幽霊⁈」
翼は目を大きく見開いて大声を出した。
「叔父さん、どういうこと?」
翼は辰巳に詳しく話を聞こうとしたが、辰巳はそれをスルーするかのように話を変えた。
「それよりも、翼くん。もうじき映画館に着くぞ」
辰巳は翼の質問に答えなかった。翼には話したくない事があるのだろうか?
それとも、いちいち話すのが面倒になってきたのかもしれない。
辰巳と翼は映画館の中にいた。翼はこれから見る映画が始まる前に売店でポップコーンとジュースを買って手に持っていた。
映画が始まる10分前になると、辰巳は翼に訊いた。
「後は一人で行けるよな?」
翼は頷き返事した。
「うん。叔父さん、ホントに一緒に来なくていいの?」
「ああ。今日は、少し用事があるんだ。映画が終わったらすぐ連絡しろよ?すぐ迎えに行くから」
翼は頷いた。
辰巳は上映室へ向かう翼を見送った後、映画館を後にして駐車場へ向かった。
辰巳は駐車場に停めた車に乗りシートベルトを掛けアクセルを踏んだ。車は進み駐車場から道路へ出た。
道路で走っている車はとある目的地へ向かっていた。辰巳は事故を起こさぬよう安全運転でその目的地へ向かい車を走らせていた。
しばらくして、翼を見送った映画館から出発した車は調布駅の通りを出て先へ進んだ。調布駅を過ぎそのまま走っていると暑い中、歩行者通路には出掛けている人やマラソンで走っている人もいた。そして、隣の道路には調布へ向かって走る車が次々と通っていた。ラジオを聞きながら辰巳はハンドルを握ったまま車を真っ直ぐ走らせた。そして、辰巳はハンドルを回すと車は左へ曲がった。曲がった左の道路を走っていると畑が見え緑色の葉を生やした木が立っていた。
辰巳は調布市から近い少し布田市に来たのだ。布田市に来たのは、辰巳が翼に言った〝用事〟を済ませる為だ。布田市に入った辰巳は車を走らせながら10分後、車を停めた。
停めた先は、一軒家の住宅だった。住宅の門柱に付いている名札プレートには「町田」と書かれていた。辰巳は車から降りて名札プレートの隣にあるインターフォンを押した。
インターフォンのチャイムが鳴らない。辰巳はもう一度、インターフォンを押した。もう一度押しても、ぜんぜんチャイムが鳴らない。鳴らないどころか応答すらもしない。辰巳は手に顎をあてた。インターフォンがふるいんじゃないか?辰巳はそう思った。もう一度、インターフォンを押しても意味がない。辰巳は門柱の中に入りドアの前に立った。そして、辰巳はノックした。
「すみません。昨日、ご連絡を受けた山崎です」
辰巳はノックを続けた。すると、内側からガチャリと鍵を開ける音が聞こえた。その音を聞き辰巳はノックをやめた。
ドアから顔を出したのは50代後半の女性だった。とても優しそうな人だ。辰巳はその女性に挨拶をした。
「こんにちは。町田さん。昨日、ご連絡を受けました山崎辰巳です。初めまして」
辰巳の名前を聞くと女性は笑顔を見せた。
「あっ。山崎さんですか?初めまして、町田と申します」
女性は会釈をした。どうやら昨日、辰巳に連絡した人みたいだ。
「昨日は、駆け付けることができなくて申し訳ありませんでした」
辰巳は申し訳なさそうに町田さんに向かって謝った。実は、昨日の昼頃に町田さんからの連絡が着たのだ。しかし、甥っ子の翼を一人にさせるわけにはいかなかったので、今日にしてくれたのだ。
謝罪をした辰巳を見た町田さんは微笑みながら言った。
「いえいえ。お気になさらないでください。本日は、来ていただきありがとうございます」
町田さんは辰巳に優しい言葉をかけた。
辰巳はホッとした。そして、今回はどんな要件なのか訊いた。
「こちらこそ、すみませんでした。昨日のお話では調べてほしい事があるとお聞きしましたが・・」
辰巳が尋ねると町田さんはドアを大きく開けた。
「ここではなんですから、詳しい話は中でします。どうぞ、入ってください」
町田さんは辰巳に家の中へと招いた。辰巳はお邪魔します。と言い中へ入った。
