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第三章 半透明で過保護な彼との、上手な仕事の進め方
37.半透明な彼らの心の中には
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カルマンからの手紙は予想外だったが、その後の生活は平和だった。
この日、朝早くからララたち捜査官が訪れていたのは、自然豊かな田舎町、メルホルン。
ララは日傘を肩にかけ、自分の足元に広がる雑草と格闘中だ。せっせと草を抜く住人たちに遅れを取らぬよう、しゃがみ込んだまま手を動かす。
ララの右側を流れる大きな川は、ガルム川というらしい。川の周辺を整備するため、不要な草木を刈り取っているのだ。
捜査局の目的は手伝いをしつつ住民たちと交流することだが、ララは純粋に草抜きを楽しんでいた。草がブチっと切れずに根っこから抜けると、なんだか気持ちが良い。
(ちょっと上達してきたかも……!)
満足げに草を眺めていると、対岸に行っていたテオドールが戻ってきた。半透明な彼にかかれば、幅百メートルの川もひとっ飛びである。
「おかえりなさい。あちらはどんな感じですか?」
「木の伐採が終わったところだ」
「もうですか。早いですね」
「アルがいるからな」
「なるほど。確かにアルバート様なら……」
アルバートの武器は斧だ。力も強いし、これほど伐採に適した捜査官はいないだろう。
「あいつは力で押し通す方が向いてるからな。噂をすれば……次はこっち側の木を伐採をするみたいだ」
テオドールの視線の先には、川に架けられた低い木橋。アルバートとフロイドが並んで渡っているのが見える。
フロイドは出発する前、「隊長、俺がいないところで武器振り回すのは禁止っすからね。はい、復唱」とアルバートに真顔で詰め寄っていた。破壊活動を食い止めたいらしい。
ララが「トランクを持っていきますので、壊れても直しますよ」と言えば、「甘やかしちゃダメです。ララさんが作った物は普通壊れないんすから。隊長が無茶苦茶な使い方するのが悪いんです。教育しないと」と、甘やかすな命令を下された。けれども心配だったため、一応トランクを持ってきている。
「もう少ししたら、あの橋も作り直すのですよね?」
「ああ。使い始めてもう何十年も経ってるらしいからな。川岸の整備が済んだら始めるんじゃないか? 俺は新しい橋を見れそうにないが」
「私があなたの代わりに、完成までしっかり見ておきます」
ララが笑いかけると、テオドールはいじめっ子のような顔をした。
「発言は頼もしいが、顔に土を付けてたら格好良さが半減だな」
「え、うそ」
彼の手がこちらに伸びてくる。揶揄い口調ではあるが、触れる手はとても優しい。だからララは、大人しくテオドールの指に頬を拭われていた。
――新しい橋が完成する頃には、テオドールは神の元にいるのだろうか。自分の隣には、誰かいるのだろうか。
腕と肩で器用に日傘を支え、立ち上がる。
「両手がふさがったままだと不便なので、抜いた草を捨ててきますね。えーっと、どこに……」
「お嬢さん、みんなあっちに捨ててるよ」
突然誰かの指が視界に入ってきた。その指がさす方向を見ると、草が積みあがっている場所があった。
「わ、本当ですね。ご親切に、どうもありがとうござい――」
声をかけてくれた女性にお礼を言おうとして、ララは草を落っことしそうになった。
相手も驚いたように「おやまぁ」と声を漏らした。白いブラウスにリネンのエプロンをつけた、高齢の女性だった。……半透明の。
「驚いた。一人で話してるからもしかしたらと思ったんだけど、お嬢さんには私が見えるのかい?」
「は、はい。昔から霊が見える体質でして」
「へぇ、そんな人がいるんだねぇ。長いこと生きたけど初めて知ったよ。私はサーシャっていうんだ。お嬢さんのお名前は?」
「申し遅れました。ララと申します」
「どう見てもご令嬢だけど、私はもう死んだ身だから、ララちゃんって呼ばせてもらっても良いかい?」
「もちろんです」
草を捨てた後、ララはサーシャの話を聞いた。彼女はこの町のレストランで働いていたらしい。テオドールよりも少し前に、寿命で亡くなったとのことだった。
