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1章~個性的な皆さん~
私のやるべき事
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「あれは、中学二年生の頃さ」
希里さんが語り始めた。二人で囲むテーブルには、白米。鮭の塩焼き。小松菜のお味噌汁。たくあん。朝ご飯の代表格が勢揃いしている。
カティさんと朽月さんが作ってくれた朝ご飯に舌鼓を打ちながら、希里さんのお話を聞く。中々豪華な席となった。
白米と鮭を一緒に食べながら、希里さんの話に耳を澄ました。
『あれは、中学二年生の頃さ』
さっきも言ったけど、純は、中学の頃は今みたいに明るくなくてね。休み時間になると、いつも一人で本を読んでいたんだ。相当な読書家だったね。
それに対して僕は、休み時間の度に友達とお喋りばかりしてね。同じクラスなのに純との接点はほとんど無かったんだ。
そんな僕がどうして純と付き合う事になったかって?それはね?
コツン。
「ちょっと希里?そろそろお仕事に行く時間じゃないの?」
「え………?」
「朽月さん……?」
希里さんの演技がかった話を遮ったのは、朽月さんの拳骨だった。
いや………このタイミングで?
「ちょっと待って!今、僕と純の出会いについて語ってるところなんだけど!?」
コツン。という音どおり、拳骨はさして痛くなかったらしく、希里さんはすぐに抗議した。しかし、朽月さんは頬を膨らませて希里さんを睨む。
「昔話しててお仕事クビになっちゃったら元も子もないでしょ!?お店行くまでに一時間かかるんだから、もうすぐ出なきゃだよ!?」
今の時刻は7時30分。私が起きてから一時間くらい経っていた。右手に巻いている腕時計を見た希里さんは、さっきの私みたいに仰け反って驚く。
「ホントだ!9時までにお店行かなきゃだから…え!もう出ないと間に合わないじゃん!!」
「だから言ってるでしょ!ほら、これ咥えて早く行って!」
朽月さんが希里さんにトーストを手渡した。それを受け取った希里さんは「ありがと!」と言って、トーストを咥えて走り去って行った。
結局、朽月さんの過去についてはほとんど教えてもらえなかったのだが、今と昔でかなり性格が違うこと。そして、変わった理由に希里さんが関わっている事が分かった。
それだけの事なのに、勾玉荘の皆さんの事が少し分かったから、嬉しかった。
こうして、皆さんから話を聞いて皆さんのことを知っていく。
それが、私のやるべき事なのではないかと思った。
朝ご飯を終え、カティさんと朽月に礼を言って、食堂を後にした。すると、ホールでハンさんに会った。
「あ……。おはよう、夕ちゃん」
「ハンさん、おはようございます」
ハンさんの服装は、昨日見たものよりもオシャレだった。色合いとしては、やはり暗い物が多いのだが、所々にファーやフリルが見られた。
昨日から思っていたのだが、勾玉荘の人達は皆、基本的に年齢を感じさせないくらい若々しい。
目の前に居るハンさんも、31歳なのだ。にも関わらず、フリルが付いた服を着ていても、似合ってしまう。正直言って、羨ましい。
しかし、そんな事はおくびにも出さない。
「ハンさんはもう朝ご飯食べたんですか?」
「昨日、夜にお菓子食べたからお腹減ってないので、今朝は食べない事にした」
「そうなんですか。でも、朝ご飯抜いちゃって大丈夫なんですか?」
「朝ご飯食べないだけで倒れるほど、弱い体に生まれたつもりはない」
「なら、構いませんけど……」
そのまま去ろうと背を向けると、肩をガッと掴まれ、再び振り向かせられる。
「え……なんですか?」
ハンさんがクイッと片腕を上げる。そこには、『TAKUYA』=『タクヤ』のDVDレンタル用の黒い手提げバッグが握られていた。
「今からDVD返しに行くんだけど……もし良かったら、夕ちゃんもどう?お昼は、何処かで食べる」
「どう?」とハンさんが首を傾げる。艷やかな黒髪のポニーテールがユラリと揺れて、可愛い。なんか一瞬キュンときた。私が男だったら、確実に惚れるだろう。おのれハンさん、こんな奥の手を持っているとは……!流石はピュアブラック、純粋な黒!!
「ねぇ……?俯いてるけど、話聞いてる?」
ハッとする。ハンさんに聞かれている事も忘れて、自分の世界に入ってしまっていた。慌てて顔を上げ、コクコクと頷く。
「いえ!ご一緒させて頂きます!準備して来ても良いですか?」
「うん。ここで待ってる。慌てなくていいからね」
ハンさんが嬉しそうにニカッと笑った。
キュン……!
