転生幼女アイリスと虹の女神

紺野たくみ

文字の大きさ
157 / 362
第五章 パウルとパオラ

その23 勝利(皇帝ガルデルの絶望と儚い希望12)

しおりを挟む
         23

「いっけえええええ!」
 強烈な光のビームが、ガルデルの黒鎧を貫いた。

「変態野郎に一発ぶちかませ!」
 じつは、こう叫んだのは、あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼル。
 良家のお嬢さまにあるまじき大声で叫んでいた。何しろ魂の中身が、イリス・マクギリスだからねえ……。彼女はちょっぴり自分に素直なので!

 でも、グリスさんもレニくんも、一緒だったもんね!
 ていうか、きっと覚えてないと思う。
 たぶん。

 なぜならば、あたしたち三人が力を合わせてガルデルに一矢報いた、その瞬間。

『ミッションクリア!』
 という、高らかな声が響いてきたから。
 そっちのほうに気を取られた、はず。

 あれ?
 違和感。
 もしも、万が一の可能性として、ここがゲームの世界だったら。
 こういうレベルアップやクエストクリアを告げるのは無機質っぽい音声っていうのが定番じゃない?

 もっとも、その疑問にはすぐに答えが出た。

 あたしとグリスさんとレニくんは大広間を出て中庭に降り立ち、庭木の植え込みや人工の小川や小山、池のほとりを突っ切って、庭の外れにある古い井戸のそばまでたどり着いている。
 いっぽう、あたしの腕輪に宿る精霊ラト・ナ・ルアと、ガルデルをそそのかしたという、自称『魔の月』セラニスは、大広間から庭に降りていくらも進んでいないところにいる。

 あたしたちとラト・ナ・ルアの間の中空に、突如として、まばゆい白銀の光がほとばしった。
 目がくらむ。
 ゆっくりと、目が慣れてきて。
 現れ出た存在に、今度は、目を奪われる。

 波打つ豊かな銀髪。
 身に纏う純白の長衣。
 長身の、大人の女性だった。
 神々しいとしか言えない。他の何かに例える事も、あり得ない。
 それほどの、整った美貌の女性。年齢はわからない。あえていえば二十代後半かな。
 けれども、美しい女性というだけではない。

 圧倒的で強烈な『力』そのものが、あらわれ出たのだ。

「めがみ、さま?」
 ぼうぜんと呟く、レニくん。

 グリスさんは慌てて彼を抱き寄せる。
「もしや、セレナン様……精霊様がたの、大いなる姉君……さま、では? まさか、お目にかかれるなんて、夢にも思いません……で、ございます」
 かなり動揺してる!
 その証拠に、敬語があやういです。
 レニウス・レギオンとグリスの受けた衝撃と動揺も、何処吹く風。

 女神さまのような、美貌の女性は。
  
『やったね! 賭けは私の勝ちだ!』

 満面の笑顔で、ガッツポーズをした。

 ……え?
 あれれ?
 ものすごい既視感(デジャヴ)があるんだけど?

 ……前にも……似たようなことが……?
 えっと、なんだっけ! いつ!?
 カルナックお師匠さまの関連で……たしか……

 まぶしい光も、しだいに薄れていって、女神さまの姿がはっきりと見えてきた。
 中空から、ゆっくりと降りてくる。
 たなびく銀髪。白い衣は、まるで天女さまの羽衣。

 足首に白い紐を巻き付けたサンダル履きの足先が、とん、と地面に着いた。

 美貌の女性は、胸をはって。
 にやり、と笑った。

 急に俗っぽくなった!?

「やあ、お疲れだったねアイリス。きみを呼んだ甲斐があったよ」
 はりのある美声。
 
 冷静になれ、自分!
 アイリス・リデル・ティス・ラゼル!
 客観的に《女神さま》を、もう一度、よく見てみるのよ!
 知ってる気がするなんて!

 ええと、くだけた言い方、不敵な笑み。
 挑戦的な、満面の、どや顔!

 ひとりしか思い当たりません。

「まさか、グラウケーさま!?」

 カルナックお師匠さまの、お師匠さまで。第一世代の精霊であるグラウケーさまが、なぜここに!

