11 / 11
死神の仕事
死神の仕事⑦
しおりを挟む
「落ち着いたか?」
一体どれだけ泣いたのだろうか。
私の涙が枯れ果てたころに、レインがそう聞いてきた。
「……うん、ちょっとは落ち着いた」
「そうか」
レインはそう言うだけで、私を急かすこともなくただ抱きしめていた。
全部吐き出したことで、何とか落ち着いてきた。……きっと涙で顔はグッチョグッチョになってるんだろうな。それに、レインのコートも涙でグチャグチャだし……
冷静になると、何だか色々と恥ずかしくなってきた。
「も、もう大丈夫!一旦はなれよ」
「分かったから落ち着け、あまり俺を叩くな」
レインがなかなか離れてくれないからグーパンチを食らわせると、ようやく離れてくれた。
「ご、ごめん。ちょっと恥ずかしくなってきちゃって……さっきのは本当に感謝してるから」
「それくらい分かってる。それよりほら」
レインはそう言って、ポケットティッシュを渡してきた。
何?と視線で問うと、レインが視線を反らしながら一言。
「鼻水垂れてるからチーンしとけ」
「へ?って、あああ!!!」
まさかの鼻水が出ていた。女子高生としてあってはならないことだよ!男の人の前で大泣きしただけでもかなり恥ずかしいのに、鼻水垂らしてるなんて……女の子失格かも。
「それだけ、元気なら大丈夫そうだな。どうする?戻るか?」
「私は、もど……」
戻ると言いたいのに、続きがなかなか言えなかった。
どうしても怖いのだ。あの子の前に立つことが。あの子に死ぬことを伝えることが……
「無理をするな。別にここに居てもかまわないんだぞ」
「でも、それじゃあ!レインだけが……」
「いいさ。その気持ちだけで十分だよ」
「でも……」
私が言い淀んでいると、レインに頭をポンポンと軽く叩かれた。
「葵の気持ちは分かった。だが、今日は止めておけ……」
「うん……」
「では、行ってくる」
レインは、静かに屋上から出ていった。
結局のところ、私はレインと一緒に行くことが出来なかった。
気持ちでは、レイン一人だけにあんな気持ちをさせたくないと思うけど、それでも、あと一歩踏み出す力が私にはなかった。
「……どうして、あの子が死んじゃうんだろうね」
良くない考えだけど、あんな小さい子が死ななくても代わりに……いや、やっぱりこの考えは良くない。
「はあ……人も死神も無力だな……」
神様に生まれ変わってたら、あの子を助けることが出来たのだろうか?けれど、今の私はただの死神だ。そんな私に出来ることなんて……
「あっ!あった……私にも出来ること」
私の中に、ある考えが浮かんだ。それは、死神にしか出来ないことだ。
私の考えでは、あの子を助けることは出来ない。けれど、ほんの少しだけあの子を生き長らえさせることができる。
「そうだよ。私の〈時間〉を分けたらいいんだよ」
私の〈時間〉を分けてあげる。そうすれば、あの子はもう少し生きていられる。もしかしたら、その間に病気が治るかもしれない。
だとしたら、あの子は助かるんじゃないか?
そう思うと、ほんの少しだけ希望が見えてきた。
「よし……私も行かないと」
私は、レインを追いかけるようにして屋上を出た。
一体どれだけ泣いたのだろうか。
私の涙が枯れ果てたころに、レインがそう聞いてきた。
「……うん、ちょっとは落ち着いた」
「そうか」
レインはそう言うだけで、私を急かすこともなくただ抱きしめていた。
全部吐き出したことで、何とか落ち着いてきた。……きっと涙で顔はグッチョグッチョになってるんだろうな。それに、レインのコートも涙でグチャグチャだし……
冷静になると、何だか色々と恥ずかしくなってきた。
「も、もう大丈夫!一旦はなれよ」
「分かったから落ち着け、あまり俺を叩くな」
レインがなかなか離れてくれないからグーパンチを食らわせると、ようやく離れてくれた。
「ご、ごめん。ちょっと恥ずかしくなってきちゃって……さっきのは本当に感謝してるから」
「それくらい分かってる。それよりほら」
レインはそう言って、ポケットティッシュを渡してきた。
何?と視線で問うと、レインが視線を反らしながら一言。
「鼻水垂れてるからチーンしとけ」
「へ?って、あああ!!!」
まさかの鼻水が出ていた。女子高生としてあってはならないことだよ!男の人の前で大泣きしただけでもかなり恥ずかしいのに、鼻水垂らしてるなんて……女の子失格かも。
「それだけ、元気なら大丈夫そうだな。どうする?戻るか?」
「私は、もど……」
戻ると言いたいのに、続きがなかなか言えなかった。
どうしても怖いのだ。あの子の前に立つことが。あの子に死ぬことを伝えることが……
「無理をするな。別にここに居てもかまわないんだぞ」
「でも、それじゃあ!レインだけが……」
「いいさ。その気持ちだけで十分だよ」
「でも……」
私が言い淀んでいると、レインに頭をポンポンと軽く叩かれた。
「葵の気持ちは分かった。だが、今日は止めておけ……」
「うん……」
「では、行ってくる」
レインは、静かに屋上から出ていった。
結局のところ、私はレインと一緒に行くことが出来なかった。
気持ちでは、レイン一人だけにあんな気持ちをさせたくないと思うけど、それでも、あと一歩踏み出す力が私にはなかった。
「……どうして、あの子が死んじゃうんだろうね」
良くない考えだけど、あんな小さい子が死ななくても代わりに……いや、やっぱりこの考えは良くない。
「はあ……人も死神も無力だな……」
神様に生まれ変わってたら、あの子を助けることが出来たのだろうか?けれど、今の私はただの死神だ。そんな私に出来ることなんて……
「あっ!あった……私にも出来ること」
私の中に、ある考えが浮かんだ。それは、死神にしか出来ないことだ。
私の考えでは、あの子を助けることは出来ない。けれど、ほんの少しだけあの子を生き長らえさせることができる。
「そうだよ。私の〈時間〉を分けたらいいんだよ」
私の〈時間〉を分けてあげる。そうすれば、あの子はもう少し生きていられる。もしかしたら、その間に病気が治るかもしれない。
だとしたら、あの子は助かるんじゃないか?
そう思うと、ほんの少しだけ希望が見えてきた。
「よし……私も行かないと」
私は、レインを追いかけるようにして屋上を出た。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる