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第二章 アイリス三歳『魔力診』後
その23 サファイアとルビー
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23
エルナト・アル・フィリクス・アンティグアと名乗った超絶美形な魔法使いでお医者さま。
エステリオ叔父さまの親友。
背が高いからかしら、エステリオ叔父さまより、少し年上っぽい。
でも、きっと、まだ二十歳にはなってない。
確かにカルナックお師匠さまのお弟子だわと思ったのは、ルックスもだけど立ち居振る舞い、仕草から、イケメン臭がぷんぷんするところです。
優雅に、あたしの手を取って。
屈み込んで顔を近づける。
あれ?
もしかしてこの一連の流れ。
手の甲にキスするつもりでは?
ちょっと待って。
心の準備ができてないよ!
あたし三歳だし!(都合のいいときだけ)
お話のさしえとかでは知ってたけど、自分の身に降りかかるとは思ってなくて
突然のことに固まってしまった。
危険だわ!
どうにかしなきゃ!
「ぐるる!」
「オン!」
あたしの左右でシロとクロが低くうなって。
威嚇してる!
押さえていないと、飛び出しそうだわ。
いけない!
もしも護衛のためとはいえお客さまに噛みついたりしたら問題だわ!
しかもエルナト・アル・フィリクス・アンティグアさまって……大公さまの遠い親戚だって聞いてるし!
ってことは、貴族さま!?
どうしよう!
「だめだ!」
そのとき素早く反応したのは、エステリオ叔父さまだった。
ばしっ!
エルナトさまの手をはたいたと思うと、すぐにあたしを抱き上げて緊急避難させたのでした。
「アイリスに触るな」
「え? いやその、お、落ち着こうかアウル。もちろんこれは儀礼上のアレだから実際にはキスしないよ!」
「よけいに失敬だ!」
焦る美形青年。
憤慨しているエステリオ叔父さま。
今にもけんかになりそう?
ここは当事者である、あたしが、エステリオ叔父さまを押さえないと!
だけどどうしたらいいの?
あたしが困っていると、乳母やのサリーが、穏やかに、言った。
「お坊ちゃま、落ち着いてくださいませ。怒っていらっしゃっては、お嬢様が不安になりますわ」
サリーが、控えめに口添え。
小間使いのローサは、部屋の中を見回して。
「奥様も、もうじきに帰宅されるはずですから。そうしたらここへおいでになりますでしょう。あの、お坊ちゃま。落ち着いてください」
表情は少しばかり、こわばっていたけれど。
※
そのときでした。
ふわっと、急に空気のにおいが変わったの。
「だめじゃな~い、エルったら。患者さんが引いちゃうわぁ~」
「そんな自己紹介じゃ怪しすぎるって!」
エルナトさまの後ろから、二人の女性が姿を現したのです。
「まったく、そんなとこがお師匠様に似ちゃってどうするのよ」
ハスキーな声の、背の高い美女。
腰まで届く、まっすぐで豊かな黒髪。
すずしげな黒い瞳、明るいミルクティー色の肌。
スタイル抜群。顔立ちはアジア系。何歳かしら? 二十歳くらい?
そして、もうひとり。
「相手は三歳の幼女だ。気遣ってあげなきゃだろ? てか、挨拶でキスすんなエル」
あきれたように、腕組みをしてエルナトさまを目で威嚇する。
まっすぐで長くてサラサラなプラチナブロンド、ペリドットみたいな明るい緑の瞳。色白で華奢で、十五歳くらいかな。北欧系な美少女。
『残念ね。あの子、黙っていたら儚げなエルフみたいなのに』
あたしの右肩にいる守護妖精たちが、ささやいて、キラキラ笑う。
「いいからエル、ちょっとどいて」
黒髪美女が、文字通りエルナトさんをぐいっと押しのけて、あたしの前に来た。
「アイリスさん、初めまして。わたしたち、学院の生徒で、エルナト医師のアシスタントなのよ。今回の患者さんは小さな女の子なんですもの。男性医師の診療を受けるなんて、不安になるでしょ。付き添いとして、わたしたちのような、おしとやかな女子がいないとね!」
にこやかに手を振った。
「というわけで派遣されてきた」
プラチナブロンドの美少女が、腕組みをして、にやりと笑った。
黒髪の美女が、くすっと笑って。
「ちなみに、わたしは『サファイア』こっちは『ルビー』よ」
え?
サファイアとルビー?
む、むちゃくちゃ日本語!?