「あの、アイちゃん。この、きれいなひとは?」
「助けてくださったのですね! 女神様でいらっしゃいますか?」

 レニウス・レギオンくんとグリスさん、困惑してます。

「ふふふふふふ! よい目をしておる。さすがは未来の……」
 グラウケーさまの言葉を、

「待って姉様! ここで彼らの《真の名》をあかしてはいけません!」
 間髪入れず遮ったのは、ラト・ナ・ルア。

「ふむ。ああ、そうだったな。それは《世界》との約束だ」
 思い直し、グラウケーは、微笑む。

「レニウス・レギオン。灰色の魔女グリス。このたび私は《世界の大いなる意思》と賭けをした。そのために外の世界から『味方』を連れてきたのさ。ここの、アイちゃんと、精霊ラト・ナ・ルアをね。そして勝ったのだ。ここでの君たちは、もう自由だよ。ガルデルに脅かされることはない。もうじきに、国王の派遣した騎士と調査団が訪れるが、君たちに害を与えることはない。保護しにやってくるのだ、安心して、彼らに従いなさい」

「国王様が? 大伯父であるガルデルを諫めてこられたと伺っておりますが、聞き入れることはなかったと」

「そのガルデルは、もう死んだのだ。奇怪な儀式を行い、数え切れない人々を犠牲にしてきたが、ついに倒れたのだ。悪行による《世界の大いなる意思》が下した裁きによって」

「せかいの?」
「大いなる意思?」

「そうだ。《世界》には人が犯してはならないルールがある。ガルデルは禁忌に触れたのだ。《世界の大いなる意思》の代行者である《第一世代の精霊グラウケー》すなわち、このわたしが、ガルデルを処罰した。少なくとも、公には、そうなる。国王も聖堂教会も、さすがにこれだけは、受け入れ、従わざるを得ないのさ」

「でも! ガルデルを、おれは」
「あたしが」

 殺したのだと、主張するレニウス・レギオンくんとグリスさんを、グラウケーさまは、制止した。

「そこまで。きみたちは、何も知らなかった。ガルデルに追い詰められて逃げた先に、古代の《精霊に祈る祭壇》があった。《世界》と《精霊》に、祈りは届き、天罰は下った」

 そして、優しく微笑んだ。

「きみたちは生き延びたのだ。理不尽な世界の試練に打ち勝ち、乗り越えて。誇りなさい。胸を張って。これからは、世界はきみたちの味方だ。わたしも、この、アイちゃんも。ラト・ナ・ルアも」

 こう言って、あたしとラト・ナ・ルアを手招きした。

「ガルデルをそそのかした悪魔セラニスは、彼女たちが倒した。安心しなさい」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

烈火物語

うなぎ太郎
ファンタジー
大陸を支配する超大国、シューネスラント王国。 その権力の下で、諸小国は日々抑圧されていた。 一方、王国に挑み、世界を変えんと立ち上がる新興騎馬民族国家、テラロディア諸部族連邦帝国。 激動の時代、二つの強国がついに、直接刃を交えんとしている。 だが、そんな歴史の渦中で―― 知られざる秘密の恋が、静かに、そして激しく繰り広げられていた。 戦争と恋愛。 一見無関係に思える、二つの壮大なテーマが今、交錯する! 戦いと愛に生きる人々の、熱き想いが燃え上がる、大長編ファンタジー小説! ※小説家になろうでも投稿しております。 https://ncode.syosetu.com/n7353kw/

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

転生の水神様ーー使える魔法は水属性のみだが最強ですーー

芍薬甘草湯
ファンタジー
水道局職員が異世界に転生、水神様の加護を受けて活躍する異世界転生テンプレ的なストーリーです。    42歳のパッとしない水道局職員が死亡したのち水神様から加護を約束される。   下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。  約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。  それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。  一話当たりは短いです。  通勤通学の合間などにどうぞ。  あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。 完結しました。

蔑ろにされましたが実は聖女でした ー できない、やめておけ、あなたには無理という言葉は全て覆させていただきます! ー

みーしゃ
ファンタジー
生まれつきMPが1しかないカテリーナは、義母や義妹たちからイジメられ、ないがしろにされた生活を送っていた。しかし、本をきっかけに女神への信仰と勉強を始め、イケメンで優秀な兄の力も借りて、宮廷大学への入学を目指す。 魔法が使えなくても、何かできる事はあるはず。 人生を変え、自分にできることを探すため、カテリーナの挑戦が始まる。 そして、カテリーナの行動により、周囲の認識は彼女を聖女へと変えていくのだった。 物語は、後期ビザンツ帝国時代に似た、魔物や魔法が存在する異世界です。だんだんと逆ハーレムな展開になっていきます。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...