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第二話
花子さんのお悩み(3)
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翼と花子さんが話している束の間、とうとう花子さんが住んでいる小学校に着いたのだ。翼にとって夜の学校に来るのは、今日で初めて。夜の学校は、真っ暗で誰もいなさそうなので不気味な感じがする。どこにも、明かりの〝あ〟の字がついていない。辰巳は静寂に包まれた学校の門をよじ登り中へ入った。そして、次は翼も門をよじ登り中へ入った・花子さんは妖怪なのでよじ登る必要はなくただ浮かんで中へ入り着地した。校庭はとても静かすぎてますます不気味に感じる。辰巳と翼は暗くて静寂に包まれた校庭を照らす為、懐中電灯を使って明かりを照らした。今は夜で学校の中は暗く危ない為、懐中電灯を持って来ていたのだ。翼は暗い校庭の辺りをキョロキョロしながら少しだけ緊張していた。夜の学校探検なんて、生れて初めてだからドキドキするうえ、ちょっとだけワクワク感を抱いていた。
三人は、校庭を渡り学校の出入り口に着いた。すると、翼は学校の出入り口の扉を開けようとしたが押しても引いても開かなかった。どうやら、出入り口の扉は鍵が掛かっている様だ。それもそうだ。こんな遅い時間に学校が閉まっているのは当たり前だ。そう簡単に開かないし鍵を掛けないまま開きっぱなしで学校を出る人なんていない。きっと、学校内を見て回る警備員が仕事を終えた先生達が小学校を出た後、鍵を掛けたのだろう。でも、これでは学校の中へ入って花子さんをストーカーしている犯人が捕まえられなくなる。どうしたものかと翼は考えていた時、後ろからポンポンと軽く肩を叩いた感触がした。翼が後ろを振り向くと花子さんが翼の肩を叩いたのだ。
「ここは、あたしに任せてください」
そう言い翼は下がり言われた通り花子さんに任せる事にした。しかし、鍵が掛かっている鳶に何をする気なんだと思った翼は思った。もしかして、出入り口の扉を通り抜けて鍵を探しに行ってくれるのだろうかと思ったがそれは違った。花子さんは目を閉じ右手を前にして何やら念じ始めた。そんな様子を見た翼は一体、何をしようとしているんだと思いただ、手を前にして念じている花子さんに任せるしかなかった。翼はチラリと辰巳の方を見た。すると、辰巳は笑みを浮かべながら翼の方を見た。花子さんが一体、何をしているのか辰巳は知っている様だ。翼は花子さんが今、何をしているのかはまだ分からなかった。花子さんは手を前に出して目を閉じたまま全く動かない。翼は瞑想でもしているのであろうかと思ったその時、花子さんがこちらを見た。花子さんの顔は笑みを浮かべていてこう言ったのだ。
「解除しました」
「ん?」
花子さんの一言で翼は驚いた。すると、花子さんは開けてみてと誘っているかのように道を開けた。翼は扉を触り押し始めた。すると、さっきまでは、鍵が掛かっていたので教えても引いても開かなかった扉が開いたのだ。急に出入り口の扉が開くようになったので翼は驚いて何が起きて開いたのか分からなかった。
「ドアが開いた・・!さっきは、鍵が掛かっていて開かなかったのに」
花子さんは笑顔で驚いている翼に教えたのだ。
「あたしが、力を使って鍵を開けたのです」
「力?」
翼は花子さんが言っていた「力」とは何なのか訊いた。すると、辰巳は花子さんが使った「力」の正体を教えた。
「花子さんは、妖術(ようじゅつ)という力を使ったんだ」
「ようじゅつ?」
「妖術は、妖怪が使う不気味でもありながら不思議な力、いわゆる技を持っているんだ。化けたり呪ったり、後は癒しや物を動かしたりとか、いろいろできるんだ」
翼は目を輝かせた。
「すごい!じゃあ、花子さんはその妖術を使っていろんな事ができるんだね?」
翼は花子さんに言った。しかし、花子さんは苦笑いをした。
「いろんなって言う程ではありません。あたしは他の妖怪さんと比べて妖力は弱くあまり妖術をうまく使えないんです。それに、普段は女子トイレで過ごしているので、できるとしたら先程の鍵を開けるぐらいしかできません」
それを聞いて翼は「へぇ~」と言った。妖術のすごさは妖怪それぞれによって違うみたいだ。花子さんの場合は、妖術はあまり得意方ではないので鍵を開けるぐらいしかできないらしい。でも、鍵のキーを使わないで出入り口の扉の鍵を開けるのはすごい事だ。翼は別に花子さんが鍵を開ける妖術しか持っていないと聞きそんなに残念がる様子は全く無い。逆に感心している。まるで超能力者みたいに鍵を開けたのだから。辰巳と翼は花子さんが妖術を使ったおかげで小学校の中へ入る事ができた。後は、花子さんのストーカーを見つけるだけだ。でも、まずはストーカー捜しをする前に花子さんからヨースケくんは無事なのか確認をしたいと頼まれたのでまずは、ヨースケくんが住んでいる2階の男子トイレへ向かう事になった。翼は、ヨースケくんという七不思議の一人として呼ばれている妖怪がいたとは全く知らなかったので、花子さんが学校へ行く途中に教えてくれたとても優しい妖怪だと聞いたので、ヨースケくんはきっと、素晴らしい妖怪に違いないと翼は期待しながら思っていた。辰巳と翼は懐中電灯を前に出し光を頼りながら2階の男子トイレへ向かった。小学校の中は暗く静かで本当に不気味さを漂わせていた。確かに、こんな暗い学校の中だとどこから妖怪や幽霊が出てきてもおかしくないぐらいだ。それに、ここ調布市は、京都と鎌倉の次に妖気が強い街。この夜の学校のどこかに七不思議と呼ばわれている妖怪やお化けが潜んでいるに違いない。翼は、妖怪とお化けがいつどこで現れるか分からない為、緊張していた。でも、翼には彼、辰巳が付いているので心強かった。三人は何も話さずただ黙々と先へ進んだ。三人は、階段を見つけ2階へ上った。
辰巳達はヨースケくんがいる2階の男子トイレ前に着いた。辰巳は男子トイレのドアを開けると、そこには、翼でも知っている小便器が並んでいた。花子さんは前に出て二列目の扉にノックしながら呼んだ。
「ヨースケくん、いる?あたしよ。花子よ」
全く返事がない。
「ヨースケくん?」
花子さんはもう一度、呼んだがヨースケくんの返事が聞こえなかった。
「おかしいわ・・。いつもなら、ここにいるのに・・・。」
花子さんは困った顔をしながら言った。
「もしかすると、ヨースケくんは違う階の男子トイレにいるんじゃないのかな?」
辰巳の意見に花子は頷いた。
「そうかもしれません・・。すみません、あたし、ヨースケくんを捜しに行ってきます」
「だったら、ぼくも一緒に行くよ」
翼は花子さんと一緒にヨースケくん捜しを手伝うと言った。
「分かった。もし、何かあったらすぐ連絡してくれ。僕は、花子さんをストーカーしている犯人を捜してみる」
花子さんと翼は頷き三人は2階の男子トイレを出てそれぞれ別行動する事になった。翼は花子さんと一緒に違う階の男子トイレへ行ってヨースケくん捜し。辰巳は花子さんの事をストーカーしている犯人捜し。いつどこで、ストーカー犯が現れるか分からない為、警戒を怠らないよう捜しに行くのであった。
暗い廊下で花子さんと翼のペアは3階の男子トイレの中にいた。花子さんは男子トイレの中にある便器が設置された個室の扉をノックしたが全く返事は返ってこなかった。どうやら、ここにもヨースケくんはいないみたいだ。ヨースケくんは一体、どこへ行ってしまったのか。それは二人も分からない。ただ、二人がやるべきことは、小学校の全ての階にある男子トイレへ行ってヨースケくんの返事が返ってくるまでノックし続ける事だ。それしか、見つける方法がない。二人は3階の男子トイレを出て次は4階の男子トイレへ目指した。暗い廊下の中、懐中電灯一つだけで光を灯し4階へ向かう翼と花子さん。翼は暗い廊下の中、歩きながら時々、チラチラと目を左右動かしていた。そして、口を強く閉じていて緊張している顔を見せていた。いや、少し怯えている顔をしている。隣には花子さんがいるからいいが、花子さんは普通の人間ではなく人間の女の子の姿をした妖怪。やはり、花子さんは暗い中、普通の表情で真っ直ぐ見ながら歩いている。夜は妖怪と幽霊の時間だからさほど怖くないのだ。それに比べ、翼は少し怯えている表情を見せて緊張しながら懐中電灯を強く握っていた。ここで、何か現れたら驚いて悲鳴を上げるに違いない。でも、花子さんと一緒にヨースケくんを捜しに行くと言ったのは紛れもない翼なのだから。それに、女の子一人でこんな暗い廊下を一人だけで歩かせるのも男としては見過ごせない為、こうして一緒にヨースケくん捜しに協力しているのだ。ここは、男らしく花子さんを守ろうと決めていたが、暗い廊下で妖怪と一緒に歩いているとなると、さすがに緊張して怯えてしまう。花子さんは、人を襲うような怖い妖怪ではないが、さすがにプレッシャーを感じる。そう思っていた時、目の前に階段を見つけた。二人は階段に上り4階へ向かった。翼が黙って階段に上ると隣から花子さんの声が聞こえた。
「翼くん。大丈夫ですか?なんか、顔が強張っているみたいですけど・・?」
花子さんに心配された。翼はわざと明るい顔を見せて見栄を張った。
「だ、大丈夫。こんなの、朝飯前さ」
翼は見栄を張りながら笑った。でも、正直、怖い。夜の学校なんて今まで行った事もないし体験した事もないから怖いのだ。
(ここで、歌を歌えば怖くならなくて済むかも・・・。)
翼はそう思った。明るい歌さえ歌えば夜の学校なんて怖くない。そう思っていた。しかし、翼は小さく首を振った。
(ダメダメ!もし、歌でも歌ったらこの学校にいる警備員さんに見つかるかもしれない・・!)
歌っちゃダメだと翼は自分に言い聞かせた。でも、明るい歌を歌わなきゃ真っ暗な廊下が怖くて仕方がない。でも、歌を歌えば、警備員に見つかっていろいろと面倒を起こしてしまう。それに、辰巳と翼以外は花子さんの姿は見えない。きっと、警備員には花子さんの姿は見えないに違いない。なら、歌わなければいい。でも、怖くて一曲ぐらい鼻歌でもいいので明るい歌を歌いたい。いやでも、ダメ!翼の頭の中は明るい歌を歌って怖さを吹き飛ばした気持ちでいっぱいだった。いきなり首を振ったりした翼を見て花子さんは声をかけた。
「どうしました?」
また、女の子に心配されてしまった。翼は自分が情けなく思ったが、花子さんに訊いた。
「花子さんって、何か明るい歌を歌えたりする?」
翼は作り笑いをしながら花子さんに質問した。
「明るい歌・・・ですか?」
翼は頷いた。
「例えば、花子さんの好きな歌だよ。もちろん、鼻歌でもいいよ」
「そうですねぇ。」
花子さんは自分の手を顎に付けて考えた。翼はきっと、花子さんなら好きな明るい歌があるはずと思っていたが、そもそも妖怪に好きな明るい歌なんてあるのかと今頃気付いた。ここで、「いや、いいです」なんて口に出したらせっかく考えてくれている花子さんに悪いので明るい歌があると信じて答えを待つしかなかったのだ。妖怪が明るい歌を歌う。これは、少し面白そうでもあった。
「ありますよ」
その言葉を聞いて翼は言った。
「歌ってみて」
「えっ⁉ここで⁈」
「ここで」
花子さんは翼に今から歌って欲しいと頼まれたので歌った。
「ゲッゲッゲゲゲのゲ~朝~は寝床でグ~グ~グ」
この歌は知っている。翼は花子さんの歌を聞いていたが、自分が思ったのと少し違っていた。確かに、この歌は聞いた事があって好きだけど、夜の学校でこのゲゲゲの鬼太郎の歌を聞いてしまったら本当にどこからか他の妖怪や幽霊が現れそうで余計に怖くなる。翼はゲゲゲの鬼太郎の歌を歌っている花子さんに声をかけた。
「あ、あの、花子さん。ゲゲゲの鬼太郎の歌を歌うのはいいけど、夜の学校で歌われたらちょっと・・・。」
翼に言われて花子さんは歌を中断した。
「そうですか?あたしにとっては、明るい歌のつもりですが?」
「ぼく、人間なので。」
翼は苦笑いをして自分が人間だという事を主張した。
「じゃあ・・・」
花子さんがやり始めたのは、鼻歌だ。花子さんの鼻歌はとても素敵で綺麗だった。鼻歌で歌っているのは、とてもゆっくりなメロディーと静かさと哀愁が詰まった鼻歌だった。まるで、誰かと別れた時に聞くような歌で翼はこの哀愁ある鼻歌に心を染み渡った。
(なんて、切ない鼻歌なんだろう・・。)
翼はこの哀愁を感じる鼻歌を聞きながら心の中で思った。その瞬間、待て、これはおかしいぞ。と心の中でおもいながら気付いた。自分は明るい歌を聞いて夜の学校の怖さを吹き飛ばしたいから花子さんにレクチャーをした。なのに、花子さんが鼻で歌っているのは、哀愁と悲しさのメロディーでどこも明るいメロディーが一切、流れてこない。
(よく聞いてみれば何だ・・・⁈この哀愁と悲しさが伝わるメロディーは?)
