美神戦隊アンナセイヴァー

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第二章 アンナウィザード&ミスティック登場編

●第10話【出現】1/2

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 美神戦隊アンナセイヴァー

 第10話 【出現】


 薄暗い空間に、響き渡る駆動音。
 鈍い銀色のボディに、オレンジのラインが走る人型メカ。
 それが、専用に設けられたトレーニングエリアにて稼動していた。
 全高は3メートルをゆうに超え、重量は乗用車二台分にも及ぶ。
 それほどの巨体が、まるで生き物のように柔軟に動き、走り、そして飛び跳ねる。
 
『ホイールブレード!』

 女性の声が響き、それと同時に、右手の中に巨大な剣型のツールが現れる。
 更なる激しい金属音を鳴らし、剣の柄から火花が迸る。
 目前に突然屹立した、高さ5メートル程の鉄柱(モノリス)に向かい、人型メカは激しく斬りつけた。

『てぇいっ!』

 気合と共に、刃渡り3メートルを超えるだろう大型のブレードが鉄柱に炸裂する。
 鉄柱は見事に一刀両断され、やがて空中に溶け込むように消えた。

 だが次の瞬間、人型メカを取り囲むように、今度は十本以上の鉄柱が姿を現す。
 しかも、今度は移動し、じわりじわりと迫ってくる。
 人型メカは、足元に光の粒子をまとわせながら軽やかに旋回し、再び剣を構えた。



「おー、未来ちゃん、今日も頑張ってますねー」

 暗闇の彼方、エレベーターの方角から、若い男の声が聞こえてくる。
 勇次は、顔を向けず横目で声の主を睨んだ。

「遅いぞ、今川」

「ちーっす勇次さん!
 てか、ここ別に定時とか決まってないんだから、いいじゃないですかぁ」

「待ち合わせ時間に一時間も遅れた奴が、していい言い訳じゃあないな」

「てへぺろ☆」

「それリアルで言う奴、初めて見たぞ」

「えっそうっすか?
 オレ、前に言われたことありますよ?」

「誰にだ」

「メグちゃんっす」

 今川と呼ばれた若い男は、何かのゲームキャラがプリントされたTシャツを指で摘みながら苦笑する。

「んで、未来ちゃんは同意してくれました? アップデート」

「あっさりと拒否された」

「んあー、やっぱりねえ」

 やれやれ、というジェスチュアをしながら、今川は手近な椅子に腰掛ける。
 持ち込んだ茶色い紙袋からハンバーガーの包みを取り出すと、徐に開き、がぶりと噛り付いた。

「食事なら休憩室でしろ。
 匂いが移る」

「いいじゃないっすか。
 “地下迷宮ダンジョン”こんなに広いんだから、匂いなんかこもらないっすよ」

「そういう問題じゃないが……まあ、いい。
 それにしても、相変わらずハンバーガー好きだなお前」

「あ、これ知りません? マックドの新作なんですよ。
 “ダイエットバーガー”!
 とある料理漫画とのコラボらしいんですけどね、ハンバーグじゃなくて牛肉いっぱい入ってるんすよ。
 あと、ソフトクリームまで付いて来て」

「こっちは夕べから何も食ってないんでな。
 その匂いが癪に障る」

「勇次さん、はい、あ~ん」

「いらん!」

 勇次に顔も向けられずに拒否られた今川は、くすくす笑いながらハンバーガーに集中する。
 ものの一分もしないうちに食べ切り、「ちょっとしょっぱかったなー」と感想までのたまうと、今川は柵越しに眼下の人型メカの動きに注目した。
 
「さすが練習の賜物。
 未来ちゃん、かなり鋭い動きが出来るようになりましたねー」

「まあな。
 稼動効率は、初回稼動時の十二倍オーバーだ。
 後は、どこかのタイミングで電送テストを行って、飛行訓練をすれば完璧だ」

「――が、それでも、アンナローグの初稼動時の動きには、到底及ばない、と」

 少し呆れたような声で、ぼそりと呟く。
 それを聴き、勇次はようやく今川に向き直った。

「今川! お前、それは」

「言いませんよ、未来ちゃん達には!
 けどねえ、あれだけの差を見せ付けられちゃうと、さすがに」

「うむ……」

 腕組みをして、唸り声を立てる。
 紙袋をくしゃくしゃに丸めると、今川は手近なゴミ箱にシュートインした。
 端にぶつかった紙袋は、転がって柵の隙間から下に落っこちた。

