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第二章 アンナウィザード&ミスティック登場編
●第12話【現実】1/3
しおりを挟む美神戦隊アンナセイヴァー
第12話 【現実】
XENO“ジャイアントスパイダー”は、討伐された。
だが、アンナローグ達のやるべきことは、まだ終わってない。
アンナウィザードとミスティックの戦闘により、問題の雑居ビルは半分以上が崩壊し、その周辺の道路もそこら中が陥没またはひび割れが起こり、更には瓦礫やガラスの破片等が無数に飛び散っている。
先程のパンケーキの店のものと思われる飾りやテーブル、また別の階のテナントにあったと思われる備品までもが、派手に散らばっている。
とてもじゃないが、XENOに勝てたからと手放しで喜べるような状況ではない。
しかし、これを仕掛けた当人達は、こんな惨状を全く気にしていない様子だ。
さすがに、何か言わずには居れない。
「あ、あの!」
千葉愛美――アンナローグは、二人に少し強めの声で呼びかけた。
「なに? ローグ」
「どうされましたか?」
「あの、いくらなんでも、こんなに街を破壊しては、いけないんじゃないでしょうか?!
もし、近くに居た別の人が怪我をしたり、ここを通った車などが事故を起こしてしまったら、どうすればいいのでしょう?!」
真剣に呼びかけるが、二人はちょっと困った顔を向き合わせるだけだ。
やがて、相模恵――アンナミスティックが、マジカルロッドを呼ばれた武器をくるくる回し出す。
一瞬閃光を放った後、それは小さく収縮し、またリングに戻って右の太ももに収まった。
「うん、じゃあ、そろそろ元に戻そうか」
「えっ? 戻す?」
「そうですね、でもその前に、あのビルの屋上まで移動しましょう。
このままでは、目立ってしまいますから」
「さんせーい。
じゃあローグ、あそこまで一緒に飛ぶよ!」
「え? あ、ちょ」
「ぴょーん☆」
アンナミスティックに手を引かれ、アンナローグは、先程まであった雑居ビルの屋上まで飛び上がった。
アンナウィザードも、その後を追ってくる。
三人が揃った時点で、アンナミスティックは再び印を象った左手を虚空に翳す。
「ジグラット・オープン!」
その言葉と共に、またも、周囲の景色が一瞬ブレたような気がした。
途端に、周囲が急激に暗くなる。
「え? アレ?」
「ローグ、隣のビルを見てください」
「は、はい――って!
えぇぇっ?! なんでぇ?!」
アンナローグは、驚愕の声を上げた。
なんと、先程の戦闘で吹き飛ばされた例の雑居ビルが、復元していた。
見下ろしてみると、あれだけ破壊された道路すらも、まるで何事もなかったかのように元に戻っている。
否、戻ったというよりも、むしろ最初から何も起きていないようにすら感じる。
目が点になったアンナローグは、あまりの驚きに言葉を失った。
「ありゃ、絶句しちゃった。にゃはは♪」
「ぱ、ぱくぱくぱく」
「言葉が出ない状態?
だよねー、普通驚くよね!」
「“パワージグラット”は、簡単に云うと、私達とXENOを巻き込んで戦闘用の空間を作り出す技術なんです」
「く、空間?
ごめんなさい、益々意味が」
アンナウィザードの説明でも、まだ理解が及ばない。
そこに、アンナミスティックが補足する。
「えっとね、私も良く理解出来てないんだけど、ゆーじさんが言ってたよ。
一時的にパラレルワールドに移動するんだって」
「ぱられり、わーるど?」
「パラレルワールド、です」
アンナウィザードの説明は、こういうものだった。
この宇宙には、「並行世界」と呼ばれる異世界が無数に存在している。
通常、それぞれの世界は互いに干渉することはないが、時折何かの理由で接してしまい、おかしな現象が生じることがあるという。
“パワージグラット”は、そういった並行世界と現実世界を、強制的に接続させる力を発揮するディメンションアクセスツールであり、これにより他者の干渉を避け、また周辺に悪影響を与えない環境を構成することが出来る。
ただし効果範囲の設定が必要だったり、また巻き込める対象を選定しなければならず、他にも様々な条件があるという。
これは、アンナミスティックだけに備えられた装備であり、他のアンナユニットでは使えない代物だそうだ。
「つ、つまり、何をやらかしても、現実には何も起きていないってことなんですか?!」
「そうです。凄い技術ですよね」
「ひ、ひえっ!