辰巳は町田さんの家に入りリビングに着いた。すると、ガタン!という音が聞こえた。辰巳はその音がした方を見た。なんと、リビングにあるテーブルの椅子の前足が倒れたのだ。そのせいで椅子本体も倒れていたのだ。そして辰巳が次に気付いたのは家の中が蒸し暑い事だ。扇風機は回っている。しかし、エアコンからの涼しい風が感じない。冷房はかかっていないみたいだ。それにしても、扇風機が回っているのにこんなにムシムシするとは思いもしなかった。町田さんは一日中、こんな状況で自分が来るのを待っていたのかと辰巳はそう思うと益々申し訳ないと思い始めた。辰巳はリビングを見渡すと壁に掛けてある鳩時計は12時で止まっていた。辰巳はあたりを見た後、町田さんに訊いた。
「いつからこんな事になったのですか?」
町田さんは辰巳の質問に答えた。
「五日前です。最初は、エアコンが壊れたのかと思い修理屋さんに連絡したんです。それで、修理屋さんがエアコンを直している途中、怪我されてしまい中断してしまったのです。それから次の日、棚の戸が壊れたりテーブルの脚が取れたりしたんです。後、一昨日の時は、私と夫が寝ていたベッドが壊れたうえ、夫が急に盲腸を起こして今、病院で入院しているんです。それで昨日の朝は、水道の水が出なくなったのとテレビを点けたら勝手に消えたりしたんです。今までは、こんな事はありませんでした。私はこの5日間で起きた事を友人に話した所、友人から怪奇現象から救ってくれる人がいると教えてくれて山崎さんの名前が出たんです。私は、友人から山崎さんの電話番号を教えてもらい連絡したのです」
詳しい話を聞いた辰巳は大体の流れは把握できた。
「そうでしたか。旦那さんは、今、大丈夫なのですか?」
「今はまだ入院していますが少しずつ回復しています」
「そうですか。町田さんの方は他に不幸に遭ったりはしませんでしたか?」
町田さんは思い出しながら答えた。
「ベッドが壊れて以来、何も遭ってはいません」
辰巳は軽く頷き顎を手に乗せた。
「そうですか」
考えている辰巳を見て町田さんは様子を伺った。
「この家は祟られているのでしょうか?」
辰巳は返事をしないまま考えに夢中だった。
最初の日は、エアコンが壊れ修理屋が怪我をした。二日目は、棚の戸が壊れテーブルの脚が取れた。三日目は、町田夫妻が使っていたベッドが壊れ、夫は盲腸に遭い入院した。四日目は、水道の水が出ないうえ、点けたテレビの画面が勝手に消える。こんな不幸続きはあるのであろうか?これは、ただの不幸ではない。何かいるのは間違いないと辰巳は思った。そして、辰巳はもう一度、町田さん家のリビング見渡した。それは、この家は祟られているのではなく何かが〝憑いて〟いるに違いないと思ったのだ。リビングはそんなに目立った惨状ではないのは確かだが、絶対にこの家には何かいると確信した。
それに、辰巳は感じるのだ。〝妖しい〟気配が。
辰巳は町田さんに最後の質問を訊いた。
「町田さん。この五日間、家の中で何か変わった事はありませんでしたか?例えば、誰かがいるとか」
辰巳の質問に町田さんは考えだした。
すると、町田さんは口を開けて何か思い出したかのような表情を見せた。どうやら、心当たりはあるみたいだ。
「そういえば。夜中になると必ず誰かがいる気配を感じました。確認しに行ってみたら、結局、誰もいませんでしたが・・」
辰巳はその話を聞き町田さんに教えた。
「それはきっと、妖怪の仕業だと思います」
町田さんは少々驚いたかのような表情で言った。
「妖怪・・ですか?」
辰巳は頷いた。その表情は真面目だった。
「はい。私が住んでいる調布には妖怪が多く存在しているんです。この町もそうです。妖怪は人を襲うだけではなく、大人しい子や勝手に人の家に上がり込む奴もいます。恐らく、町田さんが感じた気配というのは「妖気」という妖怪が放つ気配です。そして、その妖気の持ち主は、この家の中にいます」
町田さんは驚いたき不安な表情になった。
「ええっ⁈じゃあ、その妖怪がこの家のどこかにいるんですか?」
どうやら、町田さんはこの家に妖怪か幽霊がいると知るとだんだん不安そうな表情で辰巳を見ていた。
辰巳は頷いた。
「ええ。間違いありません。ですが、ご安心ください。全て私にお任せください」
そう言った途端、微かな妖気を感じ始めた。辰巳はその微かな妖気を感知した。
「町田さん。今、妖気を感じます。あなたの方は感じますか?」
すると、町田さんは思い出したかのような表情で辰巳に言った。
「この怪しげな気配が妖気なんですか?」