あまりにも切なさすぎるのと暗い廊下での悲しさが伝わる鼻歌を聞いて自分が思っていたのと違う事に気付いた。この悲しさと哀愁が伝わる鼻歌を聞いたら逆にこちらが切なくなる。しかも、夜の学校で暗い廊下を歩いている中でだ。怖いというよりあまりにも切なすぎて気がおかしくなりそうなので翼は花子が鼻で歌っている悲しくて哀愁まみれのメロディーを歌うのをやめるよう声をかけた。
「あ、あの、花子さん?」
花子は鼻歌をやめて翼の方を見た。
「はい?」
「その曲、何ていうの?」
ただ、悲しさと哀愁が伝わるだけではなく翼は花子さんが鼻歌で歌った曲は何なのか全然知らなかったのだ。
「ドナドナっていう曲です。」
「ど・・ドナドナ?」
翼は訊いた。
「はい。ドナドナっていうのは、世界の多くの国で歌われているアイディッシュっていうユダヤ文化の歌なんです。知りませんでしたか?」
「知らなかった。っていうか、今始めて聞いた。けっこう、切ない曲なんだね」
「メロディーはとても切ないですね。これもダメでしたか?」
花子が訊くと翼は両手で大きな✖のマークを作り頷いた。花子さんは残念そうな顔をしないでただ苦笑いをした。自分が言い出したのに結局、花子さんが歌ってくれた2曲はボツで終わった。言い出しっぺの翼は花子さんに悪い事をしたと思い反省していた。
「ごめんなさい。花子さん。僕が言い出した事なのに、君が歌ってくれた歌を全て却下させちゃって」
花子さんは笑った。
「いいんですよ。気にしないでください。確かに、夜の学校でゲゲゲの鬼太郎の歌とドナドナを歌うのは、ちょっとまずかったですね」
翼は思った。花子さんは本当に優しい。言い出しっぺの翼を責めないで許してくれた。
「本当にごめんね」
翼は念の為にもう一回だけ花子さんに謝った。
「大丈夫ですよ。それよりも、男子トイレに着きましたよ」
翼は気付いた。二人で話している間、もう4階の男子トイレに着いたのだ。花子さんは男子トイレを開けてまた、個室のドアをノックした。
「ヨースケくん。いる?」
花子さんはノックしながら声をかけた。でも、全く返事がない。一体、ヨースケくんはどこへ行ってしまったのだろうか。これは、ますますヨースケくんの事が心配になってきた。翼は考えた。もしかして、ヨースケくんは女子トイレにいるんじゃないかと。でも、ヨースケくんは男の子だし女子トイレに居座るのは絶対におかしいので考えられない。それか、トイレではなく校舎のどこかにいるのではないかと思った。もし、この学校内のどこかに隠れていたりしたら探すのが大変になる。翼はズボンの尻ポケットからスマホを取り出しホーム画面を見たスマホのホーム画面にはPM21:20と表示されていた。翼はただ、スマホを取り出し時間を確かめる為に出したわけではない。辰巳にヨースケくんがいない事を知らせようとしていたのだ。しかし、ヨースケくんは、この学校の、校舎のどこかにいるかもしれないので辰巳に連絡するのは後にしてスマホを尻ポケットにしまった。
「花子さん。ヨースケくんが男子トイレにいないとなると、トイレ以外の所にいるかもしれない。トイレ以外の所へ行って捜してみよう」
花子さんは翼の意見に賛成した。
「そうですね。捜してみましょう」
二人がお互い頷き4階の男子トイレは後にしてトイレ以外の所へ行く事にしたのであった。
一方、辰巳は肩に木刀が入った袋を肩に掛け懐中電灯を持って1階を調べていた。懐中電灯の灯りを頼りながら隅々まで確認していた。今のところ、怪しい気配は無い。ストーカーは、かなりの用心深い奴かも知れない。職員室の方を見た辰巳が次、向かう所は2階だった。ちょうど、2階への階段を見つけ上りだした。2階について辰巳は警戒を強めながら歩いた。先へ進むと1年生の教室があった。辰巳は懐中電灯で1年生の教室の中を照らした。しかし、怪しい者は誰一人もいなかった。教室から怪しい気配を感じなかったら、辰巳は先へ進んだ。もし、妖怪か幽霊がいるとなれば、妖気、または霊気を感じるはずなのだ。だが、今は何も感じない。もしかすると、妖気から霊気を抑えてどこか隠れているのかもしれない。時にあるのだ。妖気や霊気を隠して背後から襲ってくという事が。長年、妖怪や幽霊に関しての事は幾度となく携わってきた辰巳。なので、必ず妖気や霊気を感じ妖怪、または幽霊はどこにいるのか分かる。妖気と霊気にはそれぞれ違う部分がある。妖気は感じた事もない怪しい気配が漂う。霊気は冷たく背中がゾッとする程の気配。この二つの気配に違いがあれば、妖怪なのか幽霊なのかすぐ分かる。辰巳が幼い頃は、霊感もあり妖怪を見る、つまり見えない世界が見えていたので、最初は友人や家族に幽霊や妖怪がいると教えても全く信じてもらえなかった。あげくには、友人から気持ち悪がられそうにもなった。辰巳の一族には霊感を持っている人や妖怪が見える不思議な力を持った人は誰一人もいなかったと聞いている。唯一、そんな力を持っているのは辰巳だけ。いや、翼を入れて二人だけ。なぜ、辰巳と翼は見えない世界が見えたのか、その理由はまだ知らない。でも、一つだけ可能性がある。辰巳と姉である翼の母親の祖父母は岩手県遠野市に住んでいたと幼少期の辰巳と姉は聞いた事があった。ただ、それだけだ。翼の祖父にあたる辰巳の父は何やら問題を抱えて遠野を出たらしい。その後は、何も聞いてはいない。辰巳と姉が訊いても父親は教えてくれなかった。辰巳にはそんな記憶がある。でも、父親は辰巳が高校卒業してから二日後に、病気で他界した。なので、翼は辰巳と姉の父親に会った事もない。見た事あるのは、写真だけだ。
辰巳は扉窓越しから見える理科室の中を確認した。でも、怪しい所は無かった。でも、過去に一つだけ違和感を感じる出来事があった。それは、理科室にあったはずの人体模型が無くなっていたことだ。最初、辰巳は誰かが悪戯(いたずら)としてわざと隠したか、あるいは盗まれたのではないのかと思っていたが、この学校の理科室にあった人体模型は、魂が宿っていて学校の七不思議の一つとなったのだ。他の人は学校の七不思議は単なる噂でくっついたでっち上げだと言い信じない人もいるが、辰巳は学校七不思議の話を信じていた。昔、読んだ事がある何かの本に書いてあったのだ。日常生活で使われている物や大切にしている物には魂が宿っている。何かの本にそう書かれていた記憶があった。人体模型は、魂があり夜だけ活動する。でも、活動にしても行方不明なるとは辰巳にとって思わぬ出来事だ。もしかすると、花子さんにストーカーをしている犯人と何か繋がりがあるかもしれない。そう思った辰巳であった。それにしても、全く妖気や霊気が全く感じない。この時間なら妖気や霊気は出ているはずなのだ。でも、全く妖気または霊気を感じなくておかしいとしか思えなかった。辰巳はヨースケくんを捜しに行っている翼と花子さんの事を思い出した。辰巳は、ズボンの尻ポケットからスマホを取り出しLINEを開いた。ここで、電話でもしたら学校の見回りをしている警備員に見つかるし、犯人が近くにいたら声で気付き逃げてしまうに違いないと翼は思っていたのだ。だから、LINEで翼に今の状況とヨースケくんを見つけたのかメッセージを送信する事にしたのだ。辰巳は立ち止まってスマホを弄り始め翼へと送るメッセージが完成し送信した。後は、本人が辰巳からのメッセージが着たのを気付き返事をしてくれるまでだ。LINEでメッセージを送った後、辰巳は再び歩き始めストーカー捜しを再開した。例え、妖気か霊気が全く感じなくてもどこかにストーカーがいるに違いない。いや、もしかすると、花子さんをストーカーしている犯人は人間ではないかと一瞬、思ったがそれはありえないと否定した。辰巳と翼みたいに花子さんが見えるわけでもないし。やはり、このストーカー事件は妖怪か幽霊に関係しているに違いない。早くストーカーの正体を突き止めて花子さんを安心させなければならない。辰巳は花子さんの為にストーカー捜しを続行し解決へと目指しているのであった。
それにしても、人体模型は一体、どこへやったのだろうか?または、どこへ行ったのだろうか?今回の花子さんが被害を受けているストーカー事件と何か関係があるのだろうか?
