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はじめての夏、二度目の夏
希望ある未来へ
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「え……なんで優くんが」
とある病院の一室にて。
驚愕の表情を浮かべる夕の顔色はかなり悪く、ふれあい合宿で迷子になったときの方が幾分か良く見えるほどだった。
夕が驚くのも無理はない。
本来なら、俺はこの場所に立つことすら無かった。
それこそ、最後の最後まで……。
「だって、夕がキャンプに来れないって言うからさ……」
「それで分かっちゃうなんて、優くんはすごいな」
あははと力なく笑う夕の姿を直視出来なかった。
別に俺はすごくない。
今日ここに来れたのだって、一度死んでいてもう一度やり直しているからだ。そうでなければ、生前みたく夕の嘘に気付けず今ごろ友人たちとキャンプに行っていたことだろう。
俺が選んだ思い出はキャンプの思い出だ。……夕が熱を出したという理由で一緒に行けなかったキャンプの。
「熱は……体調は大丈夫なのか?」
「うん。先生が言うには発作が起きただけみたいだから、来週までには良くなるよ」
「そっか」
「うん」
ベッドの隣にイスを立て腰かける。少し錆びていたのか座るときにギシィと音がなった。
「この部屋暑くないか?」
「そうかな、私は少し寒いくらいなんだけどね……」
「いや、よく考えたらそこまで暑くなかったわ」
「ふふっ、変な優くん」
夕はそう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。
静寂が流れる。
部屋の中には夕に繋がれている機械の駆動音と俺の汗がポタポタと落ちる音しかなかった。
夕がこっちを見ていないのを確認してから汗を拭う。
夕のいる病院が何処かなんて知らなかったので、朝分岐点に来てからというもの三十度超えの街中を自転車で走り回ったのだ。暑くて仕方がない。
「寒いくらいか……」
ポツリと言葉が口から溢れる。
部屋に冷房は掛かっていない。
窓は開いているが、入ってくる風は生ぬるくとても涼しいとは言えなかった。
そんな部屋の中で夕は布団を肩まで被って眠っている。
もちろん、その額には汗一つかいていない。
知らなかった……こんなところにも病気の影響が出ていたなんて。
それだけの事実を確認していくだけで、決意が揺らいでしまう。
けど、引くわけにはいかない。
俺は決めたのだ。
これからは、夕との未来を掴むために分岐点に行くと。
……しばらく夕の寝顔を眺めていると、夕と目があった。
「あれ、もしかして私寝てた?」
「少しだけど」
「あっ、もしかして寝顔とかみてないよね?」
「み、いや見てた」
「んな!?……もうお嫁に行けないよぉ」
「いやいや寝顔くらいで大袈裟な」
「乙女にとって寝顔は重要なの!……それに、優くんには泣き顔だって見られたし」
語尾になるにつれて言葉は小さくなり、心なしか夕自身もシュンと小さくなっている気がする。
いまいち寝顔の重要性というのは分からないが、お嫁にいけないというのは困る。
だったら……。
頭に浮かんだ考えは、自分でもどうかしていると思うくらい恥ずかしいものだったが、気が付くと俺はそれを実行していた。
「大丈夫。俺の嫁に来てくれたら何も問題ないだろ」
「え」
「だ、だから……いやなんでもない!やっぱりなしだ」
「ちょっと優くん~?」
こっちを向く夕の顔は土気色で血色も悪いが、浮かべる表情は久しぶりに見た……心底楽しそうにしている顔だった。
「優くんもう一回言ってよ~なんだって?」
「だから……ああもう!俺と結婚してくれってことだよ!そしたら、寝顔なんて毎日見られるんだから……何も恥ずかしくないだろ!」
「ふふっ、約束だからね」
「お、おう。約束だ」
震える夕の小指と指切りをした。
それは、本当ならもう少し先の約束。
あのときは未来に絶望しかなくてした約束だけど……。
だけど、今の約束は。
「私、ぜったい忘れないからね」
