美神戦隊アンナセイヴァー

敷金

文字の大きさ
上 下
26 / 172
第二章 アンナウィザード&ミスティック登場編

●第12話【現実】1/3

しおりを挟む


 美神戦隊アンナセイヴァー

 第12話 【現実】



 XENO“ジャイアントスパイダー”は、討伐された。
 だが、アンナローグ達のやるべきことは、まだ終わってない。


 アンナウィザードとミスティックの戦闘により、問題の雑居ビルは半分以上が崩壊し、その周辺の道路もそこら中が陥没またはひび割れが起こり、更には瓦礫やガラスの破片等が無数に飛び散っている。
 先程のパンケーキの店のものと思われる飾りやテーブル、また別の階のテナントにあったと思われる備品までもが、派手に散らばっている。
 とてもじゃないが、XENOに勝てたからと手放しで喜べるような状況ではない。
 しかし、これを仕掛けた当人達は、こんな惨状を全く気にしていない様子だ。
 さすがに、何か言わずには居れない。

「あ、あの!」

 千葉愛美――アンナローグは、二人に少し強めの声で呼びかけた。

「なに? ローグ」

「どうされましたか?」

「あの、いくらなんでも、こんなに街を破壊しては、いけないんじゃないでしょうか?!
 もし、近くに居た別の人が怪我をしたり、ここを通った車などが事故を起こしてしまったら、どうすればいいのでしょう?!」

 真剣に呼びかけるが、二人はちょっと困った顔を向き合わせるだけだ。
 やがて、相模恵――アンナミスティックが、マジカルロッドを呼ばれた武器をくるくる回し出す。
 一瞬閃光を放った後、それは小さく収縮し、またリングに戻って右の太ももに収まった。

「うん、じゃあ、そろそろ元に戻そうか」

「えっ? 戻す?」

「そうですね、でもその前に、あのビルの屋上まで移動しましょう。
 このままでは、目立ってしまいますから」

「さんせーい。
 じゃあローグ、あそこまで一緒に飛ぶよ!」

「え? あ、ちょ」

「ぴょーん☆」

 アンナミスティックに手を引かれ、アンナローグは、先程まであった雑居ビルの屋上まで飛び上がった。
 アンナウィザードも、その後を追ってくる。
 三人が揃った時点で、アンナミスティックは再び印を象った左手を虚空に翳す。


「ジグラット・オープン!」


 その言葉と共に、またも、周囲の景色が一瞬ブレたような気がした。
 途端に、周囲が急激に暗くなる。

「え? アレ?」

「ローグ、隣のビルを見てください」

「は、はい――って!
 えぇぇっ?! なんでぇ?!」

 アンナローグは、驚愕の声を上げた。

 なんと、先程の戦闘で吹き飛ばされた例の雑居ビルが、復元していた。
 見下ろしてみると、あれだけ破壊された道路すらも、まるで何事もなかったかのように元に戻っている。
 否、戻ったというよりも、むしろ最初から何も起きていないようにすら感じる。

 目が点になったアンナローグは、あまりの驚きに言葉を失った。

「ありゃ、絶句しちゃった。にゃはは♪」

「ぱ、ぱくぱくぱく」

「言葉が出ない状態?
 だよねー、普通驚くよね!」

「“パワージグラット”は、簡単に云うと、私達とXENOを巻き込んで戦闘用の空間を作り出す技術なんです」

「く、空間?
 ごめんなさい、益々意味が」

 アンナウィザードの説明でも、まだ理解が及ばない。
 そこに、アンナミスティックが補足する。

「えっとね、私も良く理解出来てないんだけど、ゆーじさんが言ってたよ。
 一時的にパラレルワールドに移動するんだって」

「ぱられり、わーるど?」

「パラレルワールド、です」

 アンナウィザードの説明は、こういうものだった。
 この宇宙には、「並行世界」と呼ばれる異世界が無数に存在している。
 通常、それぞれの世界は互いに干渉することはないが、時折何かの理由で接してしまい、おかしな現象が生じることがあるという。
 “パワージグラット”は、そういった並行世界と現実世界を、強制的に接続させる力を発揮するディメンションアクセスツールであり、これにより他者の干渉を避け、また周辺に悪影響を与えない環境を構成することが出来る。
 ただし効果範囲の設定が必要だったり、また巻き込める対象を選定しなければならず、他にも様々な条件があるという。
 これは、アンナミスティックだけに備えられた装備であり、他のアンナユニットでは使えない代物だそうだ。

「つ、つまり、何をやらかしても、現実には何も起きていないってことなんですか?!」

「そうです。凄い技術ですよね」

「ひ、ひえっ!
 でも、本当は何も壊れてないってことなんですよね?
 だから、お二人は全然慌ててなかったってことですよね?」

「そーだよぉ!
 初めてテストした時は、私達もびっくりしたけどねー」

「よ、よかったぁ! 安心しました!
 申し訳ありません! 先程は、言葉を荒げてしまいまして!」

 ようやく安堵したアンナローグは、またも秒速三回の速さで頭を下げ続けた。

「いいえ、ちゃんと説明出来なかった私達が悪いので」

「いえいえ! そんな事はございません!」

「いいえ、私達も」

 再び、頭下げバトルが勃発する。
 アンナミスティックがそれを制すると、改めて例の雑居ビルを指差した。

「それより、これからこのビルを調べるんだよね? ウィザード」

「ええ、そうです」

「あの、調べるって、何をですか?」

 アンナローグの疑問に、アンナウィザードは真剣な表情で返答する。

「人的被害の、確認です」

「じ、人的……?」

「あのお店の中、XENOに荒らされて酷いことになっていたでしょ?
 三日前の看板が片付けられてなかったってことは、三日前にここに居た人達が全員被害に遭った可能性があるんだよ」

「え……」

 アンナミスティックの言葉に、アンナローグは言葉を詰まらせる。
 店内で見かけた、中身の散らばったハンドバッグのことが、頭に思い浮かぶ。

「ローグは、店内に居たでしょ?
 どういう状況だった?」

「えっと、はい。
 中は――」

 アンナローグの説明を聞き、アンナウィザードとミスティックは、更に表情を引き締めた。





“Science Magic construction is ready.MAGIC-POD status is normal.
 Execute science magic number M-005 "invisible-vision" from UNIT-LIBRARY.”

 アンナウィザードの科学魔法が、再び使われる。
 今度は、自分達に施す術のようだ。
 
「インヴィジブルビジョン」

 右人差し指と中指を立て、アンナミスティックとローグに指の腹を向ける。
 続けて、自分にもそれを行う。
 すると、不思議なことに三人の姿が、その場から忽然と消えた。

「ひえっ?! みみみ、見えなくなっちゃいましたよ?!
 舞衣さん、恵さーん?!」

「大丈夫ですよ、ローグ。
 AIが自動的に見えるように調整してくれますから、ちょっとだけ待ってください」

「それとね、ローグ!
 実装中は、お互いにコードネームで呼ばないとダメなんだよぉ」

「こ、コードネーム?」

「そうです。
 私はアンナウィザード、この子はアンナミスティック。
 下の名前で呼び合っております」

「そ、そうなんですか。
 それで、私は“ロープ”なんですね?」

「「 ロ ー グ ! 」」

「ひぇ?!」

 数秒後、アンナローグの視界に、二人の姿が映るようになった。
 しかし、何故か半透明。

「これは、どういう状態なのでしょう?」

「科学魔法で、私達全員に光学迷彩を施しました。
 今、この三人以外には、私達の姿は見えていない筈です」

「つまりぃ、とーめい人間だね!」

「ほぇぇ、す、凄いんですね!
 って、科学魔法?」

 科学的に様々な事象や効果を発揮し、これを戦闘や調査に転用する技術。
 それが「科学魔法」。
 これは、限られたユニットにのみ搭載された機能で、ここではアンナウィザードとミスティックだけが使用出来る。
 これは扱いが非常に難しく、使用にはある程度の熟練を要するため、舞衣と恵は数年単位での訓練を経て今に至っているという。

 そんな説明を受けたアンナローグは、「良く分からないけど、すごいことなんだ!」と、無理矢理納得することにした。

「なんだか、お二人は本当に魔法使いみたいですね!」

「えへへ☆ 本当は魔法でもなんでもないんだけどね!」

「さあ、それよりも早く調査を。
 恐らく、やがて誰かが気付いて警察を呼ぶかもしれませんから、それまでに撤収しないと」

「け、警察ですか?!」

 そう聞かされては、焦らずにいられない。
 アンナローグは、フンスと鼻息を荒げ、気合を込めた。
しおりを挟む

処理中です...