翼と花子さんは二人して音楽室にいた。音楽室にはたくさんの机だけではなく有名な作曲家の肖像画やピアノに楽器がある。翼は音楽室に入った時、学校七不思議の事を思い出した。それは、夜になると肖像画から出てきたベートーベンがピアノを弾くという七不思議の話だ。最初は、肖像画から出てきたベートーベンがピアノを弾いているのではないかと花子さんに訊いてみたが、どうやら、この学校の肖像画のベートベンはピアノを弾かないと聞いた。つまり、肖像画のベートーベンはただの似顔絵であることが分かった。でも、夜の音楽室は少し不気味である。今でも肖像画の絵が飛び出すか動き出しそうな感じがする。翼が知っている昼の音楽室とは違うもう一つの顔が見える。なぜ、二人が音楽室にいるのか。それは、ヨースケくんはこの音楽室にいるのではないのか翼の案で来たのだ。でも、翼の考えはハズレでヨースケくんは、どこにもいなかった。
「いませんね」
花子さんが言うと翼は少し残念そうな顔で頷いた。
「うん。ここじゃなかったみたい・・。」
「別の所へ行って捜してみましょう」
翼は頷いた。すると、ズボンの尻ポケットから何か揺れた。翼は尻ポケットからスマホを取り出し見てみると辰巳からLINEメッセージが着たのだ。LINEメッセージには、ヨースケくんは見つけたかの内容が書かれていた。翼は辰巳のLINEメッセージを読んだ後、まだ見つけてないと返信した。
「誰からですか?」
花子さんが訊いてきたので翼は教えた。
「叔父さん。辰巳さんからだよ。ヨースケくんは、見つかったかって。でも、見つけてないよって返信した。」
「ストーカーの方は?」
「まだ、見つけてないって。」
「そうですか・・・・・。」
まだ、ストーカーが見つかっていないと教えると花子さんは不安で顔が曇っていた。
「大丈夫だよ。叔父さんならストーカーをやっつけてくれるよ。それより、早くヨースケくんを捜そう」
「そうですね」
花子さんは頷き二人は音楽室を出ようとした時、どこからか声が聞こえた。
「ヨースケくんを捜しているのかね?」
その声を聞いて翼と花子さんは驚き後ろへ振り向いた。
「私だよ」
翼はその声がする方へ懐中電灯の光を向けた。
「こんばんは。花子さん」
花子さんは明るい声で返事した。
「ショパンさん。こんばんは」
なんと、肖像画のショパンが喋ったのだ。飛び出しはしないが、口を動かしている。そして、瞬きもした。翼はあまりの驚きで尻餅をついた。肖像画から出てきたベートーベンではなく、お喋りする肖像画のショパンだなんて聞いた事もなかったので驚きと初めてショパンが肖像画の中で喋り出したのでびっくりしたうえ、言葉を失っていた。ただ、翼ができることはただ、目を大きく開け口をあんぐりするだけ。それに引き換え、花子さんは普通に肖像画のショパンの方へ近付いた。
「花子さん。そちらの子は?」
肖像画のショパンは尻餅ついてあんぐりと口を大きく開けて驚いている翼の方を見た。
「あの子は、翼くんです。山崎辰巳さんの甥っ子さんです」
「ほう。あの山崎先生の」
どうやら、この肖像画のショパンは辰巳の事を知っているそうだ。
「翼くんとやら。驚かせて申し訳なかったね」
翼は肖像画のショパンを見て言葉が出なかった。
「翼くん。大丈夫よ。肖像画のショパンさんはとても良い人なんです」
花子さんは翼に肖像画のショパンは悪い人でも恐い人でない事を教えた。
「無理もない。初めて、肖像画の私が喋っている所を見たら誰だって驚く。でも、君には危害を加えるような事はしないから安心なさい」
肖像画のショパンは、翼の方を見て優しい声で言った。
懐中電灯を持っている翼は驚いた後、ゆっくりと体を起こし立ち上がった。でも、まだ驚いてはいる。しかも、ベートーベンではなくなぜショパンなのかは謎だ。
「花子さん。知っていたんですか?」
花子さんは苦笑いをしていた。
「はい。この音楽室では、毎晩、肖像画のショパンさんがお話をしてくれるんです。あたしは、時々だけしか会っていなかったので、すっかり忘れていました。ごめんなさい」
花子さんは両手を合わせてテヘペロで謝った。まるで、ちゃんと謝っていないみたいで普通は腹が立つが花子さんの場合は全く腹が立たない。全然、憎いとは思わないので翼は苦笑いをするしか方法がなかった。でも、出来ればもっと早く教えて欲しかったものだ。おかげで、翼は尻餅をついて言葉を失いながら驚いたのだから。
「花子さんが人間の少年と一緒にいるとは珍しいね」
肖像画のショパンは花子さんに言った。
「実は、あたし達、人、いや、妖怪を捜しているんです」
「ヨースケくんの事だろ?」
「知っているんですか?」
翼は肖像画のショパンに訊いた。
「もちろん。確か、慌てている顔で「匿わせてください!」と頼み込まれたね」
「匿わせて?」
翼と花子さんはお互いの顔を見た後、訊いた。
「ヨースケくんがそう言ったんですか?」
花子さんの質問に肖像画のショパンは答えた。
「そう言っていたよ。何やら、誰かに追われているみたいで」
「ヨースケくんは、誰に追いかけられていたんですか?」
翼の質問に肖像画のショパンは答えた。
「確か、この小学校では見かけない蛙の化物に追いかけられていると聞いたね」
「蛙の化物?」
二人は口を揃えて言った。
「そう。ヨースケくんは、その蛙の化物に追いかけられ隠れていたよ。そう。掃除箱に」
肖像画のショパンは掃除箱の方を見た。
「掃除箱・・・。」
(あんな、狭いトコで隠れていたのかい。)
花子さんは心配している顔で肖像画のショパンに訊いた。
「それで、ヨースケくんはどうなったんですか⁈」
肖像画のショパンは教えた。表情は変わらずやっぱり、口と目だけは動いている。
「彼なら大丈夫。蛙の化物に気付かれず捕まらずにすんだよ」
それを聞いて花子さんはホッとした。
「じゃあ、彼はどこへ行ったんですか?」
肖像画のショパンは答えた。
「確か、体育館の倉庫で大人しく隠れると言っていたね」
「ありがとうございます。ショパンさん」
花子さんは翼の方を見た。
「翼くん。体育館へ行きましょう」
翼は頷いた。
「ショパンさん、教えてくれてありがとうございました」
「ありがとうございました」
花子さんと翼はヨースケの事、蛙の化物の事を親切に教えてくれた肖像画のショパンにお礼を言った。
「いえいえ。でも、気を付けて行きなさいね。蛙の化物は、まだ、この学校内にいるかもしれないから」
「はい。気を付けて行きます」
花子さんと翼は肖像画のショパンと別れ音楽室を出て彼が教えてくれた体育館へ目指し歩き始めた。
蛙の化物。もしかすると、花子さんの事をストーカーしている犯人はその化物の可能性が高いと翼は思った。でも、なぜ、蛙の化物が花子さんの事を知ってストーカーしているのだろうか?それが謎だ。
「花子さん。あの肖像画のショパンさんが言っていた蛙の化物とは何か心当たりはないの?」
花子さんは歩きながら首を振り翼の質問に答えた。
「いいえ。心当たりありません。蛙の化物だなんて、今、初めて聞きました」
「でも、なんで、ヨースケくんを追いかけていたんだろう?」
「それは、本人に訊けば何か分かるかもしれません」
「そうだね。そうだ!」
翼は立ち止まりズボンの尻ポケットからスマホを取り出した。
「この話を叔父さんに教えなくちゃ。このまま、体育館で合流させよう」
「それはいいですね。そうしましょう」
花子は賛成し翼は辰巳にLINEメッセージを送る為、スマホのキーボードを打ち始めた。
三人は、校庭を渡り学校の出入り口に着いた。すると、翼は学校の出入り口の扉を開けようとしたが押しても引いても開かなかった。どうやら、出入り口の扉は鍵が掛かっている様だ。それもそうだ。こんな遅い時間に学校が閉まっているのは当たり前だ。そう簡単に開かないし鍵を掛けないまま開きっぱなしで学校を出る人なんていない。きっと、学校内を見て回る警備員が仕事を終えた先生達が小学校を出た後、鍵を掛けたのだろう。でも、これでは学校の中へ入って花子さんをストーカーしている犯人が捕まえられなくなる。どうしたものかと翼は考えていた時、後ろからポンポンと軽く肩を叩いた感触がした。翼が後ろを振り向くと花子さんが翼の肩を叩いたのだ。
