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第一章:アンナローグ始動編
●第3話【潜入】1/3
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井村邸。
この館は、その存在を知るごく一部の者達によって、そう呼称されることがある。
館には全部で六人の人間が住んでおり、そのうち五人が家政婦(メイド)である。
主人である“井村依子(いむら よりこ)”の下、
赤坂梓
青山理沙語
元町夢乃
立川もえぎ
そして、千葉愛美。
この五人のメイド達が住み込みで勤務し、井村依子の生活を支えている。
病に臥せり、寝室に篭り切りになってしまっている依子に、メイド達は献身的に奉仕に努めている。
愛美は、この館で働き始めて、もうすぐ一年になろうという新人だった。
彼女が館に来て最初の半年ほどの間は、依子は今よりも体調が良く、庭に出る機会も多かった。
また、彼女を訪ね遠方から来る客の数もそれなりに多く、メイド達はその対応に追われることも多かった。
依子がどういう経緯でこんな所に、身寄りも置かずに一人で住んでいるのか、愛美には細かい事情は全く知らされていない。
また、彼女の許にやって来る客人達の素性も、何もかも知る由はない。
それでも、気品があって誰にでも優しく接する依子はメイド達にとても好かれており、愛美も彼女の人柄に尊敬の念を抱いていた。
だが、それも――
美神戦隊アンナセイヴァー
第3話 【潜入】
懐中電灯を持って外から二階の窓を照らしたが、特に異常は見当たらない。
続けて二階に向かった愛美は、凱の部屋のドアに鍵がかかっていることを確認した。
(気のせい……だったのかな?)
小首を傾げながら階下に戻ろうとする愛美の前に、突然何者かがひょこっと姿を現した。
「愛美?」
「あ、もえぎさん!?」
「あんた、まだ寝てなかったの?
明日辛いよ?」
「もえぎさんこそ、こんな時間にどうなさったんです?」
「うん、ちょっとラジオをね。
ここだと、それくらいしか楽しみないからさー」
「そ、そうですか」
彼女が、聞こえ難いラジオに文句を言いながら、様々な場所に移動して聞こえやすい所を探索していたことを思い出す。
恐らく小腹が空いたので、夕飯の残り物をつまみに部屋を出てきたのだろう。
もえぎらしい、いつものことだと納得した愛美は、先ほどのことを伝えた。
「マジで?! じゃあアイツ、何処行ったわけよ?」
「いえ、もしかしたら私の気のせいかもしれないので、まだなんとも」
「盗撮だよ、盗撮! ここ、女しかいないじゃん?!
きっと、隠し撮りしようとしてんだよアイツ!」
「と、トウサツって、何ですか?」
「そ、そこからか……
あのね、男が、女の子のえっちな姿をナイショで撮影したりすること」
「ええっ?! それって、いかがわしい事なのではないでしょうか?」
「ガチいかがわしい事だし、犯罪だよ!
ケーサツ来るよケーサツ!」
「ひえっ! あ、あの方がそんな悪いことを!?」
「まだわからんけど、もし本当にそうだったら、捕まえてとっちめよう!」
「誰を、捕まえるって?」
突然、男の声が割り込む。
見ると、いつの間にかドアが開かれ、眠そうな顔つきの凱が覗き込んでいた。
「へ?」
「が、ががが、凱さん?!」
「なんか話し声がするからさぁ~。何かあったの~?」
思わず両手で口を塞ぐもえぎと、ぶんぶん手を振って誤魔化そうとする愛美。
「い、いえいえ、何もないです!
た、大変失礼いたしました!
