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第八章 お披露目会の後始末
その26 グリスとの邂逅
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26
みなさま、お久しぶりです。
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、現在、、エナンデリア大陸のどこかの上空にいる。
そして高速で落下中。
あまりに超高空にいるものだから、落下しているなんて今のところ体感できないのだけれど。
手首にしている精霊のブレスレットから青い光が噴き出して、身体を包んでいる。
これが、精霊の加護なの?
『そうよ、アイリス』
あたしの意識下の『誰か』が答えた。
さっきまでは守護精霊のラト・ナ・ルアが答えてくれていたけれど、彼女はめったに話しかけてくれない。条件があるのかもしれない。
かわりに答えをくれたのは、あたしの意識の底にいる、システム・イリスだ。彼女はあたしの前世の中で最も博識だから。
システム・イリスは人間や世界についての膨大なデータを擁しているのだ。
『精霊の加護を受けていなければ大気との摩擦で高温に達して肉体は燃え上がっている。あなたが知っている、地上に降る隕石のように。そうならないように、ラト・ナ・ルアが助けてくれている』
多くを語らないシステム・イリスにしては饒舌だ。
もしかして危機的状況にあったりして?
『心配ない。この状態は長くは続かない。ラトが、アイリスだけが弾かれた術式を書き換える。サファイアが弾かれなかったのは、彼女は魔法陣を組んだカルナックの親族だから』
「そういえば……」
『言ってたでしょう? 彼女はいつも冗談に紛れて、意外と真実をぽろぽろこぼすの。愛すべきひとよ』
システム・イリスが小さく笑う。
『大丈夫。アイリス・リデル・ティス・ラゼル。あなたは、わたし。青竜の『水底の異界』で暮らして『花火』が映えるようにと『暗幕』までも創り出して、魔力のレベルアップまでも成したのだから』
うわあ。
やりましたとも!
やらかしたわ~。
映えたかったので暗幕作った、魔法で。
自覚はしてたけど、改めて認識すると、それ……恥ずかしい!
「今考えると顔から火が出そう。黒い歴史がまた一つ……」
(おや、君はそこがいいんじゃないか)
そう答えたのは、きっと都合の良い妄想。幻のカルナックお師匠さまの微笑み。
「会いたい……みんなに、お師匠さまに」
会えるわよと、きっとサファイアさんなら、励ましてくれる。
『さあ、もう術式は書き換わった。あなたは、瞬き一つの間に、エルレーン公国の首都シ・イル・リリヤの街中にいることに気づく』
システム・イリスのメッセージが胸に響く。
『他の三人は別の場所にいる。当初は混乱していたけれど、青竜からのメッセージが届いたから、それぞれの成すべきことに取りかかっているわ。あなたは、あなたのすべきことを……アイリス、グッドラック。いずれ、また』
「シーユーアゲイン。システム・イリス」
こんなときに、別れの言葉なんて、きついわ。
あたしはゆっくりと、まばたきをした。
目を閉じて……
開けた。
視界は真っ暗になり、次に灰色になった。
目の前には高い灰色の石壁が、どこまでも伸びている。まるで……
隙間にはカミソリの刃も入らないという、あの……クスコの太陽神殿のよう。
ここは、どこ?
見覚えのない場所だ。
建物の内部だ。たぶん、とても大きな。
左右、どちらの方向にも、明かり一つなく、かといって漆黒の闇でもない、日が落ちた後のような灰色の夕暮れのとばりが降りているみたいに。
あたしは、スカートのポケットに手を入れた。
よかった、ちゃんとある。
妖精たちの卵を入れた小さなポーチ。あたしの守護妖精たちは、力を使い果たして卵に戻ってしまった。きっとまた、会えるって信じてる。だからいつも持っているの。
ひとつ、深く息を吸って、吐いた。
ここはなんで、灰色なんだろう。
進み出さなきゃ。目の前に立ち塞がる壁をつたって、どちらかの方向へ。
壁に右手をつけて、あたしは、足を踏み出した。
「ほう。いい判断さね、お嬢ちゃん」
聞こえてきたのは、しわがれた、乾いた声だった。
進行方向から。
「迷宮を脱出するには壁に手をついて進むことだ。遠回りになるかもしれないが、たどり着ける。あれは、そう教えなかったかね?」
面白がっているように、声は響いた。
このひとのしゃべり方。カルナックお師匠さまに、似ていた。
灰色の夕闇の中から、彼女は歩いてきた。灰色の大きな布を頭から被り、裾の長い灰色の衣を身につけていた。
声は枯れていたけれども、背筋はのびて、足下もふらついてはいない。
かかとは床につかず、まるで石の床の上を滑るように進む。
まるで、あたかも『ヒト』ではなく。
といって精霊のように神々しい『気』をまとっている、というわけでもなかった。
女ということだけは察せられる。
老いているのか、むすめなのか。それとも幼いのだろうか。
近づいてきたところを見れば、アイリスより身長は大きかった。
アイリスは、六歳と半月程度の幼女ではあったが。
灰色の女とアイリスは、向かい合った。
みなさま、お久しぶりです。
あたし、アイリス・リデル・ティス・ラゼルは、現在、、エナンデリア大陸のどこかの上空にいる。
そして高速で落下中。
あまりに超高空にいるものだから、落下しているなんて今のところ体感できないのだけれど。
手首にしている精霊のブレスレットから青い光が噴き出して、身体を包んでいる。
これが、精霊の加護なの?