「ここは、あたしに任せてください」
そう言い翼は下がり言われた通り花子さんに任せる事にした。しかし、鍵が掛かっている鳶に何をする気なんだと思った翼は思った。もしかして、出入り口の扉を通り抜けて鍵を探しに行ってくれるのだろうかと思ったがそれは違った。花子さんは目を閉じ右手を前にして何やら念じ始めた。そんな様子を見た翼は一体、何をしようとしているんだと思いただ、手を前にして念じている花子さんに任せるしかなかった。翼はチラリと辰巳の方を見た。すると、辰巳は笑みを浮かべながら翼の方を見た。花子さんが一体、何をしているのか辰巳は知っている様だ。翼は花子さんが今、何をしているのかはまだ分からなかった。花子さんは手を前に出して目を閉じたまま全く動かない。翼は瞑想でもしているのであろうかと思ったその時、花子さんがこちらを見た。花子さんの顔は笑みを浮かべていてこう言ったのだ。
「解除しました」
「ん?」
花子さんの一言で翼は驚いた。すると、花子さんは開けてみてと誘っているかのように道を開けた。翼は扉を触り押し始めた。すると、さっきまでは、鍵が掛かっていたので教えても引いても開かなかった扉が開いたのだ。急に出入り口の扉が開くようになったので翼は驚いて何が起きて開いたのか分からなかった。
「ドアが開いた・・!さっきは、鍵が掛かっていて開かなかったのに」
花子さんは笑顔で驚いている翼に教えたのだ。
「あたしが、力を使って鍵を開けたのです」
「力?」
翼は花子さんが言っていた「力」とは何なのか訊いた。すると、辰巳は花子さんが使った「力」の正体を教えた。
「花子さんは、妖術(ようじゅつ)という力を使ったんだ」
「ようじゅつ?」
「妖術は、妖怪が使う不気味でもありながら不思議な力、いわゆる技を持っているんだ。化けたり呪ったり、後は癒しや物を動かしたりとか、いろいろできるんだ」
翼は目を輝かせた。
「すごい!じゃあ、花子さんはその妖術を使っていろんな事ができるんだね?」
翼は花子さんに言った。しかし、花子さんは苦笑いをした。
「いろんなって言う程ではありません。あたしは他の妖怪さんと比べて妖力は弱くあまり妖術をうまく使えないんです。それに、普段は女子トイレで過ごしているので、できるとしたら先程の鍵を開けるぐらいしかできません」
それを聞いて翼は「へぇ~」と言った。妖術のすごさは妖怪それぞれによって違うみたいだ。花子さんの場合は、妖術はあまり得意方ではないので鍵を開けるぐらいしかできないらしい。でも、鍵のキーを使わないで出入り口の扉の鍵を開けるのはすごい事だ。翼は別に花子さんが鍵を開ける妖術しか持っていないと聞きそんなに残念がる様子は全く無い。逆に感心している。まるで超能力者みたいに鍵を開けたのだから。辰巳と翼は花子さんが妖術を使ったおかげで小学校の中へ入る事ができた。後は、花子さんのストーカーを見つけるだけだ。でも、まずはストーカー捜しをする前に花子さんからヨースケくんは無事なのか確認をしたいと頼まれたのでまずは、ヨースケくんが住んでいる2階の男子トイレへ向かう事になった。翼は、ヨースケくんという七不思議の一人として呼ばれている妖怪がいたとは全く知らなかったので、花子さんが学校へ行く途中に教えてくれたとても優しい妖怪だと聞いたので、ヨースケくんはきっと、素晴らしい妖怪に違いないと翼は期待しながら思っていた。辰巳と翼は懐中電灯を前に出し光を頼りながら2階の男子トイレへ向かった。小学校の中は暗く静かで本当に不気味さを漂わせていた。確かに、こんな暗い学校の中だとどこから妖怪や幽霊が出てきてもおかしくないぐらいだ。それに、ここ調布市は、京都と鎌倉の次に妖気が強い街。この夜の学校のどこかに七不思議と呼ばわれている妖怪やお化けが潜んでいるに違いない。翼は、妖怪とお化けがいつどこで現れるか分からない為、緊張していた。でも、翼には彼、辰巳が付いているので心強かった。三人は何も話さずただ黙々と先へ進んだ。三人は、階段を見つけ2階へ上った。
辰巳達はヨースケくんがいる2階の男子トイレ前に着いた。辰巳は男子トイレのドアを開けると、そこには、翼でも知っている小便器が並んでいた。花子さんは前に出て二列目の扉にノックしながら呼んだ。
「ヨースケくん、いる?あたしよ。花子よ」
全く返事がない。
「ヨースケくん?」
花子さんはもう一度、呼んだがヨースケくんの返事が聞こえなかった。
「おかしいわ・・。いつもなら、ここにいるのに・・・。」
花子さんは困った顔をしながら言った。
「もしかすると、ヨースケくんは違う階の男子トイレにいるんじゃないのかな?」
辰巳の意見に花子は頷いた。
「そうかもしれません・・。すみません、あたし、ヨースケくんを捜しに行ってきます」
「だったら、ぼくも一緒に行くよ」
翼は花子さんと一緒にヨースケくん捜しを手伝うと言った。
「分かった。もし、何かあったらすぐ連絡してくれ。僕は、花子さんをストーカーしている犯人を捜してみる」
花子さんと翼は頷き三人は2階の男子トイレを出てそれぞれ別行動する事になった。翼は花子さんと一緒に違う階の男子トイレへ行ってヨースケくん捜し。辰巳は花子さんの事をストーカーしている犯人捜し。いつどこで、ストーカー犯が現れるか分からない為、警戒を怠らないよう捜しに行くのであった。
暗い廊下で花子さんと翼のペアは3階の男子トイレの中にいた。花子さんは男子トイレの中にある便器が設置された個室の扉をノックしたが全く返事は返ってこなかった。どうやら、ここにもヨースケくんはいないみたいだ。ヨースケくんは一体、どこへ行ってしまったのか。それは二人も分からない。ただ、二人がやるべきことは、小学校の全ての階にある男子トイレへ行ってヨースケくんの返事が返ってくるまでノックし続ける事だ。それしか、見つける方法がない。二人は3階の男子トイレを出て次は4階の男子トイレへ目指した。暗い廊下の中、懐中電灯一つだけで光を灯し4階へ向かう翼と花子さん。翼は暗い廊下の中、歩きながら時々、チラチラと目を左右動かしていた。そして、口を強く閉じていて緊張している顔を見せていた。いや、少し怯えている顔をしている。隣には花子さんがいるからいいが、花子さんは普通の人間ではなく人間の女の子の姿をした妖怪。やはり、花子さんは暗い中、普通の表情で真っ直ぐ見ながら歩いている。夜は妖怪と幽霊の時間だからさほど怖くないのだ。それに比べ、翼は少し怯えている表情を見せて緊張しながら懐中電灯を強く握っていた。ここで、何か現れたら驚いて悲鳴を上げるに違いない。でも、花子さんと一緒にヨースケくんを捜しに行くと言ったのは紛れもない翼なのだから。それに、女の子一人でこんな暗い廊下を一人だけで歩かせるのも男としては見過ごせない為、こうして一緒にヨースケくん捜しに協力しているのだ。ここは、男らしく花子さんを守ろうと決めていたが、暗い廊下で妖怪と一緒に歩いているとなると、さすがに緊張して怯えてしまう。花子さんは、人を襲うような怖い妖怪ではないが、さすがにプレッシャーを感じる。そう思っていた時、目の前に階段を見つけた。二人は階段に上り4階へ向かった。翼が黙って階段に上ると隣から花子さんの声が聞こえた。
「翼くん。大丈夫ですか?なんか、顔が強張っているみたいですけど・・?」
花子さんに心配された。翼はわざと明るい顔を見せて見栄を張った。
「だ、大丈夫。こんなの、朝飯前さ」
翼は見栄を張りながら笑った。でも、正直、怖い。夜の学校なんて今まで行った事もないし体験した事もないから怖いのだ。
(ここで、歌を歌えば怖くならなくて済むかも・・・。)
翼はそう思った。明るい歌さえ歌えば夜の学校なんて怖くない。そう思っていた。しかし、翼は小さく首を振った。
(ダメダメ!もし、歌でも歌ったらこの学校にいる警備員さんに見つかるかもしれない・・!)
