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第三章 アイリス四歳
その9 守護妖精の「契約」
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9
「ほかの妖精さんも?」
『この中庭に住んでいる水の妖精が、アイリスの守護精霊になりたいって言ってきてるのよ。まだ希望者は増えていくと思うわ。あなたの魔力はものすごくて、魅力的だもの』
「そうなの?」
全然ぴんとこない。
「ははあ、なるほどねえ。そりゃあ、いいところに目をつけたもんだぜ」
メイド服のままで腕組みをして、ルビー=ティーレさんが、にやりと笑う。
「アイリスほど魔力が有り余ってて、使い道を求めてるような幼女は、なかなかいないわよぅ。なんだったら、いずれは全種類の守護妖精と契約もできるわ」
同じくメイド服。楽しげにサファイア=リドラさんは、ほほほほ、と、高笑いをした。
「シルル、イルミナ。あなたたちは生まれたてのアイリスが目を開ける前から『ついて』いたそうじゃないの。気合いをいれて頑張りなさいよ。ほかの妖精たちが契約したいと押しかけてくるまえに、アドバンテージとっとかなくちゃ、追い抜かれるかもよ?」
『やだっこのヒト怖い! あたしたちを、妖精を脅したわ! 持ってる魔力もなんだか黒いし! カルナックに似てるし! 従魔も手なずけてるのよ』
『金髪メイドもよ! こんな筋肉メイド、普通、いないわよ!』
おびえるシルルとイルミナ。
「おーっほほほほ! わたしたちにかなうと思う? 百年早いわ!」
「あたしら護衛メイドを甘く見るなっつーの。ただのヒトなんかじゃないんだ」
「ごめんなさい! なんかよくわかんないけど、ごめんなさい! サファイアさん、ルビーさん。シルルもイルミナもがんばってるの! だから、仲良くして!」
「あっそう。アイリスちゃんのお願いならしかたないわね」
「でもさ、甘くね? ともかく主従関係ってのはハッキリさせとかないといけねえ」
「そりゃあ脳筋ガルガンド基準でしょ……」
「もちろん上下関係は、わきまえなきゃ」
論争は果てしなく続きそうだったけど、あたしは奥の手を使いました。
「お願い! サファイアさんルビーさん、シロとクロが遊び足りなそうなの。もう少し、走らせてあげてくれないかしら?」
「あら、そういうことね」
「ま、いいや、了解!」
二人には、シロとクロの相手をしてもらったの。
「シルル、イルミナ。さっきのお話のつづきをしましょ? 新しい妖精さんって?」
『助かったわ!』
『それじゃあ、あっちを見て。池の方に水の妖精がいるの』
お父さまご自慢の、外国から取り寄せた睡蓮が咲いている池に目をやる。
「あ、ほんとうね、わかったわ」
小さな妖精が光の粉を降らせながら、ゆっくりと旋回している。
『アイリス、アイリス! わたしを見てくれたの? わたしとも縁を結んで!』
微かな声が届く。
水色の髪をした、愛くるしい妖精の女の子。
まっしぐらにこちらへ飛んでくる。
『だめよ! 後からきて、あつかましいわ』
『待ちなさいよ』
シルルとイルミナが、ぴしゃりと止める。
『アイリス! あなたすてきよ! わたしは水の妖精、ディーネ』
『もう! ちゃっかり売り込んでるんじゃないわよ!』
『近頃の妖精は礼儀もわきまえないのかしら!』
『だって、アイリスがまぶしいくらい光ってるの。あなたたちも感じてるから、守護妖精になったんでしょ? でも、まだ「契約」してないじゃない。だったら、条件はわたしも同じかなって』
「そうなの? シルル、イルミナ。契約ってなあに。何かいいことあるの?」
『もちろん! たとえば、わたしたち守護妖精は、いずれ進化して、守護精霊になれる。今の小さな身体だけじゃなくて大人の姿でも現れることができるの。そうすると本来の力を発揮できて、もっとアイリスを守れるわ!』
『わたしたち、すっごい美人なのよ。期待してて』
「ほんと?」
『そうよ! せっかくわたしたちが見守ってきた可愛いアイリスを、ぽっと出の水の妖精なんかに任せられない。、ちゃんと守れるわけないんだからっ!』
『そうよ、そうよ!』
シルルとイルミナは大興奮のようす。
『あの~、ぽっと出ですけどぉ。水の精霊も契約しとくと便利よ? 考えといてね』
控えめなディーネのアピールに、ほっこりする。
「ありがとう、ディーネ。これからよろしくね。それから、シルルとイルミナは、今まであたしのこと守ってくれてありがとう。おかげで家族にも使用人にも喜ばれてるの。感謝してるわ」
『あ、あら、そんな。照れるわね』
『これからもがんばるわっ』
『わたしもよろしくですぅ~』
シルルとイルミナ(それにディーネ)の覚悟はよくわかった。
「契約ってどうすればいいの? 今から、できる?」
『まかせて!』
『ですわ!』
飛び回っていた光が、空中に停止した。
羽根はせわしく動いてる。ホバリングみたい。
『アイリスは跪いて。両手のひらをひろげて、上にのばして』
「……こう?」
『いいわ。じゃあ少し待っててね。わたしたちの契約を、セレナンの根源の女神さまにお誓い申し上げて、祈りを捧げるの。それが赦されたら、契約は成立するのよ』
あたしは両手をひろげて空にさしのべ、シルルとイルミナ、ディーネの契約宣言と祈りを聞きながら待っていればいいのだそうだ。
さあ、始まるわ!