『そうよ、アイリス』
あたしの意識下の『誰か』が答えた。
さっきまでは守護精霊のラト・ナ・ルアが答えてくれていたけれど、彼女はめったに話しかけてくれない。条件があるのかもしれない。
かわりに答えをくれたのは、あたしの意識の底にいる、システム・イリスだ。彼女はあたしの前世の中で最も博識だから。
システム・イリスは人間や世界についての膨大なデータを擁しているのだ。
『精霊の加護を受けていなければ大気との摩擦で高温に達して肉体は燃え上がっている。あなたが知っている、地上に降る隕石のように。そうならないように、ラト・ナ・ルアが助けてくれている』
多くを語らないシステム・イリスにしては饒舌だ。
もしかして危機的状況にあったりして?
『心配ない。この状態は長くは続かない。ラトが、アイリスだけが弾かれた術式を書き換える。サファイアが弾かれなかったのは、彼女は魔法陣を組んだカルナックの親族だから』
「そういえば……」
『言ってたでしょう? 彼女はいつも冗談に紛れて、意外と真実をぽろぽろこぼすの。愛すべきひとよ』
システム・イリスが小さく笑う。
『大丈夫。アイリス・リデル・ティス・ラゼル。あなたは、わたし。青竜の『水底の異界』で暮らして『花火』が映えるようにと『暗幕』までも創り出して、魔力のレベルアップまでも成したのだから』
うわあ。
やりましたとも!
やらかしたわ~。
映えたかったので暗幕作った、魔法で。
自覚はしてたけど、改めて認識すると、それ……恥ずかしい!
「今考えると顔から火が出そう。黒い歴史がまた一つ……」
(おや、君はそこがいいんじゃないか)
そう答えたのは、きっと都合の良い妄想。幻のカルナックお師匠さまの微笑み。
「会いたい……みんなに、お師匠さまに」
会えるわよと、きっとサファイアさんなら、励ましてくれる。
『さあ、もう術式は書き換わった。あなたは、瞬き一つの間に、エルレーン公国の首都シ・イル・リリヤの街中にいることに気づく』
システム・イリスのメッセージが胸に響く。
『他の三人は別の場所にいる。当初は混乱していたけれど、青竜からのメッセージが届いたから、それぞれの成すべきことに取りかかっているわ。あなたは、あなたのすべきことを……アイリス、グッドラック。いずれ、また』
「シーユーアゲイン。システム・イリス」
こんなときに、別れの言葉なんて、きついわ。
あたしはゆっくりと、まばたきをした。
目を閉じて……
開けた。
視界は真っ暗になり、次に灰色になった。
目の前には高い灰色の石壁が、どこまでも伸びている。まるで……
隙間にはカミソリの刃も入らないという、あの……クスコの太陽神殿のよう。
ここは、どこ?
見覚えのない場所だ。
建物の内部だ。たぶん、とても大きな。
左右、どちらの方向にも、明かり一つなく、かといって漆黒の闇でもない、日が落ちた後のような灰色の夕暮れのとばりが降りているみたいに。
あたしは、スカートのポケットに手を入れた。
よかった、ちゃんとある。
妖精たちの卵を入れた小さなポーチ。あたしの守護妖精たちは、力を使い果たして卵に戻ってしまった。きっとまた、会えるって信じてる。だからいつも持っているの。
ひとつ、深く息を吸って、吐いた。
ここはなんで、灰色なんだろう。
進み出さなきゃ。目の前に立ち塞がる壁をつたって、どちらかの方向へ。
壁に右手をつけて、あたしは、足を踏み出した。
「ほう。いい判断さね、お嬢ちゃん」
聞こえてきたのは、しわがれた、乾いた声だった。
進行方向から。
「迷宮を脱出するには壁に手をついて進むことだ。遠回りになるかもしれないが、たどり着ける。あれは、そう教えなかったかね?」
面白がっているように、声は響いた。
このひとのしゃべり方。カルナックお師匠さまに、似ていた。
灰色の夕闇の中から、彼女は歩いてきた。灰色の大きな布を頭から被り、裾の長い灰色の衣を身につけていた。
声は枯れていたけれども、背筋はのびて、足下もふらついてはいない。
かかとは床につかず、まるで石の床の上を滑るように進む。
まるで、あたかも『ヒト』ではなく。
といって精霊のように神々しい『気』をまとっている、というわけでもなかった。
女ということだけは察せられる。
老いているのか、むすめなのか。それとも幼いのだろうか。
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灰色の女とアイリスは、向かい合った。
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