もしも、この罪を償えるのならば……

五月七日 外

文字の大きさ
22 / 22
はじめての夏、二度目の夏

希望ある未来へ

しおりを挟む
「え……なんで優くんが」

 とある病院の一室にて。
 驚愕の表情を浮かべる夕の顔色はかなり悪く、ふれあい合宿で迷子になったときの方が幾分か良く見えるほどだった。  
 夕が驚くのも無理はない。
 本来なら、俺はこの場所に立つことすら無かった。
 それこそ、最後の最後まで……。

「だって、夕がキャンプに来れないって言うからさ……」
「それで分かっちゃうなんて、優くんはすごいな」

 あははと力なく笑う夕の姿を直視出来なかった。
 別に俺はすごくない。
 今日ここに来れたのだって、一度死んでいてもう一度やり直しているからだ。そうでなければ、生前みたく夕の嘘に気付けず今ごろ友人たちとキャンプに行っていたことだろう。
 俺が選んだ思い出はキャンプの思い出だ。……夕が熱を出したという理由で一緒に行けなかったキャンプの。

「熱は……体調は大丈夫なのか?」
「うん。先生が言うには発作が起きただけみたいだから、来週までには良くなるよ」
「そっか」
「うん」

 ベッドの隣にイスを立て腰かける。少し錆びていたのか座るときにギシィと音がなった。
 
「この部屋暑くないか?」
「そうかな、私は少し寒いくらいなんだけどね……」
「いや、よく考えたらそこまで暑くなかったわ」 
「ふふっ、変な優くん」

 夕はそう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。
 静寂が流れる。
 部屋の中には夕に繋がれている機械の駆動音と俺の汗がポタポタと落ちる音しかなかった。
 夕がこっちを見ていないのを確認してから汗を拭う。
 夕のいる病院が何処かなんて知らなかったので、朝分岐点ターニングポイントに来てからというもの三十度超えの街中を自転車で走り回ったのだ。暑くて仕方がない。

「寒いくらいか……」

 ポツリと言葉が口から溢れる。
 部屋に冷房は掛かっていない。
 窓は開いているが、入ってくる風は生ぬるくとても涼しいとは言えなかった。
 そんな部屋の中で夕は布団を肩まで被って眠っている。
 もちろん、その額には汗一つかいていない。
 知らなかった……こんなところにも病気の影響が出ていたなんて。
 それだけの事実を確認していくだけで、決意が揺らいでしまう。
 けど、引くわけにはいかない。
 俺は決めたのだ。
 これからは、夕との未来を掴むために分岐点ターニングポイントに行くと。
 ……しばらく夕の寝顔を眺めていると、夕と目があった。

「あれ、もしかして私寝てた?」
「少しだけど」
「あっ、もしかして寝顔とかみてないよね?」
「み、いや見てた」
「んな!?……もうお嫁に行けないよぉ」
「いやいや寝顔くらいで大袈裟な」
「乙女にとって寝顔は重要なの!……それに、優くんには泣き顔だって見られたし」

 語尾になるにつれて言葉は小さくなり、心なしか夕自身もシュンと小さくなっている気がする。      
 いまいち寝顔の重要性というのは分からないが、お嫁にいけないというのは困る。
 だったら……。
 頭に浮かんだ考えは、自分でもどうかしていると思うくらい恥ずかしいものだったが、気が付くと俺はそれを実行していた。

「大丈夫。俺の嫁に来てくれたら何も問題ないだろ」
「え」
「だ、だから……いやなんでもない!やっぱりなしだ」
「ちょっと優くん~?」

 こっちを向く夕の顔は土気色で血色も悪いが、浮かべる表情は久しぶりに見た……心底楽しそうにしている顔だった。

「優くんもう一回言ってよ~なんだって?」
「だから……ああもう!俺と結婚してくれってことだよ!そしたら、寝顔なんて毎日見られるんだから……何も恥ずかしくないだろ!」
「ふふっ、約束だからね」
「お、おう。約束だ」

 震える夕の小指と指切りをした。
 それは、本当ならもう少し先の約束。
 あのときは未来に絶望しかなくてした約束だけど……。
 だけど、今の約束は。

「私、ぜったい忘れないからね」

 笑顔を浮かべる夕の顔を見たら
 ……この約束は希望ある未来へのもの。
 そんな気がした。
 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

2回目の逃亡

158
恋愛
エラは王子の婚約者になりたくなくて1度目の人生で思い切りよく逃亡し、その後幸福な生活を送った。だが目覚めるとまた同じ人生が始まっていて・・・

婚約破棄? あ、ハイ。了解です【短編】

キョウキョウ
恋愛
突然、婚約破棄を突きつけられたマーガレットだったが平然と受け入れる。 それに納得いかなかったのは、王子のフィリップ。 もっと、取り乱したような姿を見れると思っていたのに。 そして彼は逆ギレする。なぜ、そんなに落ち着いていられるのか、と。 普通の可愛らしい女ならば、泣いて許しを請うはずじゃないのかと。 マーガレットが平然と受け入れたのは、他に興味があったから。婚約していたのは、親が決めたから。 彼女の興味は、婚約相手よりも魔法技術に向いていた。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

処理中です...