二人いる孫のそばで最後の時間を過ごすと決め、この地に残っているらしい。
「――いやぁ。生きてる女の子に聞いてもらえるのが嬉しくて、つい私の話ばかりしちゃったわ。ごめんなさいねぇ」
「いえいえ。サーシャ様は、お孫さんたちが大好きなんですね」
「そうなの。二人ともとっても可愛いのよ。……私が死んじゃってすぐは、毎日泣くあの子たちが心配だったんだけど。今はだいぶ元気になってくれたわ」
「……こんなことをお聞きするのは、失礼だと思うのですが。……忘れられたような気持ちにはなりませんか? サーシャ様は、寂しくありませんか?」
自分がこの世から旅立ったことを、次第に人々が受け入れていく。それは死者にとって、悲しいことではないのだろうか。
「人それぞれだと思うけど、私は寂しくないねぇ。あの子たちが元気に生きててくれるなら」
「そういうもの、なのですか」
「うーん……。例えば、の話をするとね……うちの孫は、私が作ったオムレツが大好物だったんだけど」
「はい」
「これから先あの子たちが私のことを忘れたとしても、オムレツを食べた時に、『昔はこれが好きだったなぁ』って感じるかもしれないでしょう?」
未来を想像したのか、サーシャは今までで一番柔らかい笑顔をみせた。
「それって、私とあの子たちの時間が重なってた証拠だと思うの」
ハッとして、ララは指先に力を込める。
ずっと疑問だった。テオドールはなぜ、亡くなったことを嘆かないのか。自分以外の人の未来を想像するのか。
その答えを、見つけた気がする。
テオドールとサーシャ。
半透明な彼らの心の中には――、
「愛するあの子たちの存在が私が生きた証だなんて、なんだか素敵だと思わないかい?」
溢れんばかりの、愛があるのだ。
「…………とても、素敵だと思います」
声を絞り出したララは、サーシャではなく、テオドールを見上げた。
彼には自分の声しか聞こえていないはずだが、嫌になるほど、穏やかな眼差しを返してくれる。こういう時は意地悪な顔をしないところが、ずるい。
心臓をぎゅっと握られたような気がして、息が苦しくなった。
「愛されているのは、……愛してきたから、なのですね」
サーシャに言ったのか、テオドールに言ったのか。ララ自身にも分からなかった。
こんな人になりたい。ただそう思った。
この日、朝早くからララたち捜査官が訪れていたのは、自然豊かな田舎町、メルホルン。
ララは日傘を肩にかけ、自分の足元に広がる雑草と格闘中だ。せっせと草を抜く住人たちに遅れを取らぬよう、しゃがみ込んだまま手を動かす。
ララの右側を流れる大きな川は、ガルム川というらしい。川の周辺を整備するため、不要な草木を刈り取っているのだ。
捜査局の目的は手伝いをしつつ住民たちと交流することだが、ララは純粋に草抜きを楽しんでいた。草がブチっと切れずに根っこから抜けると、なんだか気持ちが良い。
(ちょっと上達してきたかも……!)
満足げに草を眺めていると、対岸に行っていたテオドールが戻ってきた。半透明な彼にかかれば、幅百メートルの川もひとっ飛びである。
「おかえりなさい。あちらはどんな感じですか?」
「木の伐採が終わったところだ」
「もうですか。早いですね」
「アルがいるからな」
「なるほど。確かにアルバート様なら……」
アルバートの武器は斧だ。力も強いし、これほど伐採に適した捜査官はいないだろう。
「あいつは力で押し通す方が向いてるからな。噂をすれば……次はこっち側の木を伐採をするみたいだ」
テオドールの視線の先には、川に架けられた低い木橋。アルバートとフロイドが並んで渡っているのが見える。
フロイドは出発する前、「隊長、俺がいないところで武器振り回すのは禁止っすからね。はい、復唱」とアルバートに真顔で詰め寄っていた。破壊活動を食い止めたいらしい。
ララが「トランクを持っていきますので、壊れても直しますよ」と言えば、「甘やかしちゃダメです。ララさんが作った物は普通壊れないんすから。隊長が無茶苦茶な使い方するのが悪いんです。教育しないと」と、甘やかすな命令を下された。けれども心配だったため、一応トランクを持ってきている。
「もう少ししたら、あの橋も作り直すのですよね?」
「ああ。使い始めてもう何十年も経ってるらしいからな。川岸の整備が済んだら始めるんじゃないか? 俺は新しい橋を見れそうにないが」