「感じるんですか?妖気を感じる人間はここ東京だとそんなにはいないんです。」
「そうなんですか・・」
町田さんは不安な表情を一切変えず辰巳の説明を聞いた。
「これから、妖気を頼りながら静かに進みます。町田さんは、ここで待機していても構いません」
辰巳は、町田さんをリビングで待つようにと言った。しかし、町田さんは首を振った。
「いいえ。私も一緒に行きます」
辰巳は、わかりました。と言い再び妖気を感じた。微かだが廊下から感じた。辰巳は町田さんを連れて微かな妖気に頼りながら静かに歩み始めた。
辰巳は先頭で微かな妖気を感じながら進んでいた。町田さんも辰巳の後を付いていた。二人は静かに歩みながら妖気を頼って進んだ。二人が玄関の前まで近づいた時、先頭にいる辰巳が急に立ち止まった。後ろにいる町田さんも急に止まった。
すると、辰巳が見たのは2階への階段だった。
辰巳は2階が怪しいと思った。
「2階から妖気が感じますね。行きましょう」
「はい」
辰巳と町田さんは2階への階段を上りだした。
二人は2階へ着いた。2階には3つの扉があった。それは、町田さんと入院している旦那さん、もう一つは自立した子供の部屋に違いない。辰巳は迷いもせず階段から近い左側の扉の前に立った。辰巳は町田さんの方を振り返って人差し指を口の前に立てた。町田さんは静かに息を飲み頷いた。そして、辰巳はドアノブを握った。町田さんは緊張していた。夫の部屋の中に元凶がいるとなると少々怖くなってきたのだ。
辰巳は勢いよくドアを開けた。辰巳が夫の部屋の中へ入ると続いて町田さんも部屋の中へ入った。
二人が見たのは、町田さんの夫が使っている壊れたベッドの上に寛いでいる老人の姿が見えた。その老人はやせ細い体と顔にボロボロで汚れているうえ、汚らしい着物を着ていた。そして、背中には古い風呂敷を背負っている。老人はいきなり二人が入ってきたのを見て驚いていた。
「な、なんですか、あなたは⁈夫の部屋で何をしているんですか?」
町田さんは眉間を寄せながら甲高い声で汚れた老人に訊いた。
すると、辰巳は汚れている老人の方へ近づいた。汚れている老人は少々警戒しているかのように近づいてくる辰巳を睨んでいた。辰巳はその様子を見た途端、口が開き汚れている老人に訊いた。
「もしかして、あんた、貧乏神か?」
汚れている老人はその名前を聞いた途端、反応した。
「わしを知っておるのかね?」
辰巳は言った。
「知っているも何も、その姿を見ればすぐわかる」
辰巳は少し力が抜けた。なんせ、相手はただの貧乏神だからだ。
町田さんは辰巳の方へ近づき貧乏神を見た。
「貧乏神・・・?」
辰巳は頷き町田さんに貧乏神について説明をした。
「はい。この人は、貧乏神という神様の一人でもあり妖怪でもあるんです。貧乏神が家に入るとその家に住んでいる人間が不幸になるんです。先程、町田さんが言っていた旦那さんが急に盲腸になったり、使っていたベッドが壊れたり等、次々と不幸に見舞われる様になった原因がこの貧乏神です。町田さんが夜中に感じた妖気の正体は、間違いなくこの人です。貧乏神は家に不幸を呼ぶ妖怪でもあり神でもあるので人間を襲ったりはしません」
その説明を聞いた町田さんは貧乏神を見て歯を食い縛っている。怒りの表情が見える。歯を食い縛っている町田さんはしかめ面をして辰巳の前に立った。そして、声を震わせながら貧乏神に問いただした。
「なんで私達の家に来たの?あんたのおかげで夫は盲腸に遭ったりエアコンを直してくれている業者さんが怪我をしたりしていろいろと大変だったのよ」
貧乏神は黙ったまま町田さんの怒りの声を聞いていた。
「あんたのせいで、私はこの五日間、不幸だったのよ?全部、あんたのせいで‼」
町田さんは最後のセリフに声を張り上げた。その張り上げた声に貧乏神は一瞬ビビリだした。貧乏神は町田さんに向かって反撃の言葉を出さなかった。貧乏神は悲しそうな表情を見せた。しかし、町田さんの怒りは収まらなかった。
辰巳はふさぎ込んでいる貧乏神を見て少し可哀想だと思った。彼は好きで町田さんの家に来たわけではないのだから。町田さんは怒りで歯を剥き出したまま貧乏神を睨み続けている。よほど貧乏神が許せないのであろう。彼はこの家に憑いてからこの五日間、誰にもばれないよう身を隠しながら過ごしたに違いない。今までバレなかったのがすごい。と言いたいが、ただ町田夫妻が見えなかっただけであろう。そして、町田さんが急に妖気を感じたのが最近なのでそれ以来は貧乏神の仕業だと気が付かなったのであろう。最初は辰巳を警戒していた貧乏神は今じゃ町田さんの怒りでビビり尻尾を丸めているかのように怯えている。
すると、貧乏神はゆっくりと口を開いた。
「そ、そんな事を言われても・・・。わしはしがない貧乏神。ただ家に入っただけでそんなにー」
貧乏神が言いかけた途端、町田さんはまた大きな声で言った。
「何を言っているの?ただ家に入っただけが何?だったら、最初から入らないでちょうだいよ!」
辰巳は町田さんの態度を見てこれ以上エスカレートしたら時間がかかってしまう。映画館で映画を観ている翼を迎えに行かなければならないしどうしようかと辰巳は考えた。
結局思い出したのは町田さんの怒りを抑えてこれ以上、貧乏神に八つ当たりするのをやめてもらうしかない。辰巳はそっと町田さんの方へ近付き怒りを鎮めさせるよう辰巳が言った。
「町田さん。もうそれぐらいにしましょう」
町田さんはしかめ面をしたまま辰巳の方を見た。
「ですが、山崎さん。この人は、私の夫や家を不幸にー」
言いかけた所で辰巳は言う。辰巳はこれ以上、愚痴を言わせないと思い話し出したのだ。
「お気持ちはお察しします。ですが、貧乏神は元から人を不幸にさせる力を持っています。それは、仕方がない事なんです。貧乏神本人は決してわざと人を不幸にしているわけではありません」
「ですがー」
「妖怪は様々な力を持っています。水を操る力や影の世界へ入る力、中には魂を喰らう為、殺める力や捕らえる力等様々あるんです。貧乏神は、人を不幸にしたり生活を貧しくさせる力を持っています。妖怪は、遥か昔の時代から生き続けている生き物なんです。決して妖怪のせいにしてはいけません」
辰巳が真剣に話していたので町田さんは黙ってしまった。きっと、理解してくれると辰巳は信じていた。町田さんが黙っている間に辰巳は貧乏神に言った。
「貧乏神。もう大丈夫。そろそろ、この家を出て行ってくれないか?それと、もう二度と町田さんの家には来るなよ?」
貧乏神は悲しそうな表情から普通の表情に戻り座っていた夫のベッドの上をゆっくりと立った。
「分かった。約束しよう。若い人間よ。この恩は決して忘れぬ」
貧乏神は深々と頭下げて辰巳にお礼を言った。
「では、さらばじゃ!」
そう言った途端、貧乏神の足元からボンッと白い煙が噴き出てきた。貧乏神は白い煙と共に姿を消したのであった。これで、もう二度と町田さんの家には来ないだろう。これで、町田さんの件は終わりだ。
辰巳は車を走らせていた。町田さんの件が終わった後、寄り道しながら時間を潰し今は翼がいる調布市の映画館へ向かっていた。
車の中から流れるFMラジオは、リスナーとゲストが楽しく会話をしていた。中から見える外の景色は。走っている車に歩道を歩く人々の姿。辰巳はハンドルを握ったまま車を真っ直ぐ進ませていた。そして、赤信号が見えると前の車の後ろで停まった。辰巳は、赤信号で車を停めている間、ラジオのチャンネルを変えた。さっきのリスナーとゲストが会話していたラジオ番組の他は音楽流れていたり雑音が出たり違うラジオ番組がやっていたりしていた。しかし、面白そうな番組がなかったので辰巳はラジオを切りカーナビの方を見た。
しばらくして、信号が青に変わった。前の車が動き出すと辰巳はアクセルを踏んで自分の車を走らせた。辰巳の車は通常通りの速度で道路を走る。そのまま、進むと調布駅の広場が見えてきた。辰巳の車は調布駅の広場にある道路を使って先へ進んだ。
一方、翼は観賞していた映画が終わり上映室から出た所だった。売店で買ったポップコーンとジュースをゴミ箱に出て映画館のホームへ向かった。
ホームに着くと翼はポケットからスマホを取り出し弄り始めた。辰巳に連絡するからだ。翼はスマホを耳に当てた。スマホからコール音が聞こえていた。すると、翼が話し出した。辰巳が電話に出たのだ。
「叔父さん。今、映画観終わってホームにいるよ。今どこにいるの?」
翼はスマホを耳に当てながら返事をしていた。
「分かった。迎えに来るまでホームで待っているよ」
翼は電話を切りスマホを尻ポケットに閉まった。
外は夕暮れ時になっていた。翼は、辰巳の隣の席でスマホを弄っていた。辰巳は、映画館で待っていた翼を向掛けに行き今は、家まで運転していた。
翼がスマホを弄っているといきなりバイブレーションが鳴った。それは、一通のLEINメッセージが届いていたのだ。LEINメッセージの相手は母親からだった。それを知った辰巳は無表情でメッセージの内容を読み、そして、無視した。翼にとって両親は自分勝手な人だと思い込んでいるので相手が母親でも軽蔑している。辰巳は、運転に集中していたので、誰から着たのか気にもしなかった。翼はスマホを弄るのをやめて車の窓から見える外の景色を見始めた。外は夕焼けに染まり歩行者道路で歩いている人々の姿、中には初日の時に見かけた天神通り商店街の看板と鬼太郎のオブジェに立つ並ぶお店に会社。翼は母親のLINEメッセージを忘れ明日はどこに行こうかと思い辰巳に話しかけた。
「叔父さん。明日、どこ行く?」
辰巳は運転しながら言った。
「そうだなぁ・・」
辰巳が考えていると辰巳はフッと思い出した。
「そういえば、調布って映画やゲゲゲの鬼太郎で有名なんだよね?」
「そうだよ」
辰巳が返事を返すと思いついたかの様な顔つきで翼に教えた。
「そうだ。翼くん、明日、深大寺へ行ってみないか?」
「深大寺?」
「とても自然が豊かなんだ。それだけじゃない。鬼太郎茶屋というお店もあるんだ」
「へぇ~。」
「どうだい?行ってみるかい?」
翼は考えだした。辰巳は運転しながら翼の答えを待っていた。
「いいよ。行ってみようよ」
翼は笑顔で辰巳の提案に賛成した。
「よし。決まりだな」
辰巳は微笑んだ。明日は、深大寺でのお出かけだ。
午後20時の夜。
翼は続きの夏休みの宿題をやり終え、入っていた風呂から出た所だった。翼はさっぱりした顔をして台所へ入り冷蔵庫から200mlコーラが入っているペットボトルを取り出しコップに注いだ。コーラはコップの中でシュワシュワと爽快な音を立てていた。一方、辰巳はソファに座りながらテレビを見ていた。観ているのは、日テレのバラエティー番組だった。辰巳はその番組を観ていて笑っていた。翼は飲んだコップを台所の流し台に置き蓋をしっかり閉めたコーラのペットボトルを冷蔵庫に閉まった後、リビングの方へ向かった。リビングにいた翼はソファに座りながらテレビを観ている辰巳の方へ走った。そして、翼は辰巳の前に立った。辰巳は目の前にいる翼を見てどうしたんだと思った。すると、翼は辰巳の膝の上に乗りギュッとハグをした。翼はまだ子供。辰巳に甘えたかったのであろう。辰巳はそんな翼を見て優しく抱いた。翼は辰巳に抱き着いたまま動かなかった。
ピンポーン
辰巳と翼はそのチャイムに気付き玄関の方を見た。インターフォンのチャイムが鳴ったという事は、誰かが来ているという事だ。辰巳は自分の膝から翼を下ろし立ち上がり玄関の方へ歩いて行った。
玄関のドアの前に着いた辰巳は鍵を開けドアノブを触りドアを開けた。
「はい?」
辰巳は玄関のドアから顔を出した。こんな夜遅く誰なんだろうと思っていたら、辰巳の目の前にはおかっぱ頭で白いシャツを着ていて赤いスカートと赤い靴を履いた一人の少女が現れた。その少女は、辰巳に向けてお辞儀をした。
「こんばんは」
「君は、もしかして・・」
少女は辰巳を見て頷いた。
「はい。花子です」
花子と名乗った少女は自分の名前を辰巳に教えた。しかも、この少女は礼儀が正しいおしとやかな性格を持っていた。
「夜分遅くにすみません」
辰巳は珍しそうな顔で花子さんに訊いた。
「珍しいね。花子さんが外に出ているなんて」
花子さんは困っている表情で言った。
「実は、山崎先生にご相談があって来たのですが・・」
「僕に相談?」
「はい。」
花子さんは頷いた。普段は女子トイレにいる花子さんがこうして、辰巳の家に来ているという事はよほど困っている事があるのだろう。辰巳は玄関のドアを大きく開けた。
「ここじゃなんだから、よかったら入りなさい。中で詳しく話を聞こう」
それを聞いた花子さんはまたお辞儀をした。
「ありがとうございます」
お礼を言った後、花子さんは辰巳の家の中へ入った。
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