カード学園サヴァイヴ ~カードで全てが決まるゲーム世界の学園で狂人で軍人のゲーム廃人は天使のために最強になる~

哀原正十

文字の大きさ
5 / 83
楽園編

第4話 天使のような少女

しおりを挟む
 入学式が行われる大講堂は新入生の群れでごった返していた。入口から演台、端から端までフレッシュな制服に身を包んだ新入生が賑わいを産んでいる。色は黒と白の2色。男子が黒色で、女子が白色。男女で制服の色を分けるのがラグナロク学園の流儀だ。デザインは切れ味が良く、意匠のセンスが光っている。式が始まるまでは自由に行動していいようで、地球の学校のように列に並ばなければいけないというルールはないようだった。人々が明るい表情で好き勝手に動き回っているので、講堂は式典というよりも何らかのパーティ会場のような雰囲気に満ち満ちている。

「……ゲームでは画面数個分の大部屋に精々数十人のドットがいるだけだった入学式が、現実になるとこうも化けるか。まるでCMAじゃなくて最新機種の超大作RPGの世界に迷い込んだみたいだ。ポケットボーイとグラフィックが違い過ぎる」

 大講堂入口付近の壁に腕組み足組みもたれかかりながら玄咲は一人呟く。さらに講堂を、人々の容姿に注目しながら見渡す。

「……人間、天使、エルフ、ドワーフ、ウェアウルフ、ドラゴニュート――まぁ、国際法で亜人として認められた種族は殆どいるか。……ふふ、異世界みが凄い。本当にクソッタレな地球から脱出できたんだな……CMAの世界だって実感できる」

 講堂を眺めまわしていると、ふいに見知った顔と出くわす。カードバス内で思いがけずおっぱいを揉んだ神楽坂アカネだった。目が合う。玄咲は手を上げて挨拶するが、ふんっ、と顔を背けてどこかに行ってしまう。玄咲はうなだれた。

「……嫌われたもんだ。まぁ、いい。俺には莫大なゲーム知識がある。神楽坂アカネのデータはこの頭の中に腐るほど詰まっている。知識チートを使えば関係修復など易い易い。一時的に好感度がマイナス状態になろうとも、結局最後は俺に堕ちる。俺があいつを選ぶかどうかはともかくとして、な……」

 リカバリーは十分可能――そう自分に言い聞かせることで気を取り直した玄咲は、再び講堂内に視線を這わし始める。そして、一通り会場を見渡し、何となく右真横を向いた玄咲の瞳が見開かれる。視線が、講堂の隅っこの一点に縫い付けられた。後ろ手を組み俯く、白髪の美少女がそこにはいた。

(彼女は――亡霊ちゃん! そうか。この時点では退学していないのか。……俯いてる上に髪で隠れて顔がよく見えない。が、ゲームのグラフィックから判断するに美少女。話しかけてみるべきか……)

 悩む。興味は尽きない。ただ、一つ問題があった。

(……ヒロイン並、いや、下手なヒロインよりも可愛いが、彼女はヒロインではない。どころかメインキャラですらない。サブキャラと呼ぶのも過言に思えるほどの出番しかない、ぽっと出の敵キャラだ。だからプロフィールも用意されていない。プロフィールはメイン級のキャラにしか用意されていない。つまり俺には彼女の情報が殆どない。これでは知識チートが使えない。どうしたものか……いや、迷ったら行動。消極は破滅へのカウントダウン。とりあえず、話しかけてみるか。Let's、コミニュケイト)

 結局、好奇心が勝って、玄咲は少女に話しかけることにした。すたすたと近づく。壁の隅に背をくっつけて一人俯いていた少女が、玄咲の接近に気付いて面を上げる。長い白髪に隠れていた容姿が露わになる。

 とんでもない美少女だと玄咲は思った。 
 瞬間、玄咲の思考はぶっ飛んだ。

 儚い、幸薄そうな容姿だった。白髪。腰まで届くそれは、美しくもどこか寂しい不可思議な感傷を抱かせる色合いをしていた。白骨の白さだ。ただただ色褪せいつの間にか真っ白になっていた。そんな来歴を勝手に想像してしまう、そんな白さだった。白色というより虚色とでも呼んだ方が表現として適しているように玄咲は感じた。

 白の虹彩に幽玄の美が絶えず揺らめいている。彼岸の岸に浮かぶ白い火の玉のように茫漠としていて掴みどころがない白――いや、虚色の瞳。その瞳の奥にどんな感情を秘しているのか玄咲には全く想像がつかない。ただ、何か神秘的な想像を勝手に抱かせる美に満ちた瞳であると、外面だけ見てそう思う事しかできなかった。

 目鼻立ちは完璧なバランス。完璧な左右対称。人は個性のない顔程美しく感じるという研究記事を玄咲はかつてネットサーフィン中に見たことがある。まさに、少女の顔は無個性。ただただ美しく配列されているだけ。無感情に、無感動に、アンドロイドのように、少女の顔はひたすらに美しかった。美しさだけがそこにはあった。

 尖るような顎先。細い首筋。華奢な胸元。服の上からでも凹んだ腰に、ほそやかなのに色気に満ちた氷山の角度で女を主張する下半身――ボディラインは頭からつま先まで一繋ぎの流線で結ばれている。その肌は、白い。白い砂丘のように、美しい。

