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第五章 パウルとパオラ
その23 勝利(皇帝ガルデルの絶望と儚い希望12)
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23
「いっけえええええ!」
強烈な光のビームが、ガルデルの黒鎧を貫いた。
「変態野郎に一発ぶちかませ!」
じつは、こう叫んだのは、あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼル。
良家のお嬢さまにあるまじき大声で叫んでいた。何しろ魂の中身が、イリス・マクギリスだからねえ……。彼女はちょっぴり自分に素直なので!
でも、グリスさんもレニくんも、一緒だったもんね!
ていうか、きっと覚えてないと思う。
たぶん。
なぜならば、あたしたち三人が力を合わせてガルデルに一矢報いた、その瞬間。
『ミッションクリア!』
という、高らかな声が響いてきたから。
そっちのほうに気を取られた、はず。
あれ?
違和感。
もしも、万が一の可能性として、ここがゲームの世界だったら。
こういうレベルアップやクエストクリアを告げるのは無機質っぽい音声っていうのが定番じゃない?
もっとも、その疑問にはすぐに答えが出た。
あたしとグリスさんとレニくんは大広間を出て中庭に降り立ち、庭木の植え込みや人工の小川や小山、池のほとりを突っ切って、庭の外れにある古い井戸のそばまでたどり着いている。
いっぽう、あたしの腕輪に宿る精霊ラト・ナ・ルアと、ガルデルをそそのかしたという、自称『魔の月』セラニスは、大広間から庭に降りていくらも進んでいないところにいる。
あたしたちとラト・ナ・ルアの間の中空に、突如として、まばゆい白銀の光がほとばしった。
目がくらむ。
ゆっくりと、目が慣れてきて。
現れ出た存在に、今度は、目を奪われる。
波打つ豊かな銀髪。
身に纏う純白の長衣。
長身の、大人の女性だった。
神々しいとしか言えない。他の何かに例える事も、あり得ない。
それほどの、整った美貌の女性。年齢はわからない。あえていえば二十代後半かな。
けれども、美しい女性というだけではない。
圧倒的で強烈な『力』そのものが、あらわれ出たのだ。
「めがみ、さま?」
ぼうぜんと呟く、レニくん。
グリスさんは慌てて彼を抱き寄せる。
「もしや、セレナン様……精霊様がたの、大いなる姉君……さま、では? まさか、お目にかかれるなんて、夢にも思いません……で、ございます」
かなり動揺してる!
その証拠に、敬語があやういです。
レニウス・レギオンとグリスの受けた衝撃と動揺も、何処吹く風。
女神さまのような、美貌の女性は。
『やったね! 賭けは私の勝ちだ!』
満面の笑顔で、ガッツポーズをした。
……え?
あれれ?
ものすごい既視感(デジャヴ)があるんだけど?
……前にも……似たようなことが……?
えっと、なんだっけ! いつ!?
カルナックお師匠さまの関連で……たしか……
まぶしい光も、しだいに薄れていって、女神さまの姿がはっきりと見えてきた。
中空から、ゆっくりと降りてくる。
たなびく銀髪。白い衣は、まるで天女さまの羽衣。
足首に白い紐を巻き付けたサンダル履きの足先が、とん、と地面に着いた。
美貌の女性は、胸をはって。
にやり、と笑った。
急に俗っぽくなった!?
「やあ、お疲れだったねアイリス。きみを呼んだ甲斐があったよ」
はりのある美声。
冷静になれ、自分!
アイリス・リデル・ティス・ラゼル!
客観的に《女神さま》を、もう一度、よく見てみるのよ!
知ってる気がするなんて!
ええと、くだけた言い方、不敵な笑み。
挑戦的な、満面の、どや顔!
ひとりしか思い当たりません。
「まさか、グラウケーさま!?」
カルナックお師匠さまの、お師匠さまで。第一世代の精霊であるグラウケーさまが、なぜここに!