も、もえぎさん、参りましょう!」
「あ、ちょ、ちょっとぉ!」
もえぎの手を掴み、愛美は慌ててその場を離れた。
その様子を窺っていた凱は、ドアを閉めると、フゥと息を吐いた。
(やべぇやべぇ、思ってたより勘が鋭いな、あの娘)
半開きになった窓を閉じ、足首に装着していたベルト付きの機械を取り外すと、凱は先ほどのソファーにどっかと腰を下ろした。
翌朝、午前6時。
既に起床したメイド達は、朝の仕事を始めていた。
一階の食堂には、愛美ともえぎ、夢乃、そして先輩の理沙が集っていた。
恒例の朝礼だ。
一番の先輩である梓が、今朝に限って姿を見せていないことに、愛美は疑問を覚えた。
おはようございます、と全員が声を揃えて挨拶すると、理沙が一歩前に出る。
何故か愛美ともえぎをジロリと睨みつけ、不機嫌そうな声で話し出す。
「昨日の夜、飛び込みで入って来た男性客。
幸い、本日は天候も良いみたいなので、早急に山を降りるように促すこと。
――愛美、あんたの仕事よ」
「は、はい! 分かりました」
毎度のように、きつい口調で指示を出す。
これのせいで、愛美は、毎朝良い気分になれた試しがない。
理沙は、続けてもえぎと夢乃にも指示を出し、次に自分の仕事を説明する。
当たりはきついが、仕事に対する姿勢は真面目かつ的確なものがあり、愛美は、そこについては理沙に敬意を抱いていた。
朝礼が終わり、朝食の準備を開始というタイミングで、食堂入り口のドアが開かれる。
目を向けたメイド達は、揃って感嘆の声を上げた。
「奥様!」
「えっ?! 奥様?!」
「奥様!! お、おはようございます!」
「……」
入り口に姿を現したのは、梓が手押す車椅子に乗った、初老の婦人だった。
パジャマ姿ではなく、最近には珍しく普段着を身に着けており、少し調髪や化粧も施したいるようだ。
やせ細り、お世辞にも健康そうとは云えない顔色と姿勢は、メイド達の不安を煽る。
だがそんな様相に反し、婦人は、凛とした張りのある声で呼びかけた。
「おはよう、みんな。
今日はとてもいい天気ね、清々しいわ」
「お、奥様、お部屋から出られて、大丈夫でしょうか?」
心配そうに、夢乃が尋ねる。
その横では、何故か腕組をした理沙が無言で佇む。
メイド達に力ない微笑みを向けると、婦人は続けた。
「私は、大丈夫です。
――いえ、今は、そうとは言えないかもしれないわね」
「……?」
「皆も知っている通り、今夜は、私達にとって大事なことがあります。
午後十時になったら、全員、私の寝室に集まって頂戴」
婦人の言葉に、全員が姿勢を正す。
しかし夢乃ともえぎ、そして愛美は、その言葉に更なる疑問が膨らんだ。
「あ、あの、奥様?」
「何かしら、もえぎ」
「今夜、いったい、何があるんでしょうか?」
もえぎの質問は、三人のメイド達の総意であった。
おおまかな予定だけは聞かされていたものの、具体的な内容は全く知らされていない。
咄嗟に理沙が言葉を挟もうとするが、婦人は手を掲げ、それを制した。
「そうね、そろそろ説明しても、いいでしょう」
「奥様、それは――」
「構いませんよ、理沙。
ねえ? 梓」
「そうですね」
背後に立つ梓に少し顔を向けると、婦人はやや上機嫌気味に語り出した。
「皆が知っての通り、私は重い病気を煩っています。
この地で療養をと思い、これまで療養生活を送りましたが……
私は、残念ながらもう長くはありません」
その言葉に、愛美達は驚愕した。
否、心のどこかで、誰もが予想していた「いつかは聞くだろう言葉」ではあった。
だが、とはいえ。
咄嗟に言葉を紡ごうとする愛美達よりも早く、婦人は続ける。
「だけどね、安心して頂戴。
私は今夜、新しい人生を歩み出すのです」
(……?)
婦人は、とても晴れ晴れとした表情で、更に続けた。
「あることから、私は、今の自分を変える方法を知ることが出来ました。
そうすることで、この病気とも、この醜く衰えた肉体とも、永遠に決別することが出来るのです」
「え? あ……それって」
「もえぎ、黙って」
理沙の短い一喝で、言葉が止められる。
愛美は、元気そうに話す婦人の様子にはじめこそ安堵したが、同時に言い知れぬ不安を感じ始めてもいた。
「あなた達には、日々とても感謝しています。
だからこそ、これからも……そう、これからも、私はあなた達と共に、ここで生活を続けたいと思っているのです。
そう、それは、私達にとっての、新しい生活!