 ゲームのグラフィックを遥かに超越した美を前にして玄咲は固まった。

「……」

(言葉が、飛んだ)

 ヴィンテージものの童貞が火を噴く。玄咲の頭の中が少女の色のように真っ白になった。少女が何を考えているのか全く分からないミステリアスな瞳で玄咲を見ると、さらに、玄咲の脳内は漂白された。玄咲は必死に状況の打開策を考える。ふいに、小学生の頃に読んだ【図解! 30分で会話上手になる7つのコツ!】というタイトルのハウトゥー本の一説が頭の中に浮かんだ。

『何を話せばいいか分からない。そんなときはまず共通の話題を振りましょう。例えば、天気の話題を振ったとします――』

 その先の文章は思い出せない。けど、そこまで思い出せば十分だった。ぎこちない動きで謎に手を上げ、玄咲は少女に話しかける――!

「今日は、いい天気だね」

「……!」

 少女が目を丸くした。驚いているように玄咲には見えた。自分に話しかけられたのがそんなに意外だったのか。もしくは相手が自分だから驚いているのか。自分なんかに話しかけられたくなかったのではないか……玄咲は段々と不安になってきた。

「……」

 少女が、頭上を見る。何かを確かめるように。玄咲もつられて頭上を見る。

 そこには、天井があった。大講堂の立派な作りの天井が。

 空など、見えなかった。

 代わりに玄咲の顔色が青空のように真っ青になった。

「……そうだった、かもね」

 少女が口を開く。少しハスキーな、可愛くかすれた声。だが、発する言葉には変な間があった。戸惑い、呆れ、動揺、もしかしたら恐怖、あるいはそれら全ての感情がその間に込められているに違いない。そう玄咲は思い込んだ。事実はどうあれ、その思い込みこそが玄咲にとっての真実だった。少女の心の声だった。

 蒼褪めたまま色褪せぬ顔色で、雲がかかって真っ白になった頭から、玄咲は何とか言葉を絞り出す。

「……そうだった、んだよ。多分……」

 それだけ言って、玄咲はUターンした。ガクガクと膝を震わしながら元いた位置に戻る。入口付近の壁に腕組み足組みもたれかかり、何事もなかったですよと言わんばかりのフツーの表情でまだ誰もいない演台を見上げる。だが、膝が震えていた。

(コミュニケーション失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した――)

 頭の中で何十もの後悔の言葉を重ねる。だが、表情には一切現れない。玄咲は何事もオーバーに受け取るタイプの人間だが、それによって発生した感情を脳内で処理する冷静さを同時に持ち合わせていた。すぐに後悔の感情は一先ず棚上げできるサイズにまでミニマム化される。玄咲は一度大きく息を吐くと、鋭い目つきでやや前方上空を睨んで思考を巡らせ始めた。

(……絶世の美少女という表現がある。彼女はゲーム中のテキストで唯一そう表現された存在だ。だが、二次元の描画ではどうしてもイラストレータの想像力と力量という限界がある。その表現上の限界を取っ払い絶世の美少女という表現をありのまま具象化したらどうなるか――その答えが、あの少女だ。……心臓が爆裂するかと思った。まだ、ドキドキしてる。……可愛い。あれが、天使か……)

 神楽坂アカネやクララ・サファリアも人語を絶した美少女だった。だが、まだ常識の範囲内の美少女だ。しかし、あの白き美少女はボーダーを超えている。本物の天使。玄咲はそう信じた。

(……まぁ、仮にコミュニケーションに成功していたとて、所詮彼女は非攻略対象。ヒロインではない。つまり俺と結ばれる未来はありえない――それが、道理だ。いくらコミュニケーションに失敗して好感度が下がろうと気にする必要は一切ない。一切、ない)

 強く心中で断じて少女への未練を断つ。なんとなく体勢を変えたくなって、玄咲は胸の前で組んだ両腕をほどき、制服のポケットに突っ込む。

「ん?」

 手に、何かが当たる。それも両方。玄咲はポケットから両手を引き抜き、右、左と交互にポケットから取り出したものを見分する。

「1000マニーカード……ああ、主人公の初期資金か。そしてこっちは――カードッ! しかも6枚! 周回特典だッ! やった!」

 息を呑む。左手に握ったカードの束に顔を近付けてさらに詳しく見分しようとしたその時、大講堂の証明が落ちた。手元が見えなくなる。

「この演出、学園長の登壇か……あとで、邪魔されないところでじっくり見るとするか」

 カードの束をズボンのポケットに仕舞い込もうとする。その時、指が腰にかかった黒い長方形の留め具つきのケースに触れた。カードケースだ。

(……魔符士の必需品。カードケース。確かこの世界のカードケースは魔法の直撃を受けても壊れないくらい丈夫でかつ自然の魔力を吸って常時発動する特殊な魔法陣が刻まれているんだよな。その効果でカードケースに入れておけば基本カードを失くさないし、頭に念じたカードを一発で取り出せる。というご都合設定。ポケットよりはこっちだな)

 玄咲は6枚のカードをカードケースに仕舞った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

処理中です...