「あの、アイちゃん。この、きれいなひとは?」
「助けてくださったのですね! 女神様でいらっしゃいますか?」
レニウス・レギオンくんとグリスさん、困惑してます。
「ふふふふふふ! よい目をしておる。さすがは未来の……」
グラウケーさまの言葉を、
「待って姉様! ここで彼らの《真の名》をあかしてはいけません!」
間髪入れず遮ったのは、ラト・ナ・ルア。
「ふむ。ああ、そうだったな。それは《世界》との約束だ」
思い直し、グラウケーは、微笑む。
「レニウス・レギオン。灰色の魔女グリス。このたび私は《世界の大いなる意思》と賭けをした。そのために外の世界から『味方』を連れてきたのさ。ここの、アイちゃんと、精霊ラト・ナ・ルアをね。そして勝ったのだ。ここでの君たちは、もう自由だよ。ガルデルに脅かされることはない。もうじきに、国王の派遣した騎士と調査団が訪れるが、君たちに害を与えることはない。保護しにやってくるのだ、安心して、彼らに従いなさい」
「国王様が? 大伯父であるガルデルを諫めてこられたと伺っておりますが、聞き入れることはなかったと」
「そのガルデルは、もう死んだのだ。奇怪な儀式を行い、数え切れない人々を犠牲にしてきたが、ついに倒れたのだ。悪行による《世界の大いなる意思》が下した裁きによって」
「せかいの?」
「大いなる意思?」
「そうだ。《世界》には人が犯してはならないルールがある。ガルデルは禁忌に触れたのだ。《世界の大いなる意思》の代行者である《第一世代の精霊グラウケー》すなわち、このわたしが、ガルデルを処罰した。少なくとも、公には、そうなる。国王も聖堂教会も、さすがにこれだけは、受け入れ、従わざるを得ないのさ」
「でも! ガルデルを、おれは」
「あたしが」
殺したのだと、主張するレニウス・レギオンくんとグリスさんを、グラウケーさまは、制止した。
「そこまで。きみたちは、何も知らなかった。ガルデルに追い詰められて逃げた先に、古代の《精霊に祈る祭壇》があった。《世界》と《精霊》に、祈りは届き、天罰は下った」
そして、優しく微笑んだ。
「きみたちは生き延びたのだ。理不尽な世界の試練に打ち勝ち、乗り越えて。誇りなさい。胸を張って。これからは、世界はきみたちの味方だ。わたしも、この、アイちゃんも。ラト・ナ・ルアも」
こう言って、あたしとラト・ナ・ルアを手招きした。
「ガルデルをそそのかした悪魔セラニスは、彼女たちが倒した。安心しなさい」
「いっけえええええ!」
強烈な光のビームが、ガルデルの黒鎧を貫いた。
「変態野郎に一発ぶちかませ!」
じつは、こう叫んだのは、あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼル。
良家のお嬢さまにあるまじき大声で叫んでいた。何しろ魂の中身が、イリス・マクギリスだからねえ……。彼女はちょっぴり自分に素直なので!
でも、グリスさんもレニくんも、一緒だったもんね!
ていうか、きっと覚えてないと思う。
たぶん。
なぜならば、あたしたち三人が力を合わせてガルデルに一矢報いた、その瞬間。
『ミッションクリア!』
という、高らかな声が響いてきたから。
そっちのほうに気を取られた、はず。
あれ?
違和感。
もしも、万が一の可能性として、ここがゲームの世界だったら。
こういうレベルアップやクエストクリアを告げるのは無機質っぽい音声っていうのが定番じゃない?
もっとも、その疑問にはすぐに答えが出た。
あたしとグリスさんとレニくんは大広間を出て中庭に降り立ち、庭木の植え込みや人工の小川や小山、池のほとりを突っ切って、庭の外れにある古い井戸のそばまでたどり着いている。
いっぽう、あたしの腕輪に宿る精霊ラト・ナ・ルアと、ガルデルをそそのかしたという、自称『魔の月』セラニスは、大広間から庭に降りていくらも進んでいないところにいる。
あたしたちとラト・ナ・ルアの間の中空に、突如として、まばゆい白銀の光がほとばしった。
目がくらむ。
ゆっくりと、目が慣れてきて。
現れ出た存在に、今度は、目を奪われる。
波打つ豊かな銀髪。
身に纏う純白の長衣。
長身の、大人の女性だった。
神々しいとしか言えない。他の何かに例える事も、あり得ない。
それほどの、整った美貌の女性。年齢はわからない。あえていえば二十代後半かな。
けれども、美しい女性というだけではない。
圧倒的で強烈な『力』そのものが、あらわれ出たのだ。
「めがみ、さま?」
ぼうぜんと呟く、レニくん。
グリスさんは慌てて彼を抱き寄せる。
「もしや、セレナン様……精霊様がたの、大いなる姉君……さま、では? まさか、お目にかかれるなんて、夢にも思いません……で、ございます」
かなり動揺してる!
