転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

文字の大きさ
83 / 362
第三章 アイリス四歳

その9 守護妖精の「契約」

しおりを挟む
         9

「ほかの妖精さんも?」

『この中庭に住んでいる水の妖精が、アイリスの守護精霊になりたいって言ってきてるのよ。まだ希望者は増えていくと思うわ。あなたの魔力はものすごくて、魅力的だもの』

「そうなの?」
 全然ぴんとこない。

「ははあ、なるほどねえ。そりゃあ、いいところに目をつけたもんだぜ」
 メイド服のままで腕組みをして、ルビー=ティーレさんが、にやりと笑う。

「アイリスほど魔力が有り余ってて、使い道を求めてるような幼女は、なかなかいないわよぅ。なんだったら、いずれは全種類の守護妖精と契約もできるわ」
 同じくメイド服。楽しげにサファイア=リドラさんは、ほほほほ、と、高笑いをした。
「シルル、イルミナ。あなたたちは生まれたてのアイリスが目を開ける前から『ついて』いたそうじゃないの。気合いをいれて頑張りなさいよ。ほかの妖精たちが契約したいと押しかけてくるまえに、アドバンテージとっとかなくちゃ、追い抜かれるかもよ?」

『やだっこのヒト怖い! あたしたちを、妖精を脅したわ! 持ってる魔力もなんだか黒いし! カルナックに似てるし! 従魔も手なずけてるのよ』

『金髪メイドもよ! こんな筋肉メイド、普通、いないわよ!』
 おびえるシルルとイルミナ。

「おーっほほほほ! わたしたちにかなうと思う? 百年早いわ!」
「あたしら護衛メイドを甘く見るなっつーの。ただのヒトなんかじゃないんだ」

「ごめんなさい! なんかよくわかんないけど、ごめんなさい! サファイアさん、ルビーさん。シルルもイルミナもがんばってるの! だから、仲良くして!」

「あっそう。アイリスちゃんのお願いならしかたないわね」

「でもさ、甘くね? ともかく主従関係ってのはハッキリさせとかないといけねえ」

「そりゃあ脳筋ガルガンド基準でしょ……」

「もちろん上下関係は、わきまえなきゃ」

 論争は果てしなく続きそうだったけど、あたしは奥の手を使いました。

「お願い! サファイアさんルビーさん、シロとクロが遊び足りなそうなの。もう少し、走らせてあげてくれないかしら?」
「あら、そういうことね」
「ま、いいや、了解!」
 二人には、シロとクロの相手をしてもらったの。

「シルル、イルミナ。さっきのお話のつづきをしましょ? 新しい妖精さんって?」

『助かったわ!』

『それじゃあ、あっちを見て。池の方に水の妖精がいるの』

 お父さまご自慢の、外国から取り寄せた睡蓮スイレンが咲いている池に目をやる。

「あ、ほんとうね、わかったわ」

 小さな妖精が光の粉を降らせながら、ゆっくりと旋回している。

『アイリス、アイリス! わたしを見てくれたの? わたしとも縁を結んで!』
 微かな声が届く。
 水色の髪をした、愛くるしい妖精の女の子。
 まっしぐらにこちらへ飛んでくる。

『だめよ! 後からきて、あつかましいわ』
『待ちなさいよ』
 シルルとイルミナが、ぴしゃりと止める。

『アイリス! あなたすてきよ! わたしは水の妖精、ディーネ』

『もう! ちゃっかり売り込んでるんじゃないわよ!』
『近頃の妖精は礼儀もわきまえないのかしら!』

『だって、アイリスがまぶしいくらい光ってるの。あなたたちも感じてるから、守護妖精になったんでしょ? でも、まだ「契約」してないじゃない。だったら、条件はわたしも同じかなって』

「そうなの? シルル、イルミナ。契約ってなあに。何かいいことあるの?」

『もちろん! たとえば、わたしたち守護妖精は、いずれ進化して、守護精霊になれる。今の小さな身体だけじゃなくて大人の姿でも現れることができるの。そうすると本来の力を発揮できて、もっとアイリスを守れるわ!』

『わたしたち、すっごい美人なのよ。期待してて』

「ほんと?」

『そうよ! せっかくわたしたちが見守ってきた可愛いアイリスを、ぽっと出の水の妖精なんかに任せられない。、ちゃんと守れるわけないんだからっ!』
『そうよ、そうよ!』
 シルルとイルミナは大興奮のようす。

『あの~、ぽっと出ですけどぉ。水の精霊も契約しとくと便利よ? 考えといてね』
 控えめなディーネのアピールに、ほっこりする。

「ありがとう、ディーネ。これからよろしくね。それから、シルルとイルミナは、今まであたしのこと守ってくれてありがとう。おかげで家族にも使用人にも喜ばれてるの。感謝してるわ」

『あ、あら、そんな。照れるわね』

『これからもがんばるわっ』

『わたしもよろしくですぅ~』

 シルルとイルミナ(それにディーネ)の覚悟はよくわかった。

「契約ってどうすればいいの? 今から、できる?」

『まかせて!』
『ですわ!』

 飛び回っていた光が、空中に停止した。
 羽根はせわしく動いてる。ホバリングみたい。

『アイリスは跪いて。両手のひらをひろげて、上にのばして』

「……こう?」

『いいわ。じゃあ少し待っててね。わたしたちの契約を、セレナンの根源の女神さまにお誓い申し上げて、祈りを捧げるの。それが赦されたら、契約は成立するのよ』

 あたしは両手をひろげて空にさしのべ、シルルとイルミナ、ディーネの契約宣言と祈りを聞きながら待っていればいいのだそうだ。

 さあ、始まるわ!


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

烈火物語

うなぎ太郎
ファンタジー
大陸を支配する超大国、シューネスラント王国。 その権力の下で、諸小国は日々抑圧されていた。 一方、王国に挑み、世界を変えんと立ち上がる新興騎馬民族国家、テラロディア諸部族連邦帝国。 激動の時代、二つの強国がついに、直接刃を交えんとしている。 だが、そんな歴史の渦中で―― 知られざる秘密の恋が、静かに、そして激しく繰り広げられていた。 戦争と恋愛。 一見無関係に思える、二つの壮大なテーマが今、交錯する! 戦いと愛に生きる人々の、熱き想いが燃え上がる、大長編ファンタジー小説! ※小説家になろうでも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n7353kw/

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...