「ほかの妖精さんも?」
『この中庭に住んでいる水の妖精が、アイリスの守護精霊になりたいって言ってきてるのよ。まだ希望者は増えていくと思うわ。あなたの魔力はものすごくて、魅力的だもの』
「そうなの?」
全然ぴんとこない。
「ははあ、なるほどねえ。そりゃあ、いいところに目をつけたもんだぜ」
メイド服のままで腕組みをして、ルビー=ティーレさんが、にやりと笑う。
「アイリスほど魔力が有り余ってて、使い道を求めてるような幼女は、なかなかいないわよぅ。なんだったら、いずれは全種類の守護妖精と契約もできるわ」
同じくメイド服。楽しげにサファイア=リドラさんは、ほほほほ、と、高笑いをした。
「シルル、イルミナ。あなたたちは生まれたてのアイリスが目を開ける前から『ついて』いたそうじゃないの。気合いをいれて頑張りなさいよ。ほかの妖精たちが契約したいと押しかけてくるまえに、アドバンテージとっとかなくちゃ、追い抜かれるかもよ?」
『やだっこのヒト怖い! あたしたちを、妖精を脅したわ! 持ってる魔力もなんだか黒いし! カルナックに似てるし! 従魔も手なずけてるのよ』
『金髪メイドもよ! こんな筋肉メイド、普通、いないわよ!』
おびえるシルルとイルミナ。
「おーっほほほほ! わたしたちにかなうと思う? 百年早いわ!」
「あたしら護衛メイドを甘く見るなっつーの。ただのヒトなんかじゃないんだ」
「ごめんなさい! なんかよくわかんないけど、ごめんなさい! サファイアさん、ルビーさん。シルルもイルミナもがんばってるの! だから、仲良くして!」
「あっそう。アイリスちゃんのお願いならしかたないわね」
「でもさ、甘くね? ともかく主従関係ってのはハッキリさせとかないといけねえ」
「そりゃあ脳筋ガルガンド基準でしょ……」
「もちろん上下関係は、わきまえなきゃ」
論争は果てしなく続きそうだったけど、あたしは奥の手を使いました。
「お願い! サファイアさんルビーさん、シロとクロが遊び足りなそうなの。もう少し、走らせてあげてくれないかしら?」
「あら、そういうことね」
「ま、いいや、了解!」
二人には、シロとクロの相手をしてもらったの。
「シルル、イルミナ。さっきのお話のつづきをしましょ? 新しい妖精さんって?」
『助かったわ!』
『それじゃあ、あっちを見て。池の方に水の妖精がいるの』
お父さまご自慢の、外国から取り寄せた睡蓮が咲いている池に目をやる。
「あ、ほんとうね、わかったわ」
小さな妖精が光の粉を降らせながら、ゆっくりと旋回している。
『アイリス、アイリス! わたしを見てくれたの? わたしとも縁を結んで!』
微かな声が届く。
水色の髪をした、愛くるしい妖精の女の子。
まっしぐらにこちらへ飛んでくる。
『だめよ! 後からきて、あつかましいわ』
『待ちなさいよ』
シルルとイルミナが、ぴしゃりと止める。
『アイリス! あなたすてきよ! わたしは水の妖精、ディーネ』
『もう! ちゃっかり売り込んでるんじゃないわよ!』
『近頃の妖精は礼儀もわきまえないのかしら!』
『だって、アイリスがまぶしいくらい光ってるの。あなたたちも感じてるから、守護妖精になったんでしょ? でも、まだ「契約」してないじゃない。だったら、条件はわたしも同じかなって』
「そうなの? シルル、イルミナ。契約ってなあに。何かいいことあるの?」
『もちろん! たとえば、わたしたち守護妖精は、いずれ進化して、守護精霊になれる。今の小さな身体だけじゃなくて大人の姿でも現れることができるの。そうすると本来の力を発揮できて、もっとアイリスを守れるわ!』
『わたしたち、すっごい美人なのよ。期待してて』
「ほんと?」
『そうよ! せっかくわたしたちが見守ってきた可愛いアイリスを、ぽっと出の水の妖精なんかに任せられない。、ちゃんと守れるわけないんだからっ!』
『そうよ、そうよ!』
シルルとイルミナは大興奮のようす。
『あの~、ぽっと出ですけどぉ。水の精霊も契約しとくと便利よ? 考えといてね』
控えめなディーネのアピールに、ほっこりする。
「ありがとう、ディーネ。これからよろしくね。それから、シルルとイルミナは、今まであたしのこと守ってくれてありがとう。おかげで家族にも使用人にも喜ばれてるの。感謝してるわ」
『あ、あら、そんな。照れるわね』
『これからもがんばるわっ』
『わたしもよろしくですぅ~』
シルルとイルミナ(それにディーネ)の覚悟はよくわかった。
「契約ってどうすればいいの? 今から、できる?」
『まかせて!』
『ですわ!』
飛び回っていた光が、空中に停止した。
羽根はせわしく動いてる。ホバリングみたい。
『アイリスは跪いて。両手のひらをひろげて、上にのばして』
「……こう?」
『いいわ。じゃあ少し待っててね。わたしたちの契約を、セレナンの根源の女神さまにお誓い申し上げて、祈りを捧げるの。それが赦されたら、契約は成立するのよ』
あたしは両手をひろげて空にさしのべ、シルルとイルミナ、ディーネの契約宣言と祈りを聞きながら待っていればいいのだそうだ。
さあ、始まるわ!
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