死神少女(仮) ~時を求めて、ともに歩む~

五月七日 外

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死神の仕事

死神の仕事⑦

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「落ち着いたか?」

 一体どれだけ泣いたのだろうか。
 私の涙が枯れ果てたころに、レインがそう聞いてきた。

「……うん、ちょっとは落ち着いた」
「そうか」

 レインはそう言うだけで、私を急かすこともなくただ抱きしめていた。
 全部吐き出したことで、何とか落ち着いてきた。……きっと涙で顔はグッチョグッチョになってるんだろうな。それに、レインのコートも涙でグチャグチャだし……
 冷静になると、何だか色々と恥ずかしくなってきた。

「も、もう大丈夫!一旦はなれよ」
「分かったから落ち着け、あまり俺を叩くな」

 レインがなかなか離れてくれないからグーパンチを食らわせると、ようやく離れてくれた。

「ご、ごめん。ちょっと恥ずかしくなってきちゃって……さっきのは本当に感謝してるから」
「それくらい分かってる。それよりほら」

 レインはそう言って、ポケットティッシュを渡してきた。
 何?と視線で問うと、レインが視線を反らしながら一言。

「鼻水垂れてるからチーンしとけ」
「へ?って、あああ!!!」

 まさかの鼻水が出ていた。女子高生としてあってはならないことだよ!男の人の前で大泣きしただけでもかなり恥ずかしいのに、鼻水垂らしてるなんて……女の子失格かも。

「それだけ、元気なら大丈夫そうだな。どうする?戻るか?」
「私は、もど……」  

 戻ると言いたいのに、続きがなかなか言えなかった。
 どうしても怖いのだ。あの子の前に立つことが。あの子に死ぬことを伝えることが……

「無理をするな。別にここに居てもかまわないんだぞ」 
「でも、それじゃあ!レインだけが……」
「いいさ。その気持ちだけで十分だよ」
「でも……」

 私が言い淀んでいると、レインに頭をポンポンと軽く叩かれた。

「葵の気持ちは分かった。だが、今日は止めておけ……」
「うん……」
「では、行ってくる」

 レインは、静かに屋上から出ていった。
 結局のところ、私はレインと一緒に行くことが出来なかった。
 気持ちでは、レイン一人だけにあんな気持ちをさせたくないと思うけど、それでも、あと一歩踏み出す力が私にはなかった。

「……どうして、あの子が死んじゃうんだろうね」

 良くない考えだけど、あんな小さい子が死ななくても代わりに……いや、やっぱりこの考えは良くない。

「はあ……人も死神も無力だな……」

 神様に生まれ変わってたら、あの子を助けることが出来たのだろうか?けれど、今の私はただの死神だ。そんな私に出来ることなんて……

「あっ!あった……私にも出来ること」

 私の中に、ある考えが浮かんだ。それは、死神にしか出来ないことだ。
 私の考えでは、あの子を助けることは出来ない。けれど、ほんの少しだけあの子を生き長らえさせることができる。

「そうだよ。私の〈時間〉を分けたらいいんだよ」

 私の〈時間〉を分けてあげる。そうすれば、あの子はもう少し生きていられる。もしかしたら、その間に病気が治るかもしれない。
 だとしたら、あの子は助かるんじゃないか?
 そう思うと、ほんの少しだけ希望が見えてきた。

「よし……私も行かないと」

 私は、レインを追いかけるようにして屋上を出た。


 
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