歌っちゃダメだと翼は自分に言い聞かせた。でも、明るい歌を歌わなきゃ真っ暗な廊下が怖くて仕方がない。でも、歌を歌えば、警備員に見つかっていろいろと面倒を起こしてしまう。それに、辰巳と翼以外は花子さんの姿は見えない。きっと、警備員には花子さんの姿は見えないに違いない。なら、歌わなければいい。でも、怖くて一曲ぐらい鼻歌でもいいので明るい歌を歌いたい。いやでも、ダメ!翼の頭の中は明るい歌を歌って怖さを吹き飛ばした気持ちでいっぱいだった。いきなり首を振ったりした翼を見て花子さんは声をかけた。
「どうしました?」
また、女の子に心配されてしまった。翼は自分が情けなく思ったが、花子さんに訊いた。
「花子さんって、何か明るい歌を歌えたりする?」
翼は作り笑いをしながら花子さんに質問した。
「明るい歌・・・ですか?」
翼は頷いた。
「例えば、花子さんの好きな歌だよ。もちろん、鼻歌でもいいよ」
「そうですねぇ。」
花子さんは自分の手を顎に付けて考えた。翼はきっと、花子さんなら好きな明るい歌があるはずと思っていたが、そもそも妖怪に好きな明るい歌なんてあるのかと今頃気付いた。ここで、「いや、いいです」なんて口に出したらせっかく考えてくれている花子さんに悪いので明るい歌があると信じて答えを待つしかなかったのだ。妖怪が明るい歌を歌う。これは、少し面白そうでもあった。
「ありますよ」
その言葉を聞いて翼は言った。
「歌ってみて」
「えっ⁉ここで⁈」
「ここで」
花子さんは翼に今から歌って欲しいと頼まれたので歌った。
「ゲッゲッゲゲゲのゲ~朝~は寝床でグ~グ~グ」
この歌は知っている。翼は花子さんの歌を聞いていたが、自分が思ったのと少し違っていた。確かに、この歌は聞いた事があって好きだけど、夜の学校でこのゲゲゲの鬼太郎の歌を聞いてしまったら本当にどこからか他の妖怪や幽霊が現れそうで余計に怖くなる。翼はゲゲゲの鬼太郎の歌を歌っている花子さんに声をかけた。
「あ、あの、花子さん。ゲゲゲの鬼太郎の歌を歌うのはいいけど、夜の学校で歌われたらちょっと・・・。」
翼に言われて花子さんは歌を中断した。
「そうですか?あたしにとっては、明るい歌のつもりですが?」
「ぼく、人間なので。」
翼は苦笑いをして自分が人間だという事を主張した。
「じゃあ・・・」
花子さんがやり始めたのは、鼻歌だ。花子さんの鼻歌はとても素敵で綺麗だった。鼻歌で歌っているのは、とてもゆっくりなメロディーと静かさと哀愁が詰まった鼻歌だった。まるで、誰かと別れた時に聞くような歌で翼はこの哀愁ある鼻歌に心を染み渡った。
(なんて、切ない鼻歌なんだろう・・。)
翼はこの哀愁を感じる鼻歌を聞きながら心の中で思った。その瞬間、待て、これはおかしいぞ。と心の中でおもいながら気付いた。自分は明るい歌を聞いて夜の学校の怖さを吹き飛ばしたいから花子さんにレクチャーをした。なのに、花子さんが鼻で歌っているのは、哀愁と悲しさのメロディーでどこも明るいメロディーが一切、流れてこない。
(よく聞いてみれば何だ・・・⁈この哀愁と悲しさが伝わるメロディーは?)
