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自己の投影による孤独の脱却は、解決策と言えるのか。
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まさか、こんなにも雑な方法で、呼び出すことができるものなのだな。私の目の前には、女の子が表れていた。黒髪ロングで華奢なおとなしそうな女の子が。なんだか、私の趣味が前面に出ているような気もするが、その点には気づかないふりをしておく。
「や、やぁ、はじめまして」
ありきたりにありきたりな挨拶をしておく。私が作り上げたということは、私の内面に存在していたものなのであるから、はじめましてというのもおかしい気もするが、それ以外の言葉が出てこなかったのだ。致し方あるまい。
「はじめまして」
思っていた通りの返答。
「誰あんた」
思っていなかった反応。 そんな馬鹿な。
「え?あれ、私のことわからない?」
「はじめましてって挨拶したんだから、知るわけないでしょ」
「いや、まぁ、そうなんだけども。なんていうか、さっきの挨拶はつい出ただけで、あの、厳密には、初めてでは」
「そうなの?あんたなんか会ったことないけど。それともアレかしら、前世の記憶では恋仲だったとか?今日びそんなの流行らないわよ」
前世の記憶か。そんなこと考えもしなかったな。やはり、自分以外がいるのは良いな。思いもしなかったことに気付ける。いや待て。なんで私の思いつかなかったことを、この子が思いつけるんだ?この子は、私と同じ存在といっても過言ではないのに。
「そういうわけでもないのだけども…。いやまぁ、前世はある意味同じと言っても過言ではないのだけれど…」
「なんだか、煮え切らない返答ね」
「事実ではあるけど、間違っているような気もするから、何とも言えなくてね」
「でしょうね。まぁ、いじわるはこの辺にしておいてあげるわ」
「え?」
「あなたのことはわかるわよ。そして、私が何者なのかもね」
「それはよかったよ。私の中ではない別のところから召喚でもしてしまったのかと」
「異世界から飛んできたとでも思ったのかしら。それも、流行らないわよ」
「い、いや、そんなことは思ってないさ」
「そう、それなら。私はちゃんと、あなたの中から産まれた存在よ。……いざ言葉にすると、なんか嫌ね、この表現。私イコールあなたってことでしょ?本当に嫌ね」
そういうと彼女は、心底嫌そうな顔をする。道端で虫の死骸を見たような、苦虫を噛み潰したような、そんな顔を。
「自分自身とは思えないほどに辛辣なことを言うんだね…」
私の生み出した存在のはずなのに、なぜ私にこうも冷たいのか。じつは、こういう扱いをされたかったのだろうか。だとしたら、なんだか微妙な気持ちになるな。ここで気づかされたということが、さらに。
「それで」
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて、私を呼んだ理由があるでしょ」
「あぁ、そうだったそうだった。私と一緒に――」
「ちょっと待って」
彼女が話を中断させてくる。それはもう、遮るという表現すら生ぬるいほどに、ぴしゃりと、私の言おうとしたことを止めてくる。なぜ私は、私の議論のために呼び出した少女に、私の話を消されるのか。
「止めなければならないほどの重要事項があるからよ」
「なるほどな。ん?あれ…?さっきの声に出てた?」
「いや、全然」
「じゃあ、なんで思ってたことが」
「そんなの当り前じゃない。私はあなたなの。なれば、あなたの思ってることは、当然のように私もわかって当然じゃない」
あぁ、それもそうか。なんだか、私の思っていた存在が顕現しなかったから失念していたけども、彼女は私なのだった。
「思ってた通りの、純粋無垢で純朴可憐な寡黙少女じゃなくて悪かったわね」
「いや、そういうつもりじゃ。って、その思考に返答するのはやめてもらえませんかね」
「そう言われても、あなたの思考と会話の区別なんて、私にはつかないもの」
「いやでも、ほら、なんとなく独り言ぽいものと話しかけてる感じの違いはあるじゃん?」
「まあ?」
「その、独り言ぽいときはスルーしてくれれば」
「なるほど、わかったわ。なんとなくで無視するわ」
