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第1章
その7 エイプリルフールお花見頂上合戦!(7)未解決事件ファイル(修正しました)
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7
※ 未解決事件簿 file No.00xxxxx ※
『横浜富豪令嬢誘拐事件』
2010年4月1日
横浜N貿易社長N氏の一人娘K嬢(7歳)が、帰宅する途中、誘拐された。
身代金の要求があり三億円が支払われたが、K嬢の身柄は解放されず数日後に遺体で発見される。
後日、事件当日、一緒に遊んでいた友人K・I(7歳)とその母親Mの証言により容疑者2人が逮捕された。
容疑者は罪を認め、素性は明かせないがとある人物から依頼を受けて犯行に及んだと自白している。
だが、容疑者は2人とも護送中に死亡し、依頼人やその目的などの真相は明らかにされていない。
N貿易社長の業務上のトラブルが原因の怨恨ではないかとの憶測が一時、週刊誌等で盛んに報道された。
8年経過した現在も、事件は未解決のままである。
※
2018年4月1日の夜。
おれ、山本雅人と、幼なじみで従兄弟の沢口充は、必死に走っていた。
親父たちと花見をしていたのは井の頭公園だったはずなのに、いま走っているところは、まったく見覚えのない公園だ。
前方を走っている二頭の巨大な犬(ほんとは犬かどうかも怪しいけど)の後をついていくだけでせいいっぱい。走るのが得意なおれはともかく充は限界を超えているはずだが懸命に走り続けている。
「助けるんだ。香織さんを」
ときどき聞こえる、充の独り言だ。
おれも同感だよ。
まだ顔も知らないけど、名前を聞いた。
お父さんの並河泰三さんとも、お母さん、沙織さんとも会って花見の席によばれて料理もごちそうになって。
もう、知らない仲じゃない。
香織さんに何が起こっているのかはわからないけど、犬たちが危機を知らせるくらいだ、普通の状態じゃないのだろう。一刻を争うのかも知れない。
なぜか、おれと充が、犬と同行するなりゆきになったのかを考えると不思議なのだが。
それにしても闇の中に獣のような人のような影が、なにやらしきりに蠢いているのは、なんだろう?
すこし不穏だなと感じた矢先のこと。
いきなり、影のようなものが大きくなって行く手を塞いだのだ。
まるで闇に潜んでいた妖怪だか魔物だかみたいな、正体不明の存在が、襲いかかってきたように思えた。
生臭い、においまでが漂った。
「どけ!」
充が叫んだ。
驚いた。
ふだん穏やかな充でも、こんなにはっきり、きっぱりと大声で叫ぶんだ。
そのときである。
銀色の光芒が一閃。闇を切り裂いた。
「早く行きなよ」
知らない顔の、中学生くらいのヤツが立っていた。
あぶねーヤツかと思ったのは、そいつが、抜き身の刀を提げていたからだ。
まさか真剣ってことは……ないよな?
「急ぐ」
その横にいた、ショートカットの少女が、ぼそっとつぶやく。
この子も仲間か?
銀髪のスピ系美少女が『何人か引っ張ってきた』とか言ってたような。
考えてたら、どんっ、と。背中を押された。
「急ぐって紫苑が言ったよね?」
少女とそっくりな顔をした少年が、怒ったように背中を押したのだ。
双子かあ、なんて緊張感のないことをとっさに考えてしまった、おれであった。
「雅人!」
先を行っていた充が、振り向いて、おれを呼んだ。
「あの建物。あやしいって、牙(スアール)と夜(ノーチェ)が」
「だからなんでおまえ犬と意思が通じてんだよ」
「あれっ?」
「あれっじゃねえよ」
「このさい、どうでもいいから。こっちに来てよ」
充が手招きする。
公園を抜けた先に、平屋の住宅があった。
窓から、あかりが漏れている。
中の声も、漏れてるみたいだ。
おれは充と、そっと近づいた。
犬たちの様子がおかしい。ついてこいというみたいに進んでいく。
裏手の勝手口が、開く。
いま、犬たちが開けたよな?