あまりにも切なさすぎるのと暗い廊下での悲しさが伝わる鼻歌を聞いて自分が思っていたのと違う事に気付いた。この悲しさと哀愁が伝わる鼻歌を聞いたら逆にこちらが切なくなる。しかも、夜の学校で暗い廊下を歩いている中でだ。怖いというよりあまりにも切なすぎて気がおかしくなりそうなので翼は花子が鼻で歌っている悲しくて哀愁まみれのメロディーを歌うのをやめるよう声をかけた。
「あ、あの、花子さん?」
花子は鼻歌をやめて翼の方を見た。
「はい?」
「その曲、何ていうの?」
ただ、悲しさと哀愁が伝わるだけではなく翼は花子さんが鼻歌で歌った曲は何なのか全然知らなかったのだ。
「ドナドナっていう曲です。」
「ど・・ドナドナ?」
翼は訊いた。
「はい。ドナドナっていうのは、世界の多くの国で歌われているアイディッシュっていうユダヤ文化の歌なんです。知りませんでしたか?」
「知らなかった。っていうか、今始めて聞いた。けっこう、切ない曲なんだね」
「メロディーはとても切ないですね。これもダメでしたか?」
花子が訊くと翼は両手で大きな✖のマークを作り頷いた。花子さんは残念そうな顔をしないでただ苦笑いをした。自分が言い出したのに結局、花子さんが歌ってくれた2曲はボツで終わった。言い出しっぺの翼は花子さんに悪い事をしたと思い反省していた。
「ごめんなさい。花子さん。僕が言い出した事なのに、君が歌ってくれた歌を全て却下させちゃって」
花子さんは笑った。
「いいんですよ。気にしないでください。確かに、夜の学校でゲゲゲの鬼太郎の歌とドナドナを歌うのは、ちょっとまずかったですね」
翼は思った。花子さんは本当に優しい。言い出しっぺの翼を責めないで許してくれた。
「本当にごめんね」
翼は念の為にもう一回だけ花子さんに謝った。
「大丈夫ですよ。それよりも、男子トイレに着きましたよ」
翼は気付いた。二人で話している間、もう4階の男子トイレに着いたのだ。花子さんは男子トイレを開けてまた、個室のドアをノックした。
「ヨースケくん。いる?」
花子さんはノックしながら声をかけた。でも、全く返事がない。一体、ヨースケくんはどこへ行ってしまったのだろうか。これは、ますますヨースケくんの事が心配になってきた。翼は考えた。もしかして、ヨースケくんは女子トイレにいるんじゃないかと。でも、ヨースケくんは男の子だし女子トイレに居座るのは絶対におかしいので考えられない。それか、トイレではなく校舎のどこかにいるのではないかと思った。もし、この学校内のどこかに隠れていたりしたら探すのが大変になる。翼はズボンの尻ポケットからスマホを取り出しホーム画面を見たスマホのホーム画面にはPM21:20と表示されていた。翼はただ、スマホを取り出し時間を確かめる為に出したわけではない。辰巳にヨースケくんがいない事を知らせようとしていたのだ。しかし、ヨースケくんは、この学校の、校舎のどこかにいるかもしれないので辰巳に連絡するのは後にしてスマホを尻ポケットにしまった。
「花子さん。ヨースケくんが男子トイレにいないとなると、トイレ以外の所にいるかもしれない。トイレ以外の所へ行って捜してみよう」
花子さんは翼の意見に賛成した。
「そうですね。捜してみましょう」
二人がお互い頷き4階の男子トイレは後にしてトイレ以外の所へ行く事にしたのであった。
一方、辰巳は肩に木刀が入った袋を肩に掛け懐中電灯を持って1階を調べていた。懐中電灯の灯りを頼りながら隅々まで確認していた。今のところ、怪しい気配は無い。ストーカーは、かなりの用心深い奴かも知れない。職員室の方を見た辰巳が次、向かう所は2階だった。ちょうど、2階への階段を見つけ上りだした。2階について辰巳は警戒を強めながら歩いた。先へ進むと1年生の教室があった。辰巳は懐中電灯で1年生の教室の中を照らした。しかし、怪しい者は誰一人もいなかった。教室から怪しい気配を感じなかったら、辰巳は先へ進んだ。もし、妖怪か幽霊がいるとなれば、妖気、または霊気を感じるはずなのだ。だが、今は何も感じない。もしかすると、妖気から霊気を抑えてどこか隠れているのかもしれない。時にあるのだ。妖気や霊気を隠して背後から襲ってくという事が。長年、妖怪や幽霊に関しての事は幾度となく携わってきた辰巳。なので、必ず妖気や霊気を感じ妖怪、または幽霊はどこにいるのか分かる。妖気と霊気にはそれぞれ違う部分がある。妖気は感じた事もない怪しい気配が漂う。霊気は冷たく背中がゾッとする程の気配。この二つの気配に違いがあれば、妖怪なのか幽霊なのかすぐ分かる。辰巳が幼い頃は、霊感もあり妖怪を見る、つまり見えない世界が見えていたので、最初は友人や家族に幽霊や妖怪がいると教えても全く信じてもらえなかった。あげくには、友人から気持ち悪がられそうにもなった。辰巳の一族には霊感を持っている人や妖怪が見える不思議な力を持った人は誰一人もいなかったと聞いている。唯一、そんな力を持っているのは辰巳だけ。いや、翼を入れて二人だけ。なぜ、辰巳と翼は見えない世界が見えたのか、その理由はまだ知らない。でも、一つだけ可能性がある。辰巳と姉である翼の母親の祖父母は岩手県遠野市に住んでいたと幼少期の辰巳と姉は聞いた事があった。ただ、それだけだ。翼の祖父にあたる辰巳の父は何やら問題を抱えて遠野を出たらしい。その後は、何も聞いてはいない。辰巳と姉が訊いても父親は教えてくれなかった。辰巳にはそんな記憶がある。でも、父親は辰巳が高校卒業してから二日後に、病気で他界した。なので、翼は辰巳と姉の父親に会った事もない。見た事あるのは、写真だけだ。
辰巳は扉窓越しから見える理科室の中を確認した。でも、怪しい所は無かった。でも、過去に一つだけ違和感を感じる出来事があった。それは、理科室にあったはずの人体模型が無くなっていたことだ。最初、辰巳は誰かが悪戯(いたずら)としてわざと隠したか、あるいは盗まれたのではないのかと思っていたが、この学校の理科室にあった人体模型は、魂が宿っていて学校の七不思議の一つとなったのだ。他の人は学校の七不思議は単なる噂でくっついたでっち上げだと言い信じない人もいるが、辰巳は学校七不思議の話を信じていた。昔、読んだ事がある何かの本に書いてあったのだ。日常生活で使われている物や大切にしている物には魂が宿っている。何かの本にそう書かれていた記憶があった。人体模型は、魂があり夜だけ活動する。でも、活動にしても行方不明なるとは辰巳にとって思わぬ出来事だ。もしかすると、花子さんにストーカーをしている犯人と何か繋がりがあるかもしれない。そう思った辰巳であった。それにしても、全く妖気や霊気が全く感じない。この時間なら妖気や霊気は出ているはずなのだ。でも、全く妖気または霊気を感じなくておかしいとしか思えなかった。辰巳はヨースケくんを捜しに行っている翼と花子さんの事を思い出した。辰巳は、ズボンの尻ポケットからスマホを取り出しLINEを開いた。ここで、電話でもしたら学校の見回りをしている警備員に見つかるし、犯人が近くにいたら声で気付き逃げてしまうに違いないと翼は思っていたのだ。だから、LINEで翼に今の状況とヨースケくんを見つけたのかメッセージを送信する事にしたのだ。辰巳は立ち止まってスマホを弄り始め翼へと送るメッセージが完成し送信した。後は、本人が辰巳からのメッセージが着たのを気付き返事をしてくれるまでだ。LINEでメッセージを送った後、辰巳は再び歩き始めストーカー捜しを再開した。例え、妖気か霊気が全く感じなくてもどこかにストーカーがいるに違いない。いや、もしかすると、花子さんをストーカーしている犯人は人間ではないかと一瞬、思ったがそれはありえないと否定した。辰巳と翼みたいに花子さんが見えるわけでもないし。やはり、このストーカー事件は妖怪か幽霊に関係しているに違いない。早くストーカーの正体を突き止めて花子さんを安心させなければならない。辰巳は花子さんの為にストーカー捜しを続行し解決へと目指しているのであった。
それにしても、人体模型は一体、どこへやったのだろうか?または、どこへ行ったのだろうか?今回の花子さんが被害を受けているストーカー事件と何か関係があるのだろうか?
翼と花子さんは二人して音楽室にいた。音楽室にはたくさんの机だけではなく有名な作曲家の肖像画やピアノに楽器がある。翼は音楽室に入った時、学校七不思議の事を思い出した。それは、夜になると肖像画から出てきたベートーベンがピアノを弾くという七不思議の話だ。最初は、肖像画から出てきたベートーベンがピアノを弾いているのではないかと花子さんに訊いてみたが、どうやら、この学校の肖像画のベートベンはピアノを弾かないと聞いた。つまり、肖像画のベートーベンはただの似顔絵であることが分かった。でも、夜の音楽室は少し不気味である。今でも肖像画の絵が飛び出すか動き出しそうな感じがする。翼が知っている昼の音楽室とは違うもう一つの顔が見える。なぜ、二人が音楽室にいるのか。それは、ヨースケくんはこの音楽室にいるのではないのか翼の案で来たのだ。でも、翼の考えはハズレでヨースケくんは、どこにもいなかった。
「いませんね」
花子さんが言うと翼は少し残念そうな顔で頷いた。
「うん。ここじゃなかったみたい・・。」
「別の所へ行って捜してみましょう」
翼は頷いた。すると、ズボンの尻ポケットから何か揺れた。翼は尻ポケットからスマホを取り出し見てみると辰巳からLINEメッセージが着たのだ。LINEメッセージには、ヨースケくんは見つけたかの内容が書かれていた。翼は辰巳のLINEメッセージを読んだ後、まだ見つけてないと返信した。
「誰からですか?」
花子さんが訊いてきたので翼は教えた。
「叔父さん。辰巳さんからだよ。ヨースケくんは、見つかったかって。でも、見つけてないよって返信した。」
「ストーカーの方は?」
「まだ、見つけてないって。」
「そうですか・・・・・。」
まだ、ストーカーが見つかっていないと教えると花子さんは不安で顔が曇っていた。
「大丈夫だよ。叔父さんならストーカーをやっつけてくれるよ。それより、早くヨースケくんを捜そう」
「そうですね」
花子さんは頷き二人は音楽室を出ようとした時、どこからか声が聞こえた。
「ヨースケくんを捜しているのかね?」
その声を聞いて翼と花子さんは驚き後ろへ振り向いた。
「私だよ」
翼はその声がする方へ懐中電灯の光を向けた。
「こんばんは。花子さん」
花子さんは明るい声で返事した。
「ショパンさん。こんばんは」
なんと、肖像画のショパンが喋ったのだ。飛び出しはしないが、口を動かしている。そして、瞬きもした。翼はあまりの驚きで尻餅をついた。肖像画から出てきたベートーベンではなく、お喋りする肖像画のショパンだなんて聞いた事もなかったので驚きと初めてショパンが肖像画の中で喋り出したのでびっくりしたうえ、言葉を失っていた。ただ、翼ができることはただ、目を大きく開け口をあんぐりするだけ。それに引き換え、花子さんは普通に肖像画のショパンの方へ近付いた。
「花子さん。そちらの子は?」
肖像画のショパンは尻餅ついてあんぐりと口を大きく開けて驚いている翼の方を見た。
「あの子は、翼くんです。山崎辰巳さんの甥っ子さんです」
「ほう。あの山崎先生の」
どうやら、この肖像画のショパンは辰巳の事を知っているそうだ。
「翼くんとやら。驚かせて申し訳なかったね」
翼は肖像画のショパンを見て言葉が出なかった。
「翼くん。大丈夫よ。肖像画のショパンさんはとても良い人なんです」
花子さんは翼に肖像画のショパンは悪い人でも恐い人でない事を教えた。
「無理もない。初めて、肖像画の私が喋っている所を見たら誰だって驚く。でも、君には危害を加えるような事はしないから安心なさい」
肖像画のショパンは、翼の方を見て優しい声で言った。
懐中電灯を持っている翼は驚いた後、ゆっくりと体を起こし立ち上がった。でも、まだ驚いてはいる。しかも、ベートーベンではなくなぜショパンなのかは謎だ。
「花子さん。知っていたんですか?」
花子さんは苦笑いをしていた。
「はい。この音楽室では、毎晩、肖像画のショパンさんがお話をしてくれるんです。あたしは、時々だけしか会っていなかったので、すっかり忘れていました。ごめんなさい」
花子さんは両手を合わせてテヘペロで謝った。まるで、ちゃんと謝っていないみたいで普通は腹が立つが花子さんの場合は全く腹が立たない。全然、憎いとは思わないので翼は苦笑いをするしか方法がなかった。でも、出来ればもっと早く教えて欲しかったものだ。おかげで、翼は尻餅をついて言葉を失いながら驚いたのだから。
「花子さんが人間の少年と一緒にいるとは珍しいね」
肖像画のショパンは花子さんに言った。
「実は、あたし達、人、いや、妖怪を捜しているんです」
「ヨースケくんの事だろ?」
「知っているんですか?」
翼は肖像画のショパンに訊いた。
「もちろん。確か、慌てている顔で「匿わせてください!」と頼み込まれたね」
「匿わせて?」
翼と花子さんはお互いの顔を見た後、訊いた。
「ヨースケくんがそう言ったんですか?」
花子さんの質問に肖像画のショパンは答えた。
「そう言っていたよ。何やら、誰かに追われているみたいで」
「ヨースケくんは、誰に追いかけられていたんですか?」
翼の質問に肖像画のショパンは答えた。
「確か、この小学校では見かけない蛙の化物に追いかけられていると聞いたね」
「蛙の化物?」
二人は口を揃えて言った。
「そう。ヨースケくんは、その蛙の化物に追いかけられ隠れていたよ。そう。掃除箱に」
肖像画のショパンは掃除箱の方を見た。
「掃除箱・・・。」
(あんな、狭いトコで隠れていたのかい。)
花子さんは心配している顔で肖像画のショパンに訊いた。
「それで、ヨースケくんはどうなったんですか⁈」
肖像画のショパンは教えた。表情は変わらずやっぱり、口と目だけは動いている。
「彼なら大丈夫。蛙の化物に気付かれず捕まらずにすんだよ」
それを聞いて花子さんはホッとした。
「じゃあ、彼はどこへ行ったんですか?」
肖像画のショパンは答えた。
「確か、体育館の倉庫で大人しく隠れると言っていたね」
「ありがとうございます。ショパンさん」
花子さんは翼の方を見た。
「翼くん。体育館へ行きましょう」
翼は頷いた。
「ショパンさん、教えてくれてありがとうございました」
「ありがとうございました」
花子さんと翼はヨースケの事、蛙の化物の事を親切に教えてくれた肖像画のショパンにお礼を言った。
「いえいえ。でも、気を付けて行きなさいね。蛙の化物は、まだ、この学校内にいるかもしれないから」
「はい。気を付けて行きます」
花子さんと翼は肖像画のショパンと別れ音楽室を出て彼が教えてくれた体育館へ目指し歩き始めた。
蛙の化物。もしかすると、花子さんの事をストーカーしている犯人はその化物の可能性が高いと翼は思った。でも、なぜ、蛙の化物が花子さんの事を知ってストーカーしているのだろうか?それが謎だ。
「花子さん。あの肖像画のショパンさんが言っていた蛙の化物とは何か心当たりはないの?」
花子さんは歩きながら首を振り翼の質問に答えた。
「いいえ。心当たりありません。蛙の化物だなんて、今、初めて聞きました」
「でも、なんで、ヨースケくんを追いかけていたんだろう?」
「それは、本人に訊けば何か分かるかもしれません」
「そうだね。そうだ!」
翼は立ち止まりズボンの尻ポケットからスマホを取り出した。
「この話を叔父さんに教えなくちゃ。このまま、体育館で合流させよう」
「それはいいですね。そうしましょう」
花子は賛成し翼は辰巳にLINEメッセージを送る為、スマホのキーボードを打ち始めた。
0
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