その証拠に、敬語があやういです。
レニウス・レギオンとグリスの受けた衝撃と動揺も、何処吹く風。
女神さまのような、美貌の女性は。
『やったね! 賭けは私の勝ちだ!』
満面の笑顔で、ガッツポーズをした。
……え?
あれれ?
ものすごい既視感(デジャヴ)があるんだけど?
……前にも……似たようなことが……?
えっと、なんだっけ! いつ!?
カルナックお師匠さまの関連で……たしか……
まぶしい光も、しだいに薄れていって、女神さまの姿がはっきりと見えてきた。
中空から、ゆっくりと降りてくる。
たなびく銀髪。白い衣は、まるで天女さまの羽衣。
足首に白い紐を巻き付けたサンダル履きの足先が、とん、と地面に着いた。
美貌の女性は、胸をはって。
にやり、と笑った。
急に俗っぽくなった!?
「やあ、お疲れだったねアイリス。きみを呼んだ甲斐があったよ」
はりのある美声。
冷静になれ、自分!
アイリス・リデル・ティス・ラゼル!
客観的に《女神さま》を、もう一度、よく見てみるのよ!
知ってる気がするなんて!
ええと、くだけた言い方、不敵な笑み。
挑戦的な、満面の、どや顔!
ひとりしか思い当たりません。
「まさか、グラウケーさま!?」
カルナックお師匠さまの、お師匠さまで。第一世代の精霊であるグラウケーさまが、なぜここに!
「あの、アイちゃん。この、きれいなひとは?」
「助けてくださったのですね! 女神様でいらっしゃいますか?」
レニウス・レギオンくんとグリスさん、困惑してます。
「ふふふふふふ! よい目をしておる。さすがは未来の……」
グラウケーさまの言葉を、
「待って姉様! ここで彼らの《真の名》をあかしてはいけません!」
間髪入れず遮ったのは、ラト・ナ・ルア。
「ふむ。ああ、そうだったな。それは《世界》との約束だ」
思い直し、グラウケーは、微笑む。
「レニウス・レギオン。灰色の魔女グリス。このたび私は《世界の大いなる意思》と賭けをした。そのために外の世界から『味方』を連れてきたのさ。ここの、アイちゃんと、精霊ラト・ナ・ルアをね。そして勝ったのだ。ここでの君たちは、もう自由だよ。ガルデルに脅かされることはない。もうじきに、国王の派遣した騎士と調査団が訪れるが、君たちに害を与えることはない。保護しにやってくるのだ、安心して、彼らに従いなさい」
「国王様が? 大伯父であるガルデルを諫めてこられたと伺っておりますが、聞き入れることはなかったと」
「そのガルデルは、もう死んだのだ。奇怪な儀式を行い、数え切れない人々を犠牲にしてきたが、ついに倒れたのだ。悪行による《世界の大いなる意思》が下した裁きによって」
「せかいの?」
「大いなる意思?」
「そうだ。《世界》には人が犯してはならないルールがある。ガルデルは禁忌に触れたのだ。《世界の大いなる意思》の代行者である《第一世代の精霊グラウケー》すなわち、このわたしが、ガルデルを処罰した。少なくとも、公には、そうなる。国王も聖堂教会も、さすがにこれだけは、受け入れ、従わざるを得ないのさ」
「でも! ガルデルを、おれは」
「あたしが」
殺したのだと、主張するレニウス・レギオンくんとグリスさんを、グラウケーさまは、制止した。
「そこまで。きみたちは、何も知らなかった。ガルデルに追い詰められて逃げた先に、古代の《精霊に祈る祭壇》があった。《世界》と《精霊》に、祈りは届き、天罰は下った」
そして、優しく微笑んだ。
「きみたちは生き延びたのだ。理不尽な世界の試練に打ち勝ち、乗り越えて。誇りなさい。胸を張って。これからは、世界はきみたちの味方だ。わたしも、この、アイちゃんも。ラト・ナ・ルアも」
こう言って、あたしとラト・ナ・ルアを手招きした。
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