でも、本当は何も壊れてないってことなんですよね?
だから、お二人は全然慌ててなかったってことですよね?」
「そーだよぉ!
初めてテストした時は、私達もびっくりしたけどねー」
「よ、よかったぁ! 安心しました!
申し訳ありません! 先程は、言葉を荒げてしまいまして!」
ようやく安堵したアンナローグは、またも秒速三回の速さで頭を下げ続けた。
「いいえ、ちゃんと説明出来なかった私達が悪いので」
「いえいえ! そんな事はございません!」
「いいえ、私達も」
再び、頭下げバトルが勃発する。
アンナミスティックがそれを制すると、改めて例の雑居ビルを指差した。
「それより、これからこのビルを調べるんだよね? ウィザード」
「ええ、そうです」
「あの、調べるって、何をですか?」
アンナローグの疑問に、アンナウィザードは真剣な表情で返答する。
「人的被害の、確認です」
「じ、人的……?」
「あのお店の中、XENOに荒らされて酷いことになっていたでしょ?
三日前の看板が片付けられてなかったってことは、三日前にここに居た人達が全員被害に遭った可能性があるんだよ」
「え……」
アンナミスティックの言葉に、アンナローグは言葉を詰まらせる。
店内で見かけた、中身の散らばったハンドバッグのことが、頭に思い浮かぶ。
「ローグは、店内に居たでしょ?
どういう状況だった?」
「えっと、はい。
中は――」
アンナローグの説明を聞き、アンナウィザードとミスティックは、更に表情を引き締めた。
“Science Magic construction is ready.MAGIC-POD status is normal.
Execute science magic number M-005 "invisible-vision" from UNIT-LIBRARY.”
アンナウィザードの科学魔法が、再び使われる。
今度は、自分達に施す術のようだ。
「インヴィジブルビジョン」
右人差し指と中指を立て、アンナミスティックとローグに指の腹を向ける。
続けて、自分にもそれを行う。
すると、不思議なことに三人の姿が、その場から忽然と消えた。
「ひえっ?! みみみ、見えなくなっちゃいましたよ?!
舞衣さん、恵さーん?!」
「大丈夫ですよ、ローグ。
AIが自動的に見えるように調整してくれますから、ちょっとだけ待ってください」
「それとね、ローグ!
実装中は、お互いにコードネームで呼ばないとダメなんだよぉ」
「こ、コードネーム?」
「そうです。
私はアンナウィザード、この子はアンナミスティック。
下の名前で呼び合っております」
「そ、そうなんですか。
それで、私は“ロープ”なんですね?」
「「 ロ ー グ ! 」」
「ひぇ?!」
数秒後、アンナローグの視界に、二人の姿が映るようになった。
しかし、何故か半透明。
「これは、どういう状態なのでしょう?」
「科学魔法で、私達全員に光学迷彩を施しました。
今、この三人以外には、私達の姿は見えていない筈です」
「つまりぃ、とーめい人間だね!」
「ほぇぇ、す、凄いんですね!
って、科学魔法?」
科学的に様々な事象や効果を発揮し、これを戦闘や調査に転用する技術。
それが「科学魔法」。
これは、限られたユニットにのみ搭載された機能で、ここではアンナウィザードとミスティックだけが使用出来る。
これは扱いが非常に難しく、使用にはある程度の熟練を要するため、舞衣と恵は数年単位での訓練を経て今に至っているという。
そんな説明を受けたアンナローグは、「良く分からないけど、すごいことなんだ!」と、無理矢理納得することにした。
「なんだか、お二人は本当に魔法使いみたいですね!」
「えへへ☆ 本当は魔法でもなんでもないんだけどね!」
「さあ、それよりも早く調査を。
恐らく、やがて誰かが気付いて警察を呼ぶかもしれませんから、それまでに撤収しないと」
「け、警察ですか?!」
そう聞かされては、焦らずにいられない。
アンナローグは、フンスと鼻息を荒げ、気合を込めた。
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