危ない……。私が男なら、キュン死にしていただろう…。
ピュアブラックの恐ろしさに慄きながら、部屋に向かった。
さて……。どうする……?
よくよく考えれば、一年ぶりの外出だ。そう思ったら、途端に緊張してきた。
服については、今度買いに行くことにして、今回はこのままで行くことにしたが、普段、どんな物を持って外出していただろうか?
まずいな…。全然思い出せない。まずはバッグを探してみたのだが、押し入れの中からそれらしきものは見つからず(決して汚い訳では無い。むしろ物が無いのだ)これも今度買いに行く事にした。
続いて、メイク。
フッ……。これは簡単です。化粧品は全て、真治君と別れた時に纏めて捨てました。真治君に見てもらえないなら、メイクをする必要なんてないから。別れた当初の私は、そう言う考えだった。まあ、昨日の朝もそんな調子だったのだが。
取り敢えず、化粧品も買うことにした。
最後に、お金。
財布はテーブルの置きっぱなしにしていたのですぐに見つける事が出来たのだが、私の記憶が正しければ、お金はほとんど入っていなかったはずだ。
しかし、思い違いという一抹の希望にかけ、財布を開いた。
ッッ!!
目に飛び込む、十人の福沢諭吉と折りたたまれた小さな紙。現実を上手く飲み込めないまま、紙を開いた。
『夕子へ。それは、家賃とかそういったもの以外に、貴女が自由に使えるお金です。毎月同じ額を仕送りするので、貴女の使いたいように使って下さい。頑張ってね!』
丁寧な母の字から、両親の愛情を受け取った。
ありがとう。
改めて、二人が私を応援してくれている事を思い出した。二人の気持ちに応えるためにも、頑張ろう……!
こうして準備を整え(財布は革ジャンのポケットに突っ込んだ)ホールへと小走りで向かう。
「お待たせしました!」
「そんなに待ってない。むしろ、思ってたより早い方。それじゃ、行こう」
ホールの数ある扉のうちの一つがハンさんによって開かれた。その先には、勾玉荘の玄関があった。そういえば、勾玉荘がどんな構造になっているのか、まだ把握していない。帰ってきたら、探索してみよう。
そして私は、一年ぶりに外に出た。
(朽月純と葉桜希里については、更新に余裕が出た時とかに番外編にてお話させて頂きたいと思っています。個人的に昔から好きな二人なので、じっくり書きたいです!)
希里さんが語り始めた。二人で囲むテーブルには、白米。鮭の塩焼き。小松菜のお味噌汁。たくあん。朝ご飯の代表格が勢揃いしている。
カティさんと朽月さんが作ってくれた朝ご飯に舌鼓を打ちながら、希里さんのお話を聞く。中々豪華な席となった。
白米と鮭を一緒に食べながら、希里さんの話に耳を澄ました。
『あれは、中学二年生の頃さ』
さっきも言ったけど、純は、中学の頃は今みたいに明るくなくてね。休み時間になると、いつも一人で本を読んでいたんだ。相当な読書家だったね。
それに対して僕は、休み時間の度に友達とお喋りばかりしてね。同じクラスなのに純との接点はほとんど無かったんだ。
そんな僕がどうして純と付き合う事になったかって?それはね?
コツン。
「ちょっと希里?そろそろお仕事に行く時間じゃないの?」
「え………?」
「朽月さん……?」
希里さんの演技がかった話を遮ったのは、朽月さんの拳骨だった。
いや………このタイミングで?