「本当にわかってるのかな…。話しかけてるときに無視されたら泣いちゃうよ?」
「…」
「ここは無視するとこじゃないからね!」
「その〝私″っていう一人称やめてくれない?」
「そ、そんな。この一人称は、さっきやっと決め――」
「だまらっしゃい」
「だ、だま…」
「私が私って使ってるんだから、あなたが私だとわかりづらいでしょ?もう、この時点でごちゃごちゃしちゃってるんだから。それともなに?こんな可憐な少女に〝俺″とか使わせる気かしら?なに?そういう趣味なの?」
「そんな特殊な趣味は持ってないよ…」
「じゃあ、私が私って使うから、あなたは他のを使う。それでいいわね?」
疑問形のわりに、同意を得るというよりも決定事項のように、彼女は強い口調でそう言った。
「うーむ、わかったよ。君が分かりづらいというなら、なにか他のを考えるよ」
しかし、先ほど悩んだ一人称を、また長々と考え込んでいいものだろうか。思考の堂々巡りを起こしてしまうのではなかろうか。――頭で考える思考がどうを巡るのは、なんだか面白いな。
「くだらないわね」
「いやだから、思考に入ってくるのはやめてよ…」
「あまりにくだらないことを考えていたものだから、つい」
「それについては、なんか、ごめん」
「わかればいいのよ、わかれば」
なぜ自分自身に怒られ、自分自身に謝らなければならないのか。まぁ、そんは瑣末なことはどうでもいい。いまは、新しい一人称を考えなければ。このままでは、一向に話が進まないし、世界も進まない。
「って、なにを作ってるの?」
気づくと、少女が横で、なにやらごそごそとやっていた。
「ん?あみだくじだけど?」
「あみだくじ?!」
「そうよ、もしかして知らないの?私が知ってるのに?無知ここに極まれりなの?」
「いや…あみだくじくらいは知ってるよ。そこに疑問を抱いたわけではなくて、ここにはなにもないのに、どうやってあみだくじを作ってるのかと」
「えいっと紙を出して、やあっとペンを出しただけよ」
「そ、そんな簡単に…」
「あなたは、私を出したでしょ?まぁ、それと同じ要領よ」
「結構、なんでも出せるんだね。そして、君にも出来たんだね」
「あなたに出来るんだから、私にも出来るでしょ。さて、出来たわ」
「おー、ありがとう。どれどれ、えっと、これは、なんて書いて…」
「それは"僕"ね」
「じゃあ、こっちは」
「それは"おいら"だけど、なにかしら、あなたは字が読めないの?」
「読めると思ってたんだけど、なんだかこれは…。もしかして、君の字ってきたな」
「処刑」
「ごめんなさい」
「仕方ないわね、今回だけ許してあげる。仏の顔は二度までなんだから」
「三度じゃなかったっけ?」
「二度あることは三度あるって言うじゃない?だからもう、三度目があることを見越して、二度目から許さないのよ」
「すごい理論だね」
「そんなことはいいから、ちゃっちゃとあみだくじやりましょう」
「運任せで一人称を決める前に、一応聞いておきたいことがあるんだ」
「なにかしら?」
「一人称って、性別から決まるところがあるじゃん?」
「まぁ、そうとは言い切れないけども、そんな側面もあるわね」
「そこで、男と女のどちらに見えるか。そこのところをはっきりさせておきたいんだよね。“おいら”とかに決まった後に、見た目が女性だよとか言われたら、また変えなきゃいけない気になるからさ」
「あなた、自分の見た目もわからないの?」
「さっきまで一人だったからね。それに、ここにはなにもないだろう?だから、自分の容姿を見ることがなかったんだよね」
「そういうこと。あなたの見た目は…そうね…どちらかと言うと…うーん」
なんだか考えあぐねているような、答えに窮しているようなそんな態度を、彼女は取っていた。
「もしかして、人ですらない…?」
「いや、そんなことはないわよ。人の形はしてるわ。ただ、性別を聞かれると何とも言えないというか、どちらと答えるべきか…」
「中性的という感じ?」
「いや、べつに十字軍みたいな見た目はしてないわ」
「字が違うよ。中世じゃなくて中性。って、これじゃ伝わらないか。真ん中の性と書いて中性だよ」
「あぁ、そっちだったのね。わかりづらいわね」
「この流れで時代の話が出るわけないよね」
「展開とは、常に唐突なのよ」
「唐突にもほどがあるよ」
「たしかに、中性的って見た目ね」