笑顔を浮かべる夕の顔を見たら
……この約束は希望ある未来へのもの。
そんな気がした。
とある病院の一室にて。
驚愕の表情を浮かべる夕の顔色はかなり悪く、ふれあい合宿で迷子になったときの方が幾分か良く見えるほどだった。
夕が驚くのも無理はない。
本来なら、俺はこの場所に立つことすら無かった。
それこそ、最後の最後まで……。
「だって、夕がキャンプに来れないって言うからさ……」
「それで分かっちゃうなんて、優くんはすごいな」
あははと力なく笑う夕の姿を直視出来なかった。
別に俺はすごくない。
今日ここに来れたのだって、一度死んでいてもう一度やり直しているからだ。そうでなければ、生前みたく夕の嘘に気付けず今ごろ友人たちとキャンプに行っていたことだろう。
俺が選んだ思い出はキャンプの思い出だ。……夕が熱を出したという理由で一緒に行けなかったキャンプの。
「熱は……体調は大丈夫なのか?」
「うん。先生が言うには発作が起きただけみたいだから、来週までには良くなるよ」
「そっか」
「うん」
ベッドの隣にイスを立て腰かける。少し錆びていたのか座るときにギシィと音がなった。
「この部屋暑くないか?」
「そうかな、私は少し寒いくらいなんだけどね……」
「いや、よく考えたらそこまで暑くなかったわ」
「ふふっ、変な優くん」
夕はそう言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。
静寂が流れる。
部屋の中には夕に繋がれている機械の駆動音と俺の汗がポタポタと落ちる音しかなかった。
夕がこっちを見ていないのを確認してから汗を拭う。
夕のいる病院が何処かなんて知らなかったので、朝分岐点に来てからというもの三十度超えの街中を自転車で走り回ったのだ。暑くて仕方がない。
「寒いくらいか……」
ポツリと言葉が口から溢れる。
部屋に冷房は掛かっていない。
窓は開いているが、入ってくる風は生ぬるくとても涼しいとは言えなかった。
そんな部屋の中で夕は布団を肩まで被って眠っている。
もちろん、その額には汗一つかいていない。
知らなかった……こんなところにも病気の影響が出ていたなんて。
それだけの事実を確認していくだけで、決意が揺らいでしまう。
けど、引くわけにはいかない。
俺は決めたのだ。
これからは、夕との未来を掴むために分岐点に行くと。
……しばらく夕の寝顔を眺めていると、夕と目があった。
「あれ、もしかして私寝てた?」
「少しだけど」
「あっ、もしかして寝顔とかみてないよね?」
「み、いや見てた」
「んな!?……もうお嫁に行けないよぉ」
「いやいや寝顔くらいで大袈裟な」
「乙女にとって寝顔は重要なの!……それに、優くんには泣き顔だって見られたし」
語尾になるにつれて言葉は小さくなり、心なしか夕自身もシュンと小さくなっている気がする。
いまいち寝顔の重要性というのは分からないが、お嫁にいけないというのは困る。
だったら……。
頭に浮かんだ考えは、自分でもどうかしていると思うくらい恥ずかしいものだったが、気が付くと俺はそれを実行していた。
「大丈夫。俺の嫁に来てくれたら何も問題ないだろ」
「え」
「だ、だから……いやなんでもない!やっぱりなしだ」
「ちょっと優くん~?」
こっちを向く夕の顔は土気色で血色も悪いが、浮かべる表情は久しぶりに見た……心底楽しそうにしている顔だった。
「優くんもう一回言ってよ~なんだって?」
「だから……ああもう!俺と結婚してくれってことだよ!そしたら、寝顔なんて毎日見られるんだから……何も恥ずかしくないだろ!」
「ふふっ、約束だからね」
「お、おう。約束だ」
震える夕の小指と指切りをした。
それは、本当ならもう少し先の約束。
あのときは未来に絶望しかなくてした約束だけど……。
だけど、今の約束は。
「私、ぜったい忘れないからね」
笑顔を浮かべる夕の顔を見たら
……この約束は希望ある未来へのもの。
そんな気がした。
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