「私があなたの代わりに、完成までしっかり見ておきます」
ララが笑いかけると、テオドールはいじめっ子のような顔をした。
「発言は頼もしいが、顔に土を付けてたら格好良さが半減だな」
「え、うそ」
彼の手がこちらに伸びてくる。揶揄い口調ではあるが、触れる手はとても優しい。だからララは、大人しくテオドールの指に頬を拭われていた。
――新しい橋が完成する頃には、テオドールは神の元にいるのだろうか。自分の隣には、誰かいるのだろうか。
腕と肩で器用に日傘を支え、立ち上がる。
「両手がふさがったままだと不便なので、抜いた草を捨ててきますね。えーっと、どこに……」
「お嬢さん、みんなあっちに捨ててるよ」
突然誰かの指が視界に入ってきた。その指がさす方向を見ると、草が積みあがっている場所があった。
「わ、本当ですね。ご親切に、どうもありがとうござい――」
声をかけてくれた女性にお礼を言おうとして、ララは草を落っことしそうになった。
相手も驚いたように「おやまぁ」と声を漏らした。白いブラウスにリネンのエプロンをつけた、高齢の女性だった。……半透明の。
「驚いた。一人で話してるからもしかしたらと思ったんだけど、お嬢さんには私が見えるのかい?」
「は、はい。昔から霊が見える体質でして」
「へぇ、そんな人がいるんだねぇ。長いこと生きたけど初めて知ったよ。私はサーシャっていうんだ。お嬢さんのお名前は?」
「申し遅れました。ララと申します」
「どう見てもご令嬢だけど、私はもう死んだ身だから、ララちゃんって呼ばせてもらっても良いかい?」
「もちろんです」
草を捨てた後、ララはサーシャの話を聞いた。彼女はこの町のレストランで働いていたらしい。テオドールよりも少し前に、寿命で亡くなったとのことだった。
二人いる孫のそばで最後の時間を過ごすと決め、この地に残っているらしい。
「――いやぁ。生きてる女の子に聞いてもらえるのが嬉しくて、つい私の話ばかりしちゃったわ。ごめんなさいねぇ」
「いえいえ。サーシャ様は、お孫さんたちが大好きなんですね」
「そうなの。二人ともとっても可愛いのよ。……私が死んじゃってすぐは、毎日泣くあの子たちが心配だったんだけど。今はだいぶ元気になってくれたわ」
「……こんなことをお聞きするのは、失礼だと思うのですが。……忘れられたような気持ちにはなりませんか? サーシャ様は、寂しくありませんか?」
自分がこの世から旅立ったことを、次第に人々が受け入れていく。それは死者にとって、悲しいことではないのだろうか。
「人それぞれだと思うけど、私は寂しくないねぇ。あの子たちが元気に生きててくれるなら」
「そういうもの、なのですか」
「うーん……。例えば、の話をするとね……うちの孫は、私が作ったオムレツが大好物だったんだけど」
「はい」
「これから先あの子たちが私のことを忘れたとしても、オムレツを食べた時に、『昔はこれが好きだったなぁ』って感じるかもしれないでしょう?」
未来を想像したのか、サーシャは今までで一番柔らかい笑顔をみせた。
「それって、私とあの子たちの時間が重なってた証拠だと思うの」
ハッとして、ララは指先に力を込める。
ずっと疑問だった。テオドールはなぜ、亡くなったことを嘆かないのか。自分以外の人の未来を想像するのか。
その答えを、見つけた気がする。
テオドールとサーシャ。
半透明な彼らの心の中には――、
「愛するあの子たちの存在が私が生きた証だなんて、なんだか素敵だと思わないかい?」
溢れんばかりの、愛があるのだ。
「…………とても、素敵だと思います」
声を絞り出したララは、サーシャではなく、テオドールを見上げた。
彼には自分の声しか聞こえていないはずだが、嫌になるほど、穏やかな眼差しを返してくれる。こういう時は意地悪な顔をしないところが、ずるい。
心臓をぎゅっと握られたような気がして、息が苦しくなった。
「愛されているのは、……愛してきたから、なのですね」
サーシャに言ったのか、テオドールに言ったのか。ララ自身にも分からなかった。
こんな人になりたい。ただそう思った。
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