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第五章 パウルとパオラ
その9 銀竜さまに、デジャヴ
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あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは四歳と九ヶ月で、大晦日と新年のカウントダウンイベントを迎えたのでした。
エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに居を構える豪商ラゼル家では、毎年恒例の、年末の大がかりな宴をとどこおりなく終えて、めでたく新年を迎えた。
巨大な焚き火を燃やして、ごちそうをご近所さんやお腹がすいている人たちみんなにふるまっていたら、焚き火の上に魔法陣が浮かび上がって、銀の鈴をびっしり実らせた『シンギングツリー』があ出現して……と、とんでもないことずくめのカウントダウン!
※
新年の最初の朝、通常ならば家族だけの朝食だけれど、今年はいつもと違っていた。
パーティーなどに使われる広間には、十人以上は一度に座れるような大きなテーブルが用意されていた。
両親と叔父さまと、パオラさん、パウルさんは、あたしと一緒に並んでテーブルについて。
向かい側には阻止童子姿の歳神さま、コマラパ老師とカルナックお師匠さま。
我が家にいらして下さった歳神さまをおもてなしするために整えた神饌というものをお出しして。実は、このお料理はパオラさん、パウルさんの故郷である『極東』ふうの郷土料理でもあったわけなのですけれど。
それって。
前世の記憶があるアイリスとエステリオ・アウル叔父さまには忘れられなかった21世紀日本の、お正月料理……おせちとお雑煮だったのです。
そこへ、カルナックさまのご紹介で、新たなお客さまがやってきたの。
背が高くて超絶美形な、長い銀髪の青年。
メタリックな銀色の、身体にぴったり合うスーツという、ふしぎな衣装をまとっていた。
これって、アイリスの中のあたし、月宮アリスにとっては前世で見たことのある、ヴィジュアル系のアーティストさんみたいな衣装だった。
お客さまの名前は、銀竜。
アルゲントゥム・ドラコー。
ふいに時間が止まった見たいに感じた。
周囲から色が消えた。
思い出してしまった。
あたしは、この人に会ったことがある。
ここじゃない。
安全で、家族に囲まれている、我が家じゃない。
そんなに昔のことでもない。
あれは、いつのことだった……?
時間が止まったように感じたのは、あたしの意識の底で誰かが、凄まじい反応速度で、アイリスの記憶を検索していたからなのだ。
それは……システム・イリス。
やがて、永遠にも思えた、実際には刹那の間を置いて。
答えを出した。
「銀竜さま。アルゲントゥム・ドラコーさま。あたしはあなたに、以前、お目にかかったことがあります。思い出しました」
「おっと、それは後で聞こう」
銀竜と名乗った美形青年は、お茶目に、ウィンクした。
なんだかカルナックお師匠さまに似てるわ、と思った。
アルゲントゥム・ドラコーの隣にいたカルナックお師匠さまも、よく似た表情で、笑った。
「それは私も、詳しく聞きたいな」
「ところでカルナック? 昨夜は大公の宴に赴いて、どうだったのかと、誰も尋ねないようだが」
「よけいなことを」
銀竜さまに聞かれて、カルナックお師匠さまは気分を害したように言った。
「どうにもなるものか。私が行く前に『影の呪術師』が、大公や貴族達を徹底して威圧していてくれたおかげでね。あとはとどめに私とコマラパがちょっぴり『奇跡の技』を披露してみせるだけでことは足りた」
「ああ……なるほど。いやはや最高位の『第一世代の精霊』が、よくもまあ人間たちを消し炭にしないでくれたものだなあ」
得心したように、銀竜は答えたのだった。
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは四歳と九ヶ月で、大晦日と新年のカウントダウンイベントを迎えたのでした。
エルレーン公国首都シ・イル・リリヤに居を構える豪商ラゼル家では、毎年恒例の、年末の大がかりな宴をとどこおりなく終えて、めでたく新年を迎えた。
巨大な焚き火を燃やして、ごちそうをご近所さんやお腹がすいている人たちみんなにふるまっていたら、焚き火の上に魔法陣が浮かび上がって、銀の鈴をびっしり実らせた『シンギングツリー』があ出現して……と、とんでもないことずくめのカウントダウン!
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新年の最初の朝、通常ならば家族だけの朝食だけれど、今年はいつもと違っていた。
パーティーなどに使われる広間には、十人以上は一度に座れるような大きなテーブルが用意されていた。
両親と叔父さまと、パオラさん、パウルさんは、あたしと一緒に並んでテーブルについて。
向かい側には阻止童子姿の歳神さま、コマラパ老師とカルナックお師匠さま。
我が家にいらして下さった歳神さまをおもてなしするために整えた神饌というものをお出しして。実は、このお料理はパオラさん、パウルさんの故郷である『極東』ふうの郷土料理でもあったわけなのですけれど。
それって。
前世の記憶があるアイリスとエステリオ・アウル叔父さまには忘れられなかった21世紀日本の、お正月料理……おせちとお雑煮だったのです。
そこへ、カルナックさまのご紹介で、新たなお客さまがやってきたの。
背が高くて超絶美形な、長い銀髪の青年。
メタリックな銀色の、身体にぴったり合うスーツという、ふしぎな衣装をまとっていた。
これって、アイリスの中のあたし、月宮アリスにとっては前世で見たことのある、ヴィジュアル系のアーティストさんみたいな衣装だった。
お客さまの名前は、銀竜。
アルゲントゥム・ドラコー。
ふいに時間が止まった見たいに感じた。
周囲から色が消えた。
思い出してしまった。
あたしは、この人に会ったことがある。
ここじゃない。
安全で、家族に囲まれている、我が家じゃない。
そんなに昔のことでもない。
あれは、いつのことだった……?
時間が止まったように感じたのは、あたしの意識の底で誰かが、凄まじい反応速度で、アイリスの記憶を検索していたからなのだ。
それは……システム・イリス。
やがて、永遠にも思えた、実際には刹那の間を置いて。
答えを出した。
「銀竜さま。アルゲントゥム・ドラコーさま。あたしはあなたに、以前、お目にかかったことがあります。思い出しました」
「おっと、それは後で聞こう」
銀竜と名乗った美形青年は、お茶目に、ウィンクした。
なんだかカルナックお師匠さまに似てるわ、と思った。
アルゲントゥム・ドラコーの隣にいたカルナックお師匠さまも、よく似た表情で、笑った。
「それは私も、詳しく聞きたいな」
「ところでカルナック? 昨夜は大公の宴に赴いて、どうだったのかと、誰も尋ねないようだが」
「よけいなことを」
銀竜さまに聞かれて、カルナックお師匠さまは気分を害したように言った。
「どうにもなるものか。私が行く前に『影の呪術師』が、大公や貴族達を徹底して威圧していてくれたおかげでね。あとはとどめに私とコマラパがちょっぴり『奇跡の技』を披露してみせるだけでことは足りた」
「ああ……なるほど。いやはや最高位の『第一世代の精霊』が、よくもまあ人間たちを消し炭にしないでくれたものだなあ」
得心したように、銀竜は答えたのだった。
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