「ちょっと待って!今、僕と純の出会いについて語ってるところなんだけど!?」
コツン。という音どおり、拳骨はさして痛くなかったらしく、希里さんはすぐに抗議した。しかし、朽月さんは頬を膨らませて希里さんを睨む。
「昔話しててお仕事クビになっちゃったら元も子もないでしょ!?お店行くまでに一時間かかるんだから、もうすぐ出なきゃだよ!?」
今の時刻は7時30分。私が起きてから一時間くらい経っていた。右手に巻いている腕時計を見た希里さんは、さっきの私みたいに仰け反って驚く。
「ホントだ!9時までにお店行かなきゃだから…え!もう出ないと間に合わないじゃん!!」
「だから言ってるでしょ!ほら、これ咥えて早く行って!」
朽月さんが希里さんにトーストを手渡した。それを受け取った希里さんは「ありがと!」と言って、トーストを咥えて走り去って行った。
結局、朽月さんの過去についてはほとんど教えてもらえなかったのだが、今と昔でかなり性格が違うこと。そして、変わった理由に希里さんが関わっている事が分かった。
それだけの事なのに、勾玉荘の皆さんの事が少し分かったから、嬉しかった。
こうして、皆さんから話を聞いて皆さんのことを知っていく。
それが、私のやるべき事なのではないかと思った。
朝ご飯を終え、カティさんと朽月に礼を言って、食堂を後にした。すると、ホールでハンさんに会った。
「あ……。おはよう、夕ちゃん」
「ハンさん、おはようございます」
ハンさんの服装は、昨日見たものよりもオシャレだった。色合いとしては、やはり暗い物が多いのだが、所々にファーやフリルが見られた。
昨日から思っていたのだが、勾玉荘の人達は皆、基本的に年齢を感じさせないくらい若々しい。
目の前に居るハンさんも、31歳なのだ。にも関わらず、フリルが付いた服を着ていても、似合ってしまう。正直言って、羨ましい。
しかし、そんな事はおくびにも出さない。
「ハンさんはもう朝ご飯食べたんですか?」
「昨日、夜にお菓子食べたからお腹減ってないので、今朝は食べない事にした」
「そうなんですか。でも、朝ご飯抜いちゃって大丈夫なんですか?」
「朝ご飯食べないだけで倒れるほど、弱い体に生まれたつもりはない」
「なら、構いませんけど……」
そのまま去ろうと背を向けると、肩をガッと掴まれ、再び振り向かせられる。
「え……なんですか?」
ハンさんがクイッと片腕を上げる。そこには、『TAKUYA』=『タクヤ』のDVDレンタル用の黒い手提げバッグが握られていた。
「今からDVD返しに行くんだけど……もし良かったら、夕ちゃんもどう?お昼は、何処かで食べる」
「どう?」とハンさんが首を傾げる。艷やかな黒髪のポニーテールがユラリと揺れて、可愛い。なんか一瞬キュンときた。私が男だったら、確実に惚れるだろう。おのれハンさん、こんな奥の手を持っているとは……!流石はピュアブラック、純粋な黒!!
「ねぇ……?俯いてるけど、話聞いてる?」
ハッとする。ハンさんに聞かれている事も忘れて、自分の世界に入ってしまっていた。慌てて顔を上げ、コクコクと頷く。
「いえ!ご一緒させて頂きます!準備して来ても良いですか?」
「うん。ここで待ってる。慌てなくていいからね」
ハンさんが嬉しそうにニカッと笑った。
キュン……!
危ない……。私が男なら、キュン死にしていただろう…。
ピュアブラックの恐ろしさに慄きながら、部屋に向かった。
さて……。どうする……?
よくよく考えれば、一年ぶりの外出だ。そう思ったら、途端に緊張してきた。
服については、今度買いに行くことにして、今回はこのままで行くことにしたが、普段、どんな物を持って外出していただろうか?
まずいな…。全然思い出せない。まずはバッグを探してみたのだが、押し入れの中からそれらしきものは見つからず(決して汚い訳では無い。むしろ物が無いのだ)これも今度買いに行く事にした。
続いて、メイク。
フッ……。これは簡単です。化粧品は全て、真治君と別れた時に纏めて捨てました。真治君に見てもらえないなら、メイクをする必要なんてないから。別れた当初の私は、そう言う考えだった。まあ、昨日の朝もそんな調子だったのだが。
取り敢えず、化粧品も買うことにした。
最後に、お金。
財布はテーブルの置きっぱなしにしていたのですぐに見つける事が出来たのだが、私の記憶が正しければ、お金はほとんど入っていなかったはずだ。
しかし、思い違いという一抹の希望にかけ、財布を開いた。
ッッ!!
目に飛び込む、十人の福沢諭吉と折りたたまれた小さな紙。現実を上手く飲み込めないまま、紙を開いた。
『夕子へ。それは、家賃とかそういったもの以外に、貴女が自由に使えるお金です。毎月同じ額を仕送りするので、貴女の使いたいように使って下さい。頑張ってね!』
丁寧な母の字から、両親の愛情を受け取った。
ありがとう。
改めて、二人が私を応援してくれている事を思い出した。二人の気持ちに応えるためにも、頑張ろう……!
こうして準備を整え(財布は革ジャンのポケットに突っ込んだ)ホールへと小走りで向かう。
「お待たせしました!」
「そんなに待ってない。むしろ、思ってたより早い方。それじゃ、行こう」
ホールの数ある扉のうちの一つがハンさんによって開かれた。その先には、勾玉荘の玄関があった。そういえば、勾玉荘がどんな構造になっているのか、まだ把握していない。帰ってきたら、探索してみよう。
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