「そして唐突に話を戻したね」
「あまりにも話が進まないのだもの。無理矢理にでも本題に戻すべきかと」
誰のせいで脱線したのか。それにこれはまだ、本題に入る前段階なのだが。そんな不満を抱きつつも黙っているとしよう。と思ったけど、このモノローグも読まれているんだっけ…。あぁ、案の定こっちを睨んでいるな…。ごめんなさい。これで伝わっただろう。
「まぁ、性別不詳の見た目をしていると」
「そうね」
「じゃあ、まぁ、どんな一人称が出てもいいか」
「結局、そこに落ち着くのね。今までの話はなんだったのかしら」
「それは言わないでよ。まさか、どちらの性別にも寄ってないとは思わなかったんだから」
「ところで、自分の容姿を見ようとはしなかったのかしら」
「見られなかったからね」
「なんでも出せる世界なら、鏡くらい出せたんじゃないの?」
「盲点だった…」
「あなたは、もしかしたら馬鹿なのかもね」
「さぁて、あみだを引くぞー」
痛いところを突かれた僕は、少女の出したペンを取り、あみだくじと向き合う。決して、分が悪くて誤魔化したわけではない。そういうわけではない。
「誤魔化したわね、まぁいいわ。さぁ、好きなところを選んでちょうだい」
「んーっと、じゃあここにしようかな」
特に意味はなく、どうせくじだからと、適当な場所を選ぶ。ここから先の一人称が決まるという、ある意味で重大な選択であるような気もするが、べつになんでもいいのだ。特に、一人称が変わったところで些末な問題ではないだろう。そうは言っても、‟吾人”だとか‟愚僧”だとか、その辺りのあまり聞かない一人称だったら嫌だな。なんだか、安いキャラ付けみたいで。本当にここでよかったのかな。
「ぐだぐだ言ってないで、最初に決めたところで進めなさいよ」
ぐだぐだ考えてはいたけども、ぐだぐだ言ってはいなかったんだけどな…。とまぁ、余計なことを考えていても仕方がない。一人称くじといこうじゃないか。そして私は、線をペンでなぞっていく。はじめと終わりの決まった道を。
「‟僕”か」
あみだで決められた一人称は、‟僕”だった。当たり障りのない、至って普通な一人称。なんだか普通すぎてつまらない気もするが、まぁそんなものだろう。
「なに?普通じゃない一人称がよかった?今から、‟某”とかに変える?」
「嫌だよ、武士じゃあるまいし。というか、いまだ中世を引きづってたんだね」
「や、やぁ、はじめまして」
ありきたりにありきたりな挨拶をしておく。私が作り上げたということは、私の内面に存在していたものなのであるから、はじめましてというのもおかしい気もするが、それ以外の言葉が出てこなかったのだ。致し方あるまい。
「はじめまして」
思っていた通りの返答。
「誰あんた」
思っていなかった反応。 そんな馬鹿な。
「え?あれ、私のことわからない?」
「はじめましてって挨拶したんだから、知るわけないでしょ」
「いや、まぁ、そうなんだけども。なんていうか、さっきの挨拶はつい出ただけで、あの、厳密には、初めてでは」
「そうなの?あんたなんか会ったことないけど。それともアレかしら、前世の記憶では恋仲だったとか?今日びそんなの流行らないわよ」
前世の記憶か。そんなこと考えもしなかったな。やはり、自分以外がいるのは良いな。思いもしなかったことに気付ける。いや待て。なんで私の思いつかなかったことを、この子が思いつけるんだ?この子は、私と同じ存在といっても過言ではないのに。
「そういうわけでもないのだけども…。いやまぁ、前世はある意味同じと言っても過言ではないのだけれど…」
「なんだか、煮え切らない返答ね」
「事実ではあるけど、間違っているような気もするから、何とも言えなくてね」
「でしょうね。まぁ、いじわるはこの辺にしておいてあげるわ」
「え?」
「あなたのことはわかるわよ。そして、私が何者なのかもね」
「それはよかったよ。私の中ではない別のところから召喚でもしてしまったのかと」
「異世界から飛んできたとでも思ったのかしら。それも、流行らないわよ」
「い、いや、そんなことは思ってないさ」
「そう、それなら。私はちゃんと、あなたの中から産まれた存在よ。……いざ言葉にすると、なんか嫌ね、この表現。私イコールあなたってことでしょ?本当に嫌ね」