まあいいか。悩んでいる場合じゃない。
※ 未解決事件簿 file No.00xxxxx ※
『横浜富豪令嬢誘拐事件』
2010年4月1日
横浜N貿易社長N氏の一人娘K嬢(7歳)が、帰宅する途中、誘拐された。
身代金の要求があり三億円が支払われたが、K嬢の身柄は解放されず数日後に遺体で発見される。
後日、事件当日、一緒に遊んでいた友人K・I(7歳)とその母親Mの証言により容疑者2人が逮捕された。
容疑者は罪を認め、素性は明かせないがとある人物から依頼を受けて犯行に及んだと自白している。
だが、容疑者は2人とも護送中に死亡し、依頼人やその目的などの真相は明らかにされていない。
N貿易社長の業務上のトラブルが原因の怨恨ではないかとの憶測が一時、週刊誌等で盛んに報道された。
8年経過した現在も、事件は未解決のままである。
※
2018年4月1日の夜。
おれ、山本雅人と、幼なじみで従兄弟の沢口充は、必死に走っていた。
親父たちと花見をしていたのは井の頭公園だったはずなのに、いま走っているところは、まったく見覚えのない公園だ。
前方を走っている二頭の巨大な犬(ほんとは犬かどうかも怪しいけど)の後をついていくだけでせいいっぱい。走るのが得意なおれはともかく充は限界を超えているはずだが懸命に走り続けている。
「助けるんだ。香織さんを」
ときどき聞こえる、充の独り言だ。
おれも同感だよ。
まだ顔も知らないけど、名前を聞いた。
お父さんの並河泰三さんとも、お母さん、沙織さんとも会って花見の席によばれて料理もごちそうになって。
もう、知らない仲じゃない。
香織さんに何が起こっているのかはわからないけど、犬たちが危機を知らせるくらいだ、普通の状態じゃないのだろう。一刻を争うのかも知れない。
なぜか、おれと充が、犬と同行するなりゆきになったのかを考えると不思議なのだが。
それにしても闇の中に獣のような人のような影が、なにやらしきりに蠢いているのは、なんだろう?
すこし不穏だなと感じた矢先のこと。
いきなり、影のようなものが大きくなって行く手を塞いだのだ。
まるで闇に潜んでいた妖怪だか魔物だかみたいな、正体不明の存在が、襲いかかってきたように思えた。
生臭い、においまでが漂った。
「どけ!」
充が叫んだ。
驚いた。
ふだん穏やかな充でも、こんなにはっきり、きっぱりと大声で叫ぶんだ。
そのときである。
銀色の光芒が一閃。闇を切り裂いた。
「早く行きなよ」
知らない顔の、中学生くらいのヤツが立っていた。
あぶねーヤツかと思ったのは、そいつが、抜き身の刀を提げていたからだ。
まさか真剣ってことは……ないよな?
「急ぐ」
その横にいた、ショートカットの少女が、ぼそっとつぶやく。
この子も仲間か?
銀髪のスピ系美少女が『何人か引っ張ってきた』とか言ってたような。
考えてたら、どんっ、と。背中を押された。
「急ぐって紫苑が言ったよね?」
少女とそっくりな顔をした少年が、怒ったように背中を押したのだ。
双子かあ、なんて緊張感のないことをとっさに考えてしまった、おれであった。
「雅人!」
先を行っていた充が、振り向いて、おれを呼んだ。
「あの建物。あやしいって、牙(スアール)と夜(ノーチェ)が」
「だからなんでおまえ犬と意思が通じてんだよ」
「あれっ?」
「あれっじゃねえよ」
「このさい、どうでもいいから。こっちに来てよ」
充が手招きする。
公園を抜けた先に、平屋の住宅があった。
窓から、あかりが漏れている。
中の声も、漏れてるみたいだ。
おれは充と、そっと近づいた。
犬たちの様子がおかしい。ついてこいというみたいに進んでいく。
裏手の勝手口が、開く。
いま、犬たちが開けたよな?
まあいいか。悩んでいる場合じゃない。
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