勾玉荘と愉快な仲間たち

井傘 歩

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1章~個性的な皆さん~

大げさな影とスーツな影

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 服装は倒れた時のままだったので、そのままホールへと向かった。4時台とはいえ、夜中なので、足音を立てないように静かに螺旋階段を降りていった。

 途中、何度かふらついて転倒しそうになったが、その度に赤鬼さん、じゃなく、クウヤさんに支えてもらった。

 クウヤさんは、小柄ながらもかなり力があった。学生時代は、剣道をしていたらしい。想像してみた……。

 『赤鬼のお面』=『剣道の面』

 何だかしっくり来た。

(お面は剣道から来てるのかな……?)

 まあ……聞きはしないのだけど。

 そんな事を考えながら螺旋階段をグルグルと降りていると、ホールに到着した。私が扉を開けようとすると、横からクウヤさんが私の手を押さえた。

「私が開けます。まだ病み上がりなんですから、無理しちゃいけません」

「病み上がりって……。ただ、寝不足で倒れただけだよ……?」

 私の言葉に、クウヤさんが俯いた。

「やっぱり、自覚はないんですね……」

「えっ……?」

 私が疑問形をぶつけると、気を取り直したように頭をブンブンと振って、顔を上げた。

「いえ。何でもありません。とにかく、ここは私が。大丈夫です、難しい事じゃありませんし」

「うん。特に執着するような事でもないからね。よろしく」

 クウヤさんが宣言通り、片手で楽々と扉を開いた(純さんは体で押して開けてたんですけど……?)ので、先にホールに入らせてもらった。

 


 ホールは夜仕様なのか、普段は3つ光っているシャンデリアが1つしか光っていなかった。勿論、シャンデリア1つで広いホールを照らし尽くすことなど出来るはずもないので、ホールは私の部屋のように薄暗かった。

 存在は確認できるけれど、それが何かまでは判別出来ない。そんなレベルの空間に、幾つかの人影が見えた。その内の1つが、私がホールに入ってきた事に気付いた。

「ん……?お前、誰だ?身長からしてクウヤか?まだ、交代の時間じゃねぇぞ?」

 ジョーさんの声だ!座っていた椅子から立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる。

「私はこっちですよ?」

 クウヤさんが、私の後ろからヒョコッと現れて、ジョーさんを含む人影達に手を振った。

 それを見て、他の人影達も立ち上がる。ジョーさんは、怪訝そうな顔をした。

「じゃ……お前は…?」

 私を指差して、ジョーさんが呟く。その腰が若干引けているのだが、それは私を『幽霊的なアレ』と思っているからではないだろうか?だとしたら、早々に正体を明かす(隠してないんだけどね?)必要がある。

「あの……私です!詩島夕子ですよ?」

「なにぃ!?」

「夕ちゃーーーん!!」

 と、私が名乗るなり、影の内の一つがこちらに走り込んで来た。思った以上に素早いその影は、勢いそのままに私に抱きついてきた。

「えっ!ちょっ……!」

 一瞬驚くも、至近距離に来た事で薄っすらと見えたその人は。

「あっ!純さん!」

「夕ちゃん、大丈夫だった!?元気になって良かったよー!」

 突然純さんが、私に抱きつきながらボロボロと泣き出した。「え……?」と、私は硬直してしまう。後ろから来たクウヤさんが、しみじみと言う。

「純さん、夕子さんが倒れてから、ずっと夕子さんの心配してて。交代の時間になっても、『もう少し。もう少しだけ』って、中々夕子さんの近くを離れてくれなくて」

「男だったら通報されるレベルだったな、あの勢いは」

 ジョーさんが冷やかす様な口調で言うが、声色から、私に責任を感じさせない為だと悟る。心の中で、「ありがとうございます」と言っておいた。

「だって、久しぶりに仲間が増えたと思ってたのに、居なくなっちゃったら嫌でしょ!?仲間が居なくなるなんて、私、絶対に嫌だもの!」

 涙を頬に称えながら、純さんがジョーさんの方を振り向いて訴え掛ける。しかし…幾ら何でも、私一人の為に大げさではないだろうか?

 私が、純さんの様子に驚いていると、暗闇の中から、別の影が現れた。その影は、私から純さんをひっぺがすと、純さんの頭を優しく宥めるようにポンポンした。純さんが、ハッと顔を上げる。

 新しく現れた影は、希里さんだった。

「やあ、夕子ちゃん。元気そうで安心したよ。ごめんね、純がこんな調子で」

「いえ。心配掛けてすみません。あの…純さん、大丈夫ですか?」

 尚も嗚咽を漏らす純さんの代わりに、希里さんが答えた。

「ちょっと、純にも思う所があったみたいでね。多分、少しすればいつも通りに戻ると思うよ。じゃ、僕らはこれで失礼するね」

「はい。ありがとうございました」

 私が礼をすると、希里さんはニコッと笑って、純さんを宥めながらホールを出て行った。

 そこで、気になっていた事を聞いてみる。

「あの……。ハンさんは寝ちゃってるんですか?さっきから、ハンさんらしき人が見当たらないんですけど……」

 私が倒れた時に一緒に居たはずのハンさんが、ホールに居なかった。いやな予感が、脳裏を過ぎっている。すると、ジョーさんが答えた。

「あのな……ハンは、ちょっと今、アレがアレしててだな……。あ、いや!別に、いかがわしい感じの話ではなくてだな!?」

 オドオドしながら、歯切れの悪い喋り方をするジョーさんの言葉を、また別の影が遮った。

「無理にジョーが説明する必要ないだろが。逆に伝わりにくいから、ここは俺に任せろ」

 その影は、ホールの奥の方から現れ、私に歩み寄って来て、手を差し出した。

「俺は二階堂瑞希にかいどうみずき。不本意だが、みんなからは『ニキ』と呼ばれている。宜しく頼む」

「あ、詩島夕子です。宜しくお願いします」

 私も手を差し出して、握手した。握手出来るほどに近付いた事によって、見えた姿。それは、見紛う事なきスーツ姿だった。会社勤めなのだろうか?

 握手を終え、どちらともなく手を離した。ニキさん(私もそう呼ぶ事にした)が仕切り直すようにフゥーと息を吐いた。

「さて…。ハンなんだが、只今一身上の都合により、昨日から部屋に篭っている。病気とかでは無いから、安心してくれ」

「そうなんですか……。良かったぁ…」

 と言って、首を傾げる。待って……?

『昨日から部屋に篭っている』………?

「ちょっと待って下さい?私、昨日はハンさんとお出かけしたんですけど……?」

 私が早口で言うと、ニキさんが「あぁ……そうか…」と呟いた。何の事だか、さっぱり分からない。

 ニキさんが、呼吸を整えて言った。

「詩島夕子。あんたが倒れたのは、一昨日の事なんだ」

「………………はぇ?」

 私は、間抜けな声を発して、状況を理解できてない事を伝えた。


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