そういうと彼女は、心底嫌そうな顔をする。道端で虫の死骸を見たような、苦虫を噛み潰したような、そんな顔を。
「自分自身とは思えないほどに辛辣なことを言うんだね…」
私の生み出した存在のはずなのに、なぜ私にこうも冷たいのか。じつは、こういう扱いをされたかったのだろうか。だとしたら、なんだか微妙な気持ちになるな。ここで気づかされたということが、さらに。
「それで」
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて、私を呼んだ理由があるでしょ」
「あぁ、そうだったそうだった。私と一緒に――」
「ちょっと待って」
彼女が話を中断させてくる。それはもう、遮るという表現すら生ぬるいほどに、ぴしゃりと、私の言おうとしたことを止めてくる。なぜ私は、私の議論のために呼び出した少女に、私の話を消されるのか。
「止めなければならないほどの重要事項があるからよ」
「なるほどな。ん?あれ…?さっきの声に出てた?」
「いや、全然」
「じゃあ、なんで思ってたことが」
「そんなの当り前じゃない。私はあなたなの。なれば、あなたの思ってることは、当然のように私もわかって当然じゃない」
あぁ、それもそうか。なんだか、私の思っていた存在が顕現しなかったから失念していたけども、彼女は私なのだった。
「思ってた通りの、純粋無垢で純朴可憐な寡黙少女じゃなくて悪かったわね」
「いや、そういうつもりじゃ。って、その思考に返答するのはやめてもらえませんかね」
「そう言われても、あなたの思考と会話の区別なんて、私にはつかないもの」
「いやでも、ほら、なんとなく独り言ぽいものと話しかけてる感じの違いはあるじゃん?」
「まあ?」
「その、独り言ぽいときはスルーしてくれれば」
「なるほど、わかったわ。なんとなくで無視するわ」
「本当にわかってるのかな…。話しかけてるときに無視されたら泣いちゃうよ?」
「…」
「ここは無視するとこじゃないからね!」
「その〝私″っていう一人称やめてくれない?」
「そ、そんな。この一人称は、さっきやっと決め――」
「だまらっしゃい」
「だ、だま…」
「私が私って使ってるんだから、あなたが私だとわかりづらいでしょ?もう、この時点でごちゃごちゃしちゃってるんだから。それともなに?こんな可憐な少女に〝俺″とか使わせる気かしら?なに?そういう趣味なの?」
「そんな特殊な趣味は持ってないよ…」
「じゃあ、私が私って使うから、あなたは他のを使う。それでいいわね?」
疑問形のわりに、同意を得るというよりも決定事項のように、彼女は強い口調でそう言った。
「うーむ、わかったよ。君が分かりづらいというなら、なにか他のを考えるよ」
しかし、先ほど悩んだ一人称を、また長々と考え込んでいいものだろうか。思考の堂々巡りを起こしてしまうのではなかろうか。――頭で考える思考がどうを巡るのは、なんだか面白いな。
「くだらないわね」
「いやだから、思考に入ってくるのはやめてよ…」
「あまりにくだらないことを考えていたものだから、つい」
「それについては、なんか、ごめん」
「わかればいいのよ、わかれば」
なぜ自分自身に怒られ、自分自身に謝らなければならないのか。まぁ、そんは瑣末なことはどうでもいい。いまは、新しい一人称を考えなければ。このままでは、一向に話が進まないし、世界も進まない。
「って、なにを作ってるの?」
気づくと、少女が横で、なにやらごそごそとやっていた。
「ん?あみだくじだけど?」
「あみだくじ?!」
「そうよ、もしかして知らないの?私が知ってるのに?無知ここに極まれりなの?」
「いや…あみだくじくらいは知ってるよ。そこに疑問を抱いたわけではなくて、ここにはなにもないのに、どうやってあみだくじを作ってるのかと」
「えいっと紙を出して、やあっとペンを出しただけよ」
「そ、そんな簡単に…」
「あなたは、私を出したでしょ?まぁ、それと同じ要領よ」
「結構、なんでも出せるんだね。そして、君にも出来たんだね」
「あなたに出来るんだから、私にも出来るでしょ。さて、出来たわ」
「おー、ありがとう。どれどれ、えっと、これは、なんて書いて…」
「それは"僕"ね」
「じゃあ、こっちは」
「それは"おいら"だけど、なにかしら、あなたは字が読めないの?」
「読めると思ってたんだけど、なんだかこれは…。もしかして、君の字ってきたな」