「勇次さんは、どう思います?
 アップデートのこと」

「未来も言っていたが、導入するにしても、再度の稼動実験が必要だろう。
 迂闊に判断して、不具合を引き起こしては意味がないからな」

「ま、そうですけどね。
 それで、ちょっと導入シミュレーションこさえて来たんですけど、見てもらえないっすか?」

「相変わらず、手が早いな」

「へへ、それだけしか取り得ないんで」

 そう言うと、今川は懐から、やたら古めかしいメディアディスクを取り出した。

「お前、またそんな。
 MOドライブなんか、あるわけないだろ!」

「残念! 今回は、スーパーディスクで持って来たんですよ!」

「そんなメディア知らん!
 というか、どうやって開くんだそんなもの!?」

「安心してくださいよー。
 オレの端末に、外付ドライブ付いてるんですから」

「あの、怪しいドライブ山ほど着けた端末、うっとうしいから片付けろ!
 第一、OSが認識するのか、それ?!」

「へっへー、そこをどうにかするのが、オレの特技って奴で!」

 そう言うと、今川は人差し指の先で、器用にメディアディスクをクルクル回転させた。

「これは、未来ちゃんが戻ってきたら一緒に見ましょう。
 その方が、説得もしやすいと思うんd――」


『わかりました。
 すぐに参ります』


 会話を遮るように、突然、未来の声が響く。
 勇次と今川は、驚いて思わず椅子からずり落ちそうになった。

 なんと、人型ロボが空中に浮かび、柵の外からこちらを見つめていたのだ。
 その右手(マニピュレーター)には、先ほど今川が捨てた紙袋が載っている。

『演習エリアにゴミを落とさないでください、今川さん。
 ターゲットだと思って、思わず切りかかるところでしたよ』

「ご、ごめん、未来ちゃん!」

 ひょい、と手首を回転させると、人型メカは紙袋を二人の居るスペースに放り投げた。
 見事に、ごみ箱にストライクする。
 今川は、つい口笛を吹いて拍手してしまった。

『練習を終わります。
 着替えたら、そこに戻りますので』

「ああ、ごゆっくり!」

 人型メカは、噴射音を立てながら数メートル下のドックエリアへと降りていった。

「やっぱすごいですね、未来ちゃんの操縦精度」

 ゴミ箱を見つめながら、今川が呟く。
 
「そうだな。
 アイツは――極めようと努力しているからな、常に」

「そうっすね。
 やっぱそれって……アレが原因なんですかね」

「……」

 今川の問いに、答えない。
 静かに目を閉じうつむくと、勇次はため息を吐き出した。

「向ヶ丘も、十数分もしたら戻るだろうから、お前は準備をしておけ」

「あいあい」

 待ってましたとばかりに、椅子から立ち上がる。
 勇次が常駐する場所の反対側にある、壁から伸びているエリア。
 そこが、今川義元(いまがわ あきちか)がリーダーを努める、開発班の専用エリアだ。

 ここからは、徒歩移動だと5分以上もかかるだろう。
 それだけ、この場所は広い。

 暗黒の空間に構築された、機械の人工地下洞窟。
 高さ100メートル、全幅80メートルを超える巨大な空間のあちらこちらに、壁から伸びる20メートルほどの足場が突出している構造。
 そして、それらを取り囲むように配置された、無数のモニタや精密機器。
 剥き出しの配管、照明、そして無数の垂れ下がったケーブル、鋼材が剥き出しになった無数の柱。。
 そしてその底部には、アンナユニットをはじめそれをメンテナンスする為のドックと、広い演習場が設置されている。

 これが、彼ら“SAVE.”の本拠地。


 ――彼らはここを、「地下迷宮ダンジョン」と呼んでいる。




 

 
 夕刻間際の、渋谷ランプリングストリート。
 元々、センター街や道玄坂ほどの人通りはないエリアではあるが、それでもこの時間に人が殆ど居ないというのは、かなりの違和感を覚えさせる。
 それに、目の前の雑居ビルからは、言葉では言い表せないほどの不穏な「何か」を感じる。
 それはどうやら愛美だけのようで、すぐ横に入る舞衣や、恵には感じられないようだ。

「どうしようか、お姉ちゃん。
 今日はやめとく?」

 恵の言葉に、舞衣が頷く。

「そうね、それがいいかも。
 ごめんなさい愛美さん、今回は出直しましょう」

 そう呟くと、舞衣はスマホを取り出し、どこかに電話を掛け始める。
 その間に、恵が愛美の傍にやって来た。

「ナイトシェイドを呼んでもらってるからね。
 来たら、すぐ乗って帰ろうか」

「は、はい……」

「代わりに、帰ったらメグが愛美ちゃんの好きなご飯作ってあげるから。
 楽しみにしててね!」

「はい、ありがとうございます……」

 恵の申し出も、半分頭に入らない。
 愛美は何故か、あの雑居ビルに注目していた。
 違和感はある、不安も感じる。
 そしてその感覚は、以前どこかで感じたことがあるような、このままにしておけない「何か」に通じている。
 更なる恵の呼びかけにも応じることなく、愛美はいつしか、その雑居ビルの階段に向かって、歩き出していた。
  
「あっ、愛美ちゃん?!」

「すみません、私、ちょっと見てきます」

「え?
 う、うん……」

 愛美は、呆然とする相模姉妹に見送られながら、雑居ビルの階段へと姿を消した。

「愛美ちゃん、いったいどうしたのかなぁ。
 ねえ、お姉ちゃん。
 メグ、なんか悪いことしちゃったかな……」

「そんなことないわよ、メグちゃん」

 少ししょんぼりする恵の頭を優しく撫でると、舞衣は、もう一度四階の窓を見上げる。
 店の明かりは、やはり点く様子はない。

「あれ?」

 突然、恵が声を上げる。

「どうしたの?」

「お姉ちゃん、今気付いたんだけど」

「うん」

「周り、見て!
 ねえ、なんかおかしくない?」

「えっ?」

 恵に言われ、舞衣は改めて周囲を見回す。
 しばらくは気付かなかったが――

「ね、なんか変でしょ?」

「そう、言われてみれば……」

 舞衣は、思わず恵の手を握った。
 周りを何度も見回しながら。
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