それについて、今夜、皆に伝えたい話があるの。
きっと皆は、理解を示してくれると私は信じているわ」
声高にそう告げると同時に、咳き込む。
梓が、咄嗟に彼女の背をさすった。
「お、奥様――」
「ちょっと、しゃべり過ぎたみたいね。
梓、悪いけど、お願い」
「かしこまりました」
更に軽く咳き込むと、婦人は梓に促し、食堂を退出しようとする。
その姿を見つめ、愛美ともえぎ、夢乃と理沙は、それぞれ複雑な表情を浮かべていた。
「詳しい話は、今夜よ。
だから皆、それまでに各自のやるべきことを、きっちり済ませるように。
いいわね?」
「は、はい」
梓の言葉に力ない返事を返す三人と、それに対して何も返さない理沙。
朝礼は、表現し難い不可思議な雰囲気に包まれたまま、終了した。
この館は、その存在を知るごく一部の者達によって、そう呼称されることがある。
館には全部で六人の人間が住んでおり、そのうち五人が家政婦(メイド)である。
主人である“井村依子(いむら よりこ)”の下、
赤坂梓
青山理沙語
元町夢乃
立川もえぎ
そして、千葉愛美。
この五人のメイド達が住み込みで勤務し、井村依子の生活を支えている。
病に臥せり、寝室に篭り切りになってしまっている依子に、メイド達は献身的に奉仕に努めている。
愛美は、この館で働き始めて、もうすぐ一年になろうという新人だった。
彼女が館に来て最初の半年ほどの間は、依子は今よりも体調が良く、庭に出る機会も多かった。
また、彼女を訪ね遠方から来る客の数もそれなりに多く、メイド達はその対応に追われることも多かった。
依子がどういう経緯でこんな所に、身寄りも置かずに一人で住んでいるのか、愛美には細かい事情は全く知らされていない。
また、彼女の許にやって来る客人達の素性も、何もかも知る由はない。
それでも、気品があって誰にでも優しく接する依子はメイド達にとても好かれており、愛美も彼女の人柄に尊敬の念を抱いていた。
だが、それも――
美神戦隊アンナセイヴァー
第3話 【潜入】
懐中電灯を持って外から二階の窓を照らしたが、特に異常は見当たらない。
続けて二階に向かった愛美は、凱の部屋のドアに鍵がかかっていることを確認した。
(気のせい……だったのかな?)
小首を傾げながら階下に戻ろうとする愛美の前に、突然何者かがひょこっと姿を現した。
「愛美?」
「あ、もえぎさん!?」
「あんた、まだ寝てなかったの?
明日辛いよ?」
「もえぎさんこそ、こんな時間にどうなさったんです?」
「うん、ちょっとラジオをね。
ここだと、それくらいしか楽しみないからさー」
「そ、そうですか」
彼女が、聞こえ難いラジオに文句を言いながら、様々な場所に移動して聞こえやすい所を探索していたことを思い出す。
恐らく小腹が空いたので、夕飯の残り物をつまみに部屋を出てきたのだろう。
もえぎらしい、いつものことだと納得した愛美は、先ほどのことを伝えた。
「マジで?! じゃあアイツ、何処行ったわけよ?」
「いえ、もしかしたら私の気のせいかもしれないので、まだなんとも」
「盗撮だよ、盗撮! ここ、女しかいないじゃん?!
きっと、隠し撮りしようとしてんだよアイツ!」
「と、トウサツって、何ですか?」
「そ、そこからか……
あのね、男が、女の子のえっちな姿をナイショで撮影したりすること」
「ええっ?! それって、いかがわしい事なのではないでしょうか?」
「ガチいかがわしい事だし、犯罪だよ!
ケーサツ来るよケーサツ!」
「ひえっ! あ、あの方がそんな悪いことを!?」
「まだわからんけど、もし本当にそうだったら、捕まえてとっちめよう!」
「誰を、捕まえるって?」
突然、男の声が割り込む。
見ると、いつの間にかドアが開かれ、眠そうな顔つきの凱が覗き込んでいた。
「へ?」
「が、ががが、凱さん?!」
「なんか話し声がするからさぁ~。何かあったの~?」
思わず両手で口を塞ぐもえぎと、ぶんぶん手を振って誤魔化そうとする愛美。
「い、いえいえ、何もないです!
た、大変失礼いたしました!