「処刑」
「ごめんなさい」
「仕方ないわね、今回だけ許してあげる。仏の顔は二度までなんだから」
「三度じゃなかったっけ?」
「二度あることは三度あるって言うじゃない?だからもう、三度目があることを見越して、二度目から許さないのよ」
「すごい理論だね」
「そんなことはいいから、ちゃっちゃとあみだくじやりましょう」
「運任せで一人称を決める前に、一応聞いておきたいことがあるんだ」
「なにかしら?」
「一人称って、性別から決まるところがあるじゃん?」
「まぁ、そうとは言い切れないけども、そんな側面もあるわね」
「そこで、男と女のどちらに見えるか。そこのところをはっきりさせておきたいんだよね。“おいら”とかに決まった後に、見た目が女性だよとか言われたら、また変えなきゃいけない気になるからさ」
「あなた、自分の見た目もわからないの?」
「さっきまで一人だったからね。それに、ここにはなにもないだろう?だから、自分の容姿を見ることがなかったんだよね」
「そういうこと。あなたの見た目は…そうね…どちらかと言うと…うーん」
なんだか考えあぐねているような、答えに窮しているようなそんな態度を、彼女は取っていた。
「もしかして、人ですらない…?」
「いや、そんなことはないわよ。人の形はしてるわ。ただ、性別を聞かれると何とも言えないというか、どちらと答えるべきか…」
「中性的という感じ?」
「いや、べつに十字軍みたいな見た目はしてないわ」
「字が違うよ。中世じゃなくて中性。って、これじゃ伝わらないか。真ん中の性と書いて中性だよ」
「あぁ、そっちだったのね。わかりづらいわね」
「この流れで時代の話が出るわけないよね」
「展開とは、常に唐突なのよ」
「唐突にもほどがあるよ」
「たしかに、中性的って見た目ね」
「そして唐突に話を戻したね」
「あまりにも話が進まないのだもの。無理矢理にでも本題に戻すべきかと」
誰のせいで脱線したのか。それにこれはまだ、本題に入る前段階なのだが。そんな不満を抱きつつも黙っているとしよう。と思ったけど、このモノローグも読まれているんだっけ…。あぁ、案の定こっちを睨んでいるな…。ごめんなさい。これで伝わっただろう。
「まぁ、性別不詳の見た目をしていると」
「そうね」
「じゃあ、まぁ、どんな一人称が出てもいいか」
「結局、そこに落ち着くのね。今までの話はなんだったのかしら」
「それは言わないでよ。まさか、どちらの性別にも寄ってないとは思わなかったんだから」
「ところで、自分の容姿を見ようとはしなかったのかしら」
「見られなかったからね」
「なんでも出せる世界なら、鏡くらい出せたんじゃないの?」
「盲点だった…」
「あなたは、もしかしたら馬鹿なのかもね」
「さぁて、あみだを引くぞー」
痛いところを突かれた僕は、少女の出したペンを取り、あみだくじと向き合う。決して、分が悪くて誤魔化したわけではない。そういうわけではない。
「誤魔化したわね、まぁいいわ。さぁ、好きなところを選んでちょうだい」
「んーっと、じゃあここにしようかな」
特に意味はなく、どうせくじだからと、適当な場所を選ぶ。ここから先の一人称が決まるという、ある意味で重大な選択であるような気もするが、べつになんでもいいのだ。特に、一人称が変わったところで些末な問題ではないだろう。そうは言っても、‟吾人”だとか‟愚僧”だとか、その辺りのあまり聞かない一人称だったら嫌だな。なんだか、安いキャラ付けみたいで。本当にここでよかったのかな。
「ぐだぐだ言ってないで、最初に決めたところで進めなさいよ」
ぐだぐだ考えてはいたけども、ぐだぐだ言ってはいなかったんだけどな…。とまぁ、余計なことを考えていても仕方がない。一人称くじといこうじゃないか。そして私は、線をペンでなぞっていく。はじめと終わりの決まった道を。
「‟僕”か」
あみだで決められた一人称は、‟僕”だった。当たり障りのない、至って普通な一人称。なんだか普通すぎてつまらない気もするが、まぁそんなものだろう。
「なに?普通じゃない一人称がよかった?今から、‟某”とかに変える?」
「嫌だよ、武士じゃあるまいし。というか、いまだ中世を引きづってたんだね」
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