「わたしの専門分野は『毒』なのよね」
さらっとすごいこと言った、黒髪美女。
「ふぅん? いまのは日本語だったんだけど。表情が動いたわ。アイリスちゃん? やっぱりあなた、前世の記憶を持って転生した『先祖還り』なのね!」
満面の笑みを浮かべたのです。
エルナト・アル・フィリクス・アンティグアと名乗った超絶美形な魔法使いでお医者さま。
エステリオ叔父さまの親友。
背が高いからかしら、エステリオ叔父さまより、少し年上っぽい。
でも、きっと、まだ二十歳にはなってない。
確かにカルナックお師匠さまのお弟子だわと思ったのは、ルックスもだけど立ち居振る舞い、仕草から、イケメン臭がぷんぷんするところです。
優雅に、あたしの手を取って。
屈み込んで顔を近づける。
あれ?
もしかしてこの一連の流れ。
手の甲にキスするつもりでは?
ちょっと待って。
心の準備ができてないよ!
あたし三歳だし!(都合のいいときだけ)
お話のさしえとかでは知ってたけど、自分の身に降りかかるとは思ってなくて
突然のことに固まってしまった。
危険だわ!
どうにかしなきゃ!
「ぐるる!」
「オン!」
あたしの左右でシロとクロが低くうなって。
威嚇してる!
押さえていないと、飛び出しそうだわ。
いけない!
もしも護衛のためとはいえお客さまに噛みついたりしたら問題だわ!
しかもエルナト・アル・フィリクス・アンティグアさまって……大公さまの遠い親戚だって聞いてるし!
ってことは、貴族さま!?
どうしよう!
「だめだ!」
そのとき素早く反応したのは、エステリオ叔父さまだった。
ばしっ!
エルナトさまの手をはたいたと思うと、すぐにあたしを抱き上げて緊急避難させたのでした。
「アイリスに触るな」
「え? いやその、お、落ち着こうかアウル。もちろんこれは儀礼上のアレだから実際にはキスしないよ!」
「よけいに失敬だ!」
焦る美形青年。
憤慨しているエステリオ叔父さま。
今にもけんかになりそう?
ここは当事者である、あたしが、エステリオ叔父さまを押さえないと!
だけどどうしたらいいの?
あたしが困っていると、乳母やのサリーが、穏やかに、言った。
「お坊ちゃま、落ち着いてくださいませ。怒っていらっしゃっては、お嬢様が不安になりますわ」
サリーが、控えめに口添え。
小間使いのローサは、部屋の中を見回して。
「奥様も、もうじきに帰宅されるはずですから。そうしたらここへおいでになりますでしょう。あの、お坊ちゃま。落ち着いてください」
表情は少しばかり、こわばっていたけれど。
※
そのときでした。
ふわっと、急に空気のにおいが変わったの。
「だめじゃな~い、エルったら。患者さんが引いちゃうわぁ~」
「そんな自己紹介じゃ怪しすぎるって!」
エルナトさまの後ろから、二人の女性が姿を現したのです。
「まったく、そんなとこがお師匠様に似ちゃってどうするのよ」
ハスキーな声の、背の高い美女。
腰まで届く、まっすぐで豊かな黒髪。
すずしげな黒い瞳、明るいミルクティー色の肌。
スタイル抜群。顔立ちはアジア系。何歳かしら? 二十歳くらい?
そして、もうひとり。
「相手は三歳の幼女だ。気遣ってあげなきゃだろ? てか、挨拶でキスすんなエル」
あきれたように、腕組みをしてエルナトさまを目で威嚇する。
まっすぐで長くてサラサラなプラチナブロンド、ペリドットみたいな明るい緑の瞳。色白で華奢で、十五歳くらいかな。北欧系な美少女。
『残念ね。あの子、黙っていたら儚げなエルフみたいなのに』
あたしの右肩にいる守護妖精たちが、ささやいて、キラキラ笑う。
「いいからエル、ちょっとどいて」
黒髪美女が、文字通りエルナトさんをぐいっと押しのけて、あたしの前に来た。
「アイリスさん、初めまして。わたしたち、学院の生徒で、エルナト医師のアシスタントなのよ。今回の患者さんは小さな女の子なんですもの。男性医師の診療を受けるなんて、不安になるでしょ。付き添いとして、わたしたちのような、おしとやかな女子がいないとね!」
にこやかに手を振った。
「というわけで派遣されてきた」
プラチナブロンドの美少女が、腕組みをして、にやりと笑った。
黒髪の美女が、くすっと笑って。
「ちなみに、わたしは『サファイア』こっちは『ルビー』よ」
え?
サファイアとルビー?
む、むちゃくちゃ日本語!?
「わたしの専門分野は『毒』なのよね」
さらっとすごいこと言った、黒髪美女。
「ふぅん? いまのは日本語だったんだけど。表情が動いたわ。アイリスちゃん? やっぱりあなた、前世の記憶を持って転生した『先祖還り』なのね!」
満面の笑みを浮かべたのです。
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