も、もえぎさん、参りましょう!」
「あ、ちょ、ちょっとぉ!」
もえぎの手を掴み、愛美は慌ててその場を離れた。
その様子を窺っていた凱は、ドアを閉めると、フゥと息を吐いた。
(やべぇやべぇ、思ってたより勘が鋭いな、あの娘)
半開きになった窓を閉じ、足首に装着していたベルト付きの機械を取り外すと、凱は先ほどのソファーにどっかと腰を下ろした。
翌朝、午前6時。
既に起床したメイド達は、朝の仕事を始めていた。
一階の食堂には、愛美ともえぎ、夢乃、そして先輩の理沙が集っていた。
恒例の朝礼だ。
一番の先輩である梓が、今朝に限って姿を見せていないことに、愛美は疑問を覚えた。
おはようございます、と全員が声を揃えて挨拶すると、理沙が一歩前に出る。
何故か愛美ともえぎをジロリと睨みつけ、不機嫌そうな声で話し出す。
「昨日の夜、飛び込みで入って来た男性客。
幸い、本日は天候も良いみたいなので、早急に山を降りるように促すこと。
――愛美、あんたの仕事よ」
「は、はい! 分かりました」
毎度のように、きつい口調で指示を出す。
これのせいで、愛美は、毎朝良い気分になれた試しがない。
理沙は、続けてもえぎと夢乃にも指示を出し、次に自分の仕事を説明する。
当たりはきついが、仕事に対する姿勢は真面目かつ的確なものがあり、愛美は、そこについては理沙に敬意を抱いていた。
朝礼が終わり、朝食の準備を開始というタイミングで、食堂入り口のドアが開かれる。
目を向けたメイド達は、揃って感嘆の声を上げた。
「奥様!」
「えっ?! 奥様?!」
「奥様!! お、おはようございます!」
「……」
入り口に姿を現したのは、梓が手押す車椅子に乗った、初老の婦人だった。
パジャマ姿ではなく、最近には珍しく普段着を身に着けており、少し調髪や化粧も施したいるようだ。
やせ細り、お世辞にも健康そうとは云えない顔色と姿勢は、メイド達の不安を煽る。
だがそんな様相に反し、婦人は、凛とした張りのある声で呼びかけた。
「おはよう、みんな。
今日はとてもいい天気ね、清々しいわ」
「お、奥様、お部屋から出られて、大丈夫でしょうか?」
心配そうに、夢乃が尋ねる。
その横では、何故か腕組をした理沙が無言で佇む。
メイド達に力ない微笑みを向けると、婦人は続けた。
「私は、大丈夫です。
――いえ、今は、そうとは言えないかもしれないわね」
「……?」
「皆も知っている通り、今夜は、私達にとって大事なことがあります。
午後十時になったら、全員、私の寝室に集まって頂戴」
婦人の言葉に、全員が姿勢を正す。
しかし夢乃ともえぎ、そして愛美は、その言葉に更なる疑問が膨らんだ。
「あ、あの、奥様?」
「何かしら、もえぎ」
「今夜、いったい、何があるんでしょうか?」
もえぎの質問は、三人のメイド達の総意であった。
おおまかな予定だけは聞かされていたものの、具体的な内容は全く知らされていない。
咄嗟に理沙が言葉を挟もうとするが、婦人は手を掲げ、それを制した。
「そうね、そろそろ説明しても、いいでしょう」
「奥様、それは――」
「構いませんよ、理沙。
ねえ? 梓」
「そうですね」
背後に立つ梓に少し顔を向けると、婦人はやや上機嫌気味に語り出した。
「皆が知っての通り、私は重い病気を煩っています。
この地で療養をと思い、これまで療養生活を送りましたが……
私は、残念ながらもう長くはありません」
その言葉に、愛美達は驚愕した。
否、心のどこかで、誰もが予想していた「いつかは聞くだろう言葉」ではあった。
だが、とはいえ。
咄嗟に言葉を紡ごうとする愛美達よりも早く、婦人は続ける。
「だけどね、安心して頂戴。
私は今夜、新しい人生を歩み出すのです」
(……?)
婦人は、とても晴れ晴れとした表情で、更に続けた。
「あることから、私は、今の自分を変える方法を知ることが出来ました。
そうすることで、この病気とも、この醜く衰えた肉体とも、永遠に決別することが出来るのです」
「え? あ……それって」
「もえぎ、黙って」
理沙の短い一喝で、言葉が止められる。
愛美は、元気そうに話す婦人の様子にはじめこそ安堵したが、同時に言い知れぬ不安を感じ始めてもいた。
「あなた達には、日々とても感謝しています。
だからこそ、これからも……そう、これからも、私はあなた達と共に、ここで生活を続けたいと思っているのです。
そう、それは、私達にとっての、新しい生活!
それについて、今夜、皆に伝えたい話があるの。
きっと皆は、理解を示してくれると私は信じているわ」
声高にそう告げると同時に、咳き込む。
梓が、咄嗟に彼女の背をさすった。
「お、奥様――」
「ちょっと、しゃべり過ぎたみたいね。
梓、悪いけど、お願い」
「かしこまりました」
更に軽く咳き込むと、婦人は梓に促し、食堂を退出しようとする。
その姿を見つめ、愛美ともえぎ、夢乃と理沙は、それぞれ複雑な表情を浮かべていた。
「詳しい話は、今夜よ。
だから皆、それまでに各自のやるべきことを、きっちり済ませるように。
いいわね?」
「は、はい」
梓の言葉に力ない返事を返す三人と、それに対して何も返さない理沙。
朝礼は、表現し難い不可思議な雰囲